小説『ボーンシルヴィアの罪』
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リボフ最先任軍曹はブロンドの髪をかきあげ、腕を組む。

先程リボフ最先任軍曹に銃口を突き付けられたバロウ大尉とメロース中尉はバツが悪そうに黙り込んでいる。

「考えが…あるという事でしょう?大隊長殿」
リボフ最先任軍曹の鋭い視線が注がれる。
「そうだ。もし、大隊単独でクリミア帝国本領軍二個旅団と真っ向からぶつかったらどうなる」
「壊滅するわ」
リボフ最先任軍曹は即答した。
「一時間もてば獅子勲章ものでしょう」
「その通りだ。戦力差は圧倒的。撤退は許されない。しかし、僕らはアルスター街道を死守しなければいけない。さらに僕らには死ぬつもりはない」
大隊会議に出席している全員が僕に視線を注ぐ。
「ならば正攻法ではだめだ。根性を悪くして戦うしかない。ニッケル」
「あいよ」と答えたのは銃工兵中隊長ニッケル=グラント少尉だ。

ボサボサ頭に分厚い眼鏡をかけたニッケル少尉は兵士と言うよりは科学者。軍服よりは白衣が似合う風貌だ。ニッケル少尉は『死神?グリム・リーパー?』でありながら単独での戦闘力はそれほど高くない。全てにおいて中の中。およそ戦闘という分野においては見栄えする才能は一切持っていない。そんなニッケル少尉がグラス中将が実施した特別訓練でなぜ生き残る事が出来たのか。それはニッケル少尉の兵器開発の才能がズバ抜けていたからであった。

通信用の電波を応用した完全自動起爆式地雷。
一つの弾丸の中に複数の鉄球を散りばめ、殺傷能力を飛躍的に上昇させた散弾銃。
銃身の発射腔に螺旋状の溝を刻み、射的距離を飛躍的に伸ばした狙撃銃。
電波の送受信を行う部品を極限まで小型化した通信機。
大量の弾丸を連射可能にする弾丸発射装置。
従来の半分の重量で砲弾の直撃にも耐えうる盾。
その全ての開発をニッケル少尉が主導的に行い、実用化させてきた。

ニッケル少尉が開発した兵器は大隊単位の戦闘能力を劇的に上昇させた。

兵士でもあり、開発者でもあるニッケル少尉を超える才能の持ち主を僕は未だ知らない。

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