小説『花鳥風月 かまいたち[完結]』
作者:桃井みりお(999kHz Lollipop Records Radio Blog)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 冬の朝ほど、太陽のエネルギーを実感できる時はない。
風は冷たいが、日が昇るにつれその暖かさが徐々に力強くなってくる。

 耕作は営業所を出て、一度は真っ直ぐ帰宅しようと思ったのだが、
両親が朝食をとっているところに帰るのがどうしても嫌で、近所の公園に車を止めた。

 日曜日の朝7時、公園には意外なほど人がいる。

 犬の散歩をする人、ジョギングやウォーキングをする人。
中学のジャージ姿の男子生徒らが部活の練習試合にでも行くのだろうか
結構な人数が自転車で集合している。

「なに部かなぁ」
耕作はアイドリングしたままのハンドルの振動を感じながら
ポツリと呟いた。

 中学時代、卓球部に在籍していたもののほとんど練習には参加せずにいた
耕作にとって、日曜日に部活のために早起きする感覚が理解できなかった。
毎年、通知表のコメント欄に『意欲がない』とか『積極性がない』などと書かれていた耕作は、
「オレが悪いんじゃねよ」と思うだけで少しも改善する努力はしなかった。

 耕作の両親は教育熱心なほうだったので、そんな息子に厳しくあたった。
ましてや弟の翔の出来が良いばっかりに耕作にはことさら厳しかった。


 耕作は、だいぶ日が昇って日なたになり、暖められた車内で少し休もうと
数センチ窓をあけエンジンを切り、シートを傾けた。


 耕作の父親は、一流の大学を出て某大手企業に勤めていたが、
20年前退職金を行方不明になった弟の捜索にあてる資金にするために、
あっさりと辞表を出し、今は地元の電装製品の製造企業に勤めている。
あと数年で定年だが、定年後も残って欲しいと言われている。
母親は4年前に心臓を悪くしてからは家を空けることは少なくなったが、
それ以前は近所の外食チェーン店でパートをしていた。


 耕作はうとうとしながら、弟のことを思い出していた。

 窓の隙間から、風の音が聞こえている。

-3-
Copyright ©桃井みりお All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える