小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 リング上で対峙する稼津斗と刹那。
 両者とも、研ぎ澄まされた闘気を纏っているものの、しかし張り詰めては居ない。

 どちらかと言うと純然たる『闘い』に心が踊っている様に見える。

 もっと言うなら、稼津斗は迷いを断ち切った刹那の実力に、刹那は底の見えない稼津斗の強さにだ。

 「行きますよ稼津斗先生。」
 「迷いを断ち切った剣、見せてもらおうか?」


 『2回戦第3試合、桜咲刹那vs氷薙稼津斗!
  互いに1回戦で凄まじい攻防を展開した両者!激戦は必須だ〜!
  熱戦が予想されるこのカード!さぁ、皆、気合の貯蔵は充分か!?2回戦第3試合Ready……Fight!!』


 試合開始と同時に、地を蹴って飛び出したのは刹那だ。
 先手必勝、その瞳に迷いは全く無かった。









 ネギま Story Of XX 31時間目
 『枷を外しまShow!』










 ――生半可な技など通用しない。ならば初手から全力で!
 「神鳴流…『斬岩剣』!」

 行き成りの大技、一切の出し惜しみはしない全力が炸裂。
 だが、稼津斗も流石にそれをバカ正直に受けたりはしない。

 「先手必勝、一撃必殺の大技か。だが、大技は必ず放った後に隙が出来る!」

 点をずらして、その一撃を流し、反撃の掌底。
 が、刹那もバカではない。
 初手の大技をかわされる事くらいは織り込み済みだ。

 技を放った勢いに逆らわず、寧ろその勢いを利用して地面に這うような格好になり反撃の掌底をかわす。
 其処から一気に身を起こし、

 「百裂桜花斬!」

 超速の乱撃術!
 一撃の重さは無いが、広範囲をカバーする『面の攻撃』は強烈だ。

 「ちぃ…!」
 ――動きが格段に良くなってるな。此れが桜咲本来の力だろうが…


 その攻撃をギリギリで捌き、後続の攻撃を防ぐ。

 「近距離での乱撃術は確かに強力かつ有効だが…一発当たりの威力は高くないから、攻撃の点を冷静に衝かれると、存外脆い!」

 防ぐのみならず、攻撃を的確に潰し、乱撃を止める。
 そのまま肉薄し、

 「この状態だと、互いに間合いが外れるが…打撃だけが戦いじゃない!」

 襟元を掴んで、片手での背負い投げ。


 ――此れを見切るとは…流石です。ですが攻撃最中ならば!
 「ハァ!!」

 刹那もタダではやられない。
 投げられながらも『攻撃中は防御できない』と考え、稼津斗の肩口に一発。

 しかし、稼津斗もその一撃で手を離すことは無く、確りと刹那を投げきり、追撃の拳打。
 それを転がって避け、間合いが広がり、一旦互いに手が止まる。



 「「「「「「「おぉ………!」」」」」」」
 ――パチパチパチパチッ!



 まるでアクション映画の『殺陣』の様な攻防に、客席からは思わず拍手が溢れる。

 その拍手と歓声に押されるように、今度は両者同時に地を蹴り一撃を繰り出す。
 稼津斗は拳打を、刹那は剣打を。

 拳と木刀がかち合い、それを皮切りに又しても凄まじい攻防が幕を開ける。

 リングの中央、距離は略ゼロ。
 無手の稼津斗は兎も角として、得物を持った刹那がこの距離で高速戦闘を行っているのは驚愕に値する。

 交錯する拳と剣は多少は相手に届くものの、決定打には至らないハイレベルな戦い。



 そんな中で、刹那は僅かに違和感を感じていた。


 ――技が思ったように使えない?一体何故?


 稼津斗にではない、他ならぬ自分に対してだ。

 この攻防の最中、剣を振るうたびに今までとは感覚が違うことに気が付いたのだ。


 ――まさか、この姿を曝した事で逆に身体の反応が鈍くなったのか!?


 近距離の乱撃戦は、稼津斗のアッパーと刹那の唐竹割りがぶつかった事で再び間合いが離れた。

 「…桜咲、お前違和感を感じてるんじゃないのか?」

 「矢張り気付きましたか。」

 自分が感じていた違和感を稼津斗に看破されたとて驚きはしない。
 寧ろ、とっくに気が付いていただろうと思っていた位だ。

 「まぁな。恐らくだが身体の反応が鈍くなった、そう思ってるんじゃないか?」

 「仰るとおりです。」

 「ふ、そいつは間違いだ。身体が技に対応できてないんじゃない。
  技の方がお前の身体能力に追いついてないのさ。」

 「……はい?」

 思ってもみなかった事に試合の最中だというのに呆けてしまう。
 だが、技の方が追いついていないと言われてはこうもなるだろう。

 「別に不思議な事じゃない。
  お前はずっとその姿を隠していた、謂わばリミッターを掛けた状態で戦っていたんだ、今まではな。
  が、今は自らその姿を曝し完全ではないがリミッターは外れた状態だ。
  ずっとリミッターを掛けた状態で神鳴流の技を使っていたせいで、『制限された状態』に身体が慣れてしまったのさ。
  自らに掛けていた枷を外したことで、お前はずっと能力が上がったが、今度は神鳴流が新たな枷になったって事だ。」

 「そんな…!」

 「だがな、逆を言えば此れこそが『桜咲刹那』の剣を完成させる大きな要因だぞ?
  人の力を持ってして振るう『退魔の神鳴流』と、烏族の力を持って振るう『妖魔の剣』。
  この2つを融合して昇華させた先に、『真』の桜咲刹那の『護る為の剣』が存在してるはずだ。
  其処に行き着くためにも、今この時は思うがままに剣を振るってみたら如何だ?」


 結構重要な事を話しているが、リングと客席には距離があるので一般観衆に会話が聞き取られることは無いだろう。
 更に稼津斗は続ける。

 「その白髪紅眼を曝す覚悟を決めたんだ、最後の殻を破ってみろ桜咲。」

 笑みを浮かべ、静かに言う稼津斗。
 更に、

 「せっちゃ〜ん!頑張ってや〜〜!!」

 客席から飛んできた木乃香の応援。
 刹那の気持ちは固まった。


 ――お嬢様…うぅん、このちゃん。うん、ウチ頑張ってみるよ!!このちゃんを護る為に!!
 「ふぅ……はぁぁぁぁぁ!!!!行きますよ稼津斗先生!!」

 溢れ出る裂帛の気合と、燃え滾る闘気がリングの周りの池の水を巻き上げる。
 いや、気合と闘気ではない、それは超一流の剣士のみが発する事が出来る特別なオーラ『剣気』に他ならなかった。

 「良い剣気だ……来い桜咲!!」

 瞬間、刹那の姿が消え乾いた音が3つ。
 見れば、刹那は剣を振り抜いた状態で稼津斗の背後に立ち、稼津斗には3つの打撃痕が。
 一体何が起きたのか?



 「一体なのがおきたのでしょう?」

 「推測の域を出ませんが、桜咲選手が行ったのは超神速の3連居合いとも言うべき攻撃ですね。
  普通思い切り腕を振ると、関節の稼働域の限界の地点で反動を受けて腕は戻ろうとします。
  大概はその反動に逆らいますが、桜咲選手はその反動に逆らわず、寧ろ利用する事で流れるような攻撃を可能にしたものと思われます。」

 「成程、だから一撃を振り抜いたようにしか見えないのに、打撃痕が3つも残ったのですね。」

 「そう言うことです。」



 名コンビの解説であった。


 「良い攻撃だ。さっきまでの乱撃とは比べ物にならない速さ…そうだ、其れこそが烏族の力だ。」

 「『力の神鳴流』『速さの烏族』…きっと辿り着いて見せます2つの力が融合した先の境地に!」

 迷い無く、力強い瞳で宣言する。


 ――最後の枷は外れたか。そうだ、人と烏族の2つの血。其れを受け入れてこそ先に進めるんだ。
 「辿り着けるさ。さぁ桜咲、お互い必殺技で決着を付けようじゃないか!」

 「依存はありません!」

 互いの最大の一撃で勝負。
 試合だからこそ出来る事だが、そんな事は如何でも良い。

 稼津斗は両手に気を溜め、刹那は木刀に気と妖気を集中する。

 「覇ぁぁぁぁ…波導掌!!」
 「神鳴流+烏族剣技、黒翼雷鳴閃!」

 ぶつかり合う、気を込めた掌底と妖気功の斬撃。
 その力は拮抗し、ぶつかる力が吹き荒れる風となって会場を包み込む。

 「この一撃…申し分ない。だが、今この時は俺の勝ちだ桜咲。」
 「…矢張り、更なる一撃を用意していましたか。」

 波導掌を放ったのとは逆の手には、此方も気が集中している。

 「戦いは常に隙を生じぬ2段構えで挑むべし。『護る為の剣』…完成を楽しみにしてるぞ?」
 「はい…更に精進します!」

 そして…
 「虚空裂風穿!!」

 木刀とかち合っていた掌底に空いていた右手が加わり、其処から強烈な気功波が放たれ刹那を包み込んだ。

 『凄まじい一撃!まるで『かめ○め波』の如き、ど派手な気の奔流!大丈夫か刹那選手〜〜!?』


 気功波が収まり、刹那の姿が顕になる。
 流石に無事では済まず、気を失っているように見える。
 だが、手にした木刀は力強く握られ、気功波を放った稼津斗の肩口を確りと打ち据えていた。

 「見事だ、桜咲。」

 だが、其処までだ。
 気を失った刹那は、そのまま稼津斗にもたれるように崩れ、稼津斗もそれを支える。

 『け、決着〜〜!刹那選手完全KO!勝者、稼津斗選手〜〜〜!!流石の強さだ〜〜!!
  だが、気を失いながらも最後まで剣を離さなかった刹那選手も素晴らしい!!あんた等最高だ〜〜!!』


 会場は一気に拍手と歓声に包み込まれた。

 その大歓声の中、稼津斗は刹那を担ぎ、リングを降りる。

 そして、負けはしたものの、気を失った刹那の顔には笑みが浮かんでいた。


 ――●桜咲刹那(8分2秒、虚空裂風穿)氷薙稼津斗○――








 ――――――








 「今のは良いのか?アリか?アリなのか今の技は!?」

 一方、客席では、矢張りと言うか、予想通りと言うか、千雨の突込みが炸裂していた。
 魔法の事を勉強している手前、今更気功波如きに驚いた訳ではないが、突っ込まずには居られなかったのだ。

 「ど、如何でしょう?今のはありですか、のどか?」
 「え?え〜っと…まぁ稼津斗さんだし?」

 夕映の問に対するのどかの答えは身も蓋も無かった。

 「稼津斗先生、その内『元○玉』とか『炎殺黒○波』とか使うんじゃねぇだろうな?」

 「流石にそれはないんや無い?」
 「やろうと思えば出来ると思うけどね〜。」

 「出来んのかよ!」
 「出来るんだ…」

 千雨、アキラ、夕映の中でも『稼津斗=常識外の強戦士』の図式は確立されつつあった。

 「チウもユエもアキラも頑張れ〜」
 「ちうって呼ぶんじゃねぇ、この狐!!」

 千雨とクスハも、此れはこれで良いコンビである。








 ――――――








 再びリング上。

 2回戦の最終試合である、リインvs小太郎は既に試合が始まっている。(試合開始前に刹那は復活)


 始まっているのだが…


 ――めきっ


 「!?」
 「…小太郎?」

 如何言う訳か、リインの攻撃が一方的に小太郎に突き刺さっていた。

 小太郎が油断しているのではない。
 現に試合前に『お前には加減は必要なさそうや』と言っていたくらいだ。

 『女は殴らない』と公言している小太郎だが、それはあくまでも実力が自分より下の相手に対してのみ。
 己と同等、或いはそれ以上の相手ならば、小太郎とて本気で行く。
 尤も今までは自分よりも格上の女性と戦う機会は無かったのだが…

 「どうしたんだ?私相手に、手加減はいらないぞ?」

 「わーっとるわ!頭では分かってるんやけど、今の今まで俺より強い女の人と闘った事ないんや。
  なんちゅ〜か、女相手やと格上でも無意識に手加減してまうみたいやで…アカンけど。」

 「難儀だなお前も…」

 早い話、『染み付いた癖』が邪魔をしているらしいのだ。
 が、其れを聞いて、リインは如何するかを決めた様だ。

 「はぁ…お前のその『枷』を外すぞ小太郎?…少々荒っぽくなるがな。」
 「へ?」

 小太郎が呆気に取られた瞬間、


 ――ゴスッ


 リインの拳が小太郎の顔面に炸裂。
 其れを皮切りに、


 ――ガス、ゲス、ゴスゴス、ベキバキ、ドス、ガス、メキ、バキ、ガスガス!


 有無を言わさぬ高速連打。
 『タコ殴り』を体現したような、情け容赦の無い連打に継ぐ連打。


 『おぉ〜い、ちょっとやりすぎじゃないのイクサ?』観客引いてるよ?エヴァちゃんの時以上に。」

 「…そう言うな。多分此れで良い筈なんだ。」

 勿論、和美の司会は演出の一環であり、リインも分かって対応してる。
 和美も和美で、リインが何をしているのかは大体の予想が付いていた。

 尤も、今のやり取りの最中もリインの手は止まらず、小太郎はフルボッコのサンドバック状態。


 ――な、なんやこの攻撃は…重すぎるで…!アカン…このままじゃ負ける…負ける?


 そんな状況でも、小太郎は未だ意識は保っていた。
 いや、意識を保っていたが故に気が付いた。


 ――負けるやと?2回戦で?冗談や無い!此処で負けたらネギと戦えないやないか!!


 そう、小太郎がこの大会で最も楽しみにしていたのはネギとの対決。
 京都の時以来のガチバトルを何よりも楽しみにしていたのだ。


 ――せや、こんなとこで負けられへん…
 「負けられへんのや!!!」

 咆哮一発!
 小太郎の放った拳は、見事にリインのボディに突き刺さった。

 「ネギが待っとるんや…誰が相手だろうと負けられるかい!!」

 突き動かされるように、拳と蹴りがリインに放たれる。

 「次に駒進めるのはこの俺や!!」

 拳が振り抜かれ、間合いが開く。

 「何だ、出来たじゃないか。矢張り、敗北寸前まで追い込むのは効果的だな。」

 「へ?」

 「自分よりも格上の女性に対して、本気の拳を振るえたじゃないか。」

 「そ、そう言えば…!まかさリイン、俺が其れを出来るように…?」

 「私は切っ掛けを与えただけだ。出来るようになったのは、お前自身の力だ。」

 ニッコリと笑いそう告げる。

 稼津斗が刹那の枷を外したのと同様に、リインも又、小太郎の枷を外したのだ。
 となれば当然、

 「私も大分良いのを貰ったし、お前も可也ダメージがあるだろう?此れで決めないか?」
 「へっ、望むところや!!」

 決着の一撃となる。


 リインも小太郎も拳に力を集中する。

 高まる鼓動と緊張感。

 特にリインのタコ殴り、小太郎の怒涛の反撃を見た観客の緊張と期待は凄い者がある。


 「スクラップ・フィスト!」
 「狗音爆砕拳!」

 同時に放たれた攻撃。

 普通に考えれば、リーチの差から小太郎の攻撃はリインには届かない。
 それは小太郎も分かっている…故にその拳が打ち抜くのはリイン其のものではなく、

 「!!!」

 繰り出されたリインの拳だ。
 此れならばリーチに関係なく、己の攻撃を届かせる事が出来る。

 更に拳は、少しだけ小太郎の方が小さい。
 その僅かな差が、小太郎に有利に働いた。

 『え〜っと…あ、相打ち?』

 「いや、私の負けだ。この拳では戦闘続行は無理だ。」

 リインは、小太郎の拳を受けた自分の手を和美に見せる。
 その手は…指が曲がってはいけない方向に曲がっている。

 誰が見ても分かるほどの複雑骨折は間違い無い。
 小太郎の一撃はそれ程の威力があり、僅かに小さな拳が其れを逆に強化したのだ。

 『うおい!大丈夫かアンタ!?指がありえない方向に曲がってるぞ!?』いや、大丈夫だろうけどさ。直ぐ治しなよ?」

 「分かっている。見事だ、小太郎。」
 「す、スマン…こんだけの威力、必要なかったわ。マダマダ俺も未熟や。」

 オリハルコンの力は知っているものの、此れだけの怪我をさせてしまったのは流石に気が引けるようだ。

 「マダマダ未熟と言うことは、マダマダ強くなれると言うことだろ?準決勝、頑張れ小太郎。」

 骨折してない方の手で小太郎の頭を撫でる。

 「…!わ〜っとるわ!…サンキューなリイン。」

 其れにくすぐったそうにぶっきら棒に言い、少し恥ずかしそうに礼を言うのだった。


 ――○犬上小太郎(7分40秒、狗音爆砕拳)リインフォース・イクサ●――


 『さぁ、2回戦も此れにて終了!!10分間の休憩を挟んでお次は準決勝だ〜〜!!』


 休憩となり、再び中空に光学映像でトーナメント表が映し出される。








 準決勝第1試合の楓vs稼津斗は勿論の事、第2試合も観客の興味を引いていた。

 大凡年相応とは思えない実力の子供2人の対決。
 それに興味を覚えるものが結構居たのだ。



 さて、選手席に戻ってきたリインと小太郎だが、何かに気が付いた。(リインはもう手を治してある)

 「結界か此れ?」
 「あぁ、認識障害だな?…稼津斗は何処に行った?」

 見れば稼津斗が居ないが…



 ――シュンッ



 突然瞬間移動で現われた。
 認識障害結界は、この為に張られていたらしい。

 しかも1人ではなく。

 「美空殿にシャークティ殿ではござらんか?」
 「稼津斗にぃ、彼女達は?」

 全く予想してなかった人物の登場に、選手席のメンバーは吃驚。

 「会場の裏手で、絡繰の妹と思しきガイノイドに足止め喰らってたんでな、連れてきた。俺達に用が有ったんだろ、シスター・シャークティ?」

 「はい。実は……高畑先生が行方不明になってしまったのです。」

 …如何やら、大会の裏で何かが起きている、それは間違いないようだ。















  To Be Continued… 

-31-
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