〜第41話〜
Side 渚
もう季節は夏。僕たちの制服も夏服へと移行していた。コカビエルの一件からそれなりに日にちも過ぎて、悪魔稼業は平常運転へと戻っている。
そんな中、堕天使の総督であるアザゼルが兄さんに接触してきていた。
「冗談じゃないわ」
怒りを露わにして、リアス先輩が言う。怒りで体が震えていた。
「確かに悪魔、天使、堕天使の三すくみのトップ会談がこの町で執り行われるとはいえ、堕天使の総督が私の縄張りに侵入して、営業妨害をしていたなんて・・・・・・・・」
原因は先に述べたとおり、アザゼルが自身の身分を隠して兄さんの契約相手として接触してきたこと。最近は兄さんについていくことはなくなったので僕は知らなかった。
「私の下僕に手をだそうだなんて、万死に値するわ! アザゼルは神器に強い興味を持っていると聞くし。きっと、イッセーの赤龍帝の籠手に興味を持って接触してきたのね。大丈夫よ、私が絶対に守ってあげるわ」
ちょっと過保護じゃないかな? と思う今日この頃。リアス先輩は眷属悪魔を大切にするタイプの上級悪魔だ。自分の所有物を他人に触れられたりするのをひどく嫌うので、仕方ないと言えば仕方ないのだけど。
「やっぱ、俺の神器を狙ってるんですかね?」
兄さんが不安そうに口に出す。どんなことをされるか心配なんだろう。
「確かにアザゼルは神器に造詣が深いと聞くね。神器所有者を集めていると聞いている。でも、大丈夫だよ」
兄さんの不安を聞いて、祐斗が口を開いた。
「僕が守るからね」
うん。そのセリフは兄さんじゃなくて、女の子に言うセリフだと僕は思うな。兄さんも引いてるじゃないか。
「・・・・・・いや、あの、う、うれしいけどさ・・・・・・。男にそんなこと言われても反応に困るっていうか・・・・・・」
「大丈夫。『禁手』となった僕の魔剣創造とイッセーくんの赤龍帝の籠手が合わさればどんな危機でも乗り越えられるような気がするんだ。・・・・・・・前はこんなこと言わなかったんだろうけど、キミと付き合っていると心構えも変わってしまう。でも、それが嫌じゃないんだよ、胸のあたりが熱くなるんだ」
「キ、キモいぞ、お前・・・・・・。ち、近寄るな! ふ、触れるな!」
兄さんがそう言いたくなるのもわかります。他の部員は祐斗のBL的発言に顔を見合わせている。アーシアさんは「あぅぅ、ライバル出現ですか?」なんてつぶやいていた。大丈夫だアーシアさん。兄さんにそっちの気はないよ。
「そ、そんな、イッセーくん・・・・・・」
兄さんの発言にあからさまに落ち込む祐斗。余計気持ち悪がられるだけだとなぜ気づかないのだろう。
「しかし、どうしたものかしら・・・・・・。あちらの動きがわからないと、こちらも動きづらいわ」
話の流れを変えるようにリアス先輩が口を開いた。相手は堕天使の総督なので下手に接触することもできないから、考えものだろう。三すくみのバランスを崩すわけにもいかないし。
「アザゼルは昔から、ああいう男だよ。リアス」
突然、知らない声が聞こえた。声のした方に視線を移すと、そこにはリアス先輩と同じ紅い髪の男性がにこやかにほほ笑んでいる。
誰だ? 知らない顔なので対応に困っていると、朱乃先輩たちはその場でひざまずいた。兄さんとアーシアさんとゼノヴィアも対応に困っている。
「お、お、お、お兄様」
驚愕の声を上げるリアス先輩。そう言えば、リアス先輩のお兄さんは魔王をやっていると聞いたな。・・・・・・・僕もひざまずいた方がいいのだろうか? まあ、ここは膝麻づいた方がいいだろう。それより、婚約の件で何か言われないだろうか?
「先日のコカビエルのようなことはしないよ、アザゼルは。悪戯はするだろうけどね。しかし、予定より早い到着だな」
魔王サーゼクス・ルシファーがそう述べる。後ろにはグレイフィアさんもいた。
兄さんたちも、急いでその場にひざまずく。
「くつろいでくれたまえ。立ってもかまわないよ。今日はプライベートだ」
部員たちにくつろぐように促す。それに従ってみんな立ち上がった。
「やあ、我が妹よ。しかし、この部屋は殺風景だ。年頃の娘が集まるにしても、魔方陣だらけはどうだろうか」
部室を見渡しながら、魔王さんは苦笑した。変な部屋なのは否定できない。
「お兄様、ど、どうしてここへ?」
怪訝そうにリアス先輩が質問する。そうすると、ポケットから一枚のプリントを取り出した。
「何を言っているんだ。授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。ぜひとも妹が勉学に励む姿を間近で見たいものだ」
そう言えば、授業参観がありましたね。父さんは有給を取って見に来ると言っていたな。
「グレイフィアね? お兄様に伝えたのは」
ブルータス、お前もか! といった感じでリアス先輩はグレイフィアさんを見る。
「学園からの報告はグレモリー眷属のスケジュールを任されている私のもとへと届きます。無論サーゼクス様の『女王』でもあるので主への報告も致しました」
それを聞くと、リアス先輩は嘆息した。どうやら乗り気ではないらしい。
「報告を受けた私は魔王色職が激務であろうと、休暇を入れて妹の授業参観に参加しに来たかったのだよ。安心しなさい。父上をちゃんと来られる」
「そうではありません! お兄様は魔王なのですよ! 仕事をほっぽりだしてくるなんて! 魔王がいち悪魔を特別視されてはいけませんわ!」
「いやいや、これも仕事さ。三すくみの会談をこの学校でやろうと思っていてね。その下見に来たんだよ」
その発言にみんなが驚いた。例外はいない。
「―――っ! ここで? 本当に?」
「ああ。この学園はどうやら何かしらの縁があるようだ。偶然では片づけられない事象が重なっている」
確かに、この学校は普通じゃないので、わからなくもない。
「そう言えば、初対面の子がいたね。初めまして、魔王のサーゼクス・ルシファーだ。リアスの兄でもある」
突然の話題変換についていけなくなりそうだ。
「は、初めまして! 『兵士』の兵藤一誠です!」
「『僧侶』の、あ、アーシア・アルジェントです」
「『騎士』のゼノヴィアだ」
ゼノヴィア以外は緊張した面持ちで自己紹介をした。
「赤龍帝に癒し手、それに聖剣使いか・・・・・・・。妹の眷属は楽しいものが多くていいね。リアスの眷属として、グレモリーを支えてくれ。よろしく頼むよ。それで、そこのキミは?」
「人間の『仮の駒』の兵藤渚です」
一礼して名乗る。
「ふむ。見事な男の娘だな。レーティングゲームの時も画面越しで見ていたが、本物は違うな」
うんうんとうなずく魔王さん。男の娘扱いはもうあきらめることにしました。それに婚約の件については何も触れてこないようなので安心した。
「さて、自己紹介も終わったところで、聞きたいのだが、こんな時間に空いている宿泊施設はあるかね?」
空いているかもしれないけど、探すのに時間がかかるだろうな。
「それなら。うちに来ますか?」
こうして、リアス先輩のお兄さん。魔王サーゼクス・ルシファーが家にやって来ることになった。
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