第16話 平穏?なにそれおいしいの?
「――――――というわけでISは自身の機体をこのように制御するわけですが」
「…………」
クラス代表を決めることによって発生したひと悶着から時間が経ち
現在は教室に綺麗な夕日が差し込む放課後である。
そんな教室には現在、机に顔を伏せて(埋めて)煙を頭から噴出している一夏とそんな彼に勉強を教えることになったユウ、他にもクラスの生徒が何人かはいたが彼女たちの関係者は全員部屋に戻ったり部活の見学等に行きここにはいない。
そして完全にショートしている一夏にため息を吐きながら呆れた目で眺めつつ声を発するユウ
「はぁ、なんでこのくらいのことが分からないんですか一夏?」
「し、仕方ないだろ!?俺は今までISの勉強なんてしたこと無いんだから分かるわけねえよ!」
「そういいますが今教えた所は参考書をきちんと読めば分かるような所ですよ?しかも分かりやすくページの下のところにまとめもありますし………やっぱりあなたってバカなんですかね?」
「グハッ!?」
ユウの言葉に反論をする一夏だが、それもあっさりと返され直後にまた馬鹿にされ、心に何かが刺さって悶絶するのであった。
そんな彼の様子を見ながら
「まあ、いいです。今日はこのくらいにしておきましょう」
「え?」
突然終了宣言を出したユウ
その言葉に一夏は一夏で嬉しいはずなのに『マジで?』と言いたそうな顔をしながら驚いている
「このまま続けても大して成果は期待できないですからね。私の方で重要な所をまとめてそこを重点的に教えることにしますので今日はお終いです」
「よ、よっしゃ――「ただし!今日やった所くらいは自分で復習位してくださいね?(怒)」――ワ、ワカリマシタ」
今日はこの地獄の勉強会から解放されると知って喜びかけた一夏だが、しっかりと釘を刺されてぬか喜びに終る(笑)
そのまま2人共片づけを行い、帰る用意を始めていると突然教室のドアが開きそこから山田先生が入ってくる
「あ、織斑君。まだ教室に残っていたんですね。よかったです〜入れ違いにならないか心配だったんですよー」
「はい?どうかしましたか先生?」
教室に入ってきた山田先生は一夏がまだ教室にいたことに安堵するとそのまま彼らの方にやってくる
一夏も何か用事でもあるのかと思ってか片付けをしている手を止めて話を聞く体勢に入る
「はいっ!突然ですけど織斑君の寮の部屋が決まりましたのでお知らせに来ました!」
近くまでやってきた山田先生はそう言って胸を張って要件を告げる
「へーそうなんですか……あれ?でも俺って一週間は自宅通学って話を聞いたんですけど?」
「はい、当初はその予定だったんですけど……」
一夏が以前聞いた情報と違う旨を山田先生に伝えると、彼女は声を小さくしながら一夏に近付き
「あまり大きな声では言えないんですが、なんでもIS委員会の人たちが政府に圧力をかけて織斑君たちを寮に入れて安全を確保しろと言ってきたらしいんですよ」
「へーそうなんですか」
簡単に理由を説明すると、それを聞いて一夏も軽い声を上げて理解したように返事を返す
その様子を荷物を片付けながら後ろから聞いていたユウは心の中で
「―――(山田先生聞かれちゃまずいっていう話の割に私にまで聞こえてるんですが……あと一夏返事はしてますけどその顔は結局理解できてませんね?)」
と思いつつも面倒事は避けたいため口には出さず、ただため息を小さく吐くだけであった
その後一夏が自分の荷物のことに気が付いたがいつの間にかやってきた千冬によって着替えと携帯の充電器のみを手配されていて色々な意味でショックを受けたり、大浴場はあるが一夏は男子のため使えないといわれ疑問をぶつけたら一夏がただの男好きの烙印を押されそうになったりと色々あったが特に問題なくユウ達は片づけを終えるとそのまま自分達の部屋に向かうのであった
「えーっと1025号室はっと……お、あったあったここだ」
教室を出て一年生用の寮まで真っ直ぐにやってくるとすぐに自分の部屋を見つける一夏
「ところでユウの部屋って何号室なんだ?」
「私の部屋は1030号室ですね。意外とこの部屋から近い場所にありますね」
「ふーん、近くかー」
「もう一度言っておきますがきちんと今日の復習はして置いてくださいね?でないとまた忘れて同じところから繰り返しになってしまいますから」
「わ、わかってるよ」
互いに部屋の番号を確認しあうと分かれてそれぞれの部屋に入っていくユウと一夏……当然一夏に対して別れ際に今日勉強した所の復習するように釘を刺すのは忘れないユウであった
「ただいまでーす」
「おかえりなさい」
「全く誰かさん達の所為で初日から大変でしたよ本当」
「お疲れ様、大変だったね。あ、お茶入れておいたよ」
「ありがとうございます。かんちゃん」
一夏と別れ部屋に入ると同居人に挨拶をしつつすぐに制服の上を脱ぎハンガーにかけ、近くの椅子に座り込むと今日巻き込まれたことに文句を言いつつルームメイトである簪の入れてくれたお茶を啜るユウ
ちなみに部屋割りは
ユウ・簪
一夏・箒
結・雪奈
イリヤ・本音
である。
クラスがバラバラだが細かいことは気にしてはいけないのである。
ちなみにもう1人の男性操縦者はとある教員の部屋に厄介になり、下手なことをすると自分の命が危ないことを知っている相手のためおとなしくしているとか(千冬ではない)
お茶を飲み一息ついた後は、自分のPCを開き何か作業を開始するユウ
その様子を椅子に腰掛けながら眺めていた簪は立ち上がると彼女の背中から覗き込む形でPCの画面を見つめる
「……なにしてるの?」
「一夏があまりにも勉強できなかったので簡単に参考書の内容を一夏でも理解できるように分かりやすくまとめているんですよ」
「……そんなに一夏酷かったの?」
「………(遠い目)」
「…あ(察し)」
簪の疑問にユウはどこか遠くの方を見てあきらめたような表情をするとそれを見て一瞬でどういう状況だったか察してしまうのであった
「んー!」
その後色々なことを話しながら約1時間ほど経過した時点で作業を終了し背筋を伸ばして一息をつく
「…もう終ったの?」
「ええ、一度自分で勉強した所なので割りと簡単でした……それにしても…私は人に物を教えるの得意じゃないんですけどなんでこんなこと押し付けられるんでしょうかねー?」
「え?」
「『え?』ってなんですかその反応は?」
「…私や他のみんなにあんなにわかりやすく色々教えてくれたのに得意じゃないとか…」
「………さ、さあ次のお仕事をしましょうか!」
「…あ、逃げた」
「ナンノコトデスカネー」
簪からの話題をスルーして再びPCに向き合うと先ほどまでやっていたものとは全く違う画面が開かれる
「…今度は何をするの?」
「とりあえず今日雪奈と結から頼まれた彼女達の専用機を修理するために部品やらパーツの発注ですよー……まったくなんで私がこんな面倒なことを…」
キーボードを操作しながら文句を言いつつも作業する手は緩めないが……
「…でも直すのがユウならさ」
「ん?」
「そもそも壊したのもユウだよね?」
「うっ!?」
「大体ユウがほとんどの専用機の開発や整備にも関わってるんだからこうなることは予想できたでしょ?」
「にゃっ!?」
「だから今回のことはユウの自業自得やりすぎもほどほどに!…だよ」
「やめてー!私のライフはもう0ですぅぅぅぅ!」
簪の一言が彼女の心に見事に突き刺さる
結局の所ユウの自業自得であるのであった
そのまましばらくの間必要な部品の整理をしたり、これから必要になるであろう様々な物のリストを作成していると、突然ユウの持っている通信機(携帯ではなくISのコア・ネットワーク関係で造られた初期の試作品で、数は少ないがISのプライベート・チャネルと同等の性能を持っていて通信機同士だけではなくISとも連絡が取れる上に空中にディスプレイを展開させ相手の表情を確認しながら会話できる)
pipipipipi
「ん?こんな時間に通信ですか?一体誰で――「ヤッホー!みんなのアイドル束さんだ」――ピッ」
通信機を手に取りディスプレイを展開させた瞬間、IS開発者『篠ノ之束』がテンション高めで画面に現れたが…次の瞬間、通信は切れた(二重の意味で)
「え?今の束さんだよね?通信切っていいの?」
突然通信を切ったユウに驚きながらも簪は恐る恐る尋ねる
「……ただでさえ忙しいのに嫌な予感がしてつい切ってしまいました……反省も後悔もしていません」
だが尋ねられた彼女は悪びれた様子を一切感じさせずに再びPCに向かい始める
「で、でも本当に大事な用かも知れないし話だけでも聞いたほうが…」
先ほどよりさらに機嫌が悪くなったユウに、何とか話だけでも聞いたほうが良いと(あまりの彼女の不機嫌さに)涙目になりながらも説得を試みる簪
「あーあー分かりましたから!私が悪かったですからそんな今にも泣きそうな顔をして上目遣いでこっちを見るのはやめてください」
流石に簪からの頼みは断れないのかあっさりと折れて再び通信機を取り出し連絡をとるユウ
「(計画通り)」
そんな彼女の後ろで簪は涙を拭く振りをしながら口元をうまく隠しながらわずかに笑っているのであった
「(はぁ…どうせ演技なのは分かってるんですけど……いつからかんちゃんは若干黒くなったんでしょうか?)」
簪は隠しているつもりだろうが長年一緒にいるユウには完全にバレバレである
数秒後、通信がつながりディスプレイに表示されたのは先ほどテンション高めで現れた束ではなく両目を閉じた小柄な少女の姿であった
「一体どうなされたんですか?先ほど束様が連絡なさっていたようですけど何かありましたか?」
少女は目を閉じ驚いた様子も見せずに画面越しのユウに対して口を開く
「あの人のテンションが高すぎてイラッときちゃってつい話し聞く前に切っちゃいましたので代わりにあなたにお話を聞こうと思いましてね」
「そうですか……確かに本日あの方は無駄にテンションが高かったですからその対応も致し方ないでしょう――「ちょっと!?クーちゃんもユウちゃんも私の扱い酷くない!?」」
先ほどの連絡について用件を聞こうとしているとどこからともなく画面内に束が入ってきて自身の扱いが悪いことに文句を言うが
「「だってあなた(束様)ですし」」
「うわぁぁぁん2人共酷いよぉぉぉぉぉ!?」
あっさりと2人に口をそろえて自分だからという理由で納得されるのを見て泣きながら床に崩れ落ちるのであった
「それで?どうして急に連絡なんてよこしたんですか?」
十数分後、なんとか復活した束を画面に納め今回の用件を今度こそ尋ねるユウ
「じつは驚かないで聞いて欲しいんだけど…」
「勿体つけなくていいので早く話してください。こっちも疲れてるんですから」
「ぶーぶーもうちょっと興味持ってくれてもいいじゃん!」
何故か胸を張って自慢げにもったいぶりながら中々話を進めようとしない束だが再びユウに一蹴されるのであった
「まあいいや!実はね!!」
「ハイハイなんですか?」
「今回、倉持技研が機体を私が武器や細かい調整を行っていっくん専用のISを共同で開発することになりました!」
そう告げた束の後ろからはこれがテレビなら派手に爆発するであろう感じの効果音が盛大に鳴っていた
「ヘーソウナンデスカースゴイデスネー」
「あ、あれ?なんかユウちゃん反応薄くない?というか棒読みじゃ……」
「ソンナコトナイデスヨー?」
「嘘だ!!」
だが返ってきた反応は完全に棒読みな上に感情のこもっていない返答で流石の束も声を大にしてつっこみをいれる……若干ネタ入ってるが
「それで?そんなことを言うためだけに連絡をしてきたんですか?」
「実はねーユウちゃんにお願いがあるんだ〜」
「………(今日何回目になるか分からない嫌な予感がとてつもなくするんですけど)」
束の反応を無視しつつ冷ややかな目で見つつ用件が他に無いのか問いただすと、お願いがあると言われその言葉を聞いた瞬間ユウの背筋に嫌な汗が流れる
その直感は間違ってはいなかったようで束の口から出てきた言葉は最悪のものであった
「もう1人の男性操縦者のあの馬鹿の機体を作って欲しいんだ!」
「やっぱり面倒事ですかぁぁぁぁぁ!?」
自身の予想が当たり心の底から部屋に響き渡るほどの大声を上げてしまうユウ
その後、当然その声は近くの部屋にまで聞こえていたらしく近所の部屋の生徒たちがやってきてひたすら謝り続ける彼女の姿がしばらく目撃されたとか……
とりあえずいえるのは……ユウに平穏は訪れないということである
後書き
かんちゃん可愛い!――――ピチューン
はい開幕から暴走してしまい申し訳ありませんでした。
いやーとうとうIS8巻&新装版1,2巻が発売されましたねー
私が住んでいるところは基本コミックやラノベ系は1日遅れで発売されるのですが奇跡的に当日に入荷してテンション上がりっぱなしでした。2日後に控えるとある試験の勉強や移動のための準備を忘れるほどに(え
とりあえず8巻の感想はまだ読んでない人もいるでしょうし一言だけ……チート乙
あと新装版も結構前のと違いましたねー(内容は変わってないけど)夏服やキャラの絵が変わってたり……何故か鈴ちゃんだけ違和感感じたけど私だけでしょうかね?
てか無人機が原型留めなさ過ぎて噴出しそうになりましたよww
今回SS本編でクーちゃんを出しましたが……別に8巻ででたから出したわけじゃないですからね!元々今回のお話で登場させる予定だったんですから!……一瞬だけですけど!
それにしても今回の本編に関して書くことが他に本気で思いつかない(汗)
束の依頼に関しては次回の最初に続きますからねー
あえていうなら……このお話の中では食堂の利用時間は6〜8時に変更したくらい?流石に短いと感じたので。
というわけで今回はこの辺で失礼いたします〜
また次回お会いいたしましょう〜