友達でも恋人でもない
少年は、青々とした空のかなたへと飛んでいくロケットを見上げていた。
うっすらと目を赤らめながら。
少年は瞳から零れ落ちそうになった涙を右の袖で拭うと、またロケットを見上げた。
どんどん、どんどん遠ざかっていく。
ロケットはやがて少年の居る場所からは見えなくなった。
ロケットは火星に向かってすごいスピードで空のかなたへと突き進んでいく。
少年は、地球で生きていける。
ロケットの中にいる少女は、火星の文明社会にいないと生きていけない。
地球で生きていける人間はロケットに乗ることはできない。
そろそろロケットは、暗い闇の中を突き進んでいるころかもしれない。
少年は、いつか、ロケットの中の少女に手紙を書くことにした。
地球上の人間付き合いでは、家族とその少女以外、人間らしい感情の行き来というものを実感することができなかった。
こうなることが運命だったとしても、少年は、自分の人生から少女を追放することはできなかった。少年の世界の中にはどんな不服があろうとも、いつだって、彼女がいた。
自分とは全然違う性格をした男性を恋人にして人生を共に歩むことを誓い、幸せを手に入れたとしても。
自分の知らないところで、地球では手に入れられない崇高な世界観を身に着けて自分の知る少女とは全く別の人間になってしまったとしても。