小説『オオカミ少年の最後の嘘』
作者:レン(Yellow☆Fall)

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「大丈夫、直ぐに君に追いつくよ、」

少年が囁いた。

リンがうなずいて踵をかえし、パタパタとその場を走り去った。

オオカミはその姿をチラリと見やったが、その瞳はまた直ぐに少年の方へ向けられた。



少年はオオカミとにらめっこを続けながら、どうすべきかを必死に考えていた。


このまま街の方まで逃げたら、街の人々を巻き込んでしまう。


というよりも、イオリを巻き込んでしまう。


街の人がどうでもいい訳では無いが、少年にとってはリンやイオリの方が大切である。



少年は横目で辺りを見回した。

だんだん周囲が騒がしくなってきた。リンが皆に伝えてくれたのだろう。



「おい」

少年はオオカミに声をかけた。


「こっちだ」



少年は地面を蹴って走り出した。

球が坂を転がるように一生懸命走った。


途中すれ違う人々が悲鳴をあげた。


少年はたまに振り返ってオオカミがついてくるのを確かめながら走った。


「きゃあああ」

「オオカミだ!」

「いやぁあ」

普段は賑やかな街に悲鳴が響き渡る。


ふと後ろを振り返ると、後ろに奴が居ない。


少年はチッと舌打ちをした。


どこかで凄まじい叫び声がして、少年は身を翻して走り出した。


どこだ、どこだ、どこだ!

通りの真ん中に子供を庇った母親が居て、オオカミが二人の回りをぐるぐる回っていて、まるで何処に噛みつこうか品定めをしているようだった。



周囲を取り巻く人々も手が出せずただ見つめるばかり。


少年は脱兎の如くそこに突っ込み、二人とオオカミの間に割り込んだ。


オオカミは突然の少年の出現に驚いて飛び退いた。


「さっさと逃げろ!!」


少年は後ろ手に二人を庇いながら叫んだ。


母親が小さな男の子を急き立てて逃げ出したのを見て、少年は安堵した。

その一瞬の隙に、
オオカミが少年の足に飛び付き、思い切り噛みついた。





遠くでもの凄い叫び声がした。

誰の声だろう。



一瞬飛びかけた意識の中で少年はそれが自分の喉から漏れているのを知った。



もう一方の足で思い切りオオカミを蹴飛ばし、再び走り出す。



いつの間にか周囲を取り巻いていた群衆が居なくなっていた。

みんな逃げたのだろう。





リンは何処だろう、



走りながら少年はリンを想った。


ちゃんと逃げたかな、







おせっかいでワガママで優しいリン







負傷した足は重く、スピードが出ない。


走り続けたせいで、喉に血の味が広がり、焼けつくように傷んだ。





これから起こる結末を予期して、心臓が千切れるほどに激しく脈打つ。



本能が発する警告を無視して少年は死に向かって走り続けた。



走って、走って走り続けて街の出口の直前まで来た。


足はもつれ、息は上がり、少年の心臓が、足が、肺が悲鳴をあげていた。


走りながら、少年はイオリの事を考えていた。

結局、最後まで謝れなかったな



突然、天と地がひっくり返ったと思ったら、目の前にオオカミの顔があった。



荒い息が顔にかかり、少年と一匹はしばし見つめあった。




オオカミにのしかかられながら、少年の右手がそばにあった木材を掴んだ。

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