父さんはリビングにいた。
僕は興奮した自分を落ち着かせるために、わざと肩で息をした。
「・・・・・・父さん」
「どうした、博紀」
「父さん、僕、小説家になりたい。稔弘が、僕の小説を好きだと言ってくれたんだ。それに僕は、小説を書きたい! 現実的な夢じゃないのは分かってる! でも、僕は今を生きている。今の輝きを、なにより大切にしたいんだ。将来を悩むより、過去を悔やむより・・・・・・それが大切だって、気付いたんだ! 僕は夢を追いかける。そう決めた・・・・・・いや、決意したんだ!」
勢いのまま、僕は思っていることを全てはきだした。
初めて、父さんに言った。僕の思い。
父さん、伝わっているだろう?
「・・・・・・博紀、お前がそうしたいなら、そうしなさい。だが、条件がある」
条件・・・・・・?
「俺が生きているうちに、お前の小説をハードカバーで読ませてくれ」
父さんは笑っていた。
久しぶりに見た、父さんの笑顔。
僕も、つられて笑っていた。
窓の外では、絶え間なく降っていた雨がやみ、七色の橋が姿を現していた。
まるで、稔弘を迎えに来たかのようなそれに、僕はまた、目の端に雫を浮かべながら笑ってしまうのだった。