小説『オオカミ少年の最後の嘘』
作者:レン(Yellow☆Fall)

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逃げ出した少年は妹がどうなったのか判らなかった。


死んだのかもしれない。でも生きているかもしれない


そんな気持ちを抱えながら月日が過ぎた。




あれは、長い冬が明けて緑色の新芽が息吹き始めた頃だっただろうか。


リンがテーベの村を訪ねてきたのだ。


リンは少年が逃げ出した後、母親の元に傷ついた妹を届けた。


母親は気が狂わんばかりだったらしい。


間もなく到着した医者の処置で、妹は一命をとりとめたが、一家は揃って真夜中に家を出たらしい。

一家の行方を知るものは誰もいなくて、リンはそれを伝えようと少年を探して回ったと言った。



少年は妹をそのまま残して逃げ出したことを妹に謝りたかった。


そこで、リンに妹を探してくれと頼んだのだ。



少年は無意識のうちに妹の名前、自分の名前、起きた出来事を思い出さないよう、心に鍵をかけて
記憶に布をかけて目を背けてきた。


だけど、今なら。




妹の名前は




俺の名前は。







「イオリ…」









俺はレンだ。
そして妹はイオリ。



少年は今思い出したのだ、自分の家族を。



自分の犯した罪を。


少年とリンはイオリの家に向かった。


イオリの家の扉を叩こうとした時。



ふわりと風に乗って、二人の鼻孔を何か犬のようなかおりがかすめた。



二人は顔を見合わせた。


リンの顔は青ざめていて、少年はリンも自分と同じことを考えていることを知った。


「まさか…」
少年は辺りをきょろきょろ見回したが、それらしい姿は見えない。


獣臭さが一段と強くなった。




「見て!」


リンがとある家の庭を指差して金切り声を上げた。

茂みの中にあいつがいる。


二人は戦慄して立ち竦んだ。


「グルルル…」
オオカミのうなりごえを合図に、二人はじりじりと後退りを開始した。



二人とも、オオカミの鋭い眼光に射ぬかれて、目を逸らす事も、瞬きをすることもはばかられた。


「リン」

少年が囁いた。

「俺が皆にオオカミが来たと言っても信じない。だから、リンが先に行って、皆にしらせてくれるか?」


「でも」

「いいから、早く伝えて」

「レン」

リンが少年の顔を真正面から見た。



「死んじゃダメだよ」


リンの言葉に、少年は笑って手を降った。

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