小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第8話〜相容れないモノ、変わっていくモノ〜















とある日、警邏に赴こうと城の通路を歩いていると正面から・・あれは荀か。荀がやってきた。

昴「よう」

荀「・・・」

聞こえなかったのか?

昴「奇遇だな。こんなところで会うなんて」

あ、そっぽ向かれたよ。相変わらず嫌われてるな。・・・そうだ。

昴「あ、華琳」

荀「華琳様!!」

昴「すまん、大木だった」

荀「どうやったら大木と間違えるのよ!」

昴「聞こえてんじゃんか」

荀「はっ!? ・・ちっ」

面白いなこいつ。

荀「一体何の用よ!」

昴「挨拶しただけだろ」

荀「話しかけないで! 妊娠するでしょ!」

昴「そんなんで妊娠するなら少子化なんて言葉存在せんわ! ・・・で、挨拶ついでにどこ行くんだ?」

荀「あんたなんかに答える必要性をこれっぽっちも感じないわ」

うわっ、可愛くねぇ! つうか感じ悪っ!

昴「もはや悪意しか感じないな」

荀「当然でしょ? 男なんていう下品で穢らわしい生き物となんて、接点を持ちたくないもの」

昴「軍師が決めつけるのは良くないぞ? あらゆる可能性をなくしちまう」

荀「大きなお世話よ。男なんて低俗で、低脳で、煩悩の塊のなのよ!」

昴「お前が華琳にされたいと考えてることは煩悩じゃないのか?」

荀「ぐっ! ・・・ち、違うわよ!」

昴「しかもついさっきその低脳のなんのひねりのない策にあっさり引っ掛かってたな」

荀「あ、あれは低脳すぎて思わずひっかかっただけよ」

昴「今蔓延ってる賊も低脳で低俗な策を使ってくるんだぜ?そんなざまで華琳の軍師が務まるのか?」

荀「当たり前でしょ! 私は華琳様に認められた軍師なのよ!」

昴「だろうな。政に関して言えば茉里以上だ」

荀「ふん! あなたに誉められても嬉しくないわよ。っていうか用がないなら早く視界から消えてくれない?」

昴「あぁもうとりつく島もないな。・・・あれ? 華琳?」

荀「次は大岩かしら? 2度も同じ手に引っ掛かると思って・・・」

荀イクが振り返ると・・。

華「あら桂花、こんなところに居たの?」

荀「か、華琳様!?」

くくくくくっ! やっぱり面白いな。俺が笑いを堪えていると、

荀「あ、あんたねぇ!」

昴「くくっ、それじゃ警邏に行くな」

俺はスキップしながら警邏に向かった。

荀「覚えておきなさい!」

荀の声が通路に木霊した。




















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


荀とこんなやりとりを数日繰り返していたある日・・。

華「最近桂花と仲がいいようね」

昴「あれでか? 会う度嫌味ばかり言われるんだが」

華「あら、桂花が男と話してるところなんてあなた以外で見たことないわ」

昴「そうなのか?」

だからといって嫌味ばかり言われてるから素直に喜べないが・・。

昴「しかし、荀の男嫌いも筋金入りだな。何が原因なんだ?」

華「それはあなたが直接桂花に聞きなさい」

昴「話してくれるとも思えないが・・・おっとそろそろ警邏だな。それじゃ行くな」

華「えぇ、しっかりと励みなさい」

その日は2件の喧嘩を仲裁してその日は終わった。




















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


明くる日、手透きになったので城の庭に来てみると・・。

春「ぐぐぐぐぐっ!」

荀「春蘭? 早くしてくれないかしら」

春「うるさい! 黙っていろ!」

あれは春蘭に荀・・、秋蘭もいるな。何やってるんだ?

春「これでどうだ!」

春蘭が駒を進める。

荀「相変わらず突撃? 脳みそまで筋肉が詰まってるのかしら」

パチッ、っと駒を進めた。

春「うぐ!」

荀「勝負あったわね」

春「くそ〜! もう1回だ!」

荀「何度やっても同じよ」

どうやら決着がついたみたいだな。

昴「よう、何やってるんだ?」

秋「あぁ昴か。何、姉者が桂花に象棋の勝負をしていたのだ」

象棋・・・・あぁこの時代のボードゲーム、まぁ将棋やチェスみたいなやつか。

昴「無謀だろ、相手が荀じゃ春蘭はおろか秋蘭でも負けるだろ」

秋「そうだな実際私は10回やっても2〜3回ぐらいが関の山だろ」

昴「やっぱりな」

荀は優秀な軍師だしな。っていうか春蘭じゃ突撃ばかりだろうからな。

荀「あら? 御剣昴じゃない」

昴「よう。完勝みたいだな」

荀「当然よ。軍師が武官に負けるわけないでしょ? ましてや脳筋なんかに」

春「何だと!」

昴「春蘭、落ち着け」

秋「姉者、落ち着け」

春「むぅ」

荀「ところで御剣昴?」

昴「ん?」

荀「暇なら一勝負どうかしら?」

うーん、勝負か。

昴「悪いな、気分じゃないから遠慮しとくよ」

つうかルール分かんないし。

荀「あら逃げるの? 臆病風にでも吹かれたのかしら?」

・・・ほう。

荀「天の御遣いが聞いて呆れるわね。所詮男なんて惰弱で根性無しな生き物だわ」

言うじゃねぇか、そこまで言うなら・・。

昴「いいだろう、その勝負受けてやるよ」

荀がニヤリと笑う。余裕そうだな。その余裕消してやるよ。

昴「ただし・・」

荀「?」

昴「お前が自信満々で挑んできた勝負だ。何を賭けることになっても文句はないよな?」

荀「どういうこと?」

昴「負けた方は勝った方の言うことを何でも聞く。どうだ?」

荀「いいわ。どうせ勝つのは私なのだから」

言ったな。

昴「決まりだな。悪いがやり方がわからないから秋蘭教えてくれないか?」

秋「やり方も分からないのに桂花に挑むのか?」

昴「まぁ何とかなるだろ」

秋「まったく、やり方は・・・」

秋蘭に説明を受け・・。

秋「・・こんな感じだ。本当に大丈夫なのか?」

昴「大丈夫。問題ない」

俺は荀の対局に座る。

荀「勝ったらとりあえず自害でもしてもらおうかしら?」

遊びの賭け事で何てもの要求しやがるんだ。それにしても余裕綽々って顔だな。自分の負けを一分も疑ってない。

荀「では始めるわ」

荀が最初の一手を繰り出す。

俺はしばらくどう戦略を組み込むかを考える。

荀「まだ一手目よ、早くしてくれないかしら。それとも今更怖じ気ついたのかしら?」

昴「慌てるなよ、今お前をどう料理するか考えてるんだからな」

荀「ふん! 言ってなさい」

よし! 戦略は決まった。これで行くか。それにしても相変わらず荀の表情は余裕綽々だ。今では薄ら笑いを浮かべてるほどだ。

今は精々余裕かましてろよ。

俺は駒を持ち、一手目を繰り出す。

さて始めるか、荀よ俺の兵法を見せてやる。お前の余裕そしてその表情・・。

















凍り付かせてやるよ?


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


荀side

何よ・・・これ。

勝負が始まって数局たった。最初は思惑どおりにことが進んでいた。だけど勝負の中盤戦に差し掛かる直前にそれは起こった。こちらが事前に組み込んだ策は全て見抜かれ、裏を掛かれた。

荀「くっ!」

パチッ・・。

私が駒を進めると・・。

パチッ!

間を開けず、間髪入れずに駒を繰り出す。それも1番やられると嫌な場所に。たちまち手詰まりになる。

どうする!? 一点突破で陣に穴を空けるか、それとも一旦守りを固めるか!?

私が思案していると・・。

昴「どうした? 早く手を繰り出せよ? 一点突破するか、守りを固めるか。どっちに決めるんだ?」

荀「!? ・・な、どう・・して・・」

昴「策は全て読まれ劣勢だ。そんな状態で辿り着くのは兵法の基本。言わば常道かつ教科書どおりの兵法だ。この場合は一点突破か守りを固めるかだな」

荀「うぐっ!」

昴「追い詰められた軍師が最後に辿り着く境地、いや心理だ」

見抜かれてる。

昴「あいにく俺は今手透きだから時間はたっぷりある。1刻だろうと1日だろうと構わないぜ? ゆっくり考えたらいい」

荀「ちっ!」

あの顔、勝利が確定したかのようなあの顔、気に入らない。

どうする!? 攻めるか守るか!? ・・・・待って? 本当にそれでいいのかしら?こちらの策は全て読まれてた。そして今も。どちらを選んで相手の掌で踊らされるだけなんじゃ。

考えれば考えるほど分からなくなる。ならここは1度様子を見るべきね。ここで様子を見て相手の出方を窺う。

パチッ!

一手進める。すると今まで間髪入れずに駒を繰り出していた御剣昴が止まった。どうやら予想外の一手だったみたいね。さて、ここから反撃を始めるわ!

昴「荀」

荀「何よ?」

昴「その一手は・・・下策だぜ」

荀「な!? どういうことよ!?」

昴「勝敗が決まりかかろうとしている終盤。この場面で攻めでも守りでもなく保留を選ぶのは1番の悪手だ」

荀「な、何を!?」

昴「ここで攻めか守るか決断すればまだ荀イクにも勝ちの目はあったんだがな」

御剣昴が駒を取り・・。

昴「これで、終局だ」

パチッ・・。

止めの一手が繰り出された。

荀「!? ・・そこは!?」

最悪の一手だ。何処を動くも手詰まりにされる一手だ。

こっちを進める? 駄目、今の一手で止められている。なら退く? それも今更できない! ・・・それなら、それなら・・。

あらゆる手を考える。だが思いつく全ての一手の先が読めてしまう。自分の負けを。優秀であるが故に読めてしまう。

荀「私の・・・負けよ」

私は敗北を宣言した。

昴「ふぅ、大方、自分が打つ前に読まれた一手だ。どちらに進んでも俺の掌で踊らされるんじゃないのか? どうせこう考えての保留だろ?」

くっ! そのとおりよ!

荀「あんな一言聞かなければ・・」

昴「だからわざわざ口に出したんだよ。攻めも守りもとらせない為に。まるでどちらを選んでも罠にはめられるかのような言い方をして、ね」

まさにそのとおりだ。

昴「確か負けたら言うことを何でも聞く約束だったよな? 今は思い浮かばないから後日伝えるよ」

御剣昴は立ち上がり・・。

昴「それじゃ、また後日」

意地悪い顔浮かべて立ち去った。

完全に負けた。策も心理も何もかも見透かされた。春蘭を武で圧倒していたから典型的な武官だと思っていたけど、あれが天の御遣いと呼ばれる者の実力なの?

荀「悔しい・・」

私はただその言葉しか口に出せなかった。




















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※※※※


昴side

昴「あー、勝ったな」

やりすぎたかな? でもこの程度で潰れるようならどのみち一緒か。

秋「今日ほどお前に驚かされた事はないぞ」

昴「秋蘭か」

秋「まさか桂花を相手にあそこまで一方的に勝利してしまうとはな。」

昴「ま、荀も途中までかなり油断してたけどな」

秋「姉者以上の武に桂花以上の知。何処まで化け物なのだ」

昴「武はともかく、知はただの経験の差が出たに過ぎない。あいつとは比較にならない修羅場を潜り抜けてきたからな。同じ経験を積めば荀は俺以上になるさ。さっきの勝負でそれを物語ってる」

秋「どういうことだ?」

昴「最終場面、武官や並の文官には荀の敗北宣言が早すぎると感じるだろう」

秋「確かに私も感じたな」

昴「あの局面で取れる手は精々5通りぐらいだが俺はその全てに対応策があった。荀もそれを理解していた。だから荀は敗北宣言した」

秋「つまりどういうことだ?」

昴「これを実際の戦に置き換えてみろ。策は軒並み看破されあらゆる一手が打てず手詰まりになる、このまま無理に戦を続けたらどうなる?」

秋「あっ・・」

理解したようだな。

昴「そうだ、その答えは自軍の全滅だ。ここで退却すればまだ再起の可能性は大いにある。しかし負けを認めずに無理な戦を続ければその先は全滅。しかも再起の可能性も無くなるほどの敗北だ。つまりあそこで負けを認められるということは優秀な軍師である証拠だ」

秋「なるほどな。・・・しかし桂花への罰はほどほどにしてやれよ?」

昴「心配するな、人や軍師としての尊厳を汚すような真似はしないよ」

秋「ならいいがな。桂花は華琳様の大切な軍師だ」

昴「ま、ほどほどにな」

さて罰はどうしようかな?・・・・よし、あれにしようかな。俺はいろいろ思案しながら自室に戻った。






















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


数日後。

荀「ちょっと! 私を何処に連れて行くつもり!」

昴「いいからついてこいって」

俺と荀は街を歩いていた。理由は数日前の罰ゲームを執行する為だ。

荀「何処に行くつもり! はっ!? まさか人気のないところで私を襲うつもりね!? やっぱり男なんて下品で粗暴で、『着いたぞ。』えっ?」

着いたのは1軒の料理屋だ。

荀「ここは・・」

昴「料理屋だ。華琳お気に入りのな」

前もって予約しといた店だ。何せ人気店だから予約しないと入店出来ないらしい。

荀「ここで何を・・」

昴「料理屋で食事以外の何をするんだ? さ、中入るぞ」

俺達は店に入った。店員に案内され卓に着き、注文してしばらくすると料理が運ばれてので各々食事を楽しむ。

昴「・・ところで1つ質問があるんだが?」

荀「はぁ!? 何で答えなくちゃならないのよ!」

昴「勝負に負けたろ」

荀「だから一緒に食事してるじゃない!」

昴「華琳お気に入りの店でタダ飯食ってるんだから罰じゃないだろ」

荀「男と一緒ってだけで苦痛なのよ!」

昴「タダ飯の時点で差し引き0だろ。」

荀「ぐぐぐぐぐっ!」

荀は唸っている。

荀「それで? 聞きたい事って何よ?」

どうやら答えてくれるらしい。

昴「お前はどうしてそこまで男が嫌いなんだ?」

荀「・・・」

昴「正直お前の男嫌いは異常だからな。後警備隊の兵や城の兵から結構苦情出てんだよ。何もしてないのに罵声浴びせられる、ってな」

荀「・・・」

荀は黙っている。

荀「・・・それは言わなきゃ駄目なの?」

昴「聞かせてくれるか?」

荀「・・・」

荀は話してくれた。何故男嫌いなのかを。過去に自分の母親が賊に拐われたこと。その際に回りの男達は何もしようとしなかった。こちらが策を提示しても自分の命惜しさに聞く耳持たなかった。結局母親は賊に慰み者にされた上に殺された。下衆な男達に。他にも以前にある男と論戦になった際に自分の意見が論破されると、男は荀を心身共に穢そうとした。自身の誇りを汚された腹いせをするために。その時は通りかかった武官が仲裁に入った為事なきを得たらしいが。

以上が理由だった。

荀「・・・」

昴「・・・」

互いに黙っている。荀の闇は深かった俺の思った以上に。

昴「それが理由か」

荀「えぇ、そうよ」

昴「お前が今まで会った男達は確かに下衆や自己中心的な奴ばかりだったもしれない。でもそれは事実であって真実ではないだろ?」

荀「どういう意味よ?」

昴「そうだな。お前の意見はある種極論だ。だがな、極論ってのは大抵が机上の空論そのものだ。机上の空論ってのは便利だ。お手軽だしうっとおしい事情は無視できるからな」

荀「・・・」

昴「だけどな、お前は男が下衆だのなんだと言う前にな、一度でも男と一緒に飯食ったり酒飲んだり、もしくは恋愛したり他愛のないことを語り合ったり、そういう経験はあるか?」

荀「・・・」

荀は何も答えない。

昴「男だってな、それぞれいろんなものを背負って生きてる。そこは男だって女だって一緒だろ? 下衆だの何だので男を評価するがそれは女だって一緒だ。過去の経験則からの極論で決めつけるのは強引過ぎると思うぞ?」

ドン!!

荀「聞きたい事は話したわ。もう用はないわよね? 帰らせてもらうわ」

荀は卓を両手で叩き席を立った。

昴「なら最後に、男嫌いを治せとは言わない。せめて言動や態度に出すのはやめてやれ。俺はともかく他の男は結構へこむぞ? お前だって華琳や春蘭や秋蘭に同じことされたらいい気分しないだろ?」

荀「・・・善処するわ」

荀は店を出ていった。

昴「ふぅ」

荀が過去にうけた傷は完全に癒えず、確実に傷痕として苛んでいる。あれは相当重傷だな。

昴「さてと」

俺も会計済まして帰るか。店主に会計をお願いすると・・。

昴「うげっ!」

さすが華琳のお気に入りの店だけあって値段張るな。トホホ、しばらくは極貧生活だな。






















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


その後、荀とは会話をしていない。何せ荀イクに会うとそそくさとどこか行ってしまう。そんな気まずい2人が今森の中を歩いている。何故かというと・・。

華『最近近くの山森に怪しい人影が頻繁に報告されているわ。桂花に調査を向かわせるからあなたは護衛としてついていきなさい。山森は凪との鍛練でよく利用するのでしょう?』

と言われたので現在2人で森の中を歩いている。

昴「・・・」

荀「・・・」

相変わらず2人とも無言だ。

昴「・・・なあ」

荀「・・・」

昴「荀さ〜ん」

荀「・・・」

はぁ〜、無視か。

昴「まな板胸。(ボソッ)」

荀「何ですって!#」

昴「ようやく口聞いてくれたな」

荀「あっ!? ・・ちっ!」

昴「とりあえず、この辺には痕跡がないから場所変えるか?」

荀「・・・分かったわ」

2人が森を進んで行く。

昴「あの食事で財布軽くなっちまってな〜」

荀「・・・」

昴「でも旨かったな、あの店」

荀「・・・」

昴「あれじゃどっちが罰だか分かんない。」

荀「・・・・あぁもう! 耳元でごちゃごちゃうるさいのよ!」

昴「そっちが無視するからだろ?」

荀「あんたなんかと口もききたくないのよ! だからもう黙ってなさいよ!」

昴「はぁ・・」

溜め息が漏れる。

荀「ふん!」

荀が踵を返して歩き出す。・・・ん? 不味い! そっちは!?

昴「荀! 止まれ!」

荀「もう! 何よ! ・・・・あっ!?」

そう、この辺は見通しが悪いから分かりにくいが森と茂みを抜けたすぐ先が断崖絶壁になっている。普段なら気付いたんだろうが俺との会話で激昂してたせいで距離を誤ったのだろう。

昴「くそっ!」

あわてて飛び降り、落ちていく荀を腕に抱えた。

昴「はぁぁぁ!!」

氣を脚に集中させ、崖の岩の出っ張りを足場に下へと降下していく。

バサッ!

昴「うぐっ!」

最後、木に突っ込んだ際に尖った枝で背中を切ってしまった。

昴「まぁ浅傷だから大丈夫か。」

荀は・・・どうやらショックで気絶している。

昴「調査は十分にしたし、城に戻るか」

荀を抱えながら森を歩き出した。

しばらく歩いていると、

荀「う、ううん・・」

荀が目を覚ましたようだ。

昴「目が覚めたようだな」

荀「な、何が・・・ちょ、ちょっと! 何私の身体に触れてるのよ!」

荀が腕の中で暴れだした。

荀「離しなさいよ!」

昴「分かったから!」

荀を降ろす。

荀「全く、妊娠したらどうするのよ! ・・・それで、ここは何処なのよ?」

昴「下に落ちちまったからな。今は商人も避ける獣道だ」

荀「厄介ね」

昴「とりあえずこっち。」

俺は歩きだす。

荀「ま、待ちなさいよ!」

その後をあわてて荀がついていく。

昴「・・・」

荀「・・・」

無言で森を歩いている。

荀「ねぇ!」

昴「ん?」

荀「・・・さっきは・・・助かったわ」

昴「どういたしまして」

荀「ふん!」

荀はそっぽを向く。再び無言で歩いていると、俺は絶壁の前で立ち止まる。

荀「どうしたの?」

昴「城に戻るにはこの絶壁を昇らにゃならん」

荀「こんな絶壁無理に決まってるでしょ!? 他に道はないの!?」

昴「あるにはあるが、それだと今日中には城に戻れないぞ?」

荀「そんな・・」

昴「この辺は熊や猪出るし蛇も出るぞ? そんな所で野宿したいか?」

荀「嫌に決まってるでしょ!」

昴「なら昇るしかないな」

荀「そんな。・・こんなの・・」

昴「何、心配するな。このくらいなら問題ない」

荀イクを肩に乗せて・・。

荀「何するのよ!」

昴「目瞑ってろ。後喋るな、舌噛むぞ」

荀「何言って・・・きゃあぁぁぁ!!」

俺は脚を氣で強化して絶壁の岩場の出っ張りを足場に今度は登り始めた。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


そのまま城に戻った。その間会話は一切なし。何とか日が暮れる直前に城に戻ることが出来た。背中の傷は凪に薬を塗ってもらった。すごい染みた。

華「今日はあなたに特別に湯を使わせるわ」

昴「いいのか?」

この時代の風呂は貴重だ。毎日入れるわけではない。それは華琳とて例外ではない。

華「話しは桂花に聞いたわ。大切な部下を助けてもらった礼よ。受け取ってもらえるかしら?」

昴「分かった。それじゃお言葉に甘えるよ」

華「ならゆっくり入ってきなさい。」

華琳は何やらクスクスと笑いながら去っていった。何だ? ・・・まぁいいか。よ〜し、風呂だ風呂だ♪

意気揚々と湯に向かった。






















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※※※※


昴「はぁ〜、超気持ちいい//」

やっぱりどの時代どの外史も風呂は気持ちいいな。ゆっくり湯に浸かっていると・・。

コツコツコツコツ・・。

昴「ん?」

誰か近づいてくるな。城の将は女の子だらけだから今湯に来る人いないはずなんだが。

荀「湯に浸かるのは久しぶりね。・・・ゆっくり疲れを癒し・・・て・・」

よりにもよって荀か。華琳の差し金だな。とりあえず指で耳を塞いで・・。

荀「きゃあぁぁぁ!!! この変態! 何でここにいるのよ! 遂に本性現したのね!?」

昴「いや先に入ってたの俺だろ?」

荀「変態! 痴漢! 獣!」

はぁ〜、全く・・。

昴「分かった分かった」

俺は布で目隠しをして・・。

昴「これでいいだろ?」

荀「隙間から覗いてないでしょうね?」

昴「見えてない見えてない」

荀「全く!」

しばらく無言で湯に浸かっていると・・。

荀「ねぇ、その背中の傷、私を助けた時に出来た傷ね」

昴「さぁな」

荀「誤魔化さないで、凪に聞いたわ」

凪に?  全く、黙っとけって言ったのに。

昴「傷もすぐに治るし痕も残らないから問題ない。第一人の命には変えられないよ」

実際傷1つで命を救えたなら安い買い物だ。それが後の名軍師、荀クなら尚更だ。

荀「あ、ありがと・・」

昴「ん?」

荀「何でもないわよ!」

素直じゃないな。

昴「なぁ」

荀「何よ」

昴「お前さ、男は嫌いだって言ったけど父親も駄目なのか?」

荀「父様は・・」

その反応だと少なくとも嫌いじゃなさそうだな。

昴「お前の言うとおり男は馬鹿で子供だ。俺含めてな。でもな、それがまた良いところでもあると思うぞ?」

荀「ふん、男なんて・・・嫌いよ」

ま、いきなりは無理か。

昴「いつか男と普通に接しられるようになればいいな」

俺はそう言って荀イクの頭を撫でた。

荀「!? ・・触ら・・ないでよ。・・っていうかあなたやっぱり見えてるんじゃ!」

昴「見えてないよ。音と気配と氣。それだけ分かれば位置は把握出来る。姿そのものは見えないよ」

荀「ふん!」

昴「さてと、俺はもうあがるな。荀も浸かりすぎてのぼせるなよ?」

荀「大きなお世話よ! 早く消えなさいよ!」

昴「はいはい。それじゃあ待たな」

荀「待ちなさいよ!」

昴「ん?」

桂「桂花よ」

昴「?」

桂「私の真名、桂花よ」

昴「呼んでいいのか?」

桂「か、勘違いしないで! あくまで命を助けてくれた礼よ! だからあまり気安く呼ばないでよ!」

昴「分かった分かった。それじゃあ桂花。よろしくな」

桂「用はそれだけよ、早く出ていって!」

昴「それじゃ、待たな」

俺は風呂からあがり、そのまま自室に戻った。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


桂花side

桂「全く!」

なんなのよ、あいつ! 図々しくて嫌な奴でおまけに性格も悪い奴! 本当に気に入らない!

桂「男なんて・・」

男なんて大嫌い。下衆で馬鹿で、下品の塊よ。でも・・・。

桂「あいつは他の男と違うのかな・・。」

頭を撫でられた時、嫌じゃなかった。まるで昔父様に誉められた時みたいに・・・、

桂「はっ!? 何考えてるのよ私は!」

男なんてどれも一緒よ! ・・・一緒なんだから・・。

私は湯を顔にパシャパシャと当てて苦悶した。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


華琳side

桂「この馬鹿! どうしてこんなことも出来ないのよ!」

春「何だと! 誰が脳みそまで筋肉に詰まった馬鹿だと!」

桂「誰もそこまで言ってないでしょ!」

春蘭と桂花が喧嘩をしている。相変わらずね。この2人は。

桂「全く! こっちも暇じゃないのよ。・・・昴! あなたちょっと手伝いなさい! 暇なんでしょ!?」

昴「客将の領分越えてるだろ。第1に俺は武官だぞ?」

桂「あなた頭人より回るんだから出来るでしょ?・・・あぁもう! 食事奢るから手伝いなさい!」

昴「よーし、のった! 構わないぜ」

桂「ならついてきなさい」

昴「あいよ」

昴が桂花の後をついていく。あの桂花が男に頼るなんて意外ね。それはそうと、春蘭や秋蘭に凪は武人として1枚格を上げようとしている。桂花に茉里も軍師として著しく成長している。

華「ふふっ」

昴に出会って皆変わろうとしている。それもいい方向に。これは是が非でも傍に置きたいわね。

華琳は密かに御剣昴を手に入れる方法を画策していた。






続く

-9-
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真・恋姫†無双 ~乙女繚乱☆三国志演義~
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