小説『とある白井黒子の兄』
作者:葛根()

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外伝エピソード01 夏休みと兄




神裂火織の爆弾発言から己の人生で最も頭を使って穏便に事を済ませた白井紅太は何とか生きていた。
こと、恋愛や男女仲について、些か歳相応の経験しか無かった。
つまりは、恋愛未経験であった。
過去、白井紅太は告白をしたことがなかった。
数人から告白を受けたことはあったが、どうも、妹以外の女性に関心が持てず丁重に慎重を重ねて断りを入れていたのだ。
概ね彼に告白をした女性達は友人として付き合いがある程度であり、時たまデートをしたり、食事に出かけたりと、それ以上の関係と進展は無かった。

神裂火織はそれらを全て飛ばして、イキナリのモノ宣言であった。



嘘を嘘として突き通すためには真実の中に一つだけ嘘を交える事が相手を騙しきる為に必要な事である。
よって、白井紅太が妹と御坂美琴を騙す為に取った嘘は、知り合いの神裂火織がジョークとしてその言葉を放ったという苦しいものであった。
神裂火織という人物の素性を隠し通し、加えて神裂火織が放った言葉の経緯も隠さなければいけない事がどれだけ大変であるか。
それは白井紅太にしか分からないことである。
妹である白井黒子は兄の狼狽、と言っても長年兄妹である白井黒子にしか分からない程度であるのだが、その兄の狼狽を見抜いていた。
それは、ただ兄が重要な嘘を付いているという疑心。
それを隠す真意は、恐らく、知られたくない何かがあるという確信。
それでも、妹として知らねばならない。

「将来的に義姉になるかもしれない女(ひと)ですの」

おおよそ白井紅太の考えうる最悪の思考を白井黒子は持っていた。



御坂美琴に取って、白井紅太はどうのような人物であるか。
御坂美琴自身、良くわかっていなかった。
そう、あの神裂火織が爆弾発言をするまでは。
自分の恋慕に気付いたのは、否。気付かされたのは神裂火織の発言であったと御坂美琴は感じた。

「全く……。余計な事に気付かされちゃったわ……」

御坂美琴の人生に今後大きな影響が出るであろう、初恋に気付いた瞬間であった。



神裂火織に要らぬ知恵を入れたのは、土御門元春であった。
神裂火織がどうやって白井紅太にお礼を返すのかと悩んでいた所に現れたのが土御門元春であった。
同学年のクラスメイトの言葉に神裂火織は多少の抵抗があったのだが、それでも、その身を差し出して代価を返す以外に白井紅太を満足させる方法が思いつかなかったのだ。

「礼の一言で済まされるような代価ではありませんよ……」

それは、インデックスに関わる様々な問題を解決したのと、再度、彼女と友として歩める環境を施して貰った恩である。
神裂火織とインデックスとの連絡方法はもっぱら携帯電話であった。
その携帯電話を購入したのは白井紅太である。さらに名義は白井紅太だ。携帯電話を連絡用として何の見返りも無くプレゼントしたのだ。

「友達記念、というのは建前で、何かあったら連絡する為に必要な物だ。何せ、上条当麻という巻き込まれ体質がいるからな」

理由はどうあれ、神裂火織とインデックスの間に連絡方法を作ったのは白井紅太であった。



「まあ、昨日のアレはアレでアレしたもんだからアレなんだよ」
「お兄様、全然理解できませんわ」

白井紅太は妹である白井黒子に再度弁解をしていた。
自分でも言い逃れできたとは思えない上に、長年付き添ってきた妹には感づかれているであろうと思ったのだ。
かくして、兄妹二人きりで買い物という都合を付けてその間にできるだけ誤解を解こうとしたのだ。

「神裂は友達であって、彼女ではない。それに、多少誤解はあったかもしれないが、神裂を助けた恩があって、それを返そうとちょっと夏の暑さで頭がやられた発言が昨日のアレだったわけです」
「へぇ。またお兄様は随分と盛大に人助けをしたみたいですのね。女性が身を捧げる程困り果てた方に手を差し伸べたと?」

棘のある言い方だと白井紅太は感じたのだが、それでも概ね間違ってはいない気がしていた。
いっその事全てを話してしまいたかったのだが、それでは妹が巻き込まれてしまうと白井紅太の頭脳が警告を促していた。
それ故、妹に対して秘密を作らなければいけないという苦痛の選択を強いられていた。

「黒ちゃん。男にはね。覚悟を決めて成すべきことを成す時があるんだよ……」
「えぇ、そうでしょう。でも意味がわかりませんですの。かと言って、ここ数日のお兄様の顔が逞しくなったのも事実ですの……。まあ、隠すならばもっとうまくしてくださいね」

兄妹だから。
兄妹である故。
互いに通じるものがある。
兄は隠し事を伝えられない。それを妹は察して、敢えて聞かず。
妹は兄を想い兄は妹を想う。

「次はどこに行こうか?」
「食事ですわね。ちょうどお昼前ですし」

だから、謝罪も、感謝もしない。
だから、今まで通りに接する。
それが、白井紅太と白井黒子の兄妹の在り方であった。



誰が誰の一番か。
想人は何処にいるのだろうか。
配点:(恋心)

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