小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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103. 蛍光の書









  「――んで、どうなんだ、はやて」



 模擬戦終了後、バリアジャケットを解除したユウは徒歩で小島から皆が観戦していた場所まで移動し、
 開口一番にそう尋ねた。



  「ど、どうなんだって、何が?」

  「なにがってお前……俺が使えるかどうかってんで模擬戦させたんだろうが」



 呆れたようにそう言うと、はやては一瞬呆けたように固まってしまった。



  「……お前今、絶対に忘れてただろ」

  「ちゃ、ちゃうんやユウ君! ちょっとボーとしとっただけで……!」

  「ホントかよ」



 胡散臭そうに細めたユウの視線に、はやては恥ずかしそうに眼を反らしながら俯いてしまう。
 実際は忘れていたのではなく、先程行われた模擬戦の余韻に浸っていたのだ。
 事実、此処にいた殆どの者が、魂が抜けてしまったかのように動けずにいた。
 それほどまで次元の違う戦闘だったのだ。
 魔導師で最も普及しているミッド式同士の戦闘は、離れた所から射撃又は砲撃魔法などを打ち合い、
 障壁で防御、慣れた者ならばバインドなどを組み合わせて戦うのが、
 ほぼ全ての人が思い浮かべる魔導師戦のスタンダードだろう。
 しかし、ユウの戦い方はそれらから逸脱していた。

 疾風の如く地を駆け、剣舞のようにツキヒメを操り、繰り出す全てが予測不能――――
 あまりにも原始的であるが故に、彼の実力のほどがハッキリと浮き彫りになった。
 ユウは強いというホタルの言葉を疑う者は、もはや此処にはいなかった。
 はやては恥ずかしさを隠すように咳払いをし、顔を上げ、



  「合格や」



 だた一言、そう告げた。
 クスリと笑うはやてに、ユウのつられる様に笑う。
 どうやらはやてが定めた基準はクリア出来たようだ。



  「ゆ、ユウさん!!」



 ユウの前に集まる新人フォワード達。
 


  「どうやってガジェットの“AMF”を突破したんですか! 
  ユウさんの“蒼破刃”は私のモノと変わらないのになんで……」



 新人たちが聞きたかったことをスバルが代弁する。
 自分達を散々苦しめたガジェットの“AMF”。
 遠目からは何も分からなかったため、こうして本人に直接聞きに来たのだ。



  「特別なコトは何にもやってねぇよ」

  「で、でも……」

  「スバル、“AMF”の特性を言ってみろ」

  

 ユウの言葉に、スバルは人差し指を額に充て、眼を閉じながら唸りだした。
 数秒後、僅かに開けた口からゆっくりと語り出していく。



  「確か、魔力結合を解いて魔法を無効化するって……」

  「つまりそういうコトだ」

  「えっと、どういう……」

  「魔力なんて使ってないってコトだよ。 だから“AMF”に引っかからなかった。 それだけだ」

  「え!? でっ、でもさっき使ってたじゃないですか!」



 スバルだけでなく、新人たち全員がユウの言葉を受け止めることが出来なかった。
 先程は間違いなく魔力を使っていた。
 でなければあんなこと出来る筈がないから。
 そしてそう思ったのは、ユウの力を知らぬ者全員だった。
 ユウはチラリとはやての方を向くと、彼女は一瞬迷いながらも、仕方なさそうに頷いた。



  「俺は魔力じゃなくて、お前らとは別の力“マナ”を使ってんだよ」

  「“マナ”?」



 初めて聞く言葉に、ティアナがオウム返しに口ずさむ。
 その後、視線で先を促した。



  「限りなく自然に近い力……まぁ、実際に見せたほうがいいか」



 頭上に疑問符を浮かべるエリオとキャロ。
 ユウは苦笑しながら掌を上に向ける様にして前に出す。
 途端、ボッと音を立てて火の玉が出てきた。



  「火・水・風・地・光・闇。
  自然エネルギーってのは大きく分けてこの六つの属性のどれかになるんだが、
  “マナ”ってのはこれ等どれでもない、言わば“無”の属性の自然エネルギーなんだよ。
  この炎は無属性のマナを火属性に変換したモンだ」



 今ユウが話していることは、マナの存在を知っていたなのは達も知らないこと。
 彼女たちが知っていることは、ほんの僅かに部分でしかないのだ。
 だから、ホタル以外の皆が、彼の話を真剣に聞き入っている。



  「普通自然エネルギーってのは他の属性には変わることは不可能だ。
  火が水にはならねぇし逆もしかり。 だが、“マナ”は違う。
  コイツは全ての属性に変換することが出来る、まぁ万能属性だと思ってくれてくれりゃいい。
  さっき出した氷柱もガジェットを引っ張った魔法も、全部“マナ”を別の属性に変えて出した」



 “マグネティックゲート”は地属性に変換して磁力を。
 “守護氷槍陣”は“水属性の派生属性――“氷”に変換して発生させた。
 “マナ”は応用次第で様々なモノに姿を変える。
 魔力も炎や電気を生み出すことが出来るが、それだけだ。
 威力は“マナ”より劣り、応用性は足元にも及ばない。
 魔力よりも上位に位置する力、それが“マナ”なのだ。



  「つっても、マナを別の属性に変えるのは疲れるわ集中力がいるわ……。
  昔は変換なんかせずにそのまま使ってばっかだったんだがな。
  俺の十八番の“蒼破刃”や治癒魔法なんかは“マナ”をそのまんま使ったもんだ。 だが、今は違う」



 ユウはそう言って、手に持ったツキヒメを眼の前に掲げた。



  「“ツキヒメ”のおかげでその心配もなくなった。
  コイツに“マナ”を通せば、使い手の望む属性に勝手に変換してくれんだよ。
  クリスタルが色付いたのはそのせいだ。 ホント、コイツには世話になってばっかだな……」



 火なら緋色、水なら瑠璃色、風なら翡翠色、地なら琥珀色、光なら白、闇なら黒。
 “ツキヒメ”のクリスタルと帯は属性によって、この六つの色に染まる。

 魔法陣の展開というプロセスを踏む属性術――“フレイムドライブ”――の場合はそうではないのだが、
 魔法陣を展開しないで即座に発動させることの出来る属性技――“紅蓮剣”や“守護氷槍陣”――は、
 どうしても余分な“マナ”を消費する。
 ユウが過去の戦いで属性攻撃は術の方ばかりを多用していたのはそのためだ。
 しかし、その心配は“マナ”のおかげで解消された。

 ツキヒメのクリスタルは魔法陣と同様の効果がある。
 このため余分なマナ消費を抑えることが出来た。
 他にも威力増強や詠唱加速・サポートと、“ツキヒメ”が使い手にもたらす恩恵は多岐に渡る。
 おかげで今のユウは移動しながらの詠唱、ある程度の術は詠唱破棄して即座に発動させることが出来る。
 詠唱破棄は代償として威力が犠牲となってしまうが、高速戦闘が主体のユウの戦い方の場合は、
 威力よりも速さが重要なため、さほど問題ではない。
 それに、威力が必要な時は詠唱して発動すれば良いだけの話なのだから。


 “ツキヒメ”―――。

 
 使い手となる者を自ら選ぶ、“マナ”を持つ者専用の武器。
 “ツキヒメ”の封印状態――“クロ”――で戦っていた頃は、飛行魔法やバリアジャケットの維持は、
 自動でやってくれたが、“マナ”の制御は全てユウ一人でやっていた。
 “ツキヒメ”を手に入れる前のユウは、言わばデバイスがない状態で戦っていたようなモノなのだ。
 昔のユウはなのは達の中でもトップクラスの実力を持っていた。
 それが“ツキヒメ”という、魔導師や騎士で言うところのデバイスを使用することになったのだ。
 実力を計り知れないモノとなっている。



  「っと、話が大分それちまったが、これで“マナ”についての説明は終了だ。
  大体分かっ……てはねぇか」



 子供組――エリオ、キャロ、ツヴァイ――には、今の説明ではやはり難しかったのか、しきりに首を傾げている。
 スバルなんかは頭から煙が出ていた。
 必死に理解しようとしているみたいだが、この手の説明には苦手意識があるようだ。
 一部内容を省いたとはいえ、難しい内容には変わりない。



  「あの、ユウさん、いいですか?」

  「どうした、エリオ」

  「いや、さっきの模擬戦のことなんですけど、どうしてユウさんの“蒼破刃”は当たったのかなって。
  スピードは僕の魔力斬撃やスバルさんの“ソウハ”とそんなに変わらないのに」

  「ああ、そう言うことか……」



 エリオの言わんとしていることを理解したのか、
 徐にエリオに近づくと、彼の顔めがけて鞘を横に振るった。


  
  「―――ッ!?」


 
 慌てて頭を下げるエリオ。
 しかし、ユウがエリオの顎の数センチ手前に拳を突きつけた。
 周囲は突然のユウの行動にビックリしていたが、彼の真意を理解した者はそのまま静観していた。



  「な、なにを……」

  「コレがお前の知りたかった答えだ」

  「え……」



 エリオは唖然としながらユウを見上げた。



  「鞘の攻撃で、お前の避け方はしゃがむか後ろに引くかのどっちかしかなくなった。
  相手がどうやって避けるかが分かれば、当てることなんて簡単だろ?」



 ユウの言葉をゆっくりと理解していき、エリオはなるほどと納得した。
 先程の模擬戦でも、ユウは最初の“蒼破刃”は元からガジェットに当てるつもりなどなかったのだ。
 初撃はあくまでも牽制で、本命は次の攻撃だった。



  「攻撃ってのは単純に相手目掛けて打てば良いってモンじゃない。
  エリオやスバルは直線的なモンしか持ち技にねぇんだから、時にはこうやって牽制させたりして、
  逃げ道を誘導させることも必要だ。 これが出来りゃ、動きの速い相手にも攻撃を当てることが出来る」



 真剣な表情で話を聞いていたティアナが何かに気付いたかのように眼を見開きながらユウを見据える。



  「まさか……さっきの模擬戦って、私たちに問題点を教えるために……!」



 新人たちがユウに集中する。
 ユウは首筋を撫でながら溜息を零した。



  「コッソリ教えたつもりだったんだがな……」



 先程の模擬戦は、終わらそうと思えば一瞬で終わらせることが出来た。
 開始早々“マグネティックゲート”でガジェットを引き寄せ、“守護氷槍陣”で一掃。
 “鋭招来”で身体強化を行い、圧倒的なスピードで瞬殺。
 他にもやり方は色々あった。
 しかし、敢えてそれをしようとはしなかったのは、新人たちに伝えたいことがあったからだ。

 前衛二人――エリオとスバル――には、牽制の大切さや一対多の立ち回り方。
 キャロにはブースト系魔法の使いどころ。
 ティアナにはトラップの有効性や最後まで油断するなということを。

 

  「お前ら個人の能力は高いとは思うが、使い方が全然なってない。
  そんなんじゃ、せっかくの能力も宝の持ち腐れだ。 だから、なのはに鍛えてもらえ。
  その上で実戦経験を積んでいきゃ、お前らは今よりももっと強くなれる」



 新人たちの能力は確かに高い。
 だが、彼らは戦い方を知らない、否、知らなさすぎる。
 実戦経験が圧倒的に足りないのだ。
 スバルとティアナは訓練校時代に基礎はそれなりにやっているだろうし、
 エリオとキャロも各々が自分なりの方法で鍛えていただろう。
 しかし、そうした訓練では絶対に身につかないモノが存在する。
 
 どうやって攻めれば相手を倒せるか、どうやって守れば相手の攻撃を防ぐことが出来るのか。
 戦闘中ではそういった駆け引きは無数に存在するが、その全ては一瞬にしてなくなってしまう。
 強い奴というのはそういった一瞬のチャンスを見極めることが出来る嗅覚や眼を持っているモノだ。
 言葉にするならば“勝負勘”というモノを。
 
 ユウは基礎訓練は人並み以下かもしれないが、
 実戦経験だけで言えば百戦錬磨の守護騎士に匹敵するほどの修羅場を潜ってきた。
 彼の力はマナもそうだが、そう言ったズバ抜けた実践経験からくる自信が支えているのだ。
 どれだけ高い能力を持っていたとしても、経験がなければそんな力に意味などない。
 基礎ももちろん大事だが、最も大切なモノは実践経験。
 それが、ユウの持論だ。
 
 確信に満ちたユウの言葉に、新人たちは強い意志を宿した瞳で見つめ返しながら、
 「はい!」と力強く返事をした。
 新人たちには強くなりたいという意志がある。
 能力よりもユウはそちらを重視しているため、彼の言葉には嘘偽りは一切含まれていなかった。
 才能が人を強くさせるのではなく、強い想いが人を強くさせるのだと知っているから。

 

  「――さて! ちょっと早いけど、皆で食堂に行こうか!」



 手を打ち鳴らしながら提案するようななのはの言葉に、新人たちの腹の虫が一斉に鳴りだした。
 恥ずかしそうにお腹を抑える新人たちを見て苦笑する一同。
 その光景は何処か、家庭的な雰囲気を連想させる、温かなモノだった。
 


  「ホタル、ちょっといいか」

  「……なに、ユウ?」

  「“アイツ等”の調子はどうだ?」

  

 ホタルは胸に手を当て、眼を閉じた。
 皆はどうしたんだろうと遠目から様子を窺っている。
 数秒後、ゆっくりと眼を開けたホタルは、身長差のあるユウの顔を見上げた。



  「……大丈夫。 皆、体調はバッチリだって」

  「そっか。 今からいけるか?」

  「ん……問題ない」
  
 

 ホタルの言葉に頷くと、ユウは皆に向き直った。



  「はやて。 悪いけどもう一回模擬戦見てやってくれないか?」

  「え? いやでも、ユウ君さっき模擬戦したばっかやん」

  「違う違う。 やるのは俺じゃなくて……」



 言葉を一旦区切り、隣に立つホタルの頭に手を置いた。
 皆の視線がホタルに集中する。



  「やるのはホタルだ」

  「……………………はい?」



















 前回の模擬戦同様、乱立するビル群の間を走る十字路の中央で一人佇むホタル。
 周りは離れた所からその様子を静かに見守っている。
 だが、ユウ以外の皆の表情は困惑していた。
 しかし、それも無理のないことだろう。
 お世辞にも、ホタルに戦いが出来るとは皆思っていないのだ。
 なんせ彼女の見た目はエリオやキャロ同様十歳と言ったところ。
 体つきも華奢で、とてもではないが戦闘が出来るようには見えなかった。



  「ホタルちゃん、大丈夫なんでしょうか……」



 ユウの傍らで浮いているツヴァイが心配そうに呟く。
 隣にいるアインスも似たような表情を浮かべていた。



  「まっ、大丈夫なんじゃねぇの」

  「そんな無責任なこと言わないで下さい! ユウさんはホタルちゃんのこと心配じゃないんですか?」

  「アイツの実力は俺が一番良く知ってる。 心配なんざやるだけ無駄ってもんだ」



 断言するような言葉と確信に満ちた瞳。
 ツヴァイは渋々引き下がるしかなかった。



  「ホタルの力量はどれほどのモノなんだ?」

  「んー、そうだな……スバルより少し上ってとこだな」

  「え、私とですか?」

  「アイツのスタイルはお前と結構似てんだよ。
  例えるならスバルとエリオを足して半分にした感じだな」


 
 スバルが眼を見張る。
 やはり、ホタルの見た目からは自分より同レベルの実力を持っているとは思えないのだろう。 



  「でも、今のアイツならたぶん、勝てはしないだろうが隊長陣と良い勝負出来んじゃねぇかな」

  「ちょっと待て。 何を言っているんだお前は」



 怪訝な顔でアインスはユウの矛盾点を指摘した。
 ユウは先程、ホタルの実力はスバルと同程度だと言った。
 その上で、隊長陣とも良い勝負をすると。
 しかし、それはあり得ないことだ。
 言い方が悪いかもしれないが、スバル程度の実力で六課が誇る隊長陣に敵う筈がない。
 そもそも勝負にすらならないだろう。
 皆もアインスと同じことを思っていた。

 ユウはアインスの疑問には答えず、ただ小さな笑みを浮かべていた。
 まるでこれから悪戯を仕掛けるよな、そんな笑みを。



  「確かにホタルだけなら駄目だろうな。 だが、何もアイツは一人で戦うわけじゃない」

  「それはどういう――」

  「見てれば分かるって。 そろそろ始まるみたいだぞ」



 見れば、ホタルの前に無数の魔法陣が現れた。
 数は新人たちの時の模擬戦と同じ八つ。



  「ガジェットの動作レベル、攻撃精度は最初の時と同じレベル。 数は八体。 これで良いんですか?」

  「ああ。 後、もう一個注文したいんだが、
  ホタルが全部のガジェットを倒したら更に二体追加してくれないか?」

  「良いですけど……。 最初から十体じゃ駄目なんですか?」

  「それじゃ駄目なんだ」

  「……分かりました」



 納得がいかないながらも、シャーリーは端末を操作していく。
 それを横目で見ながら、ユウは自分の端末を使ってホタルに呼びかけた。



  「聴いての通りだ」

  『最初は皆で戦えってこと?』

  「そういうこった。 自己紹介も兼ねてな」

  『ん……分かった』



 ホタルは再び胸の片手を当てて眼を閉じるポーズを取った。
 直後、ホタルの全身がうっすらと発光していく。
 神秘的で、どこか温かさを感じさせる光。
 そして、瞳を閉じたまま一つの言葉を呟いた。



  『――――セットアップ』



 瞬間、ホタルが着ていた民族衣装の代わり身に纏っていたのは、彼女のバリアジャケットだった。

 髪を結っていた緋色の紐の代わりに現れたのは、同色のリング状の髪留め。
 脚の付け根まである白いベアトップ。
 その上に同色の丈の短い上着を着ており、 胸の前で交差するようにして、金の金具で留めている。
 手首から肘の上までは白いアームカバーを通し、下は白のショートパンツ、白いショートブーツ。
 全体的に白を基調としながら、所々に黒とピンクをあしらっている。
 バリアジャケットとしては少々心もとないかもしれないが、 動きやすさを重視した出で立ちだ。

 そして、彼女の横でフワフワと浮いているのは、表紙に金の剣十字が描かれた白銀色の一冊の本。
 何人かの者が息をのむ。
 それは、かつては“呪われた魔導書”と呼ばれていたモノと瓜二つのモノだった。
 しかし、その本が纏っている光からは、かつての禍々しさは感じられない。
 幻想的な、過去の姿とは間逆――聖なる光と呼べる輝き。
 だが、真の驚きは此処からだった。









  『―――コール・“ルシフェリオン”』









 書物に向かって片手を翳し、静かに微笑みながら呟いた。
 直後、書物が独りでに開き、そこから朱色の光が迸る。
 光は徐々に集束していき、細長い形状を取ると、ホタルはそれを握りしめる。
 朱色の光が弾けると、彼女は一振りの杖を持っていた。



  「そんな!?」

  「嘘!! えっ、でも……!」

  「あり得ない。 こんなことって……」



 皆の間に動揺が走る。
 何故なら、ホタルが持っている杖は、彼女が持っている筈がないから。

 赤紫色の金属で囲った青玉を杖の先端に付けた黒い杖。
 それは、彼女の――。



  「――レイジング……ハート……」



 なのはの愛機――“レイジングハート”と全く同じ形をしていたから。



  『……行くよ、シュテル』

  『はい、ホタル。 あのような鉄屑、焼却処分にしてやりましょう』



 力強く握りしめた杖――“ルシフェリオン”の青玉が、言葉と同時に点滅する。
 一見するとそれは人工AI搭載したデバイス――“インテリジェントデバイス”だと思われた。
 しかし、やたらと物騒な言葉を発した声は、とても人工AIだとは思えないほどハッキリしたモノ。
 声も機械音ではなく、キチンとした人の声だった。
 その声は、幼い頃のなのはを彷彿とさせるモノで。


 ミッション・スタート――――。









◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


今回は“マナ”と“ツキヒメ”の説明回。
より詳細な内容を語ろうと思えばもう一話ほど必要なため、簡単に纏めたモノを今話に掲載。
この件に関しての質問・指摘等がありましたら、コメントにて聞いてください。

そして次話、今度はホタルが始動。
彼女の戦闘スタイルはユウ以上に奇抜ですが、それは読んでからのお楽しみ。
ちなみにホタルのバリアジャケットについてですが、
TOGfでのソフィの称号――“ソフィちゃん”の服装を参考にしています。

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