小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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102. 天衣無縫









 大小さまざまなビル群が乱立する訓練スペース。
 ユウはそこに一人、静かに佇んでいた。

 急遽決まった模擬戦。
 その目的は、ユウ自身の実力を試すというモノ。
 それ次第で今後、六課でのユウの行動の方針が決まることになるのだ。
 

 訓練スペースから離れた所では、ユウの模擬戦を観戦しようと集まる面子。
 はやて、なのは、フェイトの隊長陣や新人フォワード、リインフォース姉妹とホタル。
 先程は所用で離れていたシグナムやヴィータ、
 ユウが模擬戦をすると聴いて駆け付けたシャマルとザフィーラ。
 空き時間を利用して観戦に来たヴァイスやグリフィスなど、六課中の様々な人達が集結していた。

 皆は訓練スペース中に死角がないよう張り巡らされたサーチャーによって、
 大型モニターか各自のモニターで観戦している。
 離れた所で見ているのはなのはの配慮だ。
 新人フォワード達の模擬戦の際には近くで見ていたなのはだったが、ユウの実力を知っているが故に、
 安全面を配慮しての行動だろう。



  「あの……すいません、ちょっと良いですか?」



 遠慮がちに挙手したティアナのもとに視線が集中する。
 


  「その……ユウさんの実力ってどれぐらいなんですか?」

  「そういや八神隊長達とユウって昔馴染みなんでしたっけ? ユウの奴はどんぐらい強いんですか?」



 ティアナの言葉にヴァイスも同調する。
 前にユウからそのことを聞いていたヴァイスの言葉に、
 事情を知らない皆は驚いたように彼に視線を向ける。



  「ああ、いつ知ったかってことですか? アイツと廊下で話した時に聞いたんですよ。
  ユウとホタルとはそん時に自己紹介したってワケでさぁ。 なっ、ホタル」 



 ヴァイスがホタルに同意を求めると、彼女は無言で頷いた。
 

 
  「話を戻しましょうか。 その、坂上さんの魔導師ランクはどれほどのモノなんですか?」



 グリフィスの発言に、ユウの実力を知っている者たちは同様に困ったような表情をした。



  「えっとな、グリフィス君。 ユウ君は魔導師ランクとか持っとらんのよ。
  それに魔導師ともちゃうしな」

  「と言うコトは、八神部隊長やリインフォース准尉と同様に騎士と言うことですか?」

  「騎士……てのも違うな。 うーん、なんて言ったらええんやろ……」



 言葉を濁すはやてに困惑してしまう。
 ミッド式を使う者は魔導師、ベルカ式を使う者は騎士と呼ぶのが習わし。
 ちなみに、はやてが“魔導騎士”と呼ばれているのは、
 ミッド式とベルカ式の両方の魔法を使いこなすことが出来ることからそう呼ばれている。



  「――――ユウは強いよ」



 小さな、しかしハッキリとした声音がホタルの口から漏れ出た。
 皆の視線には取り合わず、ジッとユウから貸してもらった端末から出したモニターを見ている。



  「今の皆がどれほど強いのかは知らない。 だけど、十年前の守護騎士達が……、
  シグナムとヴィータとシャマルとザフィーラが束で掛かっていっても、今のユウには絶対勝てない」



 ホタル以外の皆が息をのむ。
 十年前、管理局に入局した当時の守護騎士達の魔導師ランクは全員がAAランク以上。
 管理局でも屈指の実力者である四人が束になっても敵わないというホタルの言葉はそれだけ異常なのだ。
 ユウの実力を知らぬ者たちは半信半疑だったが、他の反応は違った。



  「何でだろ。 ユウ君だったらあり得るかもって、そう思っちゃうな」

  「なのはの言ってること、なんとなく分かるよ。 だってユウだもんね」

  「アイツって昔っから無茶苦茶だったもんな」

  「戦い方なんて特にね」

  「坂上とは何度も剣を交えたが、奴ほど戦っていて楽しいと感じた者は今までにいなかった」

  「何をしてくるか分からない。 それがユウの最大の強みだからな」



 ユウを知る皆は、昔の彼を思い浮かべながら口々に発していく。
 長い時を生きてきた守護騎士たちですら体験したことのない、ユウと言う男の実力。
 ミッドともベルカとも違う、既存の魔導師や騎士には当てはまらないあまりにも特異な戦い方。
 故にワクワクしてしまうのだ。
 この十年間で、ユウがどれだけ強くなったかということが。



  「……ユウがどれほどの力を持っているのか。 それは見ていれば分かることだ」



 何でもない様に言葉を発したザフィーラ。
 しかし、何人かの者がアングリと口を開けてしまう。



  「い、犬が喋った……!」

  「……犬ではなく狼だ」



 近くにいたキャロの言葉に、ザフィーラは冷静に訂正を入れた。
 


  「ザフィーラさんは八神部隊長の守護獣なんですよ」



 元々八神家とは交流があったエリオの説明に、ザフィーラは嘆息しながら人型へと変身する。
 
 白髪と鋭い目つき。
 屈強な体つきと浅黒い肌。
 両耳に生えた犬耳が、眼の前の男がザフィーラであることを証明していた。



  「かっ、格好いいッ!」

  「……今度からはザフィーラの兄貴、いや、旦那と呼ばせて下さい」

  「今度僕と物議を醸しましょう。 是非ザフィーラさんに師事を仰ぎたいです」



 変身を間近で見たスバルは瞳をキラキラと輝かせ、
 あまりにも男らしい姿に憧れの眼差しを送るヴァイスとグリフィス。
 そんなリアクションに戸惑うザフィーラ。
 


  『もうすぐ準備が整うので、ユウさんも準備してください』

  『了〜解』



 先程からモニターで操作を行っていたシャーリーからの通信。
 ユウはそのままバリアジャケットを展開した。

 昔と同様全身黒ずくめだが、以前とは異なり所々に白いラインが追加されたデザイン。
 そして、右手に握られた純白の刀――ツキヒメがより一層その存在感を放っていた。

 左側に吊るされたホルスターにツキヒメを差し込み、抜刀。
 月明かりのような輝きを発するその刀身が日のもとに晒された。



  「…………綺麗……」



 モニター越しで見ているにも関わらず、その神々しいまでの美しさは全く損なわれることはなかった。
 こうして見るのは二度目になるなのは達もツキヒメから眼を離せなくなってしまう。
 見る者の心にその存在を刻み込む、圧倒的な美しさ。
 
 担ぐようにして肩に持っていくと、鍔部分にはめ込まれたクリスタルが呼応するかのように輝きを増した。



















  『動作レベル、攻撃制度は共に最高レベルのS。 実際のガジェットよりも強い設定です。
  数は十体。後、AMFはデバイスのデータがないので弱めの設定になっちゃいますけど、良いですか?』

  「問題なし。 んなことより、早いとこ始めちまおうぜ」

 

 待ちくたびれたと言わんばかりに欠伸を漏らすユウを見て苦笑するシャーリー。
 コレから戦おうと言うのに緊張感の欠片もない。
 見ているこっちの力も抜けてしまう様な、あまりにもリラックスしきった態度だった。



  『ミッション目的はターゲットの破壊又は捕獲。 制限時間は無制限です。 カウントを始めますね』



 テンカウントの開始と同時に、ユウの眼の前に無数の魔法陣が展開。
 そこから出てきたのは、新人たちが戦ったのと同様のカプセル型のガジェット。
 フワフワと宙に浮きながら、横一列に展開。
 
 瞬間――――空気が変わった

 観戦していた皆もそのことが伝わったのか、辺り一帯が静まり返る。 
 ユウは相変わらず顔に笑みを浮かべている。
 にもかかわらず、まるで別人のように纏っていた雰囲気がガラリと変化した。



  『そ、それでは、ミッションスタートです!』



 緊張を含んだシャーリーの言葉と同時にガジェット達は散開。
 蜘蛛の子を散らすように四方八方に散らばながら、
 その場から一歩も動かないユウに向かって一斉にレーザーを放った。
 逃走、発射スピード共に先ほどより段違いの速さ。
 逃げ場はない様に思われた一斉射撃。
 しかし、ユウは慌てずに行動を起こす。



  「―――朧月夜!!」



 満月を描くような回転斬り。
 斬撃と衝撃波がユウの周りを膜のように覆い、レーザーを弾いていく。
 攻撃が止んだ瞬間を狙い、北側に逃走した二体のガジェットに向かって駆け出した。
 ただのダッシュの筈が、その速度はローラーブーツを使用したスバルと遜色ないほどのモノ。
 そのまま距離を詰めながらツキヒメを斬り上げる。



  「―――蒼破!!」



 刀身から放たれた蒼い衝撃波は一直線にガジェットに向かっていく。
 しかし、ガジェット達の対応は完璧だった。

 “蒼破刃”自体のスピードは、スバルの“ソウハ”とそう変わらない。
 素早い動きをするガジェットにはまず当たらないだろう。
 更に、ガジェット達は新人たちの時の模擬戦とは異なり、常に“AMF”を発生させているのだ。
 例え命中したとしても、“AMF”で掻き消されてしまう。
 実際にガジェット達は“AMF”を纏いながら、ユウの“蒼破刃”を難なくかわして見せた。
 だが、次の瞬間には、



  「―――追蓮!!」



 ツキヒメを持つ手が二度閃き、まるで吸いよせられたかのように、
 二体のガジェットに蒼い衝撃波が迫っていく。
 かわせないと判断したのか“AMF”の出力を上げて対処しようとする。
 だが、想像していたモノとは違う光景が展開された。

 ガジェットの周りに展開された、新人たちを散々苦しめた不可視のフィールド系の防御魔法。
 だが、ユウが放った“蒼破刃”は、すり抜ける様に“AMF”を通過し、その機体を貫いたのだ。
 モニター越しの見ていた新人たち、ツヴァイとシャーリーがあり得ないと言わんばかりに眼を見開く。
 その光景を予め予測していたのか、ユウは後方から迫ってきていた三体のガジェットに向き直った。

 ユウとガジェット達との間の距離は、およそ百メートル。
 敵の中心部分にあるレンズが光り、無数のレーザーがユウに殺到する。
 しかし、ユウは先程のように待ち構えることなく、猛然と加速。
 迫りくるレーザーを遮るように、ツキヒメの刀身が白い稲妻のように閃き、
 数十発はあろうかという光線全てを叩き落とした。

 今度は新人だけでなく、観戦者の全員が眼を見開く。
 一部の者を除き、太刀筋を眼で追うことが出来なかったのだ。
 なにより、あまりにも出鱈目な防ぎ方。
 障壁ではなく刀一本で防いだ離れ業に、皆の心は激しい戦慄で震えたことだろう。。
 そうこうしている間に一気に距離を詰められたが、一旦間を置き、再びガジェットのレンズがひか――
 
 突如、ズドン! という衝撃音と共に地面が爆ぜ、ユウの姿が消える。
 先程までユウが存在していた場所に彼の姿はなく、ガジェットの後方十メートルの所で停止していた。
 そして、まるで時間から置き去りにされたかのように横一列に並んでいた三体のガジェットのうち、
 真ん中の一体が真っ二つに両断され、爆散した。

 素早く反転したガジェットだったが、そこには既にユウの姿はない。
 滑る様に身を屈めながらガジェットの真下に滑るかのように移動したユウは、
 左手を地面につきながら突進の勢いを殺し、両膝と左手をグッと曲げた。



  「―――風月!!」



 左手をバネ仕掛けのように跳ねあげ、両足でガジェットを打ち上げる。
 ガジェット諸共空中に浮き上がったユウは、頭を地面に向けたまま両手でツキヒメを握りしめる。
 瞬間、ユウの身体がグルンと高速で回転し、真上に急上昇していく。
 


  「―――真空裂斬!!」



 ズババババッ! と細切れにされていくガジェット。
 ユウが回転を止めた頃になってようやく、
 残されたガジェットの一体がユウの存在に気付いたように向き直る。
 だが、全てが遅すぎた。



  「―――星影連波!!」



 合計五つの光の斬撃がガジェット目掛けて降り注ぐ。
 逃げようにも退路は断たれ、ならばと“AMF”の出力を上げても、
 やはり何事もなかったかのように突破されてしまった。
 一瞬の出来事。
 ようやく重力に引かれて落下し始めた頃には、ユウの周りには一体もガジェットは残っていなかった。
 
 ――――残り五体。



  「刃に宿れ、更なる力よ ―――シャープネス」



 周りに敵がいない中、突然の詠唱。
 途端、ツキヒメが赤い光を纏い、その状態のまま、



  「そらぁ!」



 隣のビルに向かってツキヒメを投擲した。
 刀を、自身の武器を手放すという、戦場でなら絶対にしてはならない本来ならばあり得ない行為。
 大気圏に突入する隕石のように赤い尾を引きながら進んでいく白銀の流星は、
 そのままビルの壁に吸いこまれていく。
 このままではビルの外壁か内部でツキヒメが突き刺さり、それで終わる筈だった。
 しかし、それは杞憂に終わってしまう。

 トンッと、なんの抵抗もなく突き抜けていくツキヒメ。
 ビルの壁にはツキヒメが貫通した跡以外、一切の傷は残されていない。
 恐ろしいまでの貫通力と切れ味。
 それを可能にしたのは先程の物質強化魔法――“シャープネス”の力あってこそのモノだ。



  「―――鋭招来」



 過去にプレシア戦で見せた身体強化魔法。
 全身に赤いオーラを纏う筈のそれは、両足にしか現れない。
 空中にいる間は身体を強化しても意味などない筈なのにどうして。
 しかしユウはそんなことなどお構いなしだと言わんばかりに両足をたたみ、前傾姿勢をとり――

 パアァン! と空気が弾けるような音と共に、再びユウの姿が消えた。
 離れた所で観戦していた者たちが次に見たのは、ビルを貫通したツキヒメが、
 先程までユウがいた道路からビルを挟んで反対側に走る道路にいたガジェットの機体を貫いた光景だった。
 ガジェットは魔力など使わないし、ましてやガジェットは機械なのだから気配などある筈がない。
 ユウが探知魔法を使った様子はなかったから、おそらくは駆動音と勘だけで命中させたのだろう。
 あまりの出鱈目な、恐ろしいまでの人間センサーだ。

 ガジェットの貫いたツキヒメはその勢いを止めることなく、再び正面のビルに突っ込んでいこうとするが、
 突如黒い影が立ちふさがり、キン! と甲高い音が響くと同時に動きを停止させた。
 黒い影――ユウは裏道を使って先回りし、未だに“シャープネス”の赤いオーラを纏った、
 高速で飛来する危険度MAXのツキヒメをホルスターから引き抜いた鞘でなんの躊躇もなく直接納刀。
 彼は絶対に曲芸師としても大成するだろう。
 状況に追いつけていないガジェットの集団へと素早く距離を詰めていく。



  「―――封翼衝!!」


 
 ガジェットの左側に回り込みながら鞘で殴り付け、

 

  「―――水影身!!」
 

 
 踏み込みと同時に、今度は下から振り上げた。
 上下からコンビネーションで著しく歪んでしまったボディでは戦闘行動の続行は不可能だろう。
 残った三体のガジェットが最初の時と同様に散開していく。
 ユウは面倒くさいと言わんばかりに鞘の先で地面を二度小突いた。
 


  「逃がすかよ! ―――マグネティックゲート!!」



 駆け出すと同時にユウを中心に幾何学模様が描かれた円陣が広がっていく。
 展開が完了と同時に、ユウは逃走を止めたかのようにピタリと静止。
 その後、左右に散っていったガジェット達が自らの意志に反するかのように、
 円陣の中心に佇むユウに引き寄せられていく。

 対象となる物体を引き寄せる魔法――“マグネティックゲート”。
 ガジェット達の必死の抵抗も空しく少しずつ距離が狭まっていく。
 逃走を諦め反転した先でガジェット達が見たのは、
 抜刀したツキヒメのクリスタルが瑠璃色に輝く瞬間だった。
 ツキヒメから冷気が立ち込め、危険を察知したガジェット達が即座に攻撃に移ろうとする。
 しかし、それよりも早く、ユウはツキヒメを地面に突き刺した。



  「―――守護氷槍陣ッ!!!」



 ユウを中心に剣山のように氷柱が乱立。
 体中を氷柱に貫かれたガジェット達はその動きを完全に停止させた。


 ――――ミッションコンプリート。


 ガジェットを殲滅したユウは、地面に突き立てたままのツキヒメから手を離し、そのまま首筋を撫でた。
 しかし、模擬戦はまだ終わっていなかった。
 先程鞘の上下からの連撃を食らい、形が歪んでしまったガジェットがユラユラと背後から近づいてきた。
 そのことを慌てて告げようとする新人フォワード達。
 だが、こんな初歩的なミスをユウが犯すわけがない。
 ニヤリと笑みを浮かべると、左手に持った鞘の先端で地面を軽く小突く。
 ガジェットに備え付けられた熱源センサーが緊急警報を鳴らそうとした瞬間、
 真下の地面が赤く輝き、小規模の爆発を起こした。
 
 

  「―――土竜なり、ってな」



 先程地面を二度小突いた際に設置したトラップ型魔法――“土竜なり”。
 念のために設置しておいた魔法がここで役に立った。
 最も、ユウのコトだからワザとこうなるよう仕向けたのかもしれないが。

 なにはともあれ―――。

 六課が用意した最高難度のシミレーションは、最後までユウには一撃も与えることが出来なかった。









◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


作者の敬愛する剣士――“十三代目石川五ェ門”。
弾丸は勿論のこと、超合金製のステルス機に、挙句の果てには流れ星まで一刀両断。
しかも、人肌を傷付けずに服だけ切り裂くという繊細な太刀筋の持ち主。
戦闘力という面では他の者に劣るかもしれませんが、剣の腕前という点では他の追随を許さない。
ユウにはいつの日か、彼に匹敵するほどの腕前になってもらいたいモノです。

ガジェットの強さについてですが、長時間の稼働を完全に度外視した短時間仕様のモノ。
故に、通常のガジェットより強いという設定です。
要するに、長距離仕様のモノを短距離仕様にチューンナップした、というワケです。

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