ラストエンペラー
「あなたに伝えていなくて大事なお話があるんです」
「ん?なにかな?」
開いた状態で両手に持っていた書物から目を離し、どこか他人をよせつけないオーラを放つ顔立ちの整った、背が高く金の装飾が施された衣を纏った男は、声の主の女の方を見た。
女の方は紺色のとても控えめで簡易な装飾が施されたドレスを身にまとい、身に着けているアクセサリーもとても静かなものだったが、全体的にとても品のある身なりをしていた。
男の目は厳しさの中にどこかあどけなさがあり、愛情に満ち溢れていた。
「ここ最近、お城の外に出ると、秘宝のネックレスについている宝石が力を失ってしまうのです」
女はさっきまで手の中に隠していたネックレスを男に見せた。
「これにはずいぶん私自身救われていたものですから、先行きが不安で仕方ありません」
男は表情に困惑の色を浮かべまいとこらえながら、そのネックレスを手に取り、青色の宝石を覗き見た。
「この城にいる間は働くのだな?」
女はコクリとうなずいた。
「それから、敵の侵略に抵抗していると聴いているのですが、それは本当ですか?」
「それは本当だが、フィリーは気にしなくていい」
「ひょっとしてこの宝石のこととなにか関係が??」
「侵略を受けていること、城の外では宝石が働かない両方の理由から、君はなるべくこの中に閉じこもっているべきだ。今までそうしてきただろうけど、これからはなおさらだってことだね」
男は当然のようにして言葉を淡々と並べ立て、ネックレスを女に返した。
「あなたがこの国の破滅を預言した女を処刑台に立たせたのを覚えていますか?」
「処刑人なんて多すぎて一人一人覚えていられないね。僕は間違っていたかな?」
「そんなことはありません、真実はあなたの中にあるはずですから」
すると、男は書物を近くの机の上に置くと、女に近づき、ゆっくりと女の背中に両手を回してその体を包み込んだ。
「まさか君は僕が神に罰せられているなんて思っていないよね?」
「あなたの権限は神に罰せられてなどいません。ですが、私たちは神に見捨てられているんでしょうか・・・?」
「それは僕にも分からない。僕は宗教の信者たちのように神を頼りにしようとは思っていないからね。神は・・・、神は僕たちの命までは保証していないだろう。でも、君は僕のそばにいてくれるだろ??」
「えぇ、もちろん」
男は女から体を離し、女に秘宝のネックレスを握らせた。
「最後の最後までこのネックレスを肌身離さず誰の目にも触れないように持ち歩きなさい。そして僕のそばでいつまでも僕を支えていてくれ」
「えぇ、命にかけて」
2人は誓いのキスを交わし、なおも心から愛し合った。
その後、彼らの城にどんな災難が降りかかってくるかということなど知らず。