小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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外史の守り手外伝〜帰還への道〜















正史と外史。

世界には2つの世界が存在する。そして、正史とはあらゆる世界の規定となる世界であり、外史は正史に住まう人間の想いや願いから生まれた世界である。正史から生まれた外史はとても脆く、壊れやすい世界である。外史が崩壊すると、他の外史にも影響し、ひいては正史にも影響が出てしまう。最悪、正史が崩壊し、世界そのものが崩壊する危険性がある。そのため、その外史を維持、管理する存在が居る。それを『管理者』という。しかし、その管理者とて万能ではない。外史内で著しく戦争等の争いが起き、人が多数居なくなってしまう等の問題が起きると、如何に管理者言えど外史を維持出来ない。その為、外史内で問題を解決する必要がある。外史内の問題を解決する存在を『守り手』と呼ばれる。

管理者と守り手。この2つの存在により外史が守られている。

ここに、1人の守り手が存在する。

名を御剣昴。

彼はとある外史に乱世の終結と危険人物の討伐を使命とし、外史へと向かった。その外史はあらゆる英雄が存在する外史であり、討伐の対象人物もかなりの猛者であった。当然、役割を果たすことは困難を極めた。それでも彼は諦めず、仲間達と力を合わせ、バラバラだった国を1つに纏め、やがて、討伐の猛者を破り、目的を達した。目的を達成することに成功したが、それは力を合わせた仲間達との別れを意味していた。彼と外史の仲間達との間にはもう耐え難い絆が生まれていた。彼は惜しみながらもその外史を去り、そして誓った。

必ず、皆の居る外史に帰ると・・。

守り手、御剣昴が如何にしてその外史に帰還したのかをここに記す・・。



















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※※※※


昴side

あれから3年が経とうとしていた。愛する皆の居る外史を離れてから3年あまりが・・。俺は役目を果たしながらも皆の居る外史へ帰る方法を探していた。しかし、調べれば調べる程、帰れないという事実を固めるだけだった。守り手は外史から外史へ移動する事が出来るが、1度去った外史へ行くことは出来ない。それは俺みたく、外史に里心が生まれ、守り手の役目を放棄させない為の一種の、悪い言い方をすれば呪いであった。この呪いは、如何なる守り手及び管理者にも解く事は出来ない。外史外はもちろん、外史内でも呪いを解く方法を探したが、解決策はおろか、その糸口すら掴めない有り様だった。時が経てば経つほど俺の中の決意に陰りが生じてくる。

もう、2度と皆に会うことは出来ないのではないかと・・。

「どうすれば良いんだよ・・」

俺の頭の中に皆の顔が浮かんだ。そのたびに俺の心が軋んだ。

「くそ!」

自ずと、悪態を付く回数も増えてくる。どうすれば良いか。その事を頭の中で反芻させていると、そこに1人の来訪者が現れた。

「荒れてるわね」

「・・お前か」

そこにはビキニパンツ1枚姿の巨漢が立っていた。こいつの名は貂蝉、一見、ただの変態だが、こいつは管理者の1人だ。

「何の用だ? 今お前の冗談に付き合える気分ではないぞ」

俺はぞんざいにあしらった。だが、いつもと違い、その顔は真剣そのものだった。

「・・緊急事態が起きたわ」

「緊急事態?」

何が起きたんだ? とりあえずこいつはこの手の冗談を言う奴じゃない。

「緊急事態って、破壊者、刃が居なくなった今、緊急事態なんて起こりうるのか?」

刃とは以前、あらゆる外史を荒らし回っていた存在であり、俺が命を懸けて戦った相手だ。

「言いにくいのだけど、その刃の時以上の緊急事態よ」

貂蝉が深くを目を瞑り、やがて目を開けると、説明を始めた。

「一部の管理者と守り手が反乱を起こしたわ」

「反乱?」

どういう事だ?

「ええ。反乱の首謀者は上位の管理者の1人である、名はメキド。彼は一部の管理者と守り手を先導して反乱を起こしたの。今、約3割程の管理者と守り手が彼と共謀しているわ」

3割・・、そんなにもか・・。

「それで、そのメキドの目的は?」

「メキドの目的は、正史の掌握よ」

「正史の掌握・・、それをされるとどうなる?」

「・・前に外史が出来る仕組みについて話したのは覚えているわね?」

「ああ」

外史は、正史に住まう人間の想いと願いによって生まれる。何故生む事が出来るかは正史の人間は潜在的に高い魔力を秘めている。その魔力が想いと願いに反応し、外史が生まれる、と以前に説明された。

「メキドに正史を掌握されれば、正史及び、外史をメキドの想いのままにされてしまうわ。メキド程の管理者なら身の内に膨大の魔力を有している。彼が正史を掌握すれば自分の望み通りの外史を作る事が出来る上に、現存する外史をも想いのままに出来る」

「なるほど、メキドはいったい何の為にそんな真似を?」

「・・彼はね、管理者の中で唯一、守り手から管理者になった人なの。彼は前々から守り手の存在を憂いていたわ。あらゆる外史を移動し、心と身体を疲弊し続ける守り手を。彼が管理者となった時、一度だけ訴えたの、正史を管理者の手で掌握し、こちらが外史及び外史の人間を意のままに操り、不毛の争いを止めようと。外史の人間を管理者がマインドコントロールすれば争いなんて起きなくなる。争いが無くなれば守り手は不要となり、戦い続ける事もなくなる・・」

「・・・」

「でもその訴えは退けられたわ。正史を掌握すればどのような事態を招くか分からない。最悪、正史が崩壊し、あらゆるものが無に帰す事になりかねない。何より、外史の住まう人間とて心を持った1人の人間なの。それを操り人形のように扱う事は非人道的だと言う主張が多数を占めたのが理由で退けられた。それでもメキドは主張し続けたのだけど主張は通らず、やがて諦めた・・、と思われたけど、水面下で密かに計画を立ててたみたいね。おかげでメキドの意見に賛同した管理者と戦い続ける事に疑問を抱いていた守り手がメキド側に付いてしまった・・」

「話は分かった。ならばそのメキドを捕らえるか、もしくは討伐するべく、守り手と管理者をメキドの所に送る必要があるな」

「・・そうしたいのは山々なのだけど、そうなる事は当然メキドは想定していたわ。今メキドはあらゆる外史に管理者と守り手を送り込み、荒らし回っているわ」

「何だと? そんな事をすれば外史は崩壊しちまう。そうなればメキドとて本末転倒ではないのか?」

「もちろんそうよ。メキドはそうならない為に私達がそれを阻止するために管理者や守り手を派遣する事まで想定していたわ。言わば、正史掌握の邪魔をさせない為の陽動として外史に反乱者を送り込んだの」

狡い手を使うな。メキドの思惑通りと分かっていても、こっちは乗らざるを得ない・・・、まてよ?

「なら、あの外史はどうなってるんだ? 桃香や皆が居るあの外史は・・!?」

俺が訪ねると貂蝉はそれを遮るように・・。

「心配いらないわ。あの外史には手を出してないわ。というより、出す意味がないわ。あそこはもう大陸が1つに纏まっているし、あらゆる英雄が勢揃いしているからこっちが何もせずとも外史の英雄達に任せておけば鎮圧出来るわ。だからメキドも手を出さなかったみたいね」

「そうか・・」

とりあえず一安心だ。

「状況は理解した。俺はどうすれば良いんだ? 他と同様に反乱者の鎮圧の為に外史に向かえば良いのか?」

「いえ、あなたには、直接メキドを止めてきてもらうわ」

「俺がか?」

「ええ。メキドは正直かなりの強さなの。実力は刃と同格よ」

「あの刃とか?」

刃はかなり強い。俺が勝てたのは正直奇跡のようなものだ。

「武人寄りだった刃と違い、メキドは魔術師寄り。考えようによっては刃より厄介よ。今他の管理者や守り手は反乱者の鎮圧に追われているし、並の実力者じゃあなたの足を引っ張りかねない。だからあなた1人でメキドを止めてもらうわ」

「・・なるほどな」

状況は最悪みたいだな。

「ごめんなさいね。こっちでも出来る限りの援助はするわ。だからあなたの手でメキドを止めて」

「分かった。そういう事ならやってやるさ」

「ありがとね。アタシは少しでも時間を稼ぐ為にメキドが開こうとしている正史への扉の開門の阻止に向かうから私達が時間を稼いでいる間にメキドを止めてね」

「任せろ!」

メキドの野望、止めてやる! 皆をメキドの操り人形なんかにはさせない!

俺の新たな戦いが今始まる・・。






















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「むっ・・、着いたか・・」

外史を移動する為の扉である光の柱を抜けると、メキドの居る外史に着いた。辺りは建物はおろか、木々や植物1つない広大な荒野が広がり、空は厚い雲に覆われている。貂蝉曰わく、全ての始まりの地・・。

始まりの外史。

この外史は初めて誕生した外史だ。通常外史は個々の時間差はあれど、やがては無くなるのだが、この外史だけは誕生してから無くなる事なく存在し続けているという。管理者の間では神聖区域と呼ばれ、原則立ち入りを禁じているらしい。辺りをキョロキョロ見渡していると、ふと貂蝉の言葉を思い出す。

『タイムリミットは後10時間。メキドが正史を掌握し、力を手にしてしまえばメキドは神と同等の存在になり、誰も手が出せなくなるわ』

と言っていた。

「急ごう」

俺はメキドの元に駆け足で向かった。



















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1時間程走るとこの外史唯一の建造物が見え、さらに1時間程走ると目的の場所に付いた。

「ここがメキドの居る塔か」

メキドの居る塔・・この外史唯一の建造物、通称・・。

バベル・・。

バベルの塔は、人が天を目指す為に建造された。しかし、そのことが神の怒りに触れ、結局建造にはいたらなかったらしいが、その際に建造者達の強い想いがこの外史を生んだのだという。バベルの塔は厚い雲を突き抜け、本当に天にまで届く程の高さを誇っている。

俺が塔の入り口に近付こうとすると・・。

「止まれ!」

大きな声が響くと塔から数十人にも及ぶ人が飛び出した。

「この塔には何人たりとも入れさせん!」

「・・まっ、流石にここの守りを疎かにするほど馬鹿ではないか・・」

現れたのはこの塔の侵入を阻止するための管理者と守り手達だ。

「通させてもらうぞ」

俺が一歩踏み出すと、塔の守護者達が一斉に武器を抜いた。

「やめとけ、お前らごときがいくら集まっても俺には勝てねぇよ」

俺がそういうと守護者達は一様に笑いを浮かべた。

「はっ! 確かに俺達じゃお前には勝てないかもしれない。だけどな、勝つ必要はない。俺達はメキド様が正史を掌握するまで時間を稼げれば良い」

「足止めか、良いのかお前ら? こんなのただの捨て駒だぞ? メキドの良いように使われて満足なのか?」

「メキド様は役目を果たせばたとえ死すとも蘇らせてくれるおっしゃった。そして大願成就の暁には我等が望む外史をくださると・・」

「・・・」

迷惑な話だ。守り手と管理者ともあろう奴が物欲に負けやがって。

「もう無駄だ、貴様も諦めろ。メキド様に従えば役目から解放され、誰もが望む理想郷になるのだぞ。抵抗を止めて我等に従え!」

「嫌だね。理想郷? 誰かに心も人生も良いように扱われる世界なんざ俺には許容出来ない。悪いが止めさせてもらう」

俺は自身の得物である朝陽と夕暮と呼んでいる双剣を抜いた。

「残念だ・・、ならば大願成就までここで足止めさせてもらう、構えろ! 良いか、奴を倒す必要はない! とにかく時間を稼ぐんだ!」

守護者達は武器を構え、その場に止まった。

ちっ! 向かって来てくれれば楽なんだが、奴らは来ない。あくまでも時間稼ぎ。数は約40人。1人1人はそこまで強くないが管理者や守り手は実力以上にそれなりに修羅場をくぐり抜けている。そんな奴らに守りに入られらた正直かなりの時間を要する。ったく、ちまちま相手している暇はないっていうのに・・。

「くそっ・・」

俺の中に焦りが生まれた・・。






















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管理者side

ここは管理者の集まる異空間。

「正史の扉を開かせてはならん! 皆全力で扉を押さえ込め!」

上位の管理者である卑弥呼の指示が飛ぶ。白い導師服を着た管理者達が一斉に魔力を祭壇に注ぎ、正史の扉の解放の阻止を始めた。しかし効果はあまり芳しくなかった。それを見て卑弥呼が顔を曇らせる。

「やはり封印を施しても扉の解放の時間を引き伸ばす事しか出来ぬか・・。やはり直接メキドを倒すしか術は・・・!?」

卑弥呼が部屋の中央に鎮座されているモニターのような大きな鏡に視線を移す。そこにはバベルの塔の手前で立ち尽くす御剣昴と侵入を阻む反乱者の管理者と守り手達の姿が写し出されていた。

「むぅ、扉があるバベルの塔の防備を固める事は予想しておったが、あれほど人数が居るとは・・、まずいのう」

侵入を阻む反乱者達は取るに足らない者達。だがあまりに人数が多すぎる。残り時間を考えてもかなり厳しい。

このままではまずい・・。そう考えていた卑弥呼の肩を貂蝉が叩く。

「落ち着きなさい卑弥呼。メキドがバベルの塔の防備を固める事は想定の範囲内でしょ?」

「しかし、あの人数は予想外だ。昴言えどあれでは・・」

卑弥呼が言い切る前に貂蝉が被せるように・・。

「ウフフ・・。こうなる事を予想して、昴ちゃんの所に助っ人を向かわせておいたわ」

「助っ人だと? 並みの助っ人では意味が無いであろう」

「大丈夫、心配いらないわ、その助っ人は、昴ちゃんより強いから♪」

「昴より強い助っ人、そんな者・・・!? 貂蝉! お主まさか!?」




















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昴side

「・・・」

睨み合っている暇はない。多少消耗してでも押し通らないと・・。

覚悟を決め、体に氣を纏わせて戦おうとしたその時。

「横に飛べ! 御剣昴!」

「!?」

その声に反応し、真横に飛んだ。それと同時に・・。

ドゴォォォォォン!!!!

真後ろから大質量の氣の塊が飛来し、塔を守る反乱者達を襲った。反乱者の何人かは爆発に巻き込まれ、一部は紙一重で避けていた。俺が振り返るとそこには・・。

「こんな所で遊んでる場合じゃないだろ?」

「お前は! ・・・刃!?」

そこに居たのはかつての宿敵、刃だった。

「いや、北郷一刀だったか・・」

「刃で構わない。俺にはもうその名を名乗る資格は無いからな」

北郷一刀は寂しそうな顔を浮かべながら呟いた。

「お前は死んだはずではなかったのか?」

「死んださ。訳は・・・、後で貂蝉にでも聞け。今は他にする事があるだろ?」

「・・そうだな」

事情は気になるが、今はそれどころではないな。

「道は開く。露払いは引き受けてやるからお前は塔のてっぺんを目指せ」

「分かった」

ありがたい。北郷一刀は敵としては恐ろしいが味方となればこれ以上に頼もしい存在はいない。

「では、行くぞ」

北郷一刀が地を蹴り、塔に突撃した。

「応っ!」

俺もそれに続き、塔へ突撃した。先ほどの氣の一撃出来た隙間を抜け、俺は塔の入り口まで一気に駆け抜けた。途中何人かの守り手達が道を阻んだが、その全てが北郷一刀に斬り捨てられた。やがて塔に着くと、北郷一刀は振り返り・・。

「行け」

そう呟いた。

「すまない、助かった」

俺は礼を言い、北郷一刀に拳を差し出した。

「・・・」

北郷一刀はスッと拳を差し出し、コツンと俺の拳にぶつけた。

「後は頼む」

俺はそれだけ告げ、北郷一刀と、こちらに向かってくる反乱者達に背を向け、塔の中へと入った。

「気をつけろ御剣昴。メキド、奴は俺を―――」

刃が何かを呟いたような気がしたが、俺はそのまま突入した。


















・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・


塔に入ると、目の前に階段があり、その階段は壁伝いに螺旋上に真上に向かっていた。俺は階段をひたすら駆け上がった。外から見た通り、塔の高さはかなりのものであり、自ずと階段の段数もかなりの数だ。

数十・・。

数百・・。

遂には数千にも及ぶ段数を駆け上がると・・。

「ん?」

ふと見上げると、天井らしき物が視界に入った。

「屋上か?」

そのまま駆け上がり、階段を登りきるとそこは屋上ではなく、どうやらただのフロアのようだった。

「!?」

辺りを見渡すと、2つの人影を捉えた。フロア内は暗く、所々くり抜かれた壁から覗く光が刺しているだけなので、顔は見えないが、導師服を着ている事から守り手ではなく、管理者だ。しかも待ち伏せしていた事から今度は間違いなく敵・・。俺は村雨に手を置き、構えた。2人の管理者が前に出る。隙間の光に照らされて2人の顔が確認出来た。そこに立っていたのは・・。

「!? ・・おいおい、さっきの刃と言い、いったいどうなってるんだ? 久しぶりだな・・、左慈、干吉」

「ちっ! 現世(うつしよ)に無理やり呼び戻され、こんな所に待たされた挙げ句、来たのがおまえとはな」

「忌々しい限りですね」

今度現れたのは刃に殺された筈の管理者、左慈と干吉だった。

左慈と干吉・・。

この2人は管理者であり、たびたび俺を亡き者にしようと何度も襲ってきた奴らだ。何度も返り討ちにし、終いには破壊者と呼ばれていた当時の刃の封印を解き、俺を殺す為に利用しようとしたらしいが、利用しきれず、刃に殺されてしまった2人でもある。

「死んだんじゃなかったのか?」

俺が尋ねると、干吉が質問に答えた。

「確かに死にましたよ。今の私達は死後の世界から魂を呼び戻され、仮の肉体に魂を定着させられた、言わばゾンビのような者ですね」

「なるほど」

メキドの仕業か。そんな魔術があると言うのは俺も聞いたことがある。さっきの刃も誰かが同じ事をしたのだろう。まっ、その誰かとは容易に想像が付くが・・。

「それで、お前達は足止めの為にここを任された、と」

「おっしゃる通り、それが私達に与えられた役割のようですね」

干吉は皮肉混じりに俺の問いに答えた。すると今度は左慈が口を開いた。

「御剣昴。俺は貴様と言う存在が気に食わん」

「・・・」

「守り手と言う立場にありながら外史のバランスを崩そうとする貴様を・・。顔を見るだけで虫酸が走る。・・・・・だが、俺自身が傀儡となり、手駒のように扱われるのはさらに虫酸が走る。・・貴様に頼むのは癪だが、俺を殺せ。さっさと俺自身の幕を下ろしてくれ」

「頼まれなくてもそのつもりだ。俺だってお前らの事は気に食わん・・」

こいつらは何度も俺の居る外史に介入し、俺の邪魔をし続けた。俺だけを狙うならまだしも、時には俺の仲間も巻き込んだり、果ては関係の無い者まで巻き込んだ事もあった。大事の前の尊い犠牲だとかほざいて。こいつらのせいで散った命も多い。だからこいつらを討つことには迷いも躊躇いもない。

「やはり貴様は・・、ならば早くしろ、言っておくが、今の俺達は自我こそあるが身体の支配権は術者にある。黙って殺されてはやれないぞ?」

左慈が構えた。

「・・すぐに終わらせる」

俺も同様に構えた。

ドン!!!

左慈が地を蹴り、俺に突撃する。

ブォン!!!

左慈が蹴りを繰り出す。俺はそれをかがんで避ける。

ブォン! ブォン! ブォン! ・・・。

左慈は間髪入れずに蹴りを俺に繰り出す。

スッ・・。

俺は一度横に飛び、距離を取った。左慈はすぐさま俺を追いかけ、右足で蹴りを繰り出した。

「ふっ・・」

ドォン!!!

俺はその蹴りに自身の蹴りをぶつけた。

「はぁ!」

俺は力任せに蹴りを振り抜き、左慈ごと蹴り飛ばし、すぐさま左慈に飛び込み、そして・・。

「北辰流抜刀術・・、疾風!」

キィン・・。

飛び込み様に左慈の胸を斬り裂いた。

「礼は言わん。だが管理者の端くれとしてこれだけは言わせてもらう。こんな馬鹿げた計画をした首謀者を倒せ」

「言われるまでもない」

俺がそう答えると左慈はフッと笑い、そして、身体が砂のように崩れ、消えていった。

「左慈が望んだ事とはいえ、左慈の死をもう一度目の当たりにするのはあまり良い気分ではありませんね」

俺は干吉に振り返り・・。

「後はお前だ、干吉」

「私も現世には未練もありません。早い所左慈の元にお願いしますよ」

干吉は人差し指と中指を束ね、妖術を発動させる構えを取った。

「あなたもご存知だとは思いますが、私の身の内には特殊な術式が組み込まれている為、首を落とそうが心臓を貫こうが妖力が尽きぬ限り身体を再生し続けます。お手数ですが、妖力が切れるまで私を攻撃し続けて下さい・・増!」

干吉が唱えると白装束の傀儡の集団が現れた。

「そんな暇はない」

タイムリミットは10時間。この外史に来て塔に着くまで2時間。塔を登り始めて4時間。後残り4時間しかない。干吉の半不死身に付き合ってたらすぐさま時間切れだ。

「やむを得ないか・・」

地を蹴り、干吉の前に立ち塞がる白装束の傀儡を斬り捨てた。

「ふっ!」

ザシュ!!!

最後の傀儡を斬り捨てると、俺は懐からナイフを取り出し、干吉の胸に突き刺した。

「そんな物では私を・・・!?」

ナイフを突き刺すと、突如ナイフの柄の宝石が光り出した。

「・・なるほど、考えましたね。マジックアスピラーとは」

このナイフはこの外史に来る前に貂蝉から渡された物で名をマジックアスピラー。何でもこれを突き刺すと刺された対象の魔力や妖力を残らず吸い取る代物らしい。対メキド用に渡された物だ。温存しておきたかったが、背に腹は代えられない。

やがてナイフが干吉の妖力を吸い尽くすと、宝石の光は収まった。

「これで終わりだ」

ザシュ!!!

俺は干吉の胸を斬り裂いた。

「ありがとうございます。それと健闘を祈ります」

そう最後に呟くと、左慈と同じく、身体が砂のように崩れていった。俺は暫しその場に舞う砂を眺めた後・・。

「・・・行くか」

壁に一ヶ所だけ開いた扉状の隙間から外へ向かった。


















・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・


外に出ると、目の前には青空が広がっており、足下には厚い雲があった。階段を駆け上がっている内に雲の高さを超えていたらしい。左には塔の外壁に沿って螺旋上に再び真上に階段が向かっていた。今の地点でもかなりの高さに居るのだが、まだまだ頂上は遠いらしい。俺は再び階段を駆け上がった。



















・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・


再び階段を駆け上がり、2時間程が経った。

「・・妙だな」

今現在の標高は恐らく8000メートルを超えている。通常の常識に当てはめれば気温はかなり低くなるはずだし酸素だって薄くなるはず。にもかかわらず気温は常温。酸素も地上と対して変わらない。

「これも外史故・・か」

そもそもこんな物理法則無視した塔なんて建てられるはずがないからな。俺は頭に浮かんだ疑問を打ち消し、再び階段を駆け上がった。


















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


「・・・・・見えた!」

駆け上がる事さらに1時間。ついに塔のてっぺんが見えた。俺は一気に駆け上がり、頂上に辿り着いた。

「・・これがバベルの塔の頂上か」

頂上は大きな複数の彫像が立っており、奥には階段が20段程並び、階段の上には光の柱があった。

「待ちかねたぞ」

「!? ・・・お前がメキドだな」

階段の一番上の光の柱の横に、口元に髭を蓄え、白髪の長髪に白装束を着た見かけは60歳程の男が立っていた。

「いかにも。始めまして・・、と言っておこう、御剣昴」

そう言うとメキドはゆっくり階段を降ってきた。

「美しい。このバベルの塔の頂上から見える景色。美しいとは思わぬか?」

「・・・」

「正史では神の怒りに触れ、完成にはいたらなかったが、完成すればこのようになっていたのだろう。・・時に、時の人間達は何故この塔を建てようと考えたか・・。様々な説があるが私はこう思う。理由は至極単純。この景色を見たかったのだと私は思うよ」

「あいにくお前とのおしゃべりに付き合う気は毛頭ない」

俺は村雨に手を置き、構えた。

「そうはやまるな。私はお前の敵ではない」

「何?」

「私は救いたいと思っているのだよ。守り手と、そして外史を」

「それが今回のこの暴挙という訳か」

「暴挙などと・・、お主の懸念のしている事は外史及び正史の崩壊・・、違うか?」

「・・・」

俺は何も答えなかった。

「貂蝉に何を吹き込まれたかは知らぬが、正史掌握による外史の破壊は可能性の話。逆にそうなると何故言える? 誰もしたことがないのに。あくまでも未熟者が迂闊に掌握したらの話だ。私はそのようなヘマはせん」

「どうなるかは知らないが、危険性があるなら排除するのは当然だろ? 外史を守るのが守り手の役目だ。俺は役目を果たす」

俺がそう答えるとメキドは目を瞑り・・。

「哀れな。己を犠牲にし、管理者の思いのままに動かされ、役目に殉じるなど・・、故に私はお主を救いたいのだよ」

「大きなお世話だ」

「私に従えばお前の願いを叶えてやっても良いぞ?」

「ふん。そうやって他の管理者や守り手を抱き込んだのか・・。そんなもの、俺には・・・」

「もし私に従ってくれるなら、お主の主であり、想い人であった智夜姫を蘇らせてやろう」

「!?」

なん・・だと・・。

智夜・・。

俺が始めて仕えた主であり、俺が全てを捧げ、そして・・、愛した女・・。

「先程の左慈と干吉のような紛い物の蘇生ではなく、完全な形で蘇らせてやろう。顔も、容姿も、性格も、記憶も、お主の知るそのままに。何だったらお主達が幸せに暮らせる外史も用意してやろう。その程度、正史を掌握すれば容易い。どうだ?」

「・・・」

「もうお主は戦い続ける必要はないのだ。さあ・・、安寧の地で静かに暮らすが良い」

メキドの甘い言葉が俺の心にえぐる。

「・・・」

メキドの提案を俺は・・。

「・・・断る」

断った。

「何?」

「お前の言葉の真偽は知らん。だがな、お前の外史の全てをマインドコントロールするという野望は許容出来ない」

「何の問題がある?」

「お前の言うマインドコントロール、それは言わば人として大事なものを奪う事に他ならない」

「ほう」

「心だよ。人は心があるから人なんだ。それを奪ったらもう人形と変わらない」

俺がそう告げるとメキドは俺を睨みつけ・・。

「くだらんな。心・・、そんなものがあるから人同士の醜い争いが絶えんのだ。心がある限り争いは永遠に無くならん。争いが無くならんから守り手は犠牲になる。それが何故分からん!」

「お前こそ、一時は守り手として外史を巡っていたのに何も学ばなかったようだな。人と人が争うのが心なら人と人を繋ぐのもまた心・・。結局お前は役目に耐えきれず、出した答えがこの暴挙・・、いや愚挙という訳だ」

俺は村雨を抜いてその切っ先をメキドに向け・・。

「そんなくだらない野望に外史の人間を巻き込むな! 俺はそんなお前を命を懸けて止める! 守り手として! 人として! それが俺の答えだ!」

俺はお前の野望を否定する。

俺が叫ぶとメキドは一度目を閉じ、そしてすぐさまカッと見開き・・。

「お主も一緒か。くだらん倫理観を振りかざし、私の訴えを否定した管理者達と・・。ならばもう何も言わん! 私を止めたくば力ずくで止めるが良い! 私もこの野望、お主を倒して成就させようぞ!」

メキドが印を組み、詠唱を始めた。

「させるか!」

俺は魔術を使わせない為に地を蹴りメキドへと突っ込んだ。

ドン!!!

メキドの数メートル手前で跳躍し、村雨を振り下ろした。

バチィ!!!

しかし俺の一撃は見えない壁に阻まれ、後方に弾かれた。

「ちっ!」

俺は空中で1回転しながら着地した。

「ゆくぞ!」

メキドが両手を組み、印を組むと、メキドの周りからバレーボールほどの球体が6つ現れた。

「ゆけ! 宝玉達よ!」

メキドが命令を下すと、球体が動き出した。6つの球体の内2つが俺に向かってきた。俺は1つはかがんで、もう1つは横っ飛びで避けた。

「ほれ、宝玉はまだまだあるぞ?」

避けた矢先、間髪入れずに追撃がきた。

ガキン!!!

「ぐくっ!」

とっさに村雨で受けたが、かなりの重さだった。

「さすがは最強の守り手・・、ならばこれはどうだ?」

パチン・・。

メキドが指を鳴らすと・・。

ダダダダダ・・・!

「!?」

突如、球体からマシンガンのように何かが連続発射された。

「ちぃっ!」

俺はその場からすぐさま駆け出し、それをやり過ごした。

「っ!」

ドン!!! ドン!!!

俺は氣を村雨に集め、氣弾を球体に狙い撃った。

バチン!!! バチン!!!

氣弾は球体に直撃した。・・・しかし、一瞬動きが止まっただけで再び球体は動き出す。

「この程度では止まらないか・・・」

あの球体はハンパな力では破壊出来ないらしい。

「ほれ、これで終わりではないぞ」

メキドが手を翳すと、今度は6つの球体全てが俺に向かってきた。6つ全てから玉が発射された。

「ふっ・・」

俺は縮地で玉の隙間を抜けた。

「飛龍・・、衝撃!」

大量の氣を再び村雨に集め、龍の形をした氣の塊をメキドに撃った。

「戻れい・・」

メキドが人差し指をクイッとさせると、球体が全てメキドの元に集まった。集まった球体はメキドの前で光を帯びると、魔法陣を描き出した。

ドゴォォォォン!!!

氣の龍は魔法陣に阻まれそして、吸い込まれた。

「何!?」

「ほうれ、返すぞ」

メキドがそう呟くと、飛龍衝撃が俺に向かってきた。

「くっ!」

俺はギリギリ横っ飛びで龍を避けた。

ドゴォォォォン!!!

龍は俺の後方で爆発した。

「そんな事まで出来るのか・・」

「ほう、我が魔術に良くここまで対応出来るのう・・」

「あいにく、俺は以前に魔術を使う強敵との戦闘経験があるんでね」

それは先程バベルの塔目前で道を開いてくれた刃の事だ。

「ふむ、刃・・、いや北郷一刀の事か。奴も身の内に膨大な魔力を要していたな。思えばこの外史掌握の計画、あ奴の存在が大きなファクターであった」

「何だと?」

「この計画、実行するにあたって一番の問題はその事前の仕込みだ。私が不穏の動きを取ればたちまち他の管理者に気付かれてしまう。どうするか・・、そう考えていた時に北郷一刀を知った。私は一目で見抜いたよ。奴の心の脆さを。だから私は奴を過酷な外史に次々送り込み、追い詰めていった。そして奴の心が限界に達した時、私は奴に外史創造の方法を教えた」

「!?」

「思った通り、奴の心は壊れ、因子を集める為に外史を次々破壊してまわった。全ては計算通りだ。管理者と守り手の全ての目が奴にいき、私は誰に悟られる事なく計画が進められた。もっとも、あの馬鹿者達が封印を解いたのは予想外だったがな」

「・・・」

「北郷一刀の存在は良い目くらましになったが、今度はそれが邪魔になった。そんな時、目を付けたのがお主だ。北郷一刀と入れ替わりに守り手となり、頭角を表した守り手、御剣昴だ。正直、お主に北郷一刀を倒せるとは思わなかった。せいぜい奴を疲弊させる程度と予想していた。お主が敗れた後、すぐさま私が疲弊した北郷一刀を殺し、計画を開始する予定であったがお主は奴を倒してしまった。これは予想外だったよ。誤算だ。嬉しい、な」

「・・・」

「おかげで私は綿密かつ確実に計画を実行出来た。北郷一刀、そして御剣昴。お主達は私の最高の手駒であったよ」

そういう事かよ・・。

「お前はとことん人の心を弄ぶのが好きらしいな。改めて思うよ。お前はここで討たなきゃならないとな!」

俺はメキドに全力の殺気をぶつけた。

「やってみるがよい。出来るものならな」

ドン!!!

俺は地を蹴り、メキドに突進した。

「ふん」

メキドが手を翳すと、球体が前方から2つ突っ込み、左右から2つが弾を発射した。

「ふっ!」

俺は跳躍し、それを避けた。

「迂闊。空中では方向転換出来まい」

残りの2つが俺に襲いかかった。

「ちぃっ!」

ギン! ギン!

俺はその2つを村雨で弾いた。・・・が。

ドス!!!

「がはっ!」

俺の背中に衝撃が走った。

くっ、そ・・、背後に回り込まれたか。

ドス!!! バキッ!!! ボクッ!!!

次々と球体が俺の身体を捉える。

ドォン!!!

「うぐっ!」

俺は地に叩き付けられた。

「ほれ、ゆくぞ」

パチン・・、とメキドが指を鳴らすと、6つの球体全てが光り出し・・。

ビィィィン!!!

レーザーのようなものを放った。

「まずい・・」

俺はすぐさま立ち上がり、前転でレーザーをやり過ごした。

「ぺっ!」

俺は口から血を吐き出した。

くそっ! 近寄れない! このままじゃジリ貧だ。何とか懐に飛び込んでこちらの距離で戦わないと。あの球体、飛び込んじまえば封じられる。

ドン!!!

俺は今一度突進した。

「また馬鹿の一つ覚えか?」

球体が再び俺を目指して襲いかかった。

ギン! ギン!

2つの球体を村雨で弾く。

スッ・・。

その場で1回転し・・。

ドン!!! ドン!!!

左右の球体を氣弾で撃ち抜き、動きを止める。

ビィィィン!!!

残り2つの球体がレーザーを放った。

ドン!!!

俺は全力の縮地でそれを避け、一気にメキドに飛び込んだ。

「行くぞぉぉぉぉ!!!」

俺は村雨を構え、メキドに振り抜いた。

「懐に飛び込まれれば球体は使いづらい・・。間違ってはおらん。だが忘れている。私は元守り手。接近戦とて行える」

メキドが両手をパチンと合わせ離すとそこから剣が現れ・・。

ギィン!!!

俺の一撃を受け止めた。

「まだまだ!」

ガキン! ギィン! ガキン!

俺は続けて村雨を振るった。

ギィン!!! ギギギギギ・・・!

そして俺の村雨と剣がぶつかり、鍔迫り合いになった。

「・・・」

スッ・・。

「!?」

メキドは左手を放し、人差し指をこちらに向け・・。

「尖雷(せんらい)」

ビィィィン!!!

人差し指から雷を帯びた細いレーザーを放った。

「くっ!」

俺は上体を逸らしてギリギリで避けた。

「ふん!」

ギィン!!!

すぐさまメキドの斬撃が俺を襲うが俺は村雨で受け、止めた、が・・。

「距離が開いたな」

「!? しまっ・・!」

ドコン!!!

「ガハッ!」

球体が俺の顎を捉え、俺は宙に巻き上げられる。

ドス!!! バキッ!!! ドコン!!! ・・・!

次々と球体が俺を捉えた。

「終いだ・・、鬼火・・」

メキドの手から青い炎が現れ、俺に撃った。空中に舞い上げられた俺は身動きが取れず・・。

ドゴォォォォン!!!

「ぐあぁぁぁーっ!!!」

業火に焼かれた。

「ふむ、なかなかだったぞ。私の懐に飛び込めたのはお主が初めてだ。・・さて、扉が開く時間は後僅か。心して待とうぞ・・」

メキドが俺に背を向けた。

「まて・・」

俺は村雨を杖代わりに立ち上がった。身体からはぷすぷすと煙が上がっている。メキドは俺に振り返り・・。

「なるほど、伊達に北郷一刀に勝った訳ではないようだ。これだけの攻撃を受け、まだ立てるか。・・だがもう無駄だ。その身体では戦えん。ジッとしていろ。そんなお主に敬意を評して、先程の言葉、実行してやろう」

メキドは俺に再び背を向けた。

「まだ終わってねぇって・・、言ってんだろ! 俺にはまだ、切り札があるんだ!」

俺はフーッと息を吐き、身体に眠る星を呼び起こした。

「七星閃氣、最終星・・、破軍・・、解放」

ドォン!!!

「!?」

俺の身体から赤い光が溢れ出す。

「それは氣功闘法最終奥義、七星閃氣、最終星破軍・・、貴様、私と共に死ぬつもりか!?」

七星閃氣は身体の奥底に眠る氣を限界以上に絞り出す奥義。破軍は7つ目の星にして最終星。使用すれば一時的にあらゆる存在を超えるが、その後、死ぬ。

「通常ならそうなるな。だが今回は事情が違う」

俺は左手の薬指に嵌められた指輪を見せた。

「それは・・、サクリファイスリングか!」

サクリファイスリング。これはこの外史に来る前に先程のマジックアスピラーと一緒に渡された物だ。




















※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


「昴ちゃん、これを持っていきなさい」

貂蝉が俺に指輪を手渡す。

「これは?」

「あなた、メキドを討つ為なら使っちゃうでしょ? 七星閃氣の破軍を」

「・・ああ」

「これはね、サクリファイスリングと言って、これを付けておけば、七星閃氣を使用した際にかかる負担を全てこの指輪が請け負ってくれるわ」

「そうなのか?」

もしそうならわりと楽に・・。

「た・だ・し!」

貂蝉が顔をズイッと近づけ・・。

「その指輪が保つのはせいぜい10分程度。使うタイミングを誤らないでね♪」




















※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


身体から膨大な氣が溢れ出す。

「ちぃっ! 貂蝉め、面倒な物を!」

「行くぞ!」

ドォン!!!

俺は一気にメキドに突っ込む。

「くっ!」

メキドが球体を操り、6つ全てを俺に差し向ける。球体を全て避け、メキドの懐に飛び込み、斬撃を振るう。

「はぁ!」

ギィン!!!

「ぐっ!」

メキドはギリギリで俺の一撃を受けるも後方に大きく弾かれた。

「逃がすか!」

すぐさまメキドを追撃する。

ギィン!!! ガキン!!! ギィン!!! ・・・!

今一度飛び込むと、間を置かずに斬撃を浴びせ続ける。

「むぅ・・! この・・!」

メキドが左手をこちらに向け魔術を発動させようとした。

パシっ・・。

「!?」

俺は魔術が発動される前にその左手を掴み上げ・・。

ザシュ!!!

「ぐぅ!」

メキドの胸を一閃した。斬られたメキドはヨロヨロと後退する。

「弱いな」

「何・・」

「お前は弱い。北郷一刀に比べて何もかも。あいつはもっと強かった」

「くっ!」

メキドは苦悶の表情を浮かべる。

「北郷一刀も1度は魔道に身を落とした。独りよがりの力なれどその芯にはとても強い心があった。だがお前にはそれすらない。役目に耐えきれず、何も理解せず、結局出した答えが正史掌握なんていう愚挙だ。そんなお前の力なんて、結局はその程度だ」

「黙れぇい! 貴様のような若造に何が分かる! ただ管理者に言われるがままに永遠とも言える長い時を戦場に費やした我が人生、貴様などに理解されてたまるか! 宝玉よ!」

メキドが命令を下すと、6つの球体がメキドの元に集まった。

「そんなもの、今更俺には通じないぞ?」

「どうかな? ・・この宝玉よ、真の姿を見せよ!」

すると宝玉同士がくっつきあい、眩い光を放つと、1本の三つ叉の槍に変わった。

「あの球体はこの槍の力を6つに分けた形態に過ぎぬ。これこそが真の姿。名をロンギヌス。貴様も名くらいは聞いたことがあろう? 神殺しの槍。最強の武器だ」

「・・・」

「よもやこれを使う事になるとはな。もはや手加減はせぬ」

メキドがロンギヌスを構え・・。

「全身全霊をもって貴様を滅しようぞ!」

「俺もお前のそのくだらない野望を、全力をもって止める!」

俺も村雨を構えた。

「・・・」

「・・・」

俺とメキドは暫し睨み合い・・。

「ふん!」

メキドがロンギヌスで突いてきた。

俺は村雨を引き、足幅のスタンスを広げ、後方に上体に反らし、力を貯め・・。

ドォン!!!

一気に貯めた力を解放して突撃し・・。

「龍牙・旋・迅・突!」

メキドのロンギヌスに突撃の勢いと腕と全身をねじり込みながら村雨の突きをぶつけた。

ドォン!!!

俺とメキドを中心に大きな衝撃が塔全体を揺るがす。

ギギギギギ・・・!!!

「ぐっ・・!」

「むぅ・・!」

互いの突きの鍔迫り合いが繰り広げられる。

「無駄だ。如何なる武器もこのロンギヌスの前にはなまくら同然・・」

「ぐくっ・・、舐めるなぁ!」

ピシッ!!!

「!?」

突如、ロンギヌスに亀裂が走る。

「忘れたのか? 今の俺は神をも超える力を一時的に有していることを・・、そしてこの村雨はイレギュラーギフト。そのロンギヌスのような特別な力はないが、この刀は絶対に折れない。たとえ神殺しの武器であってもだ!」

ピシッピシッ!!!

「馬鹿な・・」

「終わりだ! メキドぉぉぉぉ!!」

バキィィーーン!!!

「がはぁっ!」

俺の村雨はロンギヌスを打ち壊し、メキドの胸に村雨を突き刺した。メキドは後方に弾かれ、倒れた。

「俺の・・、勝利だ・・」

パキン!!

俺が呟くと、サクリファイスリングが砕け散った。

「ありがとな」

俺は砕けた指輪に礼を言った。

「ま・・だだ・・」

メキドが胸を押さえながら立ち上がった。

「まも・・なく、正史の扉が・・開く・・。さすれば・・、私は・・、さあ正史よ! 私を受け入れよ! 今こそ、私が神となろう!」

メキドが光の柱に訴えた。・・しかし。

「馬鹿な! 何故だ!?」

正史の扉である光の柱は何の反応も示さなかった。

「どうやら、正史の意志に拒まれたようね」

ふと後方から声がし、振り返ると、そこには貂蝉の姿があった。

「貴様は、貂蝉!」

メキドが貂蝉を目の当たりにすると激昂した。

「どういう事だ?」

「外史に意志があるように、正史にだって意志があるのよ。正史はメキド、あなたを拒んだ。この意味、あなたなら分かるでしょ?」

「!? 何故だ!? 何故私を拒む!? 私こそが神を名乗るに相応しい存在のはずだ!」

「だからよ。人の身でありながら神を謳い、人の身でありながら人を蔑ろにするあなただから正史はあなたを拒んだのよ。人は所詮人。神にはなれないわ」

「おのれぃ・・!?」

突如、メキドの身体に異変が起きる。メキドの身体がどんどん透明になっていく。

「こ、これは!?」

貂蝉は両目を瞑り・・。

「管理者のあなたなら分かるでしょ? 外史や正史に拒まれた者がどこに行き着くかを・・」

「何故だ・・、何故だぁ! 何故私を拒むのだ! 私こそが神になるに相応しい! 私こそが全てを統べるに相応しい! 私こそが―――」

メキドの身体はどんどん透明になり、そして消えていった。

「メキドはどうなったんだ? 死んだのか?」

「いえ・・、彼は行き先は死ではなく無よ」

「無?」

「外史や正史に拒まれ、排除された者は無の世界に飛ばされるわ。そこでは何も見えず、聞こえず、感じない世界。そして死ぬ事も出来ず、永遠の行き地獄を味わう事になるわ。可哀相だけど、それが彼の末路よ」

「・・そうか」

とにかく、終わったのか。俺はその場にへたり込む。

「にしても、遅い到着だったな、貂蝉」

貂蝉は全身をクネクネさせながら・・。

「そう言わないでん。これでも今までアタシは正史の扉が開かないように時間を稼いでいたのよ? あなたがメキドを追い詰めてくれたおかげでこの外史に掛けられたら結界が弱まったからこうやって直接この塔の頂上に来れた訳よん♪」

「なるほどな・・、まあ、いろいろ助かった。お前がくれた道具のおかげで何とかなったよ」

「礼は不要よん。外史を守り、管理するのがアタシの仕事なんだから♪ ご苦労様。・・それにしても酷い怪我ね、今治してあげるわ」

貂蝉が指をクイってさせると、俺の身体が光に包まれた。すると傷や打撲、火傷がみるみる塞がり、おまけに穴や焼け焦げた衣服まで修復された。

「すごいな、こんな事まで出来るのか?」

「出来るわ。今のこの場所ならね」

「?」

どういう事だ? とりあえずそれより・・。

「そういえば北郷一刀は?」

「ご主人様はもう帰ったわ。もともと居た場所に、ね・・」

貂蝉は寂しそうに呟いた。そして正史への扉である光の柱に近づき・・。

「さてと、メキドが居なくなって正史への扉の解放が止まったとはいえ、このままにしておく訳にはいかないわね・・、けど、その前に・・」

貂蝉はこちらを振り向くと何やらぶつぶつ呟き始めた。

何だ? あれは詠唱?

そんな事を考えていると、俺の足元に奇っ怪な魔法陣が現れ、俺を包み込んだ。

「おい貂蝉! 何だこれは!? 何をしている!」

「落ち着いて昴ちゃん。これはね、ご主人様・・、北郷一刀ちゃんとの約束でもあるのよ」

「北郷一刀の? どういう事だ?」

「アタシの妖力じゃ、ご主人様をこの世に一時的に呼び戻す事は出来ても、操る事までは不可能だったの。呼び戻した際にご主人様がアタシ達に協力してくれる代わりにとある条件を出したの」

「条件?」

「それはね、昴ちゃんに掛かった守り手として外史を巡る為の力であり、あなたにとっては呪いでもある術式を解いてあげてほしい・・と。自分とした約束を守らせる為にねん」

「!?」

何だと・・。北郷一刀がそんな事を・・。約束、それは皆を幸せにする事・・、しかし・・。

「そんな事出来るのか!? 俺が調べた限りでは、如何なる守り手や管理者であってもこの術式は外せないと聞いたぞ?」

「昴ちゃんの言う通りよ。この術式は誰にも解けない・・。でも今この場ならそれが可能なのよ。正史の扉が僅かに開き、正史の力が流れ込むこの場ならね・・。その力を借りれば術式くらい解けるわ」

「良いのか? そんな事して」

「大丈夫よん♪ この場にはアタシと昴ちゃんしかいないし、今はまだ反乱者の鎮圧で皆忙しいから誰にも気付かれないわ」

おいおい・・。

「ご主人様との約束もあるけど、これはアタシ自身の希望でもあるのよ」

「お前の?」

「あの外史を去ってからの昴ちゃんはとても見ていられなかったわ。とても悲しそうで、まるであの時のご主人様みたいで・・」

「・・・」

「昴ちゃんは2度に渡って全ての外史を救い、今度は正史までも救ってくれた。もうこれ以上昴ちゃんが戦い続ける事はないわ」

俺の足元の魔法陣が更なる光を放ち始めた。

「準備は完了よ。・・最後に尋ねるわ、あなたの中の術式を解けばあなたはあの外史に帰れるわ。けどその代わりにあの外史にあなたという存在を固定されるわ。あの外史が終焉を迎えればあなたも一緒に消えてしまう。もしかしたらあの外史は数年・・、数日で終焉を迎えるかもしれない。それでも術式を外す? もちろん術式外せるのはこの場のみ。今ここで拒んだら・・」

俺は貂蝉の言葉を遮り・・。

「頼む。やってくれ。俺は誓ったんだ。必ずあの外史に戻ると。たとえ数日であっても俺は戻る。だから頼む」

俺がそういうと貂蝉は笑顔を浮かべ・・。

「そう言ってくれると思ったわ。なら、行くわよ!」

貂蝉が叫ぶと目が開けられない程の光が溢れ出した。俺の意識がどんどん遠のいていく。俺の意識が無くなる直前に・・。

「皆と幸せにね。あの外史はアタシが責任をもって管理するから心配いらないわ。何百年でも維持してあげるわ。今までお疲れ様、昴ちゃん・・」

そんな貂蝉の言葉が頭に響き、そして俺は意識を失った。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


「ん・・」

俺が目を覚ますと、そこは青空が広がった大地だった。一見して何の変哲もない道端だったが、俺にはこの場所が何処か感覚的に分かった。

「この感じ、この匂い、俺は帰ってきたんだ・・」

俺は思わず感激してしまう。そして歩き出した。何故かは分からないが、俺は導かれるように歩き出した。

10分程歩くと、とある場所に着いた。そこは向日葵の花が満開に咲き誇る向日葵畑だ。そしてそこにはその向日葵を眺める女の子が居た。俺の知ってる彼女より少しだけ成長した俺の愛する女の子の姿が・・。

俺はゆっくり彼女に歩み寄り・・。

「綺麗な花ですね」

そう彼女に話し掛けた・・。



















俺は帰ってきた・・。


















彼女達の元に・・。













〜 終わり 〜

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