第7話〜夏候姉妹、いつかその領域に〜
惇「死ねー!!」
昴「はずれだ」
夏候惇の剣が空を斬る。
ドゴーーーン!!!
昴「おうおう、相変わらず威力だけは一級品だな」
惇「黙れぇぇい!!」
夏候惇が次々と攻撃を繰り出すが・・。
昴「当たらねぇよおでこ」
惇「おでこ言うなーーー!!」
夏候惇の斬撃がいっそう激しくなるが、攻撃が単調過ぎて避けやすいことこの上ない。
ガキン!!
俺は村雨を引き抜き、夏候惇の剣を弾き飛ばし、首筋に村雨を当て・・。
昴「勝負ありだ」
惇「くそー!! もう一度だ!」
昴「仕事があるからまたな今度な。お前も仕事残ってんだろ?」
惇「そんなものは後だ!」
昴「お前それで仕事後回しにして華琳に怒られたろ」
惇「むぅ・・」
昴「お互い暇ならいつでも受けてやるから、な?」
惇「絶対だぞ! すぐに仕事を終わらせる。貴様もすぐに終わらせろ!」
昴「はいはい」
それだけ言い残すと夏候惇は政務へと走り出した。
?「いつもすまないな」
昴「夏候淵か」
淵「姉者が政務をサボっているので呼びに来たのだが、昴が促してくれて助かった。・・しかし、相変わらずの強さだな」
昴「よせよ。夏候淵だって分かってるだろ? 俺と夏候惇は本来あそこまで一方的な展開になるほど力の差はない」
淵「そうだろうな」
昴「それにこっちもそれほど余裕があるわけじゃないんだぜ?」
頭に血を昇らせると攻撃が大振りかつ単調になるが威力が半端なく上がるから結構ヒヤヒヤもんだ。一発でも避けそこねたらそれこそ死、だからな。
昴「何か助言でもしてやったらどうだ?」
淵「助言をしても姉者はきっとすぐに忘れてしまうさ」
昴「だろうな」
それはそれで困ったもんだな。
昴「ではまたな」
夏候淵に告げると俺は警邏に向かった。
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※※※※
翌朝、自室で政務をしていると。
タタタタタ・・、ドン!!!
惇「御剣!」
昴「おう、どうした?」
惇「力を貸してくれ!」
昴「え?」
顔合わせれば剣を向けて勝負だ勝負だ言ってくる夏候惇が頼みごと?
昴「どうした?」
惇「うむ、秋蘭が緊急事態なのだ! 貴様の力を貸して欲しくて来たのだが、手伝ってもらって構わんか?」
昴「夏候淵が!? わかった、案内してくれ」
惇「いいのか?」
昴「当然だ。夏候淵が大変なんだろ?」
惇「うむ、・・・こっちだ」
俺は夏候惇の後に続いた。
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※※※※
昴「で? 要するに1人1個の限定のお菓子を華琳のぶんも買いたいから一緒に並んでほしいと」
淵「まあ、そういうことだ」
惇「ここのお菓子は華琳様の大好物なのだ! それを是非とも今日のお茶で出したいと思ってな」
昴「なるほどな」
惇「駄目か?」
昴「いや構わないさ。ただもう少し普通に頼みに来てくれ」
惇「わ、私は秋蘭の言っただけだぞ! こらっ、秋蘭! 貴様も何とか言ったらどうだ!」
淵「そうか、私の教えたとおりに言ったのだな、姉者は」
惇「お前が1度試してみろと言ったからな。だいたいお前の言うことは間違ったことがないし」
淵「今回も言ったとおりになっただろ? 姉者」
惇「うむ・・ううむ」
昴「はあ・・」
惇「ところで、貴様が我らを手伝うことにしたのは秋蘭を好いているからなのか?」
淵「・・なに?」
昴「ん?」
どういうことだ?
惇「あの時の御剣の目はいつになく真剣だった。それは秋蘭を好いているということだろう?」
昴「うーん」
淵「随分と誤解があるようだな。」
惇「いくら貴様でも秋蘭は渡せんぞ! 確かに腕は立つし頭もいいし何より華琳様に認められているが秋蘭は華琳様のものだし、それに私だってその・・あぁ、うぅ・・」
昴「どうした?」
顔赤くしたり、慌て出したりどうしたんだ?
淵「いろいろ誤解はあるようだが、要するに姉者は私だけではなく姉者も一緒にもらってほしいと言うことか?」
惇「//・・にゃ、にゃにを言っている、秋蘭〜」
淵「おや?姉者はよく言っているではないか。御剣はなかなかの美形で・・」
惇「わーわーわー!」
昴「あまりからかってやるなよ」
淵「くくっ、姉者はかわいいなぁ〜」
惇「う〜」
そうこうしているうちに列は進み俺達は無事に限定のお菓子を買うことができた。
昴「よかったな」
惇「うむ! これも貴様のおかげだ! 礼を言う!」
昴「ここまで素直な夏候惇も珍しいな。雨でも降るか?」
惇「ふふん。今日の私はとても心が広いから貴様のそんな嫌みにも動じないのだ! ふんふーん!」
淵「姉者。浮かれるのはよいが菓子を落とさないようにしてくれよ?」
買ったお菓子は今夏候惇が持っている。どうしても持ちたいって言うから持たせている。夏候淵はどうも心配みたいだな。
惇「分かっている! 任せておけ!」
昴「しかし、相変わらず華琳が絡むと上機嫌だな」
淵「まったくだ」
惇「当然だ! 華琳様は強く気高く聡明でお優しく、そのうえ私達を可愛がって下さる方などいはしないのだ」
昴「そ、そうか」
俺は夏候惇の勢いに圧倒されていた。
惇「いいか! 華琳様はな・・・」
夏候惇はヒートアップし始めた。その時、話しに夢中で道の真ん中に飛び出してしまった。
昴「!? 危ない!」
淵「姉者!」
突然早馬が飛び出した。俺は縮地で弾かれた夏候惇のもとへ向かった。倒れそうになる夏候惇を受け止めた。もちろんお菓子もしっかりキャッチした。夏候惇は突然のことで呆然としていた。
昴「ったく、子供じゃないんだから道の真ん中に飛び出したら危ないだろ」
惇「//・・・あっ」
昴「ほれ」
夏候惇にお菓子の箱を手渡す。
昴「華琳を喜ばせたいんだろ? しっかり持ってろ」
惇「//・・ち・近い」
昴「あぁすまないな。怪我はないか?」
惇「だ、大丈夫だ」
どうやら怪我は無さそうだな。顔は赤いが、その時・・。
「隊長!」
昴「ん?」
あれは警備隊の1人だな。
「盗人を捕まえようとしてるのですが手強くて、応援をお願いします!」
そうか、今日この地区に凪達いないんだっけ。
昴「分かった、すぐに行く。2人とも急用が出来た。すまないが行くな」
惇「あ、あぁ」
淵「今日はすまなかったな」
昴「じゃ、またな」
俺は現場に急いだ。
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※※※※
夏候惇side
淵「姉者、大丈夫か?」
惇「大丈夫だ」
どういうことだ。様子がおかしい。顔が熱い。
惇「秋蘭はこれは何なのだ?」
淵「ふふっ、私からは教えられないな」
惇「秋蘭〜」
何なのだ? これもきっと御剣のせいだな! そうに違いない! 奴を倒せばきっとこんなものなど・・。
惇「秋蘭! 御剣昴を倒す為の方法を一緒に考えてくれ!」
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※※※※
昴side
結局盗人は現場に駆けつけた俺が一瞬で制圧した。最近警備隊は少し気が緩んでたからいい刺激になっただろ。それから翌日、城を歩いていると・・。
惇「御剣昴! 勝負だ!」
昴「いいぜ、受けて立つ」
庭に場所を移し・・。
昴「またやられに来たか?おでこ」
惇「・・・」
ん? 様子がおかしいな。
惇「行くぞ!」
夏候惇が飛び込んで来た。いつにもまして、剣筋が鋭い。左に避けるとすぐさま対応してきた。
昴「!?」
ギィン!!
俺は村雨で剣を受け止める。
惇「ははっ! いつもの余裕はどうした!」
昴「ちぃ!」
剣を弾き、夏候惇に下から一閃する。
ギィン!!!
夏候惇は剣でそれを防いだ。その際に夏候惇は後ろに弾かれた。いや自分で飛んだのか・・。
昴「いつもとはひと味違うみたいだな。なら!」
俺もマジで戦うことにしよう。
ギィン!! ガン!! ギィン!!
一合、二合、三合と斬り結んでいく。
惇「はぁ!」
夏候惇が正面から突っ込んでくる。俺の得物の方が射程が長い。夏候惇の射程外から斬る。
昴「ふっ!」
俺の射程内に近づいたのを確認し村雨を一閃する。しかし・・。
ザクッ!!!
昴「何!」
射程内直前に夏候惇は剣を地面に刺し、急ブレーキをかけた。
俺の刀は夏候惇の眼前を素通りする。
惇「もらった!」
夏候惇は刀が眼前を通ったのを確認すると一気に間合いを詰める。
昴「ちぃ!」
俺は止まろうとせずにそのまま勢いのまま1回転しそのまま夏候惇の胸に蹴りを入れた。
惇「何! ガァ!」
夏候惇もこれには対応できず、蹴りを受けると後方に吹っ飛んだ。
危なかった。俺の刀が通常より長い刀じゃなかったじゃなかったら一撃もらってた。
刀が長い分距離が出来た。それだけの差だ。
昴「夏候惇、大丈夫か!?」
惇「・・・」
何か様子がおかしいな。ん? これは?
夏候惇の両耳に何かを見つけたのでそれを取ってみる。
惇「あっ!?」
昴「これは耳栓? ・・・あぁ、なるほど」
だから全く挑発が効かなかったのか。
昴「夏候惇、大丈夫か?」
惇「うぐ、問題ない」
少し苦しそうだがしっかり自分の足で立ち上がった。
昴「悪いな、必死過ぎて加減が効かなかった」
惇「本気なのは望むところだ。しかし・・・」
昴「ん?」
惇「お前は強いな。きっと私とは違う領域にいるのだろう」
昴「どうだかな」
惇「私もいつまでもやられっぱなしでいるつもりはない。いつか必ずお前の領域にまで辿り着いてみせる!」
昴「あぁ、待ってるぜ」
春「春蘭だ」
昴「ん?」
春「私の真名は春蘭だ。この真名、御剣お前に預ける」
昴「いいのか?」
春「華琳様も預けているようだしな。それに私は武人としてお前を認めている」
そうか。なら・・。
昴「分かった、では春蘭。君の真名を預かろう。俺のことは昴と呼んでくれ。これからもよろしくな」
俺は春蘭に手を差し出す。
春「? これは何の真似だ?」
昴「これは握手といってこれからもよろしく頼むというまぁ、一種の儀式だ。手を握ってくれ」
春蘭がおそるおそる手を握る。
昴「これからもよろしくな春蘭」
春「あぁ! よろしく頼むぞ! 昴!」
がっちり握手を交わした。
春「では私は行くぞ。また勝負だぞ! いいな!」
昴「もちろんだ」
春蘭は調練場に向かった。それと入れ違いに夏候淵がやってきた。
昴「耳栓は夏候淵の入れ知恵だな?」
淵「まぁな。相手の挑発に乗るなと言っても姉者は効かないだろうからな」
昴「確かにな」
間違いなく助言なんか忘れて怒り狂うな。
昴「さてと、俺も仕事に戻るかな」
俺が踵を返すと・・。
淵「待て」
昴「どうした?」
秋「私の真名は秋蘭だ。この真名お前に預ける」
昴「姉妹揃って、いいのか?」
秋「元々預けても良いと思っていたのでな。華琳様も姉者も認めたお前なら問題ない」
昴「分かった。なら秋蘭、君の真名を預かるよ。秋蘭もよろしくな」
秋「あぁよろしく頼む」
昴「んじゃ行くな。またな」
秋「あぁ」
俺は仕事に向かった。
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※※※※
秋蘭side
昴は街の警邏に向かった。
秋「ふふっ、御剣昴。武人として、将として、私も認めているぞ。そして・・・男としてもな・・」
その呟きは風の中に消えていった。
続く