小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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33. 揺らぐ覚悟









  「……大丈夫か」



 目の前でバインドに拘束されているヴィータを見つめながらユウはそう呟く。
 彼の周りにはシグナムにザフィーラ、離れた所にはシャマルが待機してた。



  「どうしたヴィータ。 油断でもしたか?」


  「うるせぇよ! こっから逆転するとこだったのに……」



 シグナムの苦笑しながらの問いかけに、ヴィータはソッポを向きながら答えた。



  「それは悪いことをしたな」



 シグナムはヴィータにかかっているバインドを解く。
 


  「あまり無茶はするなよ。 お前が怪我をすれば、主も悲しむ」


  「分かってるよ。 もぅ……」


  「ついでに、落とし物だ」



 今度はザフィーラが近づき、ヴィータの頭に帽子を被せた。
 ヴィータは一瞬嬉しそうな顔をしたが、慌ててそれを隠してお礼を言った。



  「ユウッ!!!」



 ユウを呼ぶ、フェイトの声。
 そこには喜びの感情が溢れていた。
 だがそれに対して、ユウには一切の表情が浮かんでいない。



  「坂上、あいつと知り合いなのか?」



 相手の態度から、ユウの知り合いなのではないか推測したシグナムは、確認の意味を込めて聞いてみた。
 しかし、返ってきたのは……



  「……知らねぇよ、あんな奴」


  「……え……」



 無表情にそう告げるユウの返答を聞き、茫然とするフェイト。
 シグナム達も怪訝な表情をしていた。



  「……どうして……、私だよ! フェイトだよ!!!」


  「どうしちまったんだいユウ! フェイトを忘れちまうなんて……」


  「そうだよ! それに、なんだってそんな奴等なんかと一緒に……」



 ようやく我に返ったフェイトが、必死になってユウに訴えかける。
 なのはに回復と防御の結界魔法を張り終えたユーノとアルフも、意味がわからないという感じだ。



  「ゴチャゴチャとうるせんだよお前ら。 知らねぇって言ってんのが聞こえなかったのか」


  「な、なんで……」



 ユウの言葉に唖然とするフェイト達。
 シグナム達も、いつもと様子の違うユウに戸惑いを隠せないでいる。
 


  「……こっから先は一切手ぇ出すな。 俺一人でやる」


  「なにカッコつけてんだよ! こんな奴等みんなでやった方が早いぜ!!」


  「ヴィータの言う通りだ。 それと、冷静になれ坂上。
  お前、少し様子が変だぞ」



 ユウの突然の提案を即座に否定しようとする。
 幾らユウが強いと言っても、相手は三人。
 こちらが数で勝っているのにわざわざ自分から不利な状況になろうとしている
 ことを疑問に思っている。




  ――――ゾクッ!




 こちらを振り返ったユウと視線が合う。
 その瞬間、まるで心臓を直接握られているかのような感覚を覚えた。



  「……この程度の奴等、俺一人で十分だって言ってんだよ。 邪魔すんな」



 そう言って再びフェイト達と向き直る。
 ユウから視線を外されても、しばらく茫然としていたが、しばらく経ってからようやく我に返った。


  
  「……ユウの奴、どうしちまったんだよ」



 ユウとフェイト達の視線が交わる。
 フェイト達はまだ戸惑いが隠せないでいるが、それでも各々が戦いに備え、それぞれの武器を構えた。



  「ユウ、どうして……」


  「……オーバーリミッツ」



 茫然と呟くフェイトに対し、ユウは自身に眠る力を解放。
 その体から青いオーラが噴出する。



  「「「っ!?」」」


  「「「…………」」」



 フェイト達は依然見たことのある光景により一層警戒心を高め、
 ユウの突然の変化についてけないのか、言葉を失うシグナム達。


 オーラの正体はユウの切り札“オーバーリミッツ”
 リンカーコアから通常より多くのマナを生み出す技法。
 しかし、ユウ自身の限界以上の力を無理やり引き出し使用するこの技法は、
 彼の体に膨大な負担をかけてしまう。



  「これで決める――――」


  「消えた!!?」



 フェイトたちの前から突如姿を消すユウ。
 慌てて辺りを見渡すがどこにもいない。
 しかし―――――



  「――――閃け、鮮烈なる刃……」


  「うわぁっ!?」


  「ユーノ!!」



 いきなり吹き飛ばされるユーノ。
 アルフが叫ぶが、何が起こっているのかまるで解らない。



  「無辺の闇を鋭く切り裂き」


  「がっ!」


  「アルフ!!」



 続いて、アルフまでもが。
 何が起きているのか理解しているのは歴戦の強者である騎士達だけだ。
 


  「仇為す者を微塵に砕く――――」


  「きゃあ!!!」



 だが、シグナム達にわかるのは、攻撃の瞬間に辛うじて見えるユウの残像だけ。
 ユウはフェイトをデバイスごと弾き飛ばした後、
 ユーノが張った結界の中で茫然とこちらを見ているなのはに襲い掛かる。









  「――――――漸毅っ……狼影陣」









 結界ごとなのはを吹き飛ばす。
 ユウの周辺には、気絶し倒れているかつての仲間たち。
 だが彼は、まったくそちらの方を見ようともしない。



  『……シャマル、蒐集頼む』


  『……あ……。 う、うん……、わかったわ』



 遠くからユウの攻撃を見ていたシャマルは突然の念話に驚きながらも、
 他の守護騎士達と一緒に近づき、なのは達から魔力を蒐集する。
 苦しそうな呻き声。 シャマルの顔に僅かな迷いが生まれる。
 他の騎士たちも、やるせない気持ちを抱えたまま、その光景を見守っていた。


  
  「……帰ろう」



 みんなを代表して帰ろうというシグナムの言葉に頷く騎士達。
 しかしユウだけは、その場でじっとしたまま俯いてしまう。



  「ユウ? どうした――――」


  「―――――っ!!!」



 ヴィータがなんの反応も示さないユウを心配しながら話しかけるが、
 ユウはそのまま近くの壁に拳を思い切り叩き付けた。
 突然のユウの行動に唖然とする守護騎士たち。
 しかし、その間にもユウはコンクリートでできた壁に何度も拳を叩き続けていく。



  「ッ!? なにやってるのユウ君!!」



 いち早く我に返ったシャマルが急いで掛けより、ユウの拳を無理やり手に取る。
 ユウの拳は固いコンクリートを殴ったことによって皮がズタズタになり、血だらけだった。



  「早く治療しないと!」


  「……いらねぇ」


  「なにバカなことを――――」


  「頼むから……このままにしといてくれねぇか。
  あいつの前では包帯でもなんでもするから、だから……頼むから……」



 俯き、拳を握りしめながら、絞り出すように言葉を吐き出すユウ。
 そのあまりに痛々しい姿に、触れれば消えてしまいそうな様子に、なにも言うことができなかった。



  「……命を照らす光よ、此処に来たれ ――――ハートレスサークル」



 地に伏しているなのは達を囲うように魔法陣が展開し、
 そこからあたたかな癒しの光が迸り、皆を包み込んだ。



  「…………」



 なのは達の傷が癒えたことを確認したユウは、そのままその場を後にする。
 騎士たちはその背中を黙って見つめていた。
 ユウの背中は、まるで泣いているかのようで――――









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