小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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専用機持ち女子ズside-



目立った外傷がないものの、オーズのコンボを使いすぎたためもう3日は寝たきりになっている



士が寝ているベッドの脇には2つの影が



セシリアとラウラである



「大丈夫かしら?士さん……」



「なに、嫁は強い……また少ししたら音楽を聴きながらひょっこり出てくる」



「そうですわね」



口ではこう言っているラウラも実は焦りを隠せない



もう、3日も寝たきりなのだ……心配にもなる



不意にドアが開き、2人が顔を上げる



入ってきたのは箒だった



「なんだ、いたのか……」



「箒さん」



「いて当然だ……嫁は私が看病する」



いつも通りの会話に箒も心が少し落ち着く



またドアが開き、中に入ってきたのは



「あら、皆いるじゃん」



「あ、ホントだ」



鈴と、シャルだった



「士は?」



「まだ起きてませんわ」



シャルの問いかけにセシリアが答える



「本っ当に人を心配させるのが得意な男ね〜……分かってんの?」



鈴が士を見下ろしながらその頬をつねる



「その男を好きになったのはどこの誰かな〜?」



シャルが突っ込む



「!?な、ななな、何言ってんのよ!あんたは!///」



またまたドアが開き、今度は



「あ、れ……?皆?」



簪だった



「お、簪か……ちょうどいい……今、皆で鈴を苛めていたところだ」



ラウラが言う



「おいおい、ラウラ。苛めていたとはなんだ……遊んでいただけだろう?」



「箒さん……それが一番可哀想なのでは……?」



「皆……ごめん、なさい!」



簪が突然、頭を下げる



「ちょっ!どうしたのよ、あんた」



「そ、そうだよ!」



鈴とシャルの問いかけに、本当に申し訳なさそうに



「士が、戦ったのは……私の、せい……」



簪の目の淵には若干、涙が……



「まぁ、気にすることはない」



「そうですわね」



「士だし〜」



「それに、謝るのは僕達じゃなくて士にね」



「恐らく『何がだ?』とか聞いてくるんだろうがな」



皆が、顔を上げる



そこには全員が笑顔で簪を見つめていた


その笑顔はとても暖かかった









「そういえば、キャノンボールファストがあるな」



箒がふと、思い出したように言う



「優勝は私がもらうわ!」



「何を言っている、私だ」



鈴とラウラが言い合う



「……提案が、ある」



どこか、吹っ切った様子の簪が言う



「この、キャノンボールファストで……優勝、したら、士を一日自由に……皆、士の……事が、好きで、しょう?」



「優勝して……」



「士さんを……」



「一日自由に……」



「「乗った!」」



箒、セシリア、シャルに続き、言い合いをしていた鈴とラウラが返事をする



「……成立」



「士は多分、出られないしね……僕が優勝をもらうよ」



「あら?シャルロットさん……簡単にはいきませんわよ」



6人の後ろにはそれぞれの専用機の色をした鬼が立っていた







楯無side-



「ふぅ〜」



「どうなさいましたか?会長」



楯無はまた別の部屋で安静にしていた



息を吐くと同時に体が軋む



「私……負けちゃった」



「そうですね」



虚がお茶を淹れながら淡々と言う



「ぶー。主人が傷ついてるんだから癒してよ〜」



「それは、士君に頼むべきかと……」



「うぇ!?///」



不意に顔をが赤くなる



ただでさえ、彼の顔が頭から離れないのに急に名前を出されては……



「これは……」



「ま、待って!虚ちゃん!……その、好きとかそう言うんじゃなくて……その、あの//」



指を絡ませたりしながらボソボソと呟く



「誰も、そんな話はしておりませんが?」



「……へ?」



虚に言われて、気づく



「〜〜〜〜〜〜〜///」



また、顔を俯ける楯無



静かに息を吐いた虚



それは、単に主人の頼りなさから来ていたものだろうか……



ライバルが主人であることに対してのため息とは……関係ないだろうか?







キャノンボールファスト当日



会場は生徒で溢れていた



それもそのはず、IS学園の全生徒だけでなく、各国政府関係者がそのアリーナを囲んでいるのだから



「めっさ、晴れたわね〜」



鈴が空を見上げる



「今日は……負けない」



簪が隣で専用機「打鉄弐式」の最終整備を行いながら言う



「あら?それは、わたくしも同じでしてよ」



セシリアは高速起動パッケージ「ストライク・ガンナー」を展開していた



「ぼ、僕だって負けないからね!」



シャルは三基の増設スラスターを肩に左右一基ずつ、背中に一基配備している



「よし、行くか」



「うむ、そうしよう」



箒とラウラが先陣を切って、歩き出しそれに4人が続く



『それではみなさん、一年生の専用機持ち組のレースを開催します……なお、神谷 士君は事情により、本大会は棄権しておりますことをご報告いたします』



大きなアナウンス、コレをしているのは山田先生だろう



よく噛まずに言えたものだ



シグナルランプが点等する



全員が息を呑み、目を閉じ、集中する



3……2……1……





ゴーーッ!!







第一コーナーを飛び出したのはセシリアだった



しかし、突如発射された砲撃に横にすべるように避けるセシリア



「もらったわよ!セシリア!」



鈴の衝撃砲だ



「―――甘いな」



それでも、鈴の加速に合わせていたラウラが前に出る



「しまった!」



「遅い!」



衝撃砲を向けた鈴だが、すでにラウラは大口径のリボルバーを射撃



直接あたりはしないもの大きくコーナーを反れる



「ラウラぁ!」



言いながら、突っ込んできたのは箒



紅椿の刀がレーザーを放ち、ラウラの姿勢が崩れる



その隙に展開装甲の出力を一気に―――



あげようとした箒に簪の「春雷」が襲う



「行かせ、ない……!」



簪は更に加速するがそこにシャルが乱入してくる



巻き返すようにセシリアが速度を上げ、ラウラと鈴が迎撃するように接近する



二週目に入った瞬間、異変が起こった



トップを争っていたセシリアとラウラにレーザーが放たれる



交わすことも出来ず、そのレーザーは貫通



「あれは……!」



「何だ!?」



シャルと箒が駆け寄りながらそのレーザーの発射元である上空を見上げる



そこには5機のISが……



そのISはゆっくりと……ゆっくり降りてくる



5機の内4機は右腕が異様に長い……そう、鈴とのクラス対抗戦の時の様なISだった



そして、中央に居座るように立つそのISは少し、サイズが大きい



どれからも人の感知はない



それは無人機を示していた



「また、無人機か!」



「ふざけてる!」



箒とラウラが叫ぶ



会場も悲鳴で溢れ混乱に巻き込まれるが



ハッチが開かず、外に出ることは出来ない



そして次の瞬間―――誰もが信じられない光景を目の当たりにする



「騒グナ!」



中央のISが怒鳴るように言った



「黙ッテ、モト座ッテイタ席ニ戻レ!」



話している……人が乗っていないそのISは話し始めたのだ……



「嘘でしょ?」



鈴がどこか怯えているようにも見える



「十七代目楯無、出テ来イ!」



そのISは言葉を繋げる



呼ばれたのは楯無



もちろん生徒会長の彼女も出席している



楯無のIS「ミステリアス・レイディ」は既に修復しており、傷ももう完治していた



「何かしら?」



アリーナからISを展開した彼女はグランドに降りたった楯無は相も変わらない笑顔で―――しかし、険しいまなざしでISを睨む



「オオ、イタイタ……オ前クライ頭ガ良い奴ニ話シヲシナイト理解シテモラエナイカラナ」



「あら、褒めてくれてるの?それは、嬉しいわ」



楯無は余裕の態度を崩さない



「単刀直入ニ言ウ、私タチハオ前ラヲ抹殺シニキタ」



そのISは片言のようにしかし、はっきりした口調で告げた



観客としてみていた生徒も政府関係者も落ち着きを取り戻したのか座って見守っている



「へぇ〜、物騒なこと言うじゃない……目的は分かったわ。で?貴方達は何者?」



「私タチハISダ」



「知ってるわ……何故、話せるかを聞いているの……」



楯無が苛立ち気に問う



そしてそのISがとんでもないことを言う















「私ハ、意思ヲ持ッタIS……ソシテ、コノ4機ハ私ノ優秀ナ僕ダ」








誰もが耳を疑った



「意思を持った……」



「ISだと……」



セシリアとラウラが唸る



その体の傷は浅くはない



「結局ノ話、オ前ラハ私タチヲ倒サナケレバナラナイ……ナゼナラ?オ前ラガ逃ゲレバココニイル人間ハ皆死ヌカラダ」



「自己紹介どうも」



「フン!アト、2人専用機持チガイルダロウ?……呼ベ」



「……ダリル、フォルテ降りてきなさい」



楯無が静かに告げる



「面倒くせーなー、おいフォルテちょっと行って来い」



「先輩が行って下さいよ〜、私は面倒くさいっス」



そうボヤキながらも非常時だからだろうか「イージス」のコンビ名を持つ彼女らはそれぞれのIS「ヘル・ハウンドver2.5」と「コールド・ブラッド」を展開しながらグランドに降りてくる



「サァ、始メヨウカ……ショータイムダ!」



「一機のISに2人つきなさい!『箒ちゃん、簪ちゃん』『セシリアちゃん、鈴ちゃん』『シャルロットちゃん、ラウラちゃん』『ダリル、フォルテ』で組むのよ!行って!」



楯無が鋭い指示を飛ばす







「このおぉぉ!」



鈴が双天牙月を振り、ISに蹴りを入れる



そのISは「ゴーレムMk?」といった



スマートで整形されたそのボディはどこか女性的で細い



「食らいなさい!」



鈴が緊急パッケージから「龍砲」を展開し、放つ



しかし、ゴーレムはエネルギーシールドを展開し、その龍砲を防ぐ



その防御力が強力なのは一目瞭然だ



「鈴さん!下がって」



鈴はしゃがみこむ



声の主、セシリアがスターライトmkIIIを放つ



更に、追い討ちをかけるべくビットを最大稼働しビームの軌道も操る



しかし、その攻撃は全てかわされる



「じょ、冗談でしょう!?硬いだけでなくあんなに早く」



「セシリア!避けなさい!」



鈴が叫ぶと同時にゴーレムは砲口からグレネードを放つ



間一髪で避けたセシリアに鈴が近寄る



「残念だけど、火力もあるわ」







ラウラがワイヤーブレードでゴーレムに切り掛かり、それをシャルが「ガルム」で援護する



普段から仲のいい二人の連携は良かった……が、相手が悪かった



「ラウラ危ない!」



掌から現れた砲口からエネルギー弾が発射される



一瞬、早く気づいたシャルが重機関銃「デザート・フォックス」を乱射するが……それが当たる前にシャルに強烈な衝撃が……





そう、最初から狙いはゴーレムの狙いはシャルだったのだ



「シャルロット!くそ……許さん……貴様あっぁぁ!」



「ラウラ落ち着いて!」



突進する彼女に得意の「高速切替」で「防御パッケージ」を展開し無事だったシャルが叫ぶ



しかし、遅かった



ラウラが腕から血を流し身を引く



「まずいぞ、シャルロット………勝てないかもしれない」







「簪!今だ!」



箒が叫ぶと同時に簪が「山嵐」を放つ、計48発がゴーレムを襲うがその全てを避けたゴーレムが体勢を立て直す



が……



「させるかー!」



箒が「空割」からのレーザーで動きを止め「雨月」で斬りかかる



「援護……」



簪も夢現で応戦しようとするが



ゴーレムが弾けるように加速し、ブレードで箒を、簪を切りつける



「瞬時加速!?くそっ」



「危ない!」



勢い止まらぬままゴーレムはガトリングを連射する



「何か、策はないのか!?」



箒が怒鳴る







「あー、どうすっかな〜」



やる気のない声を出しながらも後輩が頑張ってる前ではふざけた姿勢をとらないところが先輩の意地だろうか……ダリルは相手を分析していた



「どうするっスか、先輩」



隣のフォルテもいつになく真剣な面持ちで迎える



「ここで、格好よく決まったら士君に褒めてもらえるかね」



「なに言ってんスか!先輩!士っちは渡さないっスよ!」



前言撤回……この2人はこんな状況下でも慌てず、自分のペースでいる



しかし、その実力は確かで時折放たれるビームを確実にやり過ごしている



「てめーフォルテ。一歳わけーだけのくせに……士君と仲良くしやがって!」



「なんですとー。こうでもしないと後輩に取られちゃうんっスよ」



「あれ?もしかしたら今の私達って……」



「共通の敵一緒?」



跳びかかってきたゴーレムを左右に跳んで避けて、ハイキックを左右からかます



「「ならここは!」」



続いては並んでのローキック



このままの勢いで攻めたかった二人だが



「フォルテ!」



「くそっが!放せっス!」



足を掴まれたフォルテがそのまま投げ飛ばされ、ダリルにはレーザーブレードの剣戟が襲う



「いってーな!」



「大丈夫っスか!」



一度、距離を置く2人の肩は激しく揺れている









「随分、やるじゃない」



「ソレホドデモ、ナイサ」



楯無は蒼流旋を構えたまま話せるISを牽制する



水のベールを相手に飛ばし目をくらます



「そのままじっとしてなさい!」



「コトワル!」



ISは右の指7本から小型ミサイル、左の指3本からレーザーを発射し楯無を襲う



楯無のランスは弾けるがそのまま横薙ぎに払う



リーチが長い分有利なのだが



「懐ニ入ラレルト、キツイナ」



右拳を腹に叩き込まれ、次は右ひざにあたる部分でランスを弾かれる



「ごほっ……ごほっ」



「ソンナモノカ?ツマラナイ」



「まだまだ、これからよ!」







さらに二分後



全員がそれぞれ相手をしていたゴーレムから身を引いていた



「まずいね……」



「かなり押されてるわね」



シャルと鈴が息を切らしながらも言う



「こいつら固いっス」



「うえに速い」



フォルテとラウラが呻くように呟く



「………」



楯無は焦りを感じていた



「みんな!もう少し頑張って!今度はフォーメーションとかなく、バラバラに攻めるわ!動いて!」



全員が一気に攻めにかかる







楯無は2体のゴーレムを相手にしていたが、2体のレーザーを受け装甲が壊れる



簪side-



ラウラと組んでいた簪は楯無が攻撃を受けたのを見て、驚愕した



(い……や……うそ……うそ)



名前を呼びたいが呼べない



世界が歪んで見える



楯無を庇うように先輩の2、3年生が援護してくれている隙に楯無に近づく



「いや……おね……いや」



楯無の無残にも見える姿を見た簪はゴーレムに切り掛かる



(許さない……!)



しかし、その近接武器である夢現も弾かれ、殴られ、蹴られる



「ぐぅ……!」



楯無の横に滑り込むように倒れる



改めてみた楯無の装甲にはひびが入っており、出血もしている



仇を取ることもなく、ただ立てずにもいた簪は絶望的だった



ゆっくりとゴーレムが近づいてくる



ブレードを振り上げ振り下ろされる



(ああ―――死ぬのか)



怖くはなかった……死ぬのなら最後に士を見たかった



そんな程度の考えだった





ザシュッ………





痛みはない



「え?」



目の前に現れた影がきつく簪を抱きしめたからだ



それは、楯無だった



「おねえ……ちゃん……?」



切りつけたゴーレムは箒と鈴が相手をしているのが見えた



最後の力をだして、起こした行動は妹を守る―――妹の代わりに斬られた



「おねえ……お姉ちゃん!お姉ちゃん!」



背中に回した腕が、血で真っ赤に染まった



「やだ……やだよぉ……お姉ちゃあん」



「あは……。そんなに、ちゃんと呼ばれるのは何年ぶりかしら」



「おねえ……」



楯無は、笑っていた



嬉しいそうに



ただただ、妹の無事を安心するように



「どう、して……こんな……」



「妹を守るのに、理由が必要……?」



「だって!だって……もう、無理なんだよぅ……」



「無理じゃ……ないわ」



「無理だよ!この世にヒーローなんか、いないんだよ!」



「そうかしら?」



「え……?」



「来てくれたわよ……ヒーローが」



今になってはアリーナ唯一の出口グラウンドからの出入り口から一つの影が……



制服のズボンに黒の袖の短いTシャツその胸元には「伝説誕生」の四文字が首にはヘッドフォンがかけてあり、上着を指にかけて背中に回してる―――





「待たせたな!……さあ、こっからは俺のケンカだ!」



―――神谷 士だった

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