小説『短編集』
作者:クロー()

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休日。
忙しなくそれでいてペースを崩さずに働く日を繰り返している内にいつの間にか訪れる。
休日は人生のバイブレーション。



天気は快晴。空を飛んでいく鳥たちもそのすがすがしさに喜び
満ちているように見える。


私は昼食を家で食べてから手袋を買いにショッピングモール街に出かけるためにフェリーに乗って川のクルージングを楽しむことにした。小高いところに造られた道を上がっていくと海が見渡せる。さらに歩いていくと船乗り場に辿りつく。手袋が目的というよりは、秋の真っ青な空の下で普段あまり足を運ばない場所を散策することが目的である。


私の実家の周辺は海が近い閑静な場所で、2階建てや3階建てが多くほとんどの家の出窓に花が飾られている。白を基調とした建物が多く、外をちょっと出歩くだけでも上がったり下がったりが頻繁でくねくねとした道が多い。大きな一軒家が建ち並ぶ近所づきあいの頻繁な住宅街での生活に憧れることもあるが、今の私はひっそりとした街のアパートメント暮らしで満足である。






風に飛ばされない様に被っていたキャップを頭から取ってかばんの中に入れ、船首の手すりにつかまって外を眺めた。
そして広がる青空!!白い水しぶきにテンション上げ上げでなんとなく童心に返ったり。

風が心地よく、フェリーの両脇を流れていく小石と砂利の川辺の向こうは緑が鬱蒼と茂っている。

船首に立っているのは私だけでなく、老夫婦は若いカップル、写真を熱心に撮っている青年、家族連れ、サングラスがよく似合うイケメン兄ちゃんなど様々で彼らの様子を観察しているのも愉快であったりする。目が合えばみな「やぁ」とか「こんにちは」とかいう言葉を投げかけて挨拶をしてくれる。もちろんそれに応えるし、私から挨拶することもある。


私に声をかけてくれる人もあって、その中には若い女性が多い。独身、既婚者関わりなくであり、どこから来たの、年齢は?、これからどこへ行くの?お菓子はどう?などひっきりなしに話かけてくる。ちなみにこういう時に備えて私はチューイングガムを買いだめしてあったりする。

今日もそれは同じで、旦那を連れた高貴な雰囲気を漂わせた老女が私に話しかけてきて、いろいろと私情を伝えることになった。年齢を言うとみんなが驚く。そりゃあそうだ。20過ぎた人間が中学生みたいな顔をしてたらそりゃ驚く。未婚だというと、女性が一人でフェリーに乗ってるなんて珍しいわね、みたいに言われる。今日の老女も同じでまぁこういうのは慣れたものだ。今のところ結婚するつもりはない、だって、職場の男たちのことをそういう対象として想像すると、想像してしまうと、脳に負荷がかかってそれ以上想像を展開させると具合悪くなりそうだから思考がストップする。仕事してる姿なら問題ないんだけど。男性恐怖症ではないはずだが、おかしい。
仮に彼氏らしい人がいたとしても私自身になにか問題があるというわけではない。機能している「家族」というもの対して妙な憧憬なんて抱いてしまうほど病んだ人間というわけではない。

まぁ、今に始まったことでないし、気にしていても仕方がない。


コミュニケーションは、もちろん人間同士の愛情の行き来にもなると思うけど、互いに自分の存在を人に証することによる人間社会における存在確認みたいなものにもなるから、とても大切だと思う。だから、私も知らない人とコミュニケーションを取ることは好きだ。外をぼけーと眺めたり考え事をしていれば誰も話かけてくることもないし興味を持ったとしてもそっとしておいてくれる。彼らは人に危害を与えることをコミュニケーションの目的にはしていないからである。これは、社会が健全である証拠だろう。また明日からも仕事がんばろうっとか思えてくる。





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