孤独な少年
ここは煌びやかな街。
人間たちの欲望の街。
何千人もの知らない人同士が行き交う街。
夫と一緒に買い物をするために街を歩いていたら、街角の閉ざされた店のシェルターの前で笛を演奏する細い少年がいた。誰も彼の演奏を気に留めることなく暗い顔をして彼の前を通り過ぎていく。
稀に立ち止まる人がいるものの、なかばからかいの眼差しで彼を見ていて、飽きると消えていく。
演奏はとても神聖で穏やかなのに、少年に興味を持つ人は少しもいない。
私たちと彼の距離が縮まっていこうとする時、彼は演奏をやめ、その場で不思議なものを見るような目で立ちすくんだ。見たところ、東南アジア系の人でどうゆうわけか日本に来てしまった少年なのだろうか。
「少しお金入れて行ってあげようか」
「ん??僕ら彼の演奏を聴いてないよ」
「だって、見てみなよ、すごく寂しそうにしてる」
私は1000円札だけ財布から取り出して、彼の手前にへなっと置いてある帽子に入れた。
「あきらめるように促してあげた方がいいんじゃない?」
「もう十分分かってるでしょ。景気づけにこれくらいは日本人がしてあげなくちゃ」
「これ以上出せと言われたらどうする?」
「そんなことをする人には見えないよ」
少年は丁寧にお辞儀をしてその帽子を手にして私たちの前から静かに姿を消していった。
それにしても、物静かでスレンダーな少年だったな、と私は思った。