第45話〜大国襲来、苦汁の選択〜
昴side
いつものように政務やら軍務やらをこなしていると、北方に放った細作の1人が戻った。そしてその細作に告げられた内容は・・。
曹操と袁紹の激突・・。
この国での巨大勢力同士の激突だ。各々兵力は袁紹が総勢約10万に対し、曹操の総兵力は約4万。その差は2倍以上だ。この報告を受け、皆袁紹が優勢と予想しているが俺はそうは思わない。確かに兵力差だけ見れば袁紹が優勢だが、将兵の差はそれ以上。王の資質と器に関してはもはや天と地ほどの差がある。両者はぶつかり合い、結果は予想通りの曹操軍の勝利。袁紹は逃亡し、袁家はこの国の勢力図から消えた。これにより、華琳は冀州を取り込み、大勢力となった。一方、俺達は内政に取り組んでいた。というよりも取り組まざるを得なかった。理由は先の戦だ。結果だけ見れば完勝だが、徐州に赴任してすぐの戦であったこともあり、やはりそれなりに被害は出ていた。正直、華琳が冀州を納めることになったのはかなり痛い。体勢が整い次第徐州に侵攻してくるのは目に見えていたからだ。袁紹軍と曹操軍の戦いに雪崩れ込んで漁夫の利を得ることも頭にあったが、それは出来なかった。理由はまず先の戦いで疲弊したこと。兵力そのものは恋の兵力と美羽の兵力の残党を組み込んだことにより解決したが、戦はそれだけでは勝てない。まず恋の兵は練度はかなり高いのだが、俺達の兵と連携がすぐにはうまくいかず、実戦で戦うにはまだまだ調練が足りない。次に美羽の兵の残党だが、これは論外で、練度が圧倒的に低すぎる。言ってしまえば賊や義勇兵よりマシな程度。実戦に連れて行けば役に立たないどころか足を引っ張りかねないレベルだ。かといってその兵を外した兵力では戦えない。以上の理由から内政に従事した。
はっきり言ってこの乱世で何も動きをみせないのは致命的なんだが、こればかりはどうしようもない。華琳に関しては、祈るしかないな。じっくり体勢を整えるために時間をかけてくれることを。しかしこの祈りは届くことはなかった。それは国境を守っていた兵士の1人が傷ついた体と共に駆け込んできたことから始まった。
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「申し上げます! 北方の国境に突如、大軍団が出現! 関所を突破し、我が国に雪崩れ込んできております!」
昴「っ!?」
来たか。ちっ、手を打つのが早い。
桃「ええっ!? 大軍団って一体どこのっ!?」
昴「北方には曹操しかいないだろ」
桃「あっ、そっか」
愛「ぬぅ・・。北方を平定し、治安を維持している曹操の手腕は認めるが、何故更なる戦いを望むのだ」
朱「覇王として大陸を統一し、己の理想を現実の物とするためでしょう」
雛「あの人が本腰を入れて動き出せば、大陸は再び戦乱の渦に巻き込まれます」
鈴「だけど攻めてきてる以上、戦うしかないのだ」
星「鈴々の言う通りだな。・・して、敵の兵数は分かっているのか?」
「はっ、それが・・」
元々の領土に、冀州が加わったんだ。おそらくその兵力は・・。
「敵の兵力はおよそ50万ほどかと」
やはりか・・。
桃「ご、50万!?」
「はい。地平線を埋め尽くすほどの人の波が、あっという間に関所を覆い尽くし、瞬く間に関所を破壊しつくしてしまったのです」
桃「50万って・・」
朱「我が軍の規模は約3万。義勇兵を募るなどをすれば何とか5万人には届きますけど・・」
星「勝負にならんぞ、これは」
雛「敵よりも多くの兵を準備するのが、兵法の基本ですからね・・」
愛「しかし、我が国の住民を守るためにも、曹操軍を止めなければ!」
鈴「でも、5万人で50万人に勝てる方法なんて、考えたって見つからないのだ」
想「しかし、何か策を講じねばこの国は守れんぞ?」
朱「その通りです。何か策を考えないと。」
雛「策・・策・・策・・・策・・」
皆が懸命に策を考える。しかし皆気付いている。5万で50万に勝つ方法などないことを。
昴「・・現状で策なんてない」
雫「・・ではいかがなさいますか、昴様?」
昴「・・・・徐州を放棄する」
愛「!?」
星「・・それはつまり、逃げるということですかな?」
昴「ああ」
愛「お待ちください! それは徐州の民を見捨てるということですか!?」
昴「・・形的にはそういうことになる」
愛「そんな・・」
星「逃げるとして、一体何処へ逃げるおつもりですか?」
昴「北は曹操、南は孫策、東は海だ。ならば必然的に西しかない」
星「西というと荊州辺りですかな?」
昴「いや、荊州は曹操と国境を接することになるから一時しのぎにしかならない」
想「ならば一体何処へ?」
昴「目指すのは益州だ」
詠「ちょっ! 益州って、ここからどれだけ距離があると思ってるのよ!?」
昴「それは百も承知だ。しかし、今の俺達が生き延びるにはそこしかない。朱里と雛里の意見はどうだ?」
朱「・・それしかないかと・・」
雛「益州は現在、継承問題がこじれて、内戦勃発の兆候が見られていますので・・」
桃「その隙を付いて益州に行くってこと? ・・・でも、何だか気が進まないなぁ」
昴「やらなきゃ曹操にやられちまう。どのみち内戦が起こればたくさんの犠牲が出る。隙を付いて本城を制圧すれば、結果的に犠牲は少なくなる」
朱「それに太守の劉璋さんの評判、あまり良いものではありませんし・・」
桃「そうなんだ。なら・・身勝手かもしれないけど、劉璋さんのところに押し掛けちゃおう」
昴「決まりだ。なら急いで支度をしよう。桃香と雛里と鈴々は書類を・・」
愛「お待ちください!」
昴「どうした、愛紗?」
愛「さっきから逃げるなど、益州へ行くだの、この徐州はどうするのですか!?」
昴「だから放棄すると言っただろ?」
愛「我々が居なくなったら徐州の民はどうやって自分の身を守ればいいんですか!?」
昴「それは曹操が守ってくれる。曹操は名君だし、曹操軍の軍律の厳しさはかなりのものだから略奪だって起きない。何も心配はいらない」
愛「だから逃げるのですか?」
昴「ああ。・・愛紗。納得出来ないのはわかる。だがこれは仕方のないことだ。勝ち目0の戦に住民を巻き込む分けにはいかないだろ?」
愛「ですが・・」
昴「聞き分けてくれ、愛紗。負け戦と無駄死には違う。俺達は俺達の理想を叶えるためにここで死ぬわけにはいかないんだ」
愛「理想を叶えるために、徐州の民を見捨てるのですか?」
雫「・・その辺にしておきなさい、愛紗。」
愛「黙っていろ雫。ご主人様が仰ることは分かります、ですがご主人様はどうしてそう淡々と見捨てると言えるのですか?」
雫「おだまりなさい、愛紗!」
愛「ご主人様は悔しくないのですか!? 折角我らが発展させてきた国を奪われるのですよ!? 民を身勝手に見捨てて、ご主人様は何とも思わない・・」
昴「そんなわけがないだろ!」
愛「っ!?」
皆が静まる。
昴「嫌に決まってる! 悔しいに決まってる! 俺だってこの国を守れるならそうしたい! だけどな、俺達がここにいることでこの国とその民を苦しめることになっちまう! この国の民にはすまないと思ってる。だけどな、俺達は戦乱の世を終わらせ、皆が笑って暮らせる国を作るという理想叶え、そしてそのために死に、殺めてきた者のためにも、俺達はここで終わるわけにはいかないんだよ!」
愛「ご主人様・・」
昴「ここにいる皆にもすまないと思ってる。予想出来た事態に何の対策も取らず、国を捨てて逃げろなどとこんなことしか言えない愚かな俺を。天の御遣いと信頼してくれた皆の期待を裏切ったことを。本当にすまない。でもこれだけは約束する。この屈辱を返す舞台は必ず用意する。だから今はこらえてくれ。頼む」
俺は愛紗と皆に頭を下げた。
桃「頭を上げてよご主人様。私達は裏切られたなんて思ってないよ? ねっ、皆?」
昴「桃香・・」
星「無論です。今の状況は誰であっても防げなかったでしょう。主に非はありませぬ」
昴「星・・」
鈴「お兄ちゃんはいつも一生懸命なのだ! そんなお兄ちゃんが鈴々は大好きなのだ!」
昴「鈴々・・」
朱「私達はどこまでもご主人様について行きますよ。ねっ、雛里ちゃん♪」
雛「うん。いつも誰かのことを思い、誰かのために行動するご主人様が大好きだから」
昴「朱里、雛里・・」
雫「わたくしは常に昴様と共にあります。昴様の行くところならば何処までもお側におりますわ」
想「私はお前に生きる道と意義をもらった。その恩に報いるため、お前についてゆく」
白「昴には間接的に命を救ってもらったようなものだし、桃香と同様に信頼している。私もお前についてゆくぞ」
恋「昴と一緒だと楽しい。昴のこと大好き。恋はずっと昴と一緒にいる。」
ね「むむっ、ねねはあくまでも恋殿についてゆくだけですぞ! 恋殿のついでについていってやるのです!」
美「妾と昴はずっと一緒なのじゃ!」
七「私も美羽様と一緒について行きますよー♪」
月「私も自身の道をご主人様と共に歩みたいです♪」
詠「ボクもついていくわ。か、勘違いしないでよ。あくまで月のためなんだから!」
昴「皆・・ありがとう・・」
皆には感謝の気持ちでいっぱいだ。
昴「事は一刻も争う。すぐに行動に移すぞ。皆、準備に取りかかってくれ」
皆「了解!」
昴「俺は街の長老達に事情を説明しに言ってくる」
桃「私も行くよ、ご主人様」
昴「しかしな・・」
桃「ご主人様だけに汚れ役を押し付けたくないから。だから私も行く」
昴「・・分かった、一緒に行こう」
桃「うん!」
徐州脱出に向け、皆が動き出した。
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※※※※
俺と桃香で街に行き、街の長老や代表者を広場に集めた。
「それで、劉備様、御遣い様、お話というのは・・」
昴「ああ。今から話す。時間がないから単刀直入に言う。今この国に曹操軍の大軍50万が押し寄せてきている」
「!? なんと・・」
民達がざわつき始めた。
昴「戦っても勝ち目がない。だから俺達劉備軍は徐州から逃げる」
再び民達がざわつく。
昴「勝手なことを言ってすまない。これからは曹操の指示に従ってくれ」
「・・・」
民達は何やら話し合っている。
昴「話しは以上『お待ちください』・・何だ?」
「つまりはこの国を捨て、逃げるということですな?」
昴「・・そうだ」
「でしたら、我々も連れていってください」
昴「!? ・・・駄目だ」
「お願いします! 私達をあなた方と一緒に連れていってください!」
昴「それだけは駄目だ。もしついてくれば辛い思いをすることになるし、それについてくれば敵戦力と見なされ、攻撃される可能性がある。何、心配はいらない。曹操は君達に圧政を強いたり税率をあげたりはしない。少し戸惑うことになるかもしれないが、それだけだ。きっと君達の安全な暮らしを守ってくれる。だから安心してくれ」
「御遣い様の言うことに嘘はないのでしょう。ならばお聞きしますが、曹操という王は御遣い様や劉備様のように私達のひとりひとりを気にかけるような方ですかな? 私達の顔と名前を覚えていただける方なのですかな?」
昴「それは・・」
「私達は安全で平和な国に暮らしたいのではありません、あなた達が治める国に暮らしたいのですよ。ですのでお願いします。私達を連れていってください」
昴「・・辛い旅になるぞ? 殺されるかもしれないぞ?」
「覚悟の上です。もし仮に死ぬことになったとしても、最後の最後までお2人の傍に居られたことを誇りに笑って逝きます」
「そうですぜ!」
「死んだじい様にはいい土産話になりますぜ!」
昴「皆・・」
皆・・どうして・・。桃香達も皆もどうしてこんなにも・・。
俺は自分の目から流れる涙を止めることが出来なかった。
昴「どうして・・。どうして皆命をかけられるんだ・・。俺はお前達を見捨てたんだぞ? なのにどうして・・」
桃「ご主人様・・」
桃香が俺を抱きしめる。
「そんなあなただからついていきたいのですよ。私達なんかのために涙を流してくれるあなただから」
桃「ご主人様、連れていってあげよう? ここまで慕ってくれる人達を置いていけないよ」
「劉備様・・」
桃「でも約束して。私達は何があっても皆を守るから。だから皆も最後まで生きることを諦めないで。それを約束してください」
「分かりました。皆も良いな。必ず生き残るのだ。いいな!?」
「了解ですぜ!」
「はい!」
昴「約束だぞ? ならば早く荷物を纏めて準備してくれ、すぐにでも移動開始するぞ!」
「「「「はい!」」」」
俺達の脱出劇が始まった。
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俺達は準備を整え、支城や関所の兵を全て集め終えると、益州目指しての大行軍が始まった。最終的に6割の民がついてきた。持病持ちや体に障害がある民とその家族、残りは・・。
『いつか戻ってきた時のために誰か残る必要があるので、我々は残ります』
という理由で残った。民を引き連れているため、当然行軍速度はかなり遅い。華琳との軍の差なんてものはあってないようなものだ。だが必ず守る。ここにいる将と兵と民は必ず俺が守ってみせる!
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曹操軍side
秋「おかしいな」
春「ん? 何がだ? 秋蘭」
秋「本隊よりもかなり先攻しているのに、劉備軍の姿が全く見えない」
春「我らにまだ気付いていないのか。それとも恐れをなして震えているのか。どちらかではないのか?」
秋「そこまで劉備が無能な輩とは思えんな。仮に劉備が無能であっても、周囲の者も無能というのはありえん」
春「それに劉備の周囲には関羽や張飛も居る、か」
秋「何よりあそこには御剣昴が居る」
春「・・そうだな」
季「兄ちゃん・・秋蘭様、ボクが先行して見てきましょうか?」
秋「それは止めておいたほうがいいだろう。相手は昴だ。ここは慎重に部隊を動かそう」
季「りょーかいでーす♪」
春「では行くか!」
秋「ああ」
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昴side
随時斥候を放ちながら進軍している。もうまもなく長坂橋へ到達する。
とりあえずここまでこれたがもうすぐ接敵するな。
昴「敵はもうすぐ来る。部隊を2つに分けよう。先行して益州の城を落とす部隊と曹操軍の攻撃を防ぐ部隊の2つに分ける」
星「それしかありませんな。幸い長坂橋を背にすればかなり時間が稼げます。後方の部隊に3万。前方に2万を割り振り、残りを民達の護衛に廻す、というのでどうですかな?」
昴「それで問題ないだろう。次に将の振り分けだが、先鋒は愛紗。護衛部隊は星が指揮を執ってくれ。恋とねねと想華は桃香の護衛を。次に殿だが・・」
桃「殿は私が受け持つよ」
昴「悪いが桃香には殿よりも先頭に立って皆を導いてほしい」
桃「でも、私は皆を・・」
昴「先頭に立ち、手を引いて歩く。これは桃香にしか出来ないことだ。桃香の励ましが皆を勇気付けてくれるはずだ」
星「主の言う通り。桃香様は導き手だ。それは桃香様にしか出来ないこと」
鈴「そうそう」
桃「うん、分かったよ」
昴「話しは決まった。皆配置につくぞ。桃香は前方に。俺は後方につく」
愛「ご主人様! あなたも桃香様と共に前方に居るべきです! あなたも導き手の一人なんですから!」
昴「俺は桃香のような導き手ではなく、皆を守る守り手だ。それに俺が後方に居れば曹操に対しこれ以上にない威嚇になる。曹操は俺の事をよく知ってるし頭も良いから俺が居れば迂濶には仕掛けてはこれないだろう」
愛「むぅ・・」
昴「たびたび悪いが他に手が無いんだ。聞き分けてくれ」
愛「・・・分かりました。ですが・・」
昴「心配するな、必ず務めを果たし、無事戻る」
愛「約束ですよ?」
昴「ああ。それじゃ皆、持ち場についてくれ」
皆「了解!」
それぞれが持ち場へと向かっていった。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
二手に分かれ、進軍しているとやがて、長坂橋が見えてきた。
鈴「お兄ちゃん、これからどう布陣するのだ? やっぱりこの橋の前に布陣するの?」
雫「それが最良ですわね」
昴「橋は利用するが・・・鈴々、雫、2人は後方にいつでも迎撃できる体勢をとりながら後方についていってくれ」
鈴「? どういうことなのだ?」
雫「この長坂橋を利用しない手はないかと思いますが・・」
昴「策を仕掛ける。説明してる時間がないからとりあえず従ってくれ」
鈴「ん〜、よく分からないけど了解なのだ!」
雫「昴様?」
昴「どうした?」
雫「・・・分かりましたわ。必ず合流してくださいね。必ずですのよ?」
昴「分かってるって」
鈴々と雫は民達の後方へと向かった。
昴「さてと・・」
ここからは俺次第だ。
昴「始めるか。一世一代の―――」
昴「―――大勝負を」
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※※※※
秋蘭side
我らが彭城に向かうとそこは劉備の姿はなかった。他にも住民の数が少ないなどと奇妙なことだらけであった。このことを華琳様に報告すると、劉備は徐州を捨て、益州へと逃げる算段を取ったという結論に至った。そして姉者と季衣と霞を連れ、劉備達の追撃へと向かった。進軍していると、先ほど放った斥候が戻ってきた。
「長坂橋の手前に敵影を見つけました」
秋「やはり長坂橋を利用してきたか・・・それで、率いている将と兵数は?」
「そ、それが・・」
春「? どうした?」
「長坂橋前には、御剣昴、たった一騎です!」
春「何だと!? どうする、たった一騎なら兵を突撃させるか?」
秋「いや、昴が策も無しに出てくるとは思えん。我らが先行し様子を見よう」
春「分かった」
たった一騎だと? 昴め何を考えている。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
長坂橋前にたどり着くとそこには本当に昴がただ一騎たたずんでいた。見たところ伏兵も見当たらない。
秋「久しぶりだな。昴」
昴「そうだな。連合以来だな」
春「ところで貴様、こんなところで1人で来て、一体何を企んでいる?」
昴「企み? 特にこれといった策はないよ」
季「じゃあもしかして、投降しに来たの?」
昴の投降と引き換えに劉備を見逃してもらう。これなら合点は行く。実際華琳様なら了承するだろう。
昴「はずれだ」
張遼「ほんなら昴1人で殿か? せやったらウチらも舐められたもんや」
やはり殿か・・。
昴「それもはずれだ」
何だと。投降でも殿でもなければ、昴は一体何しにここに来たのだ。
昴「俺さあ・・」
秋「?」
昴「今日ほど自分か情けないと思ったことはない。桃香達には屈辱を、民達にはかなりの苦労を強いてしまったからな」
秋「・・突然なにを・・」
昴「それなのに皆は俺を好きだって、信頼しているって、どこまでもついて行くって言うんだ。すごい嬉しかった」
昴は構わず続ける。
昴「恨まれても、罵倒されても仕方ないのに俺に優しい言葉を掛けてくれる。ホント、皆いい人ばかりだ」
秋「・・・」
昴「だからさ、そんないい人達をみすみす死なせたくないんだよ・・・・だから・・」
秋・春・季・張遼「っ!?」
突如体が重くなり息苦しくなる。
昴「そんな皆を苦しめるお前達は絶対許さない」
昴から膨大な量の殺気があふれだす。
昴「投降? 殿? 違う、俺はお前達を殲滅しに来たんだよ・・・さあ行くよ? 俺の全力、お前達に見せてやるよ。そして後悔させてやるよ、お前達が誰を怒らせたかを。死ぬ覚悟が出来た奴から来い!」
長坂橋での戦いが今始まる。
続く