小説『モザイク』
作者:mz(mz箱)

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情けない声をあげた。
<桜井も・・・感染したのか?いや、それならなぜ電話が取れた?こんな小さなボタン、モザイクの世界なら押すなんて出来っこない。>
「落ち着け。電話はモザイクか?」
顔から電話を離し、確認した。
「あ、いえ、違います。」
「なら、お前はまだ感染していない。安心しろ。モザイクに見えるのは病院が感染したからだ。」
「病院が?」
「詳しい話はあとだ。とにかくA3診察室に来てくれ。いいな。」
「わかりました。」
桜井の返事を聞き、神宮寺は電話を切った。

「すまない。先に教えて欲しい事がある。」
神宮寺の口調が変わった。
「なんですか?」
視覚が奪われた事で、他の感覚が研ぎ澄まされたのだろう。長沢と佐々木も口調が変わった。
「さっき言っていた先生の連絡先わかるか?」
「さぁ?長沢、聞いた事ある?お前、気に入られてたよな。」
「知らないよ。でも、学校に電話すればわかるんじゃないかな?」
「そうか、じゃ、学校の電話番号を教えてくれ。」
神宮寺は頼んだ。
「生徒手帳には書いてあると思うけど・・・。鞄、この部屋にありますか?」
長沢は聞いた。しかし、見回しても診察室にはない。学校を出てくる時には持っていたから、きっと乗ってきた車の中に置きっぱなしなのだろう。
「ないな・・・。」
「だと、わからないです。学校に電話する事なんてほとんどないし・・・。」
「そうか・・・。君は持ってないか?」
佐々木の格好を見る限り、とても持っているようには見えない。だらりとズボンから出ているシャツ、単に巻いてあるだけと言ったネクタイ、期待しろと言うのが無理な相談だ。
「あ、持ってます。今日、学割でゲームが買えるって店があって、その店に行こうと思ってたから。」
ズボンのポケットから生徒手帳を取り出した。幸いな事にモザイクにはなっていなかった。
「助かる。少し借りるよ。」
すぐに電話番号は見つかった。PHSを取り出し、急いでボタンを押した。
呼出音が鳴る。一回、二回・・・十回鳴らしても、誰も電話に出ない。

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