小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第18話〜幼き王、求めるモノ〜















賊の討伐が終わり、城に帰還してから3日が過ぎた。自室で政務をこなしていると・・。

冥「昴、少しいいか?」

昴「冥琳か、どうした?」

冥「昴に1つ頼み事があるのだが・・」

昴「頼み事?」

冥「ああ、その・・何だ・・」

歯切れが悪いな。

冥「先程の戦でな、袁術に昴の存在を知られてしまってな」

・・・ああ、袁術に・・。

昴「それで?」

冥「袁術がお前に会わせろとうるさくてな、本来なら断りたいのだが・・」

今の孫家は袁術の客将、だから断れないというわけだ。

昴「なるほど、袁術に会ってくれってことだろ? 構わないぜ」

冥「すまないな。我らに力があればお前の手を煩わせることもなかったのだが・・」

昴「気にするな。世話になってるし、それに一度袁術にも会ってみたかったしな」

冥「そう言ってもらえると助かる」

昴「なら今から行って来るよ」

俺は筆を置き、軽く身支度をして袁術のもとに向かった。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


場所は変わって俺は玉座の間に来ている。

袁術「ふむ、ご苦労であった」

小さな子供が出迎えた。玉座に座ってることからあの子が袁術か。傍にはバスガイドの服を着た女性がいる。するとあれが張勲か。

袁術「お主が各地で名を轟かせておる天の御遣いかの?」

昴「ふむ、人に名を尋ねるならまず自分からと教わらなかったか?」

袁術「むっ」

張勲「あなた、お嬢様に何て口の聞き方をするのですか!」

昴「やれやれ、三公袁家の末裔はそんなことも出来ない礼儀知らずだと?」

張勲「あなた・・!」

張勲が一歩前へ出る。

袁術「待つのじゃ七乃!」

張勲「お嬢様?」

袁術「確かにお主の言うとおりなのじゃ。妾は袁術、字は公路なのじゃ」

張勲「そんな〜、お嬢様がそのような真似を〜」

袁術「妾は麗羽と違って礼儀知らずではないのじゃ。七乃も名乗るのじゃ」

張勲「うぅ〜張勲です」

とりあえず礼儀知らずなわけではなさそうだ。

昴「ご丁寧に。俺は御剣昴だ。それで・・・俺にどんな用で?」

袁術「うむ、聞けばお主、腕も立つし頭も切れるらしいの?見れば顔も良いしの。お主、今より妾に仕えるのじゃ!」

勧誘しているつもりか? ていうかもはやこれは命令だ。

昴「悪いが俺には既に仕える相手がいる。それには応じられない」

袁術「嫌だと申すのか?」

昴「残念ながらな」

袁術「むぅぅ」

袁術は唸りを上げている。

袁術「仕えるべき相手というのは孫策かや?」

昴「違う。孫策ではない」

袁術「では誰なのじゃ?」

昴「劉備玄徳だ」

袁術「劉備? 七乃〜、知っておるか?」

張勲「確か幽州で名を上げている義勇軍の長が確かそのような名前でしたね〜」

袁術「義勇軍・・」

用がこれだけなら早く政務を片付けたいんだがな。

袁術「・・どうしても駄目かや?」

昴「悪いな」

袁術「・・・」

昴「・・・」

早く帰って政務を・・・はぁ。

袁術「・・うぅ〜」

昴「?」

袁術「嫌じゃ〜! 嫌なのじゃ〜! 天の御遣いを妾のもとに置きたいのじゃ〜!」

うわ、駄々こねはじめた。どう考えたって袁術が非常識なんだから張勲も止めろよ。ちらりと張勲を見る。

張勲「よっ! 明らかにお嬢様が非常識なのに気付かない、お馬鹿さん、可愛いぞ♪」

駄目だこりゃ。

袁術「妾がここまで頼んでおるのじゃぞ?」

昴「駄目だ」

頼むって、命令だっただろ。だんだん腹立ってきた。

袁術「うぅ〜、仕えるべき相手がいるから駄目なのじゃな? ならばその者がいなくなれば妾に仕えるのじゃな?」

あ? こいつは何を言って・・・。

袁術「七乃〜! 今すぐ兵を纏めて劉備とやらを始末するのじゃ!」

昴「!?」

張勲「お、お嬢様!?」

こいつ、本気で言ってるのか? 他国の領に他国の兵が侵入なんかしたら桃香を始末して袁術の配下になるとか、そんな次元の話じゃない。

袁術「何をしてる七乃! 早く仕度をせぬか!」

張勲「お嬢様〜」

もはや張勲すら引いている。
袁術、この子に、良い悪いも、善も悪も、正しいも間違いもない。ただ・・ただただ子供なだけだ。・・・少し分からせてやる必要があるな。
俺は袁術に歩み寄る。

張勲「な、何ですか!? ・・お嬢様から・・っ!?」

俺は静止させようとする張勲を目で訴えかけた。

邪魔をするな・・。

目でそう訴えた。張勲は道をあけた。再び袁術に歩みより、袁術の目の前に立つ。

袁術「な、何をするつもりじゃ!」

俺は目の前で戸惑っている袁術に、

ゴン!!!

袁術「ぴぎゃ!」

拳骨を入れた。

張勲「あ、あなた何を!?」

張勲が何か言ってるがとりあえず無視だ。

昴「袁術」

袁術「ひぐっ! 痛いのじゃ〜、お主、妾にこのような真似をしてただで・『もう一発拳骨落とすか?』何でもないのじゃ。」

俺は袁術に目線を会わせる。

昴「袁術、君がどれだけ偉くて、君の先祖がどれだけすごいかは知らない、だけどな、だからといって誰もが君に従うとは思うな。権力を笠に我が儘言うのはただの子供だ。上に立つ者ならもう少し自分の立場を自覚するんだ」

袁術「・・・」

昴「君も大切なモノを無理やり奪われたら嫌だろ? 苦しいだろ? だから今後は我が儘だけで権力を使うないいな」

袁術「・・・うむ。」

昴「それで、いけないことをしたり、言ったりしたらどうするのか、それも教わらなかったのか?」

袁「うぅ〜、ごめんなさいなのじゃ〜!」

袁術は泣き出してしまった。

昴「はい、良くできました」

頭をナデナデしてあげた。

袁術「ヒック・・、ヒック・・」

まだ泣き止まないな。

昴「しょうがないな、それ!」

袁術「にゃ!」

俺は袁術を抱き抱え、そのまま抱っこした。

昴「もう袁術は立派な王なんだからいつまでも泣いてちゃ駄目だろ?」

袁術「う、うむ」

昴「ほら、泣き止むまでこうしててやるからな」

俺は袁術が泣き止むまで抱っこしながら頭を撫で続けた。














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※※※※


しばらくすると袁術は泣き止んだので床に下ろして、改めて配下にならないことを告げた。

袁術「・・分かったのじゃ。諦めるのじゃ・・」

ようやく分かってくれたか。

昴「俺は仕事があるからそろそろ戻るな」

袁術「ま、待つのじゃ!」

昴「ん?」

袁術「・・配下にならなくても良いから、また妾の元に来てくれるかの? 一緒にお話してくれるかの?」

昴「構わないよ。俺が暇な時にでも遊びにいくよ」

袁術「本当じゃな!? 約束じゃぞ!?」

昴「あぁ、またな」

袁術「また来るのじゃ!」

俺は玉座の間から出ていった。



















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※※※※


昴「あぁ〜、何かいろいろ疲れたな」

俺が城の廊下を歩いていると・・。

冥「昴、今戻ったか。お疲れのようだな」

昴「まぁ・・な」

冥「どうした? 袁術に我が儘でも言われたか?」

昴「我が儘って言えば我が儘だが・・ただ雪蓮達に少し同情したくなったな」

冥「どういうことだ?」

昴「俺から見て、袁術はただの子供だ。何処にでもいる純粋な、ね。どんな正義より、どんな悪より戦いたくはない相手だ。少なくとも俺に袁術は斬れないな」

冥「昴・・」

昴「俺はそっちの事情にとやかく言わないが、自分が雪蓮の立場でなくて良かったと思ってる。・・・ま、とりあえず政務に戻るな」

冥「そうか・・」

昴「それじゃ、またな」

俺は自室に向かった。



















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袁術side

昴が立ち去った直後。

張勲「お嬢様? 拳骨までされて何で謝ったりしたんですか?」

袁術「あの御遣いが言った言葉は昔父様が妾にかけてくれた言葉なのじゃ。それにの抱っこして頭を撫でてくれたのも父様がしてくれたことじゃ」

張勲「お嬢様・・」

袁術「またすぐに会いたいのじゃ、抱っこしてもらいたいのじゃ」

張勲「それなら呼んじゃえばいいんですよ♪」

袁術「駄目なのじゃ! 我が儘で権力を使わないのじゃ! 約束してくれたから来てくれるのを待つのじゃ!」

張勲「えーん。お嬢様が真面目に・・まぁこれはこれでいいか♪」

袁術「何か言うたか?」

張勲「何でもありません〜♪」

天の御遣い、確か御剣昴じゃったかの? またすぐにきてほしいのじゃ。あの者は父様と一緒で傍におると胸が暖かくなるのじゃ。また一緒にお話したいのじゃ〜。

袁術は無くなった家族の想いと愛を昴に重ねるのだった。








続く

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