それで「今日の夕飯はカレー?」って聞くと、嬉しそうに「ええ、そうよ」と言っていたんだっけ。
「母さんが死んで、一番泣いていたのは俺だったな。お前たちは、母さんの死がまだよく分からず、ずっと母さんに話しかけていた。それを見て、更に涙が込み上げてきたのを覚えている」
「・・・・・・そうだったっけ」
扉越しの、微妙な距離。
それでも、父さんの優しさが伝わってきて、また涙が流れた。
「博紀・・・・・・お前は、なにになりたい?」
「え・・・・・・」
「今まで、お前の自由を勝手に制限して、政治家にすることばかり考えていて、聞こうとしたことも無かった。お前の夢は、なんだ。やはり、小説家か?」
『おれ、兄ちゃんの小説好きだよ』
『兄ちゃんが、今やりたいことをすればいいと思うんだ。そのしわ寄せがいつか来るとしてもさ、やっぱ、今がなにより大事だって思う』