走る
彼は走る。後ろから追いかけてくる「自責」という名の魔物から逃げるために走る。
姿は見えない。音だけする。
聴覚だけを頼りに、
息も絶え絶え、なるべくスタミナを無駄に消耗しないように、
なるべく早く走る。走り続ける。
途中、「そっちに行ったらいかんべ〜」
という誰かの親切な声が聴こえた気がしたが、
急に気温が低くなってくる気がしたが、
地面が揺れているような気がしたが、
そっちに走るしか手立てはなく、走って走って走りまくる。
この魔物に捕まってしまうことが一番最悪の事態なのだ。
傍から見たら無鉄砲のあほかもしれない。
「逃げ切ったあとのことはすべて、逃げ切った後に考えればいい」
彼の頭の中の固定概念だった。