小説『魔法少女リリカルなのは 〜俺にできること〜』
作者:ASTERU()

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39. 懐かしき夢









  ――――二時間後 



 管理局に追跡されないように何度も転移を繰り返し、八神家の玄関までたどり着いた。
 手については治癒魔法を何度もかけ、一応は腫れも引いたみたいだし、なんとかなると判断。 



  「……魔法ってホント便利だな」


  『普通、無理。 ユウの魔法、特別』



 ユウ自身の魔法の凄さに改めて感心していると、ヤミから突っ込みが入ってくる。
 恐らくだが、マナを使っている分、魔力より回復力が優れているのだろう。
 そのまま扉をくぐる。
 


  「ただいま〜……、どうしたんだお前等?」



 リビングにいるシグナム達は下を向きながら俯いたまま黙っている。
 ユウが帰ってきたことに気付いたのか、みんなの視線がこちらを向く。
 だが、その視線に含まれている感情に戸惑ってしまう。
 それは申し訳なさ、そしてそれ以上の怒りの感情。



  「……坂上、どうしてあそこに来た」


  「なんでって、お前等が危なかったから―――」


  「じゃあなんで“オーバーリミッツ”を使ったりなんかしたんだよ!
  あんなことしなくたって時間を掛ければあんな結界なんて破れただろ!!」



 シグナムが険しい声で呟き、それに続けるようにしてヴィータがユウの行動を責めた。
 始めは突然の剣幕に驚いていたが、徐々に冷静になっていく。



  「……確かに時間をかけりゃ可能だっただろうな。
  でもな、なのは達は新型デバイスに慣れていない状態であれだけ善戦出来てたんだ。
  時間が経てば経つほど不利になるのはお前等だぞ」


  「あんなヤツにはぜってぇ負けねーから! だからユウはこれ以上無茶すんなよ!!」



 ユウの言っていることは正しい。
 それは頭で分かっている。 
 しかしそれでも、ヴィータは喰ってかかろうとする。 



  「……シャマルにも言ったが、お前等ははやての心配だけしてりゃいんだよ。
  俺がいくら無茶しようがお前等には関係ないだろ。 はやてが助かるまでもてばいいんだよ」



 しかしユウは、皆の心配に対して突き放すような態度をとっていた。
 そのまま自室に向かおうとするが、その前にシグナム達が立ちはだかる。



  「……まだなんか用か?」


  「ユウ君、お願いだからこれ以上無茶なことはしないで。
  あなたの体は自分で考えて以上にダメージを負っているのよ」


  「…………」



 必死になって懇願するシャマル。
 だが今のユウには届かないのか皆を押しのけて先に進もうとする。
 しかし―――



  「おいユウッ! 話はまだ――――」


  「ッ!!」



 ヴィータがユウの体に触れた瞬間、ユウは顔を歪め、その場に蹲ってしまう。
 彼は今まで平静を装っていたが、既に“オーバーリミッツ”による反動で、体は悲鳴を上げていたのだ。


 突然の事態に焦る守護騎士達。
 ヴィータは自分のせいだと涙目になり、シャマルは急いでユウの体を診断する。
 しかし、シグナムとザフィーラは冷静にユウを見つめていた。 
 やがて人型に変化したザフィーラがユウの背後に近づき―――



  ――――ガッ



 首筋に向けて手刀を一閃。
 ユウはそのまま前のめりになって倒れ、倒れこむユウをシグナムが抱きかかえるようにして支えた。



  「ザフィーラ!! あなたなんてことを―――」


  「……こいつはこうでもしないと止まらん」 
 

  「でも―――!」


  「……我々の覚悟が足りなかったのかも知れない。 坂上の覚悟は確かに本物だ。
  だが、坂上が傷付けば我々も、そして何よりも主はやてが悲しんでしまう」



 気絶したユウを見つめながら静かに告げるシグナムとザフィーラ。
 ユウは自分がどれだけ八神家にとって、そしてはやてにとって大切な存在か理解していない。 
 いや、はやてを助けることで頭がいっぱいになっているのだろう。 


 誰かが死ぬことへの異常なまでの拒絶。
 そして、助けるためなら自分のことを平気でないがしろにしてしまうというユウ自身の性質。
 一体ユウの何がそうさせるのか、そう思わずにはいられなかったのだった。



















 辺り一面に広がるのは、光が一切通らない闇。
 そこは以前、プレシアとの戦いで気絶した時に訪れた空間。
 ユウの意識は、その空間をフワフワと漂っていた。



  (……またここかよ)



 ぼやけた意識の中で、ユウはそう考えてしまう。
 あの時にも感じたが、この闇はどうも心地よく感じてしまう。
 それが何故かはわからない。
 そして再び眠りにつこうとするが――――






  ―――ユウはたまには私のお願いを聞いてくれてもいいと思うんです!






 以前聞こえた断片的に聞こえたものとは違い、今度はハッキリと聞こえてくる声。
 思いださなければ、会わなければと思っている女性の声。




  ―――うぅぅ〜、ユウは意地悪です。 どうしてそんなことするんですか!


  ―――美味しい! これすっごく美味しいです!!
  



 声を聞くたびに、懐かしくて、嬉しくて、心が幸せで満ちていって――――




  ―――そんなに眉間に皺を寄せて、幸せが逃げちゃいますよ。


  ―――そんな顔してほしくない、ユウには笑ってほしいんです。




 切なくなるような、落ち着かない気持ちになってきて――――




  ―――私、■■■って言います。 アナタの名前は……――――



















  「――――……朝……か」



 窓から差し込む光で目が覚めた。
 見慣れた天井を見る限り、どうやらここは俺の部屋で間違いないようだ。
 ふと、布団の中から暖かさを感じたので布団をめくってみると、
 そこには静かに寝息を立てているヴィータ。
 周りを見渡してみれば、俺が寝てるベットの端にうつ伏せになる様にしてシャマルが、
 そしてドアに寄りかかる様にしてシグナムが眠っていた。
 


  「起きたようだな」


  「……ザフィーラ」



 ベッドの影から顔を出したのは狼の姿をとっているザフィーラ。 
 なんでこいつ等が俺の部屋にいるんだ。 
 しばらく考えを巡らすが、いくら考えても答えが見つからない。
 とりあえずザフィーラに聞こうと顔を向けると、こちらを見ながら驚いている。



  「……泣いているのか?」


  「え……」  

  

 咄嗟に眼を手で触れてみると、そこには確かに涙が。 
 しかも止まるどころかドンドン溢れてくる。
 


  「なんで……なんで、こんな……」


  「…………」



 涙を止めようとするが、一向に止まる気配がない。
 でも、別に悲しいわけではない。
 この気持ちは―――



  「なんか……さ、スッゲェ幸せな夢見れた気がする。 中身は思い出せねぇけど」


  「そうか……」



 ザフィーラが呟くなり、再び部屋の中に沈黙で満たされる。
 それからしばらくて、ようやく涙が治まってくると、ザフィーラが口を開く。



  「……ヴィータとシャマルには感謝しておけよ。 ほぼ徹夜でお前の看病をしていたのだからな」


  「あ〜……、なんか色々思い出してきた。 ……あの時は悪かった」



 素直に頭を下げると、ザフィーラは再び驚いたような表情になったが気にするなと言うと、
 そのまま眠りについたようだ。



  「……朝メシでも作るか。 とびっきり美味いヤツをな」



 みんなを起こさないように静かにベットから起き上がり、
 そのまま足音を殺しながら台所へと進んでいった。









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