―――――――――前書き―――――――――
番外編です。舞台は聖フランチェスカ学園、とあるキャラをヒロインに据えた物語です。
キャラの名前ですが、真名を名前に、苗字は姓、名、字からもじって日本人っぽいものにしています。
それではどうぞ!
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番外編〜クリスマスの約束〜
「くっそー!」
「だいじょうぶ?」
心配そうに女の子が少年の顔を覗く。
「ごめんね、わたしのせいで・・」
「・・グスッ」
「だいじょうぶ? どこかいたいの?」
「いたいからないてるんじゃない。くやしいんだ。ぼくがもっとつよければまもれたのに!」
「すばるくん・・」
「まってて。ぼく、つよくなる! もっともっとつよくなって――ちゃんをまもってあげる!」
「すばるくん・・うん、ありがとう。・・だいすき、すばるくん!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
「――なさい!」
「う・・ん」
う〜ん、眠い・・。
「この・・――きろ!」
うるさいな・・。
「起きろって、言ってるでしょ!」
グシャ!!!
「がはっ!」
顔に激痛がぁ!
「っ〜〜ってぇな・・」
少しずつ覚醒していく。
「目が覚めたかしら?」
「・・毎度毎度言ってるけどよ、もっと優しく起こせないのかよ―――」
「――桂花」
自己紹介だ。俺は御剣昴。聖フランチェスカ学園に通う2年生だ。そしてもう1人。今正に俺の顔面を足蹴にしてるのが文月桂花。幼い頃からの付き合いで世間一般な言い方で言う所の幼なじみだ。
幼なじみって言葉を聞くと皆甘々な関係を想像するだろうがこいつにはそれは当てはまらない。顔合わせりゃ罵詈雑言浴びせられるし、殴る蹴るなんざ日常茶飯事だからな。
「ふん! わざわざ起こしに来ただけでもありがたいと思いなさい。ホントは男の部屋に来るなんて考えるだけでもおぞましいんだから」
「じゃあ来なきゃ良いだろ・・。俺は別に1人でも・・」
「そう言っていつも遅刻ギリギリで教室に駆け込んで来るのは誰かしら? 私はあんたのお母様に頼まれたから仕方なく起こしに来てるだけよ。でなきゃ誰があんたなんか・・。ホント、お礼の1つでも欲しいわね」
「ハイハイ。それはそれはご親切にありがとうございます。ありがとうついでにそんな所に突っ立ってると見えるぞ?」
桂花は今俺のベッドの上に乗り、俺の顔を足蹴にしている。つまりベッドに寝ている俺からは下着が丸見えなわけで。今も桂花の薄いピンクの下着がスカートの裾から覗いている。
「っ//」
桂花が慌ててスカートを押さえ、下着を隠す。
「この・・」
桂花が足を振り上げ、
「痴漢! 変態! 全身精液男!」
グシャ!!!
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
「ものには限度があるだろ・・・」
俺はズキズキ痛む顔を擦りながら文句を言った。
「ふん、自業自得よ!」
その後、激痛に耐えながら身仕度を済ませ、現在学校へと登校している。
「起こしに来た奴が眠らせてどうするんだよ」
「いっそのこと一生寝てれば良いのに」
「はぁ・・」
冗談の通じない奴だ。
桂花は基本的に毎日起こしに来てくれるけどとにかく起こし方が荒い。こうやって足蹴にするのはいつもの事で、酷い時はバケツに水を目一杯入れてぶっかけられた事もあった。それに比べりゃ今日のはまだマシな方だが・・。
「あんた、今日も部活なの?」
「ん? まぁな」
俺は剣道部に所属している。俺はこの学校にはスポーツ特待生で入学したので、部活参加は必須だ。最も、そんな縛りが無くとも参加するが・・。
「今日は終業式だって言うのにご苦労な事ね。・・・あ、明日は?」
「明日? そうだな・・」
明日は剣道部は休み何だよな。今の所特に予定はない。自主練でもしようかなって考えていた。
「も、もしも暇なら私と・・・」
桂花が俺に何か伝えようとしたその時・・。
「おはようさん、昴」
乱入者が現れた。
「ん? おす、及川」
こいつは同じクラスで入学してからの悪友の及川佑だ。基本的にこの学校は男の数が圧倒的に少ない。元々は女子校で俺達の代から共学になったからだ。数が少ないからおのずと連帯感が生まれる。
「なんや、今日も夫婦仲良く登校か?」
「「誰が夫婦だ(よ)!」」
「息ピッタリやないか」
「「ぐっ!」」
返す言葉がない。
「今日で学校も終いや。そんで明日は待ちに待ったクリスマスや。今から楽しみやわ〜」
「どうせ相手いないだろ、お前」
「アホ抜かせ! 時間はまだまだある! 絶対相手見つけるで!」
「ハイハイ。お前に幸あれ」
親指隠してお祈り。
「親指隠すな! ・・ほんで、昴はどうすんの?」
「俺か? 俺は・・特に予定ないな」
「なんや、昴も独り身かいな」
「一緒にするな」
「それにしてもつまらんのう。昴ならその気になれば相手なんかよりどりみどりやん? 全く俺がどんだけ昴のラブレター破り捨てたか・・」
「ゲスかお前は。別に、付き合う気にならないだけだ」
「ホンマか〜? 昴前に言うてたやん。背が高くてスタイルが良い女が好みやて」
「そりゃ女はスタイル良いのに限るだろ」
チラッと桂花を見る。
貧乳、小柄。
「現実は無情だな・・」
俺は自嘲気味に呟いた。
「・・#」
桂花はワナワナと身体を震わせる。
「死ね!」
バキッ!
おもいっきり足の先をふんずけやがった。
「痛ぁ!」
あまりの激痛にその場をピョンピョン跳び跳ねる。
「ふん!」
桂花はプンスカしながら先に校舎へと歩いていった。
「相変わらず仲がええな」
「お前は一度眼科に行け!」
「昴、はよせんと遅刻するでー」
及川は俺をほっぽって先に行く。
「ちょっ、待てって!」
俺は痛む足を引きずりながら後を追う。
「背が高くてスタイルが良い女の子か」
正直、そんなのどうでも良いけどな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
やがて学校に着き、自分のクラスへと向かう。
「ふん!」
桂花は俺を見るなりそっぽを向く。
「はぁ・・」
まだ怒ってんのか・・。
「おはようございます、師匠。」
「おはよう、凪。師匠も敬語も止めろって言っただろ?」
「うっ・・、すみま、すまん、昴」
俺に挨拶をしてきたのは進藤凪。同じクラスの同級生だ。
「相変わらずだな、凪は。俺はもう空手部じゃないんだぜ?」
俺は入学当初、剣道部と空手部を掛け持ちをしていた。中学時代に剣道空手共に無敗で全国を制した事があり、その実績のおかげでこの高校に特待生として入学出来たわけだ。凪とは空手部で出会い、そこで実力を披露したら凪に慕われ、同級生ながら師匠と呼ばれるようになった。今は剣道一本だ。理由は高校入って最初大会の全国個人決勝。俺はその時の対戦相手の不破刃という男の圧倒的な強さに敗北した。それが悔しくて雪辱を果たす為に剣道一本に絞った。凪にはかなり惜しまれたが。
「凪も部長なんだからいい加減俺離れしろって」
「むぅ・・。昴の方が部長として相応しいと思うのだが・・」
「悪いな。俺は不破刃に勝つまでは空手部には戻らない。悪いな」
「そう言われたらこれ以上は何も言えないな。次の大会で雪辱が果たせるように応援するぞ」
「ああ。次こそは勝つよ」
敗北した次の大会は善戦するも敗北。さらに次の大会は時間いっぱい戦い、結果判定負けを喫した。しかし確実に互角に戦える所まで来ているので、次こそは絶対に勝つ!
「と、ところで、話は変わるが、明日は暇か?」
「明日か? ・・特に予定はないかな?」
「そうか! 良ければ明日私と・・」
凪が俺に何か伝えようとしていると・・。
「あ、あなた達!」
突如桂花が話に割り込む。
「ん? どうした桂花?」
「あ、その・・えっと・・、ほ、ほら、もう先生来てるわよ! 早く席に着きなさいよ!」
ふと見ると、既に教壇には俺達のクラスの担任である黄瀬紫苑先生が立っていた。
「ほら、あなた達、早く席に着かないとHRが始められないわ」
「ととっ、悪い凪。話は後でな」
「あ・・むぅ・・」
俺達は席に着いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
HRが終わり、その後すぐに終業式が行われ、またHRを行い、その日は学校は終了した。時刻はお昼。昼食を取りたいがあいにく、朝があんな感じだったため、当然弁当を用意する時間はなかった。
「購買に行くか・・」
席を立とうとすると・・。
「ん・・」
「桂花?」
ふと見ると、桂花が俺に弁当箱を差し出した。
「用意してくれてたのか?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ。昨日の夕食と朝の残飯よ。捨てるのがもったいないから詰めてきただけよ!」
「そうなのか? 何にせよ助かったよ。ありがとう」
「ふ、ふん//」
桂花から弁当箱を受け取った。俺が弁当箱を開けようとすると・・。
「ちょっといいかしら?」
「?」
「あ、紫苑先生」
「昴君今日日直だったわよね? 頼みたい事があるんだけど良いかしら?」
「頼みたい事ですか?」
「大した用ではないの。図書室から資料を運ぶのだけど、量が少し多いから手伝ってほしいのよ。そんなに時間は取らせないわ」
なるほど。
「良いですよ。それぐらいなら」
「そう言ってもらえると助かるわ。では行きましょう」
俺は席を立つ。図書室に向かうとすると・・。
「えっ!?」
紫苑先生が俺の腕に自分の腕を絡ませた。
「あら、どうかしたのかしら?」
「いや、その、当たって・・」
俺がドキマギしながら言うと、紫苑先生は絡める腕の力を強め、さらに俺の耳に顔を近づけ、
「当ててるのよ・・(ボソッ)」
「っ//」
ボソッと耳元で告げた。甘い吐息が耳に当たる。
「せ、先生!」
唐突に桂花が叫ぶ。その声に反応して紫苑先生は俺から身体を離す。
「か、仮にも教師が、生徒を、・・誘惑みたいなことをするのは・・その・・」
桂花は言葉を詰まらせながら紫苑先生に注意を促す。
「うふふ。心配しないで桂花ちゃん。心配しなくても昴君を取ったりはしないわ」
「!? べ、別にそんな事・・」
「ふふっ、可愛いわね。それでは昴君、行きましょう」
「あ、はい」
良く分からんがとにかく助かったな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
「ありがとう。助かったわ」
「いえ、お構い無く。それでは。」
俺は紫苑先生の手伝いを終えて教室へと向かった。その道中、
「ん? あれは・・」
前方に見知った顔が。辺りをキョロキョロしている。何か探しているのか?
「こんにちは」
「ん? ああ、昴か」
「どうかしましたか? 冥琳先輩」
彼女は周東冥琳先輩。1個上の先輩で入学以来常に学年1位を取り続けている秀才だ。
「何、人探しだ」
「人探し? ・・ああ、生徒会長さんね」
「正確には元、だがな」
「見かけたら捕まえときますよ」
「頼む。首輪を付けてでも捕まえておいてくれ」
冥琳先輩はそう告げると再び探しに行った。
「・・・行きましたよ」
「あは、ありがと、昴♪」
「今度は何から逃げ出したんですか? 雪蓮先輩」
彼女は我孫子雪蓮先輩。1個上の先輩で、冥琳先輩の幼なじみであり、ついでに剣道部の部長でもある。
「生徒会業務の引き継ぎ。だって〜、面倒なんだもん」
「全く、雪蓮先輩は相変わらずですね」
この人、カリスマ性はあるし、剣道の腕前も全国で5本の指に入る強者なんだけど、生徒会業務を冥琳先輩に押し付けて良く逃げ出したりする。俺も良く部長業務を押し付けられたし。授業もサボるか寝てるかの2択だ。それなのに何故か学年の成績は常に20位以内にいる。何でもテスト前日に『これ出そう♪』って言ってヤマ張って一夜漬けで覚えたところがほとんど出るらしい。
「いや、生徒会の引き継ぎ業務はしっかりやりましょうよ。蓮華が困りますよ?」
蓮華とは雪蓮先輩の妹で、隣のクラスのクラス委員でもある。他にも初等部に小蓮という妹がいる。
「ぶー。だってさ、あたしの後の生徒会長はてっきり昴か蓮華がなるものだって思ってたんだもん」
「いや生徒会長になったでしょうが」
「・・他にも2人いるじゃない」
「まあそうですけど・・」
今年の会長選挙は立候補者が3人で、内1人が蓮華だ。選挙当日、開票をしたらその3人が見事同数で、これでは決選投票も出来ないので、結果、3人の生徒会長。いわゆるトロイカ方式を取る事になった。3人供個性的で考え方も違うがそれぞれがそれぞれ足りないものを持っているので、仲良くさえすれば上手く機能するだろう。
「でも、昴が出ればきっと生徒会長になれたわよ。何で辞退したの?」
「柄じゃないですし、剣道の鍛練の時間を取られたくなかったんですよ。あいつに勝つにはとにかく時間が惜しいですし」
「ふーん。ま、その気持ちはあたしも良く分かるわね」
雪蓮先輩は目を瞑って同調した。雪蓮先輩は普段は先に述べたようにいい加減だが、部活だけは欠かさず出る。理由は、剣道の男子の部に不破刃という化け物がいるなら女子の部にも化け物がいる。名前は確か・・布袋恋だっけな? 俺と同い年で、その強さは飛び抜けており、未だに公式戦無敗らしい。雪蓮先輩は過去に2度試合をして2度供敗れている。年明けに雪蓮先輩にとって最後の公式戦が控えており、それが最後の試合になる。
「お互い次こそは勝利したいわね。・・ところで、今日は部活に出る?」
「はい。もちろんです」
「やった♪ 今日も昴と試合できるわ♪」
雪蓮先輩が俺に抱きつく。
うぅ〜、胸が//
「そうですね」
俺はそう言って同じく抱きしめる。
「あら♪ 今日は積極的ね?」
「約束ですからね」
「約束?」
「雪蓮先輩を見つけたら捕まえといてくれって」
雪蓮先輩が振り返るとそこには鬼のような形相を冥琳先輩の姿が。
「げっ! 冥琳・・」
「しぇ〜れ〜ん、やっと見つけたわ」
「あはっ、冥琳。そんな怖い顔しないで。すぐに行くつもり・・痛い痛い!」
問答無用で冥琳先輩が雪蓮先輩の耳を引っ張り、連行していく。
「ちょっと、冥琳! 痛い、痛いってば! そんなにしなくても行くから! 昴からも何か言ってよ!」
「ま、腹をくくりましょう。雪蓮先輩」
「礼を言うぞ昴。では行くぞ雪蓮」
冥琳先輩は雪蓮先輩を引きずりながら生徒会室へと連行していく。
「もう〜! 昴の薄情もの〜!」
「自業自得です」
俺は2人を見送った後再び自分の教室へと向かった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
やがて空腹を感じながら歩き、教室へ入ろうとすると、1人の女の子が声を掛けた。
「あら、昴じゃない」
「よう、華琳」
彼女は曹馬華琳。別のクラスの同級生で先程が説明した生徒会長の1人だ。
「貴様! 華琳様に馴れ馴れしいぞ!」
「姉者。我らは同級生だ」
そして華琳に付き従うこの2人が夏護春蘭、秋蘭の双子姉妹だ。
まず曹馬華琳だが、彼女は世界でも有数の大企業、曹馬グループの会長の孫娘で、言うなればお嬢様だ。しかもその名に恥じない人物で、テストの成績は常に上位で、それだけでけではなく、運動神経も良く、挙げ句の果てには料理の腕も一級品という、正にスーパーお嬢様だ。彼女自身の実力に裏打ちされた尊大な態度や行動力により、学内の人気も高い。
次に夏護姉妹、まずは春蘭から。こいつも同級生で華琳のボディーガードでもある。同じ剣道部に所属しており、雪蓮先輩と互角に戦える部内の数少ない1人だ。一度剣道部でコテンパンにしたら目の敵にされてしまった。こいつは実力はあるが挑発するとすぐに頭に血を上らせるっていう弱点があるので、今のところ無敗だ。
次に秋蘭。彼女も同じく同級生でボディーガード、春蘭の双子の姉妹だ。姉とは対照的に落ち着いた正確でクールだ。彼女は弓道部のエースで公式戦で中学生の時から的を一矢も外したことはないという公式記録を持つ人物だ。他にもライフルによる狙撃や拳銃の腕も一級品らしい。
本来なら俺みたいな一般人なんかとは関わりのない人物なのだが、出会ったきっかけは、華琳がたまたま夏護姉妹がいない時を狙われ、誘拐されかけた時にたまたま俺がその場に出くわし、助けた事がきっかけだ。後で分かった事だがこの誘拐劇は曹馬グループのライバル企業である袁藤グループの差し金だったらしく、この事が明るみになり、袁藤グループは失脚したらしいが。以上が華琳との出会いだ。
「元気そうね」
「華琳こそ。生徒会業務の引き継ぎは終わったのか?」
「前生徒会長がなかなか来ないから帰ってきたわ。元々頭には既に入ってるから不要だしね。我孫子と劉崎がいれば充分でしょ」
「なるほど」
「ところで、話は変わるけど、昴。あなたは来年は3年生。進路は決めたのかしら?」
「進路か。・・まだ特に決めてないな」
いろいろとやりたい事はあるがまだ1つに絞っていない。
「そう。ならお祖父様のグループの企業に来る? あなたは成績も要領も良いし、機転も利く。入社する資格は充分よ?」
「うーん・・」
曹馬グループの採用する人材は極めて変わっており、一流大学の卒業生でも無能なら落ち、逆に有能なら中卒でも採用する。企業必要な人材だけを採用する。故に大企業なのだろう。
「ならいっそのこと私のボディーガード兼秘書でも良いわよ?」
「か、華琳様! ボディーガードも秘書も我々だけで充分です! こんな男など・・」
「おや、姉者は昴の事を骨のある奴だと言っていたではないか」
「しゅ、秋蘭、言うな〜//」
「?」
なんだ?
「明日、お祖父様やお父様が帰ってくるの。良かったら話を聞きに来てはどう? 2人供会いたがっていたわ」
「うーん」
俺は一度華琳を助けた礼に華琳の家に招待されているんだが、常識はずれのでかい家だった。門から屋敷までえらい距離あるし、屋敷内はメイド隊が盛大にお出迎えをする。正直住む世界が違う。そういえばあの時お世話してくれた月や詠は元気かな。
「お祖父様の企業はいずれ私が継ぐことになるわ。あなたなら私の良い右腕になると思うのだけど? ・・いっそのことあなたに嫁いであなたが企業を継いでも・・(ボソッ)」
「ん?最後の方良く聞こえなかったんだが」
「な、何でもないわ// 明日、暇なら私の家に・・」
「ちょっと、昴! いつまで私を待たせる気なの! いい加減・・あ、華琳様!」
突如桂花が乱入する。華琳様・・・そういや桂花は華琳信者の1人だったな。華琳は学内でも人気は高い。ファンクラブが出来るくらいに高い。会員番号1番にして会長が確か桂花だったな。
「・・桂花。私の話を邪魔をするなんていい度胸ね。これはお仕置きが必要かしら?」
「ひう! か、華琳様〜」
「くそ〜、上手い事持っていきおって!」
「うるさい脳筋!」
「何だと!」
桂花と春蘭は相変わらず仲が悪いな。
「まあ良いわ。話はまた後で。桂花。ついていらっしゃい」
「は、はい♪」
嬉しそうだな。
「昴、今日は部活に出るのだろう?ならば私と勝負しろ!」
「姉者は今日は追試だ」
「そんなものはどうでも良い!」
良くはないだろ。っていうかこいつまた赤点取ったのか。
「春蘭。あなたまた赤点を取ったの?」
「!? それは・・」
「どうやらあなたにもお仕置きが必要みたいね。良いわ。あなたも一緒に来なさい」
「は、はい♪」
嬉しそうだな、おい。
「では昴。またね」
「ああ。またな」
華琳達は桂花を連れて何処かへ行った。
「さてと、飯にするか」
俺は机に乗っかっていた弁当をいただいた。うん、なかなか美味いな。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
ジャー!!!
「・・んぐっ、んぐっ・・・ふぅ。」
昼食後、俺は部活に向かった。準備運動の後、素振りをしていると、雪蓮先輩がやって来て(結局逃げてきた)10本勝負をした。結果は7勝3敗。その後、追試を終えた春蘭とも10本勝負をした。結果は全勝。良い鍛練にはなったけどめちゃめちゃ疲れた。今は休憩中だ。俺は剣道場の外の水道で顔を洗っている。
「えぇっと」
持ってきたタオルを手探りで探していると、
「はい」
「ん? ありがとう」
タオルを受け取り、顔を拭う。拭い終わって目を開けると・・。
「何だ、桂花か」
「何よ、悪い?」
「別に、お仕置きは終わったのか?」
「あ、あんたには関係ないでしょ//」
「それもそうだな。・・何か用か?」
「用と言うか・・」
「?」
何故か桂花はもじもじしている。
「トイレか?」
「そんなわけないでしょ! この変態!」
「冗談だよ。・・何か言いたい事があるんだろ?」
「どうしてよ・・」
「何年一緒にいると思ってるんだ? それくらい分かるよ」
「一緒・・・。ふふっ」
今少し笑ったか?
「あんた、明日の予定は?」
「明日は部活もないから特に予定もないかな」
「そ、そう。・・だったら私と・・」
桂花が何かを告げようとしたその時・・。
「す〜ばる♪」
「うお! 雪蓮先輩?」
「っ!?」
雪蓮先輩が後ろから抱きついてきた。
「春蘭と10本勝負してたんじゃないんですか?」
「もう終わったわ。5対5の引き分けだったわ。昴よく春蘭相手に全勝したわね」
「あいつ短気ですからね」
「ねえ昴。明日暇?」
「まあ、部活ないですから暇ですね」
「だったら私と街に行かない♪」
「!?」
「2人でですか?」
「そうよ。それで、夜は私の家でパーティーするから一緒に盛り上がりましょう。蓮華やシャオもいるし、他にもたくさん来るわよ♪」
「へぇー」
それは楽しそうだな。俺はどうするか考えていると・・。
「桂花?」
ふと見ると、桂花が何処かへと行こうとしている。
「帰る」
「何か俺に用があったんじゃないのか?」
「もう・・いいわよ」
「どうしたんだよ?」
「精々我孫子先輩と楽しんでくれば?」
そう言い残して桂花は走り去った。
「何だあいつ?」
「・・・ふーん。」
「どうかしましたか?」
「何でもないわ。それで、どうする?」
「・・・すみません、せっかくですが、遠慮しておきます」
「そう、残念ね。・・いいわ」
雪蓮先輩は再び剣道場に戻っていった。
「・・そういや、明日はイブだったな」
今日は12月23日だからな。
『来年は絶対に行くんだからね』
「!? ・・何だ今の?」
今何か頭に・・・駄目だ思い出せない。
俺は思い出す事を止め、剣道場に戻った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
やがて部活も終わり、街に晩御飯の買い物に行くことにした。
「さてと、今日は何にするかな・・」
献立を考えていると・・。
「兄ちゃん!」
「兄様!」
「おっ、季衣に琉流か」
正面から近くの小学校に通っている季衣に琉流がやって来た。
「お買い物ですか?」
「ああ。晩御飯の買い物だ」
「そうでしたか。」
「ねえ兄ちゃん。僕達これから街の中央にあるクリスマスツリー見に行くんだ。兄ちゃんも一緒に行かない?」
「ツリー・・・ああ。あれか」
毎年飾られるあれか。
「季衣。兄様も忙しいだろうから・・」
「えぇー、兄ちゃんも一緒に行こうよー」
「ツリーか。・・・ツリー・・」
あれ、今何か・・。
「兄ちゃん?」
「兄様?」
「ああいや、悪いな。俺、この後用事があるんだ」
「そうなんだ。残念だなぁ」
「季衣。仕方ないよ。すみません。引き止めてしまって」
「何、気にするな」
「じゃあ僕達行くね」
「そうか」
「それでは失礼します。兄様」
2人は街の中央に走っていった。
「最近の子供は元気だな」
微笑ましい限りだ。それにしても・・。
「何か頭に引っ掛かってるんだよな」
部活の時から何か引っ掛かってる。何だろう。何か分からないけど、俺は早く思い出さなきゃいけない。それだけは何故か分かった。何だっけ・・・引っ掛かってるのはツリーと約束・・・!? そうだ、思い出した。だから桂花の様子がおかしかったのか。約束・・去年、俺と2人で交わした大切な約束があった。それなのに俺は思い出さずに雪蓮先輩の招待を受けようとして・・。
「そりゃ怒るよな・・」
でもギリギリで思い出す事ができた。だから許してくれよ。俺はすぐさま走り出した。
行き先は―――
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
桂花side
時は遡り、終業式の朝・・。
「♪〜♪」
私は今お弁当を作っている。私の分と、それと・・・あいつの分。
「ふん。ついでなんだからね♪」
菜箸で唐揚げをつつきながら1人呟く。
「明日はイブか。あいつ、約束覚えてるかな」
約束・・。去年のクリスマス。私は高熱を出してベッドの上で過ごす羽目になった。そのせいで街の中央広場のクリスマスツリーを見に行くことが出来なかった。それが悔しくて、身体に鞭を打ってでも行こうとしたら昴に止められた。私が意地でも行こうとしたら昴は言った。
『来年2人で見に行こうぜ』
だから私は我慢した。とても嬉しかったから。
「覚えてるかなあいつ」
覚えてなかったら承知しないんだから。
「出来た。・・・うん、味も悪くない」
私は次々に弁当箱に詰めていく。
「さてと、あの馬鹿を叩き起こしに行こうかしら」
私は鞄に弁当箱を入れて寮を出た。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
「スー・・・スー・・」
あいつの寮の部屋に入ると、昴はグースカ寝ていた。
「人が早起きしたってのにいい度胸ね」
全く、いいご身分ね。
「ほら、起きなさい!」
「う・・ん・・」
一向に起きようとしない。
「こいつは・・」
依然として昴はスヤスヤ寝ている。
「あ・・」
気が付くと私は昴の顔の間近にまで自分の顔を近づけていた。
「わざわざ起こしに来たのよ。これくらいはいいでしょ?」
私は両目を閉じて少しずつ顔を近づける。私と昴の距離が0になる瞬間、
「ううん・・雪蓮先輩・・」
ピキッ#
「楽しい夢を見てるようね。今すぐ現実に引き戻してやるわ。起きなさい!」
大きく体を揺する。
「う・・ん」
「この・・起きろ!」
一向に起きる気配はない。いい度胸ね。
「起きろって、言ってるでしょ!」
グシャ!!!
「がはっ!」
顔をおもいっきり踏みつけた。昴は激痛のあまりのたうちまわる。いい気味よ。その後もぶつくさ文句ばかり言ってくる。
「ハイハイ。それはそれはご親切にありがとうございます。ありがとうついでにそんなところに突っ立ってると見えるぞ?」
「っ//」
私は慌ててスカートの裾を押さえる。
「この・・」
私は足を振り上げ・・。
「変態! 痴漢! 全身精液男!」
私はおもいっきり足を振り下ろした。
グシャ!!!
「ギャハッ!」
昴は顔面を押さえてのたうちまわった。
ほんと、男って最低よ! 全く、こんな事ならもっと可愛い下着穿いて・・・って、何でこんな事思わなきゃ行けないのよ!
私はもう一度足を顔に振り下ろした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
その後、一緒に登校し、その道中、明日の事を切り出そうしたらあの馬鹿(及川)に邪魔されてしまった。私は先に教室へと向かい、待っていると、程なくして昴も来た。てっきりすぐに私の所に来ると思ったら、空手部の凪と話し込んでしまった。
もう・・イライラするわね!
内容が気になり、こっそり聞き耳を立てると。
「と、ところで、話は変わるが、明日は暇か?」
「っ!?」
何よ・・、明日の予定を聞いてどうするの?。
「明日か? ・・特に予定はないかな?」
昴が答える。
「そうか! ならば私と・・」
駄目・・。明日は私と行くんだから・・。だから駄目!
「あ、あなた達!」
咄嗟に話に割り込んでしまった。
「ん? どうした桂花?」
どうしよう・・。何か言わなきゃ。
「あ、その・・えっと・・、ほ、ほら、もう先生来てるわよ! 早く席に着きなさいよ!」
私はふと目に入った黄瀬先生が目に入り、それを利用してその場を誤魔化した。2人はそれを聞いて席に着いた。
良かった、何とか止めることが出来たわ。
私は秘かに安堵した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
その後、終業式が終わり、昴の方を見ると、何か考えている。きっと昼食をどうするか考えているんだわ。
私は鞄から弁当箱を取りだし・・。
「ん・・」
昴に渡した。
「桂花?」
昴がお弁当と私を見つめ、
「用意してくれてたのか?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ。昨日の夕食と朝の残飯よ。捨てるのがもったいないから詰めてきただけよ!」
「そうなのか?何にせよ助かったよ。ありがとう」
「ふ、ふん//」
ありがとう、か。昴のそうやって素直にお礼を言うところが・・。
「ちょっといいかしら?」
「?」
「あ、紫苑先生」
「昴君今日日直だったわよね? 頼みたいことがあるんだけど良いかしら?」
「頼みたいことですか?」
「大した用ではないの。図書室から資料を運ぶのだけど、量が少し多いから手伝ってほしいのよ。そんなに時間は取らせないわ」
「良いですよ。それぐらいなら」
ちょっと、それぐらい断りなさいよ!ホントお人好しなんだから。
昴が席を立って図書室に向かおうとした時、
「えっ!?」
なっ!?
紫苑先生が昴の腕に自分の腕を絡ませた。
「あら、どうかしたのかしら?」
「いや、その、当たって・・。」
激しく動揺する昴。それを見て紫苑先生は昴の耳元に顔を近づけ・・。
「・・(ボソッ)」
「っ//」
何かを囁き、昴さらに顔を赤らめた。
こんの年増ぁ!!
「せ、先生!」
私は席から立ち・・。
「か、仮にも教師が、生徒を、・・誘惑みたいなことをするのは・・その・・」
とにかく離させないと・・あぁもう! 上手く言葉に出来ないわ!
そんな私を見て、紫苑先生が昴から腕を離し、私の顔を見て笑みを浮かべ・・。
「うふふ、心配しないで桂花ちゃん。心配しなくても昴君を取ったりはしないわ」
「!? べ、別にそんな事・・」
動揺した私の様子を確認すると・・。
「ふふっ、可愛いわね。それでは昴君、行きましょう」
「あ、はい」
昴と紫苑先生は図書室へと向かっていった。
くっ! からかわれたわ!
私は苦虫を噛んだ顔で2人を見送った。
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※※※※
昴が行ってから30分は経った。遅いわ。図書室から資料を運ぶのにどれだけ時間かかってるのよ! やっぱりあの年増・・・様子を見に行こうかしら・・って、何で私がそんなこと! ・・・別にあいつが何処で何しようと関係ないわ!
それから5分程経つと、ようやく昴が帰って来た。
全く、どれだけ私を待たせるのよ・・・って、また話し込んでる! もういい加減我慢の限界だわ。
「ちょっと、昴! いつまで私を待たせる気なの! いい加減に・・あ、華琳様!」
どうして華琳様がここに!?
「・・桂花? 私の話の邪魔をするなんていい度胸ね。これはお仕置きが必要かしら?」
「ひう! か、華琳様〜」
華琳様の鋭い視線が私に・・あぁ、その視線が・・。
「まあ良いわ。話はまた後で。桂花。ついていらっしゃい」
「は、はい♪」
私は華琳様に連れられ、その後、時間を忘れる程の言葉責めとスパンキングを戴いたわ。はぁ〜、華琳様〜♪
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気が付けば、時刻は午後の4時を過ぎていて、日も落ちかけていた。
「もうこんな時間」
あいつ、まだ剣道場かしら?
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※※※※
剣道場の近くに行くと、昴が水道で顔を洗っていた。私は傍に置いてあったタオルを昴に渡した。
「はい」
「ん? ありがとう」
昴がタオルを受け取り、顔を拭う。
「何だ、桂花か」
「何よ、悪い?」
「別に、お仕置きは終わったのか?」
「あ、あんたには関係ないでしょ//」
何でそんなデリカシーのない事聞くのよこいつは!
「それもそうだな。・・何か用か?」
「用というか・・」
どうしよう、いざ誘おうとするとすごく恥ずかしい。っていうかあんたから誘いなさいよ!
「トイレか?」
「そんなわけないでしょ! この変態!」
こいつホント最低!
「冗談だよ。・・何か言いたい事があるんだろ?」
「どうしてよ・・」
「何年一緒にいると思ってるんだ? それぐらい分かるよ」
「一緒・・・。ふふっ」
ずっと一緒だったんだわ。こいつと。
「あんた、明日の予定は?」
「明日は部活もないから特に予定はないかな」
よし! こ、今度こそちゃんと言うわ。
「そ、そう・・。だったら私と・・」
一緒に過ごさない?そう続けようとしたその時・・。
「す〜ばる♪」
「うお! 雪蓮先輩?」
「っ!?」
また邪魔が入ったわ。どうして邪魔ばかり入るのよ! あの眼鏡ザルに空手馬鹿に年増。今度はこのサボり魔の会長・・。
「ねえ昴。明日暇?」
「まあ、部活ないですから暇ですね」
「だったら私と街に行かない♪」
「っ!?」
何、言ってるのよ。先に誘おうとしたのは私・・ううん、そもそも私はもう昔から約束してるのよ?
「そうよ、それで―――」
昴も早く断りなさいよ。・・・止めてよ。昴、どうしてそんな楽しみみたいな顔をするの? 私との約束、忘れちゃったの? あんたにとって私は・・・。
・・・もういい。
私は昴に背を向ける。
「桂花?」
「帰る。」
「俺に何か用があったんじゃないのか?」
「もう・・良いわよ」
あんた、最低よ・・。
「どうしたんだよ?」
「精々我孫子先輩と楽しんでくれば?」
私は走った。とにかく昴から離れたかったから。
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※※※※
どうやって戻ったのかは分からない。気が付けば私は自分の部屋にいた。
「・・・」
私は小さい頃から昴と一緒だった。家も近かった事もあって共に過ごす時間も多かった。昔、歳上の男の子からいじめられた事があった。それが理由で男なんて大嫌いになった。でも、そんないじめられてた私を助けてくれた昴だけは別だった。男が傍にいるだけで吐き気すらする私だけど、昴が傍にいるととても心地よくて、暖かかった。
「ひぐっ・・ひぐっ・・」
涙が溢れてくる。とても悲しくて、悔しくて。私は他人からはどんなくだらない些細な思い出でも覚えている。たとえくだらなくても私にとっては大切な思い出だから。でも昴にとっては・・。
「馬鹿・・」
1人浮かれて、はしゃいで、馬鹿みたい。
「馬鹿・・」
私は薄暗い部屋の中で囁き続けた。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「・・ん」
あれ・・私・・。そうか、寝ちゃったんだ。
もう辺りはすっかり日が暮れていた。
「・・・」
お腹空いたな。何か食べよう。食事でも作ろうとしたその時・・。
トントン。
「?」
唐突に部屋の戸が叩かれる―――
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※※※※
昴side
「はあ・・はあ・・」
あれから走り続け、桂花の元へ急いだ。
「スゥー・・ハァー・・」
一度深呼吸をし・・。
トントン。
桂花の部屋の戸を叩く。
「桂花、いるか?」
部屋からは何の反応はない。部屋に灯りは消えていたが、桂花は部屋にいる。俺はその確信だけはあった。
「桂花。そのままで良いから聞いてくれ。明日、聖フランチェスカの校門の前で待ってる」
俺はそれだけ告げて、桂花の部屋を後にした。
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※※※※
翌朝、身仕度をしている時に気付いた事なんだが・・。
「待ち合わせの時間。言ってねぇ」
大失態をした。携帯で伝えることは出来るが・・。
「それも格好悪いな」
しょうがない。来るまで待つか・・。
俺は身仕度が整うと、校門へと向かった。
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※※※※
時刻は午後1時。校門に来てから早3時間。
「寒い」
天気は曇り。薄い雲が空を覆っており、昼間とはいえ、かなり寒い。でも・・。
「待ってるって、言ったもんな」
待とう。来てくれる事を信じて。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
時刻は午後4時、まだ桂花の姿はない。日も暮れ始め、さらに気温も下がったきた。途中、缶コーヒーぐらい買いに行こうとも考えたけど、その間に来たら本末転倒だ。だからそのまま待ち続ける。来てくれる事を信じて。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
時刻は午後7時。もう日もすっかり暮れている。
「・・・」
気温はさらに下がり、身体はかなり冷たい。正直しんどい。死ぬかなって思い始めたその時・・。
「・・・遅刻だな」
「待ち合わせ時間を言わないあんたが悪いんでしょ。・・・、ギリギリまで忘れてた罰だと思いなさい」
「そう言われると返す言葉がないな」
「早く行きましょう? じっとしてると寒いわ」
「・・そうだな」
俺と桂花は歩き始めた。
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※※※※
「・・・」
「・・・」
無言で2人は歩いている。
「・・・」
「・・・悪かったな」
「何が?」
「あの時の約束を忘れてて」
「・・そんなのいらないわよ」
「でも・・」
「あー、もううるさいわね! 良いったら良いのよ! こうやって思い出してくれたんだから」
「・・そうか。ありがとな」
「ふん//」
そっぽを向く桂花。
「でも良かったの? あんた我孫子先輩と約束してたんじゃないの?」
「ああ。あれは断ったよ」
「・・良かったの?」
「いいさ。約束の方が大事だからな」
「・・馬鹿ね。せっかくの先輩からの、あんたの好みのタイプの女からの誘いなのに」
「何の話だ?」
好みのタイプ?
「あんた言ってたじゃない。自分の好みは背が高くてスタイルが良い女だって」
・・・ああ。
「あんなの嘘だよ」
「そうなの? じゃああんたの好みのタイプって何なのよ?」
「それは・・」
俺の好みのタイプは・・。
「秘密だ」
「何よそれ。」
「ほら、先に行くぞ」
「ちょっ、待ちなさいよ!」
俺はツカツカと早足で先を急いだ。
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※※※※
それから他愛のない話をしながら歩き、そして・・。
「わぁ!」
「へぇ・・」
目の前には大きなメタセコイアの木にに盛大なイルミネーションをあしらったクリスマスツリーの姿があった。
「綺麗・・」
うっとりとしながら桂花はクリスマスツリーを眺めている。
「・・・なあ桂花」
「何?」
桂花はツリーを見つめたまま答える。
「俺の好みのタイプを教えてやるよ」
「何よ突然」
怪訝そうに答える桂花。俺は構わず続ける。
「俺の好みのタイプは―――」
―――背も胸もちっちゃくて、気が強くてその上素直じゃない幼なじみの女の子だ。
「えっ?」
桂花が驚いた表情を浮かべる。
「それって・・」
「・・・」
俺は無言で桂花を見つめる。
「嘘・・。だってあんた、そんな態度一度も・・」
「そりゃ、見せないようにしてたからな」
「どうして?」
「・・言えなかったんだよ。もし、桂花が俺の事をただの幼なじみにしか見てなかったら。そうだったら今の関係がなくなっちまう。そう考えると言えなかった」
「昴・・」
「思えば、剣道も空手も、元々桂花を守りたかったから始めたんだよな。いつの間にか続ける理由は変わってたけど」
「・・・」
昔、桂花をいじめてた歳上の男と喧嘩して、コテンパンに負けた。それが悔しかったから始めた剣道と空手だ。
「桂花。聞いてほしい」
「何」
「俺は桂花が好きだ。今までもこれからも。だから、これからもずっと一緒にいてほしい」
俺は伝えた。ずっと言いたかった、ずっと言えなかった言葉を。
「・・・グスッ」
突如、桂花の瞳から涙が溢れた。
「遅い・・のよ」
「桂花・・」
「ずっと待ってた・・。昴がそう言ってくれるのを・・」
俺は桂花を抱きしめる。
「私も好き。昔、あなたに助けてもらってからずっと・・。私、昴の事大好き!」
「俺もだ、桂花!」
俺は桂花を抱きしめる力をさらに強める。
「・・・」
「・・・」
俺と桂花は見つめ合い、そして・・・。
唇を重ねた。
その直後、空からは雪が降り始め、2人とクリスマスツリーを彩っていった。
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※※※※
その後、しばらくツリーを眺めた後、買い物をし、街頭販売のケーキを買って俺の部屋に向かった。俺の部屋で買ってきたケーキやチキンを食べながら他愛のない話をし、そして今・・。
「・・・」
「・・・」
俺達はベッドに並んで座っている。桂花は俺の肩に頭を預け、俺は桂花の肩を抱いている。俺は桂花の顔を見つめ・・。
「ん・・」
桂花の口付けをする。
クチュ・・クチュ・・。
さっきみたいなソフトなキスではなく、互いが舌を求め合う激しいキスだ。
「ほぅ//」
顔を離す。2人の口と口に一本の銀糸が伝う。俺はそっと桂花をベッドに寝かせる。
「・・何年も待たせたんだから。その分私を愛しなさいよ」
「もちろん」
俺達は長年の重ならなかった想いを取り戻すように求め合い、そして・・・。
愛し合った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※
翌日は同じように2人で過ごした。
大晦日には2人で除夜の鐘を鳴らしに行き、元旦には初詣に行った。正直、俺達の間に変わった事はない。顔を合わせれば罵詈雑言浴びせられるし、時に殴る蹴るされる。ただ俺達の関係が幼なじみから恋人に変わっただけだ。何か変わった事は? って聞かれ、強いてあげるなら・・・。
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※※※※
「起きなさい!」
「う・・ん、もう少しだけ寝かせてくれ」
「何言ってるのよ! 遅刻するわよ!」
「いや、まだ大丈夫だって」
「ああもう! 起きなさい! でないと―――」
チュッ♪
「キスしちゃうわよ♪」
変わった事、それは朝俺を甘く、そして優しく起こしてくれるようになった事だ。
春が来て、夏が来て、また冬が来て。大学に入学して、卒業し、そして就職して・・。
きっと辛い事はたくさんある。大変な事だって。でも俺は思う。
「?」
桂花がいれば。桂花さえいてくれれば、それだけできっと楽しいって。
「桂花」
「何よ?」
「ずっと一緒にいような」
桂花は顔を赤らめて・・。
「はぁ!? 何言ってるよ!? そんなの―――」
当たり前でしょ♪
〜 fin 〜