小説『短編集』
作者:クロー()

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ある人妻の独り言



もう結婚してから30年近く経つけど、夫は全く私の方を見てくれなくなってしまった。まぁ、結婚するすぐ前や結婚直後にもそんな様子は全く無かったわけではない。子育てに囚われているうちにあまりそのことを気にしている暇がなかった。子供が成長してみて、改めて気が付いた、夫が私に冷たいって。でも、いつか私の方をちゃんと見てくれると思っていつもいつでも一生懸命に頑張ってきた。

美味しい食材を手に入れるために近くにあるスーパーに行かずに、優れた食材を調達していそうな遠くのデパートまで足を運んで食材を買って来ては手の込んだ料理を作って夫を喜ばそうとする。掃除も洗濯もちゃんとやるし、人の恋愛だって許せる。人の相談を受けられるほど賢い人間ではないけど、人の不幸話を聴いてその気持ちを汲んであげることはできるし、同情して涙することもある。こんなに可愛い奥さんそこらにいないでしょ。

なのに、あなたは私の良さをちっとも理解してくれない。私のことを好きになってくれない。



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