部屋に入って、乱暴に扉を閉めて、カバンをベッドに放り投げると、僕は大きく息をついた。
良かった。父さんは、まだ帰っていないらしい。
僕の父さんは政治家だった。
国民からの人気もまぁまぁだし、48歳になる今でも、周りからの期待は十分だ。
だけど、僕はあの人が苦手だ。嫌いなのではなく、苦手だ。
自分が政治家だから、子供達も同じ職業につくと思いこんでる。自分と同じく、優秀な人間だと思いこんでる。
僕には、政治家になれるような才能ないのに。
僕はため息をつきながらノートパソコンを開き、電源を入れた。
静かな起動音が、小さく部屋に響く。
今日はどんな話を書こうか?
この前書いていた、中世ヨーロッパの話、完結してしまったからな。
僕はパソコンのワードという機能を使って、小説を書いている。だが、特別文才があるわけでもないため、ほとんどが駄文。
コンクールに応募しても、すぐに落選の知らせが届く。
それでも、これをやめる気にはなれない。
小さい頃から、優しい話を考えるのが好きだった。
男のくせにって中学時代の友人には笑われたけど、僕は男が小説を書いてもなんの問題も無いと思う。
だって、あの有名な芥川龍之介も、夏目漱石も、平井太郎も、植村宗一も全部男だ。
男が恋愛小説書いたっていいし、冒険物の小説書いたっていいと思う。