小説『短編集』
作者:クロー()

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とある独り者の老後





今日もパソコンを眺めてみる。

可愛いあの子を探して。


でも、でも、、、、


やっぱり今日もどこにも見当たらない。

自分でよく考えて決めたことだし、初めから覚悟していたことだったが、これほどまでに接触できなくなるとなると、なんだか心が冷えていくような感覚になって生きている心地がしなくなってくる。会えなくなってからとても長い年月を経ているから、写真に写されている姿から随分と変わってしまったかもしれない。

昔少しばかりの虚無感を抱きながら稼いでいたお金だけは自分の手元に溜まりに溜まっており、ホームヘルパーに囲まれて家の中まですっかり職場のようになってしまった。


家の中でも職場でしていたように、伝わるか否かに関わらず言いたいことはだいたい言って、人を咎めたくなるたんびにその人を咎める。それが僕なりの適応方法なのだ。我慢しすぎるとろくなことがない。
でも、今の僕は機嫌を損ねていることが多くて無闇な八つ当たりみたいになっているかもしれない。それもあの子に少しでも癒してもらえればすぐに収まることなのに。



欲求だけはまだまだ旺盛で、妄想の世界に浸って快楽を噛みしめてはあの子を呼んでみる。
けれど、ここのところは全く応答がない。
前はそうは思わなかったけれど、どこか虚しくて時々泣きたくなることもあり、そういう時は誰にも見られない様に一人涙を流す。
それもあの子が一瞬でも反応をしてくれればすぐに収まることなのに。


それでも、春が来て桜の花が咲くたびに、やはり信じようと思う。
僕とあの子が永遠の愛を誓い合ったということを。



きっと、あの子も僕から離れたところで、僕のことを思っていることだろう。
それを確認できれば幸いだったのだが、今の僕はこの厳しい現実を渋々にでも受け入れなければならない。
本当にあの子が愛してやまない「神」というものがいるのかは知らない。
いてほしいとも思わない。
しかし、もしいるというなら、引き合わせたのだからどうか自分とあの子にご慈悲をいただけないだろうか、という思いが、僕の中で巡っているのだった。



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