エピローグ
32歳の誕生日の日。
七月に入ったばかりのその日は、朝から快晴で気温も高く、早くも夏の香りを漂わせていた。
今、午後一時。僕は一人、根岸駅前の喫茶店にいた。
吉岡が根岸に引っ越してきてもう5年。
吉岡の家にはよく遊びに行くから、この町にも慣れたものだが、ここの喫茶店に入ったのは初めてで、僕はどこか落ち着かなかった。
「あ、岡本! 悪い、待たせたか?」
「いや。ただ、ちょっと落ち着かなくて」
吉岡がカウンターでコーヒーを買いながら僕の座る席の隣に座る。
「32歳おめでとさん。結婚しないのか?」
「20歳で結婚された吉岡さんにはこの虚しさはわからんだろうよ。娘、今何歳だ?」
「9歳。超可愛いぞ。会ったことないだろ、写真見るか?」