32. 運命の悪戯
時が過ぎ、季節は移り変わり、今は冬。
あれから様々な次元世界に赴き、リンカーコアを持つ生物を倒し、蒐集していた。
蒐集活動をしないというはやてとの約束は破ってしまったが、それでも人だけは襲わないようにしている。
これは、多分俺達に残っている最後の意地なのだろう。
でも……
「全然集まらねぇ……」
目標となる666ページにはまだ半分にも届いていない。
俺達が倒している生き物のリンカーコアは魔導師のもつそれに比べ、
圧倒的に質が劣るため、蒐集活動は予定よりはかどっていない。
はやてはあれから、入退院を繰り返している。
本人は大丈夫だと言っているが、無理しているのが丸わかりだ。
シャマルの診断の結果じゃ、闇の書はどんどんはやての体を蝕んでいる。
「一体どうすりゃ……」
口ではこう言っているが、本当はどうすればいいかなんて分かってる。
人を、魔導師のリンカーコアを蒐集すればいい。
だけどそれは、あいつと戦うことを意味している。
それだけは……したくない。
「……ははっ、なに言ってんだよ。 今更綺麗ごとなんて……
お前のはやてを救うっていう覚悟はそんなもんなのかよ」
思わず浮かんでしまった弱音に、自嘲気味に笑ってしまう。
失いたくないって、死なせたくないって言っておきながらなにを今更……
「はやてを助けるって、決めたんじゃねぇのかよ……」
家の外から感じた、覚えのある魔力が二つ。
俺は胸から下げているクロを握りしめ、静かに歩きだしていった。
☆☆☆なのは SIDE☆☆☆
『――――シュワルベフリーゲン』
紅い少女から放たれ、唸りを揚げながら迫ってくる鉄球。
それを咄嗟にはった障壁で防ぐ。
「くっ!」
あまりの威力に腕が悲鳴をあげそうになるがなんとか相殺し、
巻きあがる粉塵に紛れて、誘導弾を展開しておく。
(どうしていきなり……っ!)
『――――フラッシュムーブ』
高速移動魔法で距離をとり、自分の距離であるロングレンジへと移動し、
誘導弾での背後からの奇襲を行おうとするが、簡単に防がれてしまう。
「このヤロォ!!!」
素早く距離を詰められ、そして繰り出される渾身の一撃。
それをかわし、再び距離を取った後、私の得意とする砲撃魔法へと移る。
『シューティングモード』
「話を――――」
『――――ディバインバスター』
「聞いてってばぁ!!!」
レイジングハートから桜色の閃光が迸り、紅い少女へと迫る。
紙一重のところで避けるが、その拍子に少女の被っていた帽子が吹き飛ばされてしまう。
私は再び紅い少女に話しかけようとするが、少女は帽子が飛んでいった方向を茫然と眺めていた。
「あっ……」
こちらを向いた紅い少女の瞳にはこちらに対する激しい憎悪。
その感情を向けられてしまった私は、思わず硬直してしまう。
「グラーフアイゼンッ!! カートリッジロード!!!」
『エクスプロージョン・ラケーテンフォルム』
紅い少女の叫びと同時に、彼女のデバイスから薬莢が吐き出され、その姿を変えていく。
先程まではただのハンマーだったが、変化後は片方がスパイク状に、
もう片方にはブースターの様なものが展開されていた。
「ラケーテン―――――ッ!」
そう叫ぶと同時にブースター部分が火を噴き、自身を軸に回転を始め、そのまま突っ込んできた。
「ま、待っ――――」
「―――――ハンマアアアアアアアッ!!!」
レイジングハートを突き出し障壁を展開するが、
そんなものまるでなかったかのように、障壁を突き破り、
レイジングハート越しに凄まじい衝撃が襲いかかる。
「きゃああああああああああああ!!!」
レイジングハートは衝撃に耐えきれずに大破。
私はそのままビルに突っ込んでいき、幾つかの壁を突き破ってようやく勢いが止まった。
「ぁ……ぁぁ……」
あまりの痛みに、口から出たのは呻き声だけ。
自分の相棒やバリアジャケットはボロボロ。
私の中にあるのは、諦めの感情。
痛みに耐えながらなんとか眼を開けたが、そこには私にトドメをさそうと近づいてくる紅い少女。
なにか魔法を発動させようとするが、頭の中がゴチャゴチャでまともな思考が出来なかった。
(こんなピンチ、前にもあったな……)
ユーノ君と協力して、初めてレイジングハートを起動させた時、暴走体が怖くて体がすくんでしまった。
もう駄目だ、死んじゃうって思った。
でも……
(あの時は、ユウ君が助けてくれたんだよね……)
今度も助けてくれる。
そんなことあるはずがないとわかっていても、思わず願ってしまう。
(助けて……ユウ君っ!)
聞こえてきたのは、金属同士がぶつかり合う音。
何かと思い、眼を開けてみる。
「あ……」
私の眼に映ったのは、綺麗な金色の髪。
ユウ君じゃないけど、同じくらい大切な友達。
「フェイトちゃん……っ」
「なのはっ!」
こちらを向きながら、心配そうに言うフェイトちゃん。
来てくれた、そう思うと涙が出てくる。
「ゴメンなのは。 遅くなった」
肩に置かれた手を辿ってみると、そこにはユーノ君の姿が。
「くっ……そいつの仲間か……」
紅い少女は一旦距離をとり、こちらを警戒しながら聞いてくる。
『サイズフォーム』
「……友達だ」
バルディッシュを鎌状に変化させながら静かに、
そして確固とした決意と共に、フェイトちゃんは言い放った。
★ ★ ★ ★ ★ ★
☆☆☆フェイト SIDE☆☆☆
「民間人への魔法攻撃。 軽犯罪では済まない罪だ……」
「なんだテメェ! 管理局の魔導師か?」
こちらを睨みつけてくる紅い少女。
お互いの間に、張りつめた空気が漂う。
私達の裁判が終わり、ようやくなのは会えると思っていたら、突然届いたなのはが危ないという知らせ。
急ぎ駆けつけてみれば、そこにはボロボロのなのは……
「……時空管理局嘱託魔導師のフェイト・テスタロッサ。
大人しく投降して。 そうすれば手荒な真似はしない」
バルディッシュを握りしめながら、目の前の少女に警告する。
何かと便利だということで、嘱託魔導師の資格は取っておいた。
母さんやリニスはあまりいい顔をしなかったけど、私はあの事件でみんなに迷惑を掛けたから。
(それに、ユウにも……)
頭に浮かんだ彼のことを一旦追い出す。
いけない、今は目の前の相手に集中しないと……
「誰がするかっ!」
紅い少女は部屋から外へ飛び出し、そのまま私の視界から姿を消した。
「ユーノ、なのはをお願い」
「うん! 気をつけてね!!」
ユーノになのはのことを任せ、紅い少女を追ってビルの外に飛び出す。
頭上では、少女が見たことのない術式を展開し、こちらを待ち構えている。
『――――アークセイバー』
『――――シュワルベフリーゲン』
バルディッシュからより一層光が迸り、横薙ぎに一閃すると、そのまま刃が分離し少女に襲い掛かる。
相手も負けじと無数の鉄球を展開し、こちらに向けてはなってきた。
互いの放った攻撃はそのまま相手へと向かう。
少女は障壁を展開し防御。
私は自分の持ち味である高速機動を生かし、誘導弾をひきつける。
「バリアァァァァ――――!」
「っ!?」
雄たけびを上げながら少女の下から急速に接近する、
私のもう一人の相棒、アルフ。
突然の攻撃に驚きながらも咄嗟に障壁を展開。
「―――――ブレイクッ!!!」
渾身の突きによって、障壁に亀裂が入り、そのまま破壊される。
その隙にバインドで拘束しようとするが、これを回避。
「はあああああああああああ!!」
素早く相手との距離を詰め、そのまま一閃。
相手もデバイスを振るい、鍔迫り合いの状態になる。
「今だっ!」
アルフの声と同時に、少女の手足にオレンジ色のバインドが発動。
そのまま動きを封じた。
「ぐっ! くそっ、この!!」
バインドを解こうと必死に抵抗する少女。
そのまま更にバインドを掛けようとするが……
「爆ぜよ烈風 ――――ヴォルテックヒート」
突如聞こえた聞き覚えのある声と同時に、私とアルフの間に見えない何かが収束。
それが膨れ上がっていき、そのまま弾け、そこから凄まじい勢いの風が吹き荒れた。
「くっ!」
「うわっ!?」
風に吹き飛ばされ一気に距離をとらされた。
先程の魔法を放った人を探そうと少女の方に眼を向ける。
そこには……
「ぁ……」
そこに居たのは、ずっと会いたかった彼の姿。
ずっと会いたくて、お礼を言いたくて、謝りたくて……
でも、もう会えないと思うと悲しくて、涙が溢れてきて……
そんな彼が、もう会えないと思っていた彼がそこに―――
「ユウッ!!!」
坂上ユウが、そこにいた。