小説『短編集』
作者:クロー()

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あてのない世界




「この電車に乗ればいいんだね」

私は手にしている切符を見て確かに路線と向かう駅を私の今いる駅に示されている実際のそれと照らし合わせる。

「しかし・・・なぁ・・・」

私がいる駅には全くといっていいほど人がいない。しかも、私の向かう駅は、

「最果て街」

駅の中心にある小さいロッカーの形をした台の上で、親指くらいの大きさの成人男性4人の映像があり、ギターを引っ掻き回している人が2人、ドラムをむちゃくちゃにたたきまくっている人が1人、おかしなパフォーマンスをしながら歌っている人が一人いた。。
不気味なのだが、たぶんこれには深い意味があるのだろう・・・。小さくしてくれているのがとても有りがたかった。

それに、電車に乗っているうちに私の近くに人が増えていくかもしれない。


なにが待っているのかは分からないが、現実とは違う世界に来てしまって帰れない以上、私のことを助けようとしてくれている人の言うことを絶対に聞かなくてはならない。




この世界の人たちは、みな貪欲でしかも我欲ばかり滅法強く、人が悲しみに暮れていても誰も手を差し伸べようとはしない。そういう状態で生きていてなにが楽しいのか分からない、それにこの世界で生きている人たちから自分が浮きに浮きまくっていて自分が同化することが不可能であるということを理性が教えてくれているような気がした。
そして、別の駅にはどの駅にもたくさんの人がうごめいているというのに、誰もこの駅の存在に気が付いていない。




やがて電車が駅のホームに到着して扉が開いた。
中には誰も乗っていなかったが、それは回送列車ではなく、私を乗せて目的地へと向かう。

急行「最果て街行き」であった。



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