小説『花鳥風月 かまいたち[完結]』
作者:桃井みりお(999kHz Lollipop Records Radio Blog)

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「なんで、いつもこうなんだ」
耕作は一人、トラックの運転席でため息混じりに呟いた。

早朝の県道をトラックが走っていく。

耕作はミスを犯した。
本来届けるべき荷物をひとつ、降ろし忘れてしまった。
コンビニエンスチェーンの看板を背負ったトラックで16店舗のルート配送をする。
最後の店に着いたとき、その前の店に届ける荷物が残っているのに気が付いた。

今日は早く仕事が終わると思っていた耕作は、がっくり肩を落として今来た道を戻る。

午前4時、県道に耕作のトラック以外に交通はない。
無意識にアクセルを踏む加減が雑になる。

「──速度オーバーです──」
機械的な女の声が運転席に響く。
41km。
この県道は速度40kmに設定されている。
取り付けられた端末によって、走行速度は完全に管理されている。

「オレが悪いんじゃねぇよ」
耕作はまた、ため息混じりで呟いた。

早朝からさわやかな声でしゃべるパーソナリティのラジオ番組が、
耕作の気分をより悪くさせていた。
「……東京北区の路上で昨日夕方、タクシーが小学生をはねる事故がありました。
 24日午後5時過ぎ、北区赤羽でタクシーが横断歩道を渡っていた小学生をはねる事故が……」
耕作は乱暴にラジオのボリュームを絞った。

12月25日、午前4時。
おそらく多くの人々が幸せな眠りについている時に、
耕作はひどく憂鬱な気分でいる。しかしそれは今年に限ったことではない。

20年前の今日、弟の翔が突然姿を消した。
耕作が11歳、翔が9歳だった。
それ以来、耕作は楽しいクリスマスを過ごした事などなかった。

「やっぱり、厄日だな」
耕作はやっとたどり着いた、本来の届け先である店舗駐車場に
浮かれ気分の若者がたむろしているのを見て呟いた。

闇の中に浮かぶコンビニエンスストアの妙な明るさが、
耕作の気分をいっそう憂鬱にさせていた。

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