小説『IS〜インフィニットストラトス―ディケイドの力を宿す者 ―』
作者:黒猫(にじファン)

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それは突然のことだった……


千冬姉に頼まれて資料を運んでいたとき


「これで終わりっすか?織斑先生」


「ああ、一応―――」


「―――織斑先生!!大変です!」


山田先生がこれまでにないくらい慌てた様子で部屋に入ってきた


「どうした?」


「ぼ、『亡国機業』の「オータム」と「エム」がグランドに侵入!専用機持ちの皆さんが応戦しています!」


それを聞いた瞬間にはもう俺は走り出していた


今度こそ……必ず!


「士!頼んだぞ!」


後ろで千冬姉が声をかけてきた


「了解!」


振り返りもせず全力で校内を走った




「はあ……はあ……」


グランドに出ると目を背けたくなるような光景だった


専用機持ちの皆だけでなく、教師陣までもが……


箒がセシリアが……鈴が、シャルが……ラウラ、簪、楯無さん……


挙句の果てにはダリルさん、フォルテさん、教師の数人までもが所々、血を流して倒れている


エムとオータムは俺に気づいたのか、こちらに振り返る


オータムはラウラの頭を踏みつけ、エムは見下すように俺を見ている


「おお!やっと来たか!」


オータムはさぞ嬉しそうに笑いながら……踏みつけているラウラを踏み台にするように蹴りこちらに向かってきた


「てめぇら……覚悟は出来てんだろうなぁ!!」


『KAMEN RIDE・DECADE』


ライドブッカーをソードモードにし、オータムのIS「アラクネ」のカタールに打ち付ける


何度も、何度も刃を当てる


そうしている内にカタールは砕けた


「おお!怖い怖い」


それでも身を退きながらニヤニヤと笑うオータム


そんな彼女に追撃を入れようとしたとき


俺にレーザーガトリングが襲う


エムだ


「おいエム!邪魔すんなって言っただろうが!」


オータムが叫ぶ


「知ったことか……神谷 士、私と勝負しろ!」


銃剣としても使用可能なライフル『スターブレイカー(星を砕く者)』を振り上げ突っ込んでくる


エムのISはサイレント・ゼフィルス


イギリスの第3世代でBT兵器搭載ISの2号機で、シールド・ビットを試験搭載している

1号機のデータが基盤となっており、ブルー・ティアーズの搭載数4機を凌ぐビット6機を操り、尚且つセシリアのように使用中に他動作不可能という欠陥もない優れもの


だが……


そんなの関係あるかよっ!


『FORM RIDE・KIBA・DOGGA』


キバのドッガフォーム……基本カラーは紫。胴体・両腕が頑丈な鎧になっている


魔鉄槌ドッガハンマーを装備し、銃撃を避けもせず真正面から向かい、ドッガハンマーを野球のバットのように振り切る


「がはっ!」


吹き飛んだエムと入り違うようにオータムが加速してきたが


その瞬間には次のカードを挿入していた


『KAMEN RIDE・KABUTO』


顎のローテートを基点にカブトホーンが起立して顔の定位置に収め、「仮面ライダーカブト」へと姿を変える


手を弾くように叩くと同時にオータムは俺の懐に飛び込み、拳を放っていたが


軽くそれを払いのけ、蹴りを入れる


さらに休むことなく連続で何度も拳を打ちつけ、反撃の隙を与えない


全ライダーの基本形態中、トップのスピードを誇るカブトの拳の手数に対応できずオータムは殴られるがままになる


「おらっ!」


最後に回し蹴りを顔面にかまし距離を開ける


「こんなもんで終わると思うなよ……」


バックルを開いた瞬間


「あはははは!!いい手数じゃねえか!なら、こっちの手数も相手してくれよ!」


そうしていつの間にかオータムの背後にいたエムが指を鳴らす


その瞬間―――


数にしてざっと20はいるだろうかISを装備した集団がアリーナから降り立った


「ほら!来いよ!」


オータムは笑顔を絶やさず、挑発する


「つ、士……」


この声……


「箒!」


倒れていた皆が立ち上がろうと体を起こそうと……踏ん張っていた


「この方々はただのIS操縦者ではありませんわ」


「くっぅ!……油断したわ」


「士……一人じゃ無理だよ……逃げて!」


「つか、さ……」


「士君。逃げなさい……」


「ぐっ!この程度で……」


「まずいっスね」


皆、それぞれに声をかけるが、ラウラだけは一段と辛そうにしていた


ふと、脳裏にいつも「嫁〜」と慕ってくれているラウラの姿が……


時々、見せてくれる笑顔のラウラが……


普段はツンケンしていてもたまに頬を染めてそっぽを向くラウラの姿が浮かんだ


「見せてやるよ……」


呟いた俺は挿入しようとしていたカメンライドWのカードではなく……


『FORM RIDE・OOO・GATAKIRIBA」


『ガ〜タガタガタキリッバ♪ガタキリバ!♪』


頭部はクワガタ、胴はカマキリ、脚部はバッタを模した全身、緑のオーズの「昆虫系」コンボ


ガタキリバコンボへと姿を変える


「うおおおおおおお!!」


雄たけびにも似た叫び声をあげ、俺を囲むようにしていたIS部隊を睨みつける


恐れを知らないかのように数で押し切れると踏んだのだろう数人がソードを構えるが


「いっくぜーーー!!」


そう俺が叫んだ瞬間には俺は3人……6人……と姿を増やし、最終的にはIS部隊を上回る数にまでその姿を増やした


これがオーズ「ガタキリバ」コンボの固有能力「分身生成」


最大50体まで自身の分身体・ブレンチシェイドを作り出すことが出来るガタキリバ


「いけーー!!」


『うおおら!!』


本体の俺が怒鳴ると同時に複数の俺が一気に畳み掛けた


ある俺は「クワガタホーン」の雷撃を浴びせ


ある俺は「カマキリソード」で斬りつけ


ある俺は「バッタレッグ」で蹴りを放ち吹き飛ばす


「止め……決めるぜ……」


そう言ってライドブッカーからカードを取り出しバックルを回す


『FINAL ATTACK RIDE・O,O,O,OOO』


『スキャニングチャージ!』


『FINAL ATTACK RIDE・O,O,O,OOO』
『スキャニングチャージ!』

『FINAL ATTACK RIDE・O,O,O,OOO』
『スキャニングチャージ!』

『FINAL ATTACK RIDE・O,O,O,OOO』
『スキャニングチャージ!』


全方面から同じ効果音が鳴り響き


「ハアアアア……セイヤーーー!!」


『ハアアアア……セイヤーーー!!』


全員が同タイミングで無数のブレンチシェイドと共に一斉に跳び蹴りを叩き込むガタキリバキックを放った


爆発音が鳴り響きIS部隊は静かに撤退した


しかし、その煙が晴れると……


オータムもエムも……立っていた


そのISには傷一つない……


「嘘……だろ?」


分身は消え、オーズはディケイドへと姿を戻した


それだけでも体力が削られる


「あ?本当にあんな人数の中で私達を倒したと本気で思ってんのかよぉ……ひひ」


くそ!潜んでやがったか……あれは囮


俺がへばるのを待ってたってわけか……


「おらっ!お楽しみの時間だぜ!」


そう言ってこちらに駆けてくるオータム


しかし、ガタキリバの疲労で動けない


ただでさえ、ガタキリバはオーズのコンボの中で一番疲労が溜まる


まずい……


腹にこぶしを叩き込まれる


「がはっ!」


前のめりになった俺の背中に両手の指を絡ませて作った一撃を浴びせる


「ぐふっ!」


倒れた俺を無理矢理立たせ羽交い絞めにする


「ほら、エム。お前もやれよ」


「ふん」


妙なところで気を合わせたエムは俺の元へと歩み寄り


「お前は私のねえさんの……織斑千冬への復讐では邪魔な存在だ……失せろ!」


銃剣で俺を斬り付けた


ディケイドを保つのもキツイ


「がっ、は……」


倒れこもうにもオータムがそれを許さない


やべぇぞ……これは


「死ね……」


そうしてエムは銃剣で俺の胸を串刺しに―――




できなかった


「おい、どうし―――なっ!」


オータムも声を荒げた


エムは動きを止められていたのだ……遥か後方にいたはずの少女によって


その少女は特に何をしているというわけではない


右手を突き出しているだけ


それだけでエムの動きを止めていたのだ……


その少女は叫ぶ


「嫁!今だ!」


「離せ!この野郎!」


無理矢理、振りほどき蹴りをかます


身を退いたオータムと同時にエムは拘束を免れ、オータムの隣についた


「助かったぜ……ラウラ」


そう、その少女は……ラウラ


「ふん。いつまでも寝ていられるか……」


呻るように声を振り絞るが、やはりどこか苦しげだ


後ろの皆はやはりまだ立ち上がれそうにない


「ぐっ!……俺もヤバイな……」


「嫁は休んでいろ……奴らは私が!」


「やめろ!ラウラ!」


怒鳴りつけるように叫んだが遅かった


ラウラはオータムとエムの元へと飛び込んだのだ





見ていられるような攻撃ではなかった


斬られ、撃たれ、殴られ、蹴られ、踏まれる


何も出来ない自分が腹立たしい


「ぐああ!!」


耳を塞ぎたくなるような叫び声をあげてラウラがこちらに滑りこむように飛ばされた


その小さな体を受け止める


「がぁ……はあ、はあ」


「ラ、ラウラ」


「大丈夫だ……まだ……」


とても大丈夫そうには見えない……


「下がってろ……」


「でも……お前は……!」


「いいから……下がってろ!……頼むから……もう、お前がやられるのは見たくない」


そう言いながら立ち上がり、歩み寄る


「士!」


ラウラが叫ぶが俺は止まらない


「おお、今度はまたこいつだぜエム」


「懲りない奴だ……オータム、アレ……やるぞ」


「私に命令すんなって言いてぇ所だが……まぁ、いい。ショータイムだ!」


オータムが叫ぶと同時にエムと共にミサイルパックを構え………ってまずい!


『KAMEN RIDE・FOURZE』

右肘・右膝・左膝・左肘の関節部分に位置するユニット・モジュールベイスメントにはそれぞれ○・×・△・□という幾何学模様の意匠が見られる宇宙飛行士のような姿をしたフォーゼへと姿を変え


『ATTACK RIDE・ SHIELD』

『シールド・オン』


スペースシャトルを模した小型の盾を装備


放たれた無数のミサイルに備える


一発も通さねぇ……


後ろには皆が……ラウラがいる


「来いよ!ミサイル程度で止まれるかよお!」




ラウラside-


嫁は……ひたすらにミサイルパックから放たれるミサイルを受け流していた


背中のジェットパックで空を飛び、盾でガードする


しかし、それは少し前のこと……


もうとっくにそのシールドは砕け散り


今はその体で受け止めている


あの時、まだ神谷 士という存在を否定していたあのとき


箒と組んで、あいつは簪と組んだあの時、私をコテンパンにしたその宇宙飛行士の姿をしたそのヒーローは



今、私達を守っていた


そう思うと涙が浮かぶ……


もうやめてくれ……


「がぁあああぁ!」


そんな悲鳴にも似た声をあげて士は倒れる


「士!」


そんな彼に駆け寄る


宇宙飛行士の格好から基本形態と言っていたディケイドへと姿を戻していた


「全部……防いだぜ……」


顔が隠れているので分からないが……恐らく不器用に笑っているだろう


「……うっ……く」


涙が止まらない


「ふゅ〜。やるなぁ……」


「ああ……さすがに、驚いた」


オータムとエムがミサイルパックを投げ捨てながら呟いた


「貴様らぁ!!」


一気に駆けるが


「うるせぇ!」


オータムの拳を腹に受け、そのままうなだれる


「お前は……ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスト)。弱いな……まぁ、後ろの奴らも十分だが……」


「数で押したくせに……偉そうな……」


「負け惜しみはよくないぜ……たしか、あのクソガキを嫁、嫁呼んでた奴だよな……ハハ、笑えるぜぇ」


オータムまたもに拳を叩き込まれた私は吹き飛ぶ


もう痛みも感じない


「あんなクソガキを慕って、お前も大概だな……なぁ?オータム」


「ふん。まったくだ」


その会話で聞き、私はゆっくりと立ち上がる


絶対に許されない


たとえ、私がどれだけ殴られようと、蹴られようと……それだけは……


「貴様ら……さっきから誰の嫁に向かって口を利いているんだ……」


「あ?」


オータムが不機嫌そうに眉を歪ませる


「貴様らは神谷 士がクソガキだと……あんな奴だと言ったな……許さん、それだけは絶対に許さん……」


「何を言っている……」


エムもまた声を漏らした


「私が、心に決めたこの男は……神谷 士は……いつまでたっても私の嫁だ―――











―――異論は、認めん!!!」


そう叫んだ瞬間、隣でエンジン音が鳴り響いた


士side-

「ありがとう、ラウラ」


「嫁……」


初めて……そこまで誰かに認められた気がした……


「あいつらを……倒そう……二人で……俺に、全てを委ねてくれ」


そうして横に並んだ俺は隣のラウラに人差し指と中指で挟んだカードを見せる


それは何も書かれていなかったが……光がなぞる様に上から輝きその本当の姿を現した


図柄が斜めに分割され、左上にラウラ・右下に巨大な二つの砲台と片手のナックルのような武器がが描かれたカード


「ああ……頼んだぞ、嫁」


『FINAL FORM RIDE・sch,sch,sch,SCHWARZER REGEN』


「ちょっとくすぐったいぞ」


背中に両手を突き刺すように手を伸ばし、左右に広げる


「んっ……」


そんな艶かしい声と同時に三つの兵器


一つは両肩の砲台として「レーゲン・カノニーアL」


もう一つは黒に赤のラインが刻まれたナックル「LTC」


へと姿を変えた


Lは恐らくラウラのL


LTCはラウラのL、士のTにAICのCを足したのだろう


「行くぜ!」


少し重量を感じるが関係ない


「エム!」


「分かっている!」


二人も応戦しようと、二手に別れ


挟むようにそれぞれの武器を展開するが


「か、体が……」


「動かない……!」


二人ともその場で固まるように一歩も動けずにいた


「AICぐらい知ってるだろう?」


俺が尋ねると……


「あれは、対象に意識を集中させなければ……無意味なはず……なぜ二人同時に……しかも―――


―――こちらも見ずに動きを止めることが出来るんだ!」


そう、AICの弱点


対象に意識を集中させるため、二対一では機能せず、まして離れた相手には無力


しかし……


「これが、俺とラウラの力さ」


「ふざけやがってぇ!!」


オータムが叫ぶが、もちろん動けない


しかも、この能力は相手の動きを止めるだけでなく……


「な、なんだ!」

「体が……勝手に……!」


オータムとエムを並べるように移動させる……その右腕を動かすだけで……


「終わらせてやる」


『FINAL ATTACK RIDE・sch,sch,sch,SCHWARZER REGEN』


両肩の砲台が浮遊し、重なりより巨大な砲台へと


「吹き飛べーーーー!!」


そこから強烈な爆裂音と共に強力なエネルギー弾を放った


ファイナルフォームライド状態から姿を戻したラウラは気持ちよさそうに眠っていた


「く……そ……」


「う、動けない……か」


「おとなしくしてろ……直に増援も来るしな……」


もう動けねぇ……


言い放った瞬間だった


「あら……やられちゃったのね」


声がして、振り返ると


長身で豊かな金髪を持ち、抜群の美貌を誇る……その人は……


「スコール……!」

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