小説『短編集』
作者:クロー()

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芸術



神社のある海に浮かぶ島と大陸を結ぶ橋の途中で、よく絵を売っている外国人(西洋系の顔をしている)がいる。私はその場所が好きで時々訪れることがあり、最近は彼を見なくなったが、その絵はとても神秘的で、趣向を凝らしたものばかり。
この辺りは日本の名所で、老舗が多い情緒漂う和風の造りの建物が多いが、この人はこの辺りの風景を西洋風にアレンジした絵を描いてここで売っている。
猫と海と富士山をいっしょくたにして描いている絵がいくつかあったが、彼は不思議な感覚を持った人だと日本人である私はそれを見た時に思った。この辺りに和風のイメージしか抱いたことのなかった私はどこか新鮮な気持ちになった。


彼の絵画のよさを理解している人がいるのかいないのか多いのか少ないのかは分からない。

けれど、彼が自分で描いた絵を、外部に発信したいと思う気持ちが彼をここにいさせるのだろうと思う。また、絵の数々から示されるタッチからは、彼の才能を感じさせられた。「売れるか売れないか」というのももちろん大事だが、才能があるからこそ、彼はきっと描いてそれを人に示さずにはいられないのだろうし、売れるかもしれない、と思うだろう。また、例え売れないとしても道端の人が絵を興味深く眺めている姿を見て喜んでいるに違いない。もし絵が全く売れない上、その絵に誰も興味を示してくれないのなら、彼は挫折した人と同じような気持ちを抱くことだろう。


生きている間に認められる芸術家もいれば、死後急速に大衆に認められる芸術家もいる。しかしどちらにしても彼らが「自分」を外部に発信をしなくては大衆が「彼」を察知することは永久にありえない。認められるか、認められないかは分からないが、「発信」することはこの世界になんらかの影響を及ぼす可能性を少なからず秘めている。しかし彼らは自分の才能を理解してくれる人の存在を求めていることだろう。



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