小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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38. 譲れないモノ









 蒐集からの帰り道。 
 ヴィータとザフィーラは管理局に捕捉され、魔導師達に囲まれていた。



  「管理局か……」


  「でも、こいつ等たいしたことねぇよ!」



 無数の魔導師に囲まれながらも、二人の騎士は冷静に状況を分析していく。
 数ではこちらが不利だが、実力では圧倒的にこちらが有利。
 しかし、その慢心が隙を生み出してしまった。




  「――――スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!!」




 突如頭上から響く声。
 それと同時に周りの局員が距離をとる。
 上を見上げてみれば、クロノが魔法陣を展開していた。
 彼の周りにあるのは百はあろうかという水色のスフィア。
 それがクロノの指示と同時にまるで豪雨のように降り注ぐ。


  
  「ちぃっ!!?」



 ヴィータの前に立ちはだかるのは“盾の守護獣”ザフィーラ。
 障壁を展開し、大量のスフィアから自分達を守る。
 豪雨の様なスフィアが止み、巻き起こった粉塵が晴れると、
 そこにいたのは、片腕に幾つかのスフィアの直撃を受けたザフィーラの姿。


  
  「ザフィーラ!!!」


  「気にするな……、この程度でどうにかなるほどやわじゃない」



 自分を庇って負傷したザフィーラを気遣う。 
 しかし、ザフィーラが言ったように見た目ほどたいしたことはないようだ。


 自分達を攻撃したクロノを、ヴィータは睨みつける。
 あれだけの攻撃を放っておいて、
 たいしたダメージを与えることが出来なかったことに少なからずショックの色を隠せないようだ。


 しかし、エイミィからの通信で更なる増援が来るとの連絡が……
 それは―――



  「なのは、フェイト―――――!!」



 驚きの声を発するクロノ。
 彼女達のデバイスはまだ修理中のはずでは。
 そう思いながらも、彼女達が身につけているモノを見て納得する。



  「レイジングハート!」


  「バルディッシュ!」


  「「セットアップ!!!」」



 二人の掛け声と共にバリアジャケットが展開されていく。
 しかし、二人のバリアジャケットは以前のものとは細部が異なっていた。
 それは、それぞれの相棒であるデバイスが選んだ、進化の証。 



  ―――――レイジングハート・エクセリオン


  ―――――バルディッシュ・アサルト

 

 ヴィータはなのは達のデバイスを見て、驚愕の声をあげる。
 それは自分達のデバイスにも搭載されているカートリッジシステム。
 その光景に、二人は驚きを隠せないでいる。



 
  ――――ドオォォォン!




 突如結界内に響いた轟音。
 音の発生源の方を向いてみれば、そこには“烈火の将”シグナム。


 なのは、フェイト、そして近づいてきたアルフ。
 それに対して、守護騎士の戦力はヴィータ、ザフィーラ、シグナム。
 数としては互角。 互いの間に緊張感が漂う。
 しかし、なのは達には気になることが―――


 
  「……今日はユウ君、来ないんですね」



 それはユウの不在。
 てっきり今回も顔を合わせることになると思っていた。
 どうしたのかと思い守護騎士達に尋ねるが、彼女達は険しい表情のまま黙っている。
 そのまま少しばかりの時が流れてが、やがて口を開き始めた。



  「……坂上をお前達と戦わせるつもりはない」


  「ぇ……」



 シグナムから語られた言葉に茫然としてしまうなのは達。
 相手の真意が理解できないでいるのだ。



  「お前等の相手など、俺達で十分だということだ」


  「あんたねぇ、なめるのも大概にしなよ!!」



 ザフィーラの物言いに感情を露わにするアルフ。
 しかし、ヴィータの様子がおかしいことに疑問を覚え、再び場に沈黙が降りる。



  「……絶対にお前等には会わせない」


  「な、なんで……」


  「あいつの……、ユウのあんな顔はもう見たくないんだよ!!!」



 顔をあげたヴィータは、激しい怒りと共になのは達を睨みつける。
 その瞳には涙が……


 ユウがかつて見せた、壊れてしまいそうな弱々しい姿。
 かつての仲間達を傷付けたことによる悲しみ、そして僅かばかりの後悔。
 それらがゴチャゴチャに混ざり合った複雑な、それでいて泣きそうな表情。
 あんなユウはもう見たくない。
 それが守護騎士達の共通の意見。


 普段の言動などで忘れてしまいそうになるが、彼は十歳の少年。
 そんな幼い存在が、あんなことをして平気でいられるはずがない。


 彼女等にとって、ユウはもはやただの居候ではなくなっていた。
 目的を同じくする同士、仲間。
 そして、かけがえのない家族。
 それが、この数カ月の家に芽生えた感情だった。
 しかし――――



  「それでも……、私達は引くわけにはいかないの!」


  「あなた達に、そしてユウに、私達の気持ちを伝えるために!」



 お互いの胸の内にある、譲れない想い。
 自分の気持ちを伝えるため、自分たちの意見を通すために必要な方法。
 それは相手に勝つこと。
 それしかないだろう。
 

 なのはとヴィータ。 フェイトとシグナム。 そしてアルフとザフィーラ。
 互いに相手を定める。 そして今、二度目の戦いが始まろうとしていた。



















  「不味いわね……」



 結界の外で戦況を見守っているシャマルの表情は険しい。
 前回の戦いでは、こちらの攻撃に相手がついていけない状況だったのだ。
 しかし、今回はまるで違う。


 なのははヴィータの“ラケーテンハンマー”を今度は正面から受けきり、
 新射撃魔法“アクセルシューター”をまるで自分の手足のように操り、
 ヴィータとグラーフアイゼンを圧倒していた。


 なのはやヴィータとは違い、クロスレンジで切り結ぶフェイトとシグナム。
 レヴァンティンの刃を、バルディッシュの強化されたフレームで受けきり、
 新近接形態“ハーケンフォーム”でシグナムに迫る。


 互いの実力は、はたから見ても互角。 
 更になのは達以外のも管理局員が控えており、状況はこちらが不利である。
 

 アルフと交戦中のザフィーラが撤退するよう提案するが、
 結界はシグナムとヴィータの攻撃でなければ破ることはできそうにない。
 シャマルでも破壊することは可能ではあるが、正直この手だけは使いたくないのである。 
 どうすべきかシャマルが迷っていると―――



  「――――ッ!?」


  「捜索しているロストロギアの所持、及び使用の疑いであなたを逮捕します」



 シャマルの背後からデバイスを突き付け、投降するように促すクロノ。
 なのは達が戦っている間、闇の書の所有者の探索を行っていたのだ。
 絶体絶命の状況に焦るシャマル。
 なにか手はないかと思っていると―――



  「ぐっ!!?」



 突如現れた仮面を被った男のよる奇襲で吹き飛ばされるクロノ。
 一応助けてはくれたみたいだが、正体不明の相手に警戒心を高めるシャマル。
 しかし、仮面の男は思いもよらぬ発言をする。



  「……使え」


  「ぇ……」


  「闇の書の力を使って結界を破壊しろ」


  「でもあれは――――!」



 シャマルが躊躇するのには理由がある。
 確かに闇の書に蓄積されている魔力を使えば、こんな結界など簡単に破れるだろう。
 しかしそれと同時に、今まで溜めてきたページが減ってしまうことを意味している。
 はやての命のリミットまではそんな時間はないのだ。 



  「使用して減ったページはまた増やせばいい。  仲間がやられてからでは遅かろう」


  「…………」



 シャマルは黙り込んでしまう。
 今自分達が捕まってしまえば全てが水の泡。
 それだけは絶対に避けなければならない。
 覚悟を決めたシャマルは闇の書を使用しようとするが―――



  「――――その必要はねぇよ」



 不意に聞こえた声に、その場にいた全員が上を向くと、そこにはユウの姿が―――



  「ユウ君……、どうしてあなたがここに」


  「ゆ、ユウか――――不味いっ!」



 ユウとの念話の回線は切ってあるのに、どうしてここいるのか困惑するシャマル。
 クロノはユウの登場によって状況が不利になることを恐れていた。



  「闇の書は使う必要はねぇよ、シャマル。 あれは俺がブッ壊す」



 仮面の男とクロノを警戒しながら結界と向き合い、抜刀。
 



  「――――蒼破追蓮!!」




 下から斬り上げるようにして青色の衝撃波を放ち、そこから更に同じ衝撃波を二つ放つ。
 計三つの衝撃波が結界に衝突するが、結界はビクともしない。
 


  「固ぇな……、なら!」



 時間を掛ければ確かに破壊できる。
 しかしそんな時間はないと判断したユウは“オーバーリミッツ”を発動。
 彼の体から青色のオーラが迸る。



  「ユウ君! その技は危険だから使っちゃ駄目だってあれほど――――」


  「シャマルはあいつの心配だけしてりゃいんだよ」


  「でもっ!!」


  「……俺は大丈夫だから」



 ユウの使う技“オーバーリミッツ”については守護騎士全員が聞いている。
 始めは隠していたが、みんなに問い詰められて、
 “オーバーリミッツ”の危険性をうっかり話してしまったのだ。


 みんなから使用を禁止するよう言われたが、そんなことはユウの知ったこっちゃない。
 シグナム達ははやてだけを心配していればいい。 
 戦いでリスクを負うのは当然のこと。
 ユウはそう考えているのだから―――



  「―――――絶氷の剣……」



 静かに紡がれていくユウの言葉と同時に、体から溢れだしたマナが冷気へと変換されていく。
 ユウが考えている方法。 
 それは以前、プレシアの障壁を破壊したのと同じ方法。
 結界を凍らせることによって脆くすることで破壊するというもの。
 しかし、今回の結界はプレシアのものよりも強固。
 ユウは前回以上の威力を要求されているのだ。



  「その身に刻めっ!!」



 刀から発する絶対零度の冷気が結界を凍らせていき、ユウはそのまま結界に向かって駆け出していく。
 彼の手に握られているのは、氷で覆われた巨大な刀。
 ユウの手が刀から発される冷気によって徐々に凍りついていく。
 だが、そんなことはお構いなしに、大上段に振りかぶった刀を振り下ろした。







  「――――――セルシウスキャリバアアアアアアアアアア!!!」







 渾身の力で振り下ろされた必殺の一撃によって、結界は粉々に砕け散った。
 茫然とそれを見守っていたシャマルはすぐに我に返るとシグナム達に念話で撤退するように指示を出す。



  『みんな、すぐに撤退を!』


  『シャマル、先程の攻撃はいったい……』



 予想していたものとは違う攻撃にザフィーラが困惑していたが、
 結界の中心に思わぬ人物がいることに驚愕してしまう。



  「ユウ! どうしてお前がここに――――」


  「そんなことは後だ! 急いで逃げるぞ!!」



 ユウの言葉を聞き、撤退が優先だと判断したのか転移魔法を展開。
 ユウ自身もクロに指示を出し、転移を始めようとするが―――


 
  「「ユウ(君)!!」」



 なのはとフェイトの声を聞き、一旦転移魔法を解除する。
 一方は必死の表情、もう一方は無表情で見つめ合っている。



  「なんでヴィータちゃん達を手伝ってるの!」


  「闇の書は危険なものだってことがわかって――――ッ!?」



 突然言葉を止め、二人の視線がユウの手に集中する。
 彼の手は、先程の冷気によって紫色に変色し、腫れ上がっていたのだ。



  「なんで……そこまでして……」


  「……絶対に失いたくないもんがあるんだよ。 そのためになら、俺はなんだってやってやる」



 ユウの眼に浮かぶのは以前とは違い、絶対に揺るがない覚悟が宿っていた。
 そのままユウはなのはとフェイトの制止の声を無視して転移魔法を発動させた。









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