小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 和美とリインが、エヴァンジェリン邸(の跡地)で戦闘を開始した頃――


 「やっぱり来たか…ま、当然かもだけど。」

 裕奈達もまた世界樹に向かう途中で自称『正義』の魔法使い達と対峙していた。
 稼津斗組、ネギ組、修行組+αの倍以上のその数は過剰戦力以外の何者でもない。――並の相手ならば。

 残念ながら、この面子は並ではない。
 特に煮え滾る程の怒りをその身に宿している稼津斗組の面々は余計にだ。

 殺る気バリバリの相手を前にしても、恐れや怯え等は微塵も無い。
 それどころか、其れを受けて逆に煮え滾っていた怒りが、冷たい怒りへと転化したくらいだ。

 「…邪魔立てするならば容赦はせぬ。押し通らせてもらうでござる!」

 「それ以前に、仇を前に怒りを抑え付けておけるほど、私達は大人でもないんです…!」

 次の瞬間、強大な力が弾け土煙が巻き起こる。
 当然の如く、正義の魔法使い達は驚くが、土煙が巻き起こった事に驚いたのではない。

 驚いたのは、弾けた力の強さだ。
 その強さは全力状態のエヴァと略同等レベルと言えるモノだった。











 ネギま Story Of XX 38時間目
 『Never Lose My Way』










 一方のエヴァンジェリン邸跡地では、XXに覚醒した和美と、3つの力が統合されたリインによる戦いとは言えない一方的な蹂躙が行われていた。

 「喰らえ…煌煌流星!」

 「封縛…吼えよ!」


 揮われるのは理屈や道理等が一切通用しない純粋なまでの『力』…

 中身無き正義を謳う魔法使いに其れを受けきる事など不可能。
 戦う前から勝負は決していたのだ。

 「ば、馬鹿な……たった2人の小娘に私達が負けるなど…!」

 押しかけた魔法使いの2/3が既に倒され、全員が意識を刈り取られている。
 流石に死者は居ないが、半年は病院のベッドが相棒になる事は間違いない。


 「ぐ…オノレ……仕方ない。」

 まともにぶつかっては不利と悟ったのか、リーダー格の男がポケットからリモコンの様な物を取り出しキー操作を開始。



 ――ゴゴゴゴゴゴゴ…



 其れと同時に現われたのは巨大な『兵鬼』。
 学園祭2日目に、地下で見つけた超の戦力の1つだった物だ。

 普通ならばその巨体に怯む事だろう。
 が、目の前の2人にとって此れを持ち出した事は最大の悪手以外だった。

 「虚空裂風穿!」

 「撃ち貫け…ザ・クリエーション・バースト!」

 現われた傍から、一撃で撃沈。
 強力な気功波と魔力砲を受けた兵鬼は跡形も無く霧散してしまった。

 当然だ、2人にとってこの兵鬼は稼津斗を死に至らしめた存在に他ならない。
 殲滅の対象にこそなれ、怯むような相手では無いのだ。

 「…弱いね。XXに覚醒したって言っても私等に簡単に壊される程度……魔法禁止弾と超りんを巻き込んでの一撃が無ければ稼津兄は殺られなかった。」

 「今の兵鬼で私達を始末しようとしたのだろうが…当てが外れたな?」

 射殺さんばかりの鋭い眼光。
 切り札である兵鬼を失った魔法使い達にとって、自分達を睨みつける赤と金の瞳は最早恐怖以外の何者でもなかった。

 言葉も出ない。
 数で押しかけ、更には万全を期して兵鬼まで用意した。

 幾ら『裏』に関わっているとは言え、中等部の小娘など簡単に捕縛出来ると思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば数は意味を成さず、兵鬼は一切無力どころか一撃を放つ事さえ出来なかった。
 格どころか次元が異なるほどのその力……勝つことが出来ない。

 其れと同時に嫌でも理解した。
 稼津斗を消す事が出来たのは、単に稼津斗が自分の命よりも超の事を優先したからだ…と。
 そして稼津斗の死と言う現実は彼女達の中に眠る『修羅』を呼び覚ましてしまったのだと。


 瞬間、更なる恐怖を感じた。
 本能的な恐怖……そう、抗いようの無い『死』への恐怖。

 其れを感じさせたのは目の前の2人。

 和美の拳に練りこまれた気と、リインの掌に収束する魔力。
 其れが放たれたら、どうなるかは考えるまでも無い……先刻の兵鬼と同じ運命だろう。


 が、其れを止めたのは魔法使い連中にとっては予想外の人物だった。


 「その辺にしておけ朝倉和美、リインフォース。その程度の阿呆など殺す価値も無かろう。」

 「真祖の姫か…」
 「其れにネギ君も…」

 「落ち着いてください2人とも……って朝倉さん、ですよね?」

 現われたのはエヴァとネギの2人。
 ガンドルフィーニ達を一蹴した2人は、急いでこの場に向かっていたのだ……手遅れだったが。(家屋崩壊の意味で)

 「その姿…ふっ、XXとやらに覚醒したか。
  ん?と言うことはだ、其れに至るほどの感情の爆発があったということか?稼津斗の奴から以前にそう聞いたが…」

 和美の姿を見て、エヴァはすぐさま看破したものの覚醒の理由を思案する。
 が、目の前で情けなく腰を抜かしている魔法使い連中を見て答えは出た。

 「成程、そう言う事か。其れならばさっきの一撃は止めずに打たせてやるべきだったな…」

 「エヴァンジェリンさん!?」

 「朝倉和美の覚醒と、さっきの状況を統合して考えると…方法は分からんが、稼津斗を殺したな貴様等…!」

 怒気を含んだその一言に、既に戦意喪失していた連中は身体を震わせる。
 百戦錬磨にして『闇の福音』の異名をとる最強の魔法使いの静かな怒声は迫力が違う。

 「そ、そんな!カヅトが……。!!!まさか超さんも!?」

 稼津斗が殺されたと聞いて、ネギは驚くも、直ぐに超の事が心配になった。
 学園祭前の事から、超も正義の魔法使い達に相当に警戒されていた事は分かっていたから。

 「…超りんも死んだよネギ君。最終日から瀕死の状態で渡航して来て、歪んだ世界を戻してくれって……!亡骸はクスハの炎で葬したよ…」

 「そ、そんな…!!」

 超までもが死んだと聞いたネギは崩れ落ちそうになる…何とか堪えはしたが。
 逆にエヴァは其れを聞いて誰が聞いても分かるようにあからさまな舌打ちをした。

 「何処までも屑だな貴様等……稼津斗を消すついでに超の奴もか?大概にしろ下衆が!
  超の奴には少々失望したが、それでも貴様等と比べれば遥かに『自分』と言うものを持っていたよ。其れを貴様等は…」

 一旦其処で言葉を切り…

 「恥を知れ愚か者共が!!」

 次の瞬間、巨大な氷の塊が出現した。
 エヴァが、気を失っている連中も含め魔法使い共を全て氷付けにしたのだ。
 6月の陽気ならば日が沈む頃には溶けているだろうが、此れではもう動く事は出来ない。

 「エヴァちゃん?」

 「ふん、全く持って腹立たしい!手前勝手な正義を謳う連中は600年の間に掃いて棄てるほど見て来たが、こいつ等はその中でも最悪だ。
  まぁいい、そんなものは今更だ。歪んだ世界を元に戻せと言う事は、超の奴はその手段を持ってきていたのだな?」

 最早連中の事で言う事など無いとばかりに話を変える。
 和美とリインとしては自分達で止めを刺したかったが、エヴァの一撃は自分達の手を汚させないようにとの事だろうと思い矢張り話を進める。

 「此れをネギに渡してくれと言われた。そして世界樹の最深部を目指せ…と。」

 「此れは…カシオペアですね。此れで僕のと合わせて2機…だけど世界樹の魔力は…」

 「其処で最深部なんだよネギ君。学祭後1週間なら、最深部には未だ魔力が残ってるって!」

 「成程…其れを使って最終日に遡行する訳か。うむ、其処まで戻れば家は無事と言うわけだな?」

 「「う”…」」

 ちょいと皮肉を言われ和美とリインは詰まる。
 怒りに任せて力を解放し、エヴァの家を吹き飛ばしてしまったのは紛れも無い事実だから。

 「まぁ、別に構わん。此れを吹き飛ばすほどの感情の爆発は逆に賞賛モノだ。時に他の連中は如何した?」

 「先に行ってもらった。多分今頃…」



 ――ドォォォォォン!!



 何かを言う前に聞こえてきた爆発音。
 其れは裕奈達が向かった方向からだ。


 「如何やら始まったみたいだねこりゃ…」

 「そうだな。…私達も行くか。」

 その爆発音が何であるかを瞬時に理解し、一行はエヴァンジェリン邸跡地から移動を開始した。








 ――――――








 「いい加減…しつこいっての!!」

 世界樹へと連なる道でも裕奈達が一方的な蹂躙を行っていた。
 戦闘力的に当てにならない修行組+αはクスハが妖術を駆使した結界で護っているのだが…


 「あ、あははは何だアレ?何で皆見た目変ってんの?のどかとか完璧に超サ○ヤ人じゃん…」

 裏に触れたばかりのハルナは目を皿のようにしてこの光景を見つめていた。
 先程の強大な力の破裂が収まった直後に稼津斗組はクスハを除く全員の姿が変っていたのだ。


 裕奈は銀髪蒼眼、亜子は白髪黒眼、真名は灼髪金眼で楓は蒼髪銀眼。
 のどかに至っては金髪碧眼でハルナの言うように、殆ど某戦闘民族の最強状態にしか見えない。

 要するに全員がXXに覚醒したのだ。


 では姿が変っていないクスハは覚醒していないのかと言われると、其れは否。
 クスハの場合はXXへの覚醒ではなく、自身が妖狐として進化していた。


 「此れが九尾ですか…」


 そう、夕映が言うように『九尾の狐』に進化したのだ。
 其れゆえ外見的な変化は無く、あるとすれば尻尾が9本に増えている事くらいだ。
 だが、その身から溢れ出る妖気と魔力は確かに今までよりも格段に強くなっている。

 この面子なら楽勝と思うが、


 「負ける気はせぬが、こうも多いとウンザリでござるなぁ…」

 楓が言うにはそうでもないようだ。
 原因は魔法使い共を倒した直後に現われた改造型田中の大群。

 全く持って敵ではないので倒しては進んでを繰り返していたのだが、世界樹目前で今度は100体を越える数が現われたのだ。
 幾ら敵でないとは言っても、此れは面倒にもなるというもの。

 「亜子、こうなったら…」

 「せやな…ウチとのどかの合体魔法で一気に吹き飛ばしたるわ!!」

 一気に吹き飛ばして先に進もうと、のどかと亜子が魔法を放たんとするが、


 「力はとっておきなさい…神鳴流、雷鳴閃!」
 「喰らい尽くしや、式紙符・六合!」
 「彼女達の邪魔はしないで欲しいな…轟殺居合拳!」


 何処からとも無く飛んできた斬撃と、巨大な蟲の式神、そしてバズーカのような拳圧。
 こんな事ができる人間は限られている。

 「師匠(せんせい)、刀子さん!」
 「タカミチ?」

 そう、今の一撃を放ったのは刀子と千草、そしてタカミチだった。
 三者三様の一撃でオーバー100体の田中を葬り去った辺り、流石の実力者と言えるだろう。


 「スマナイね皆、すっかり脱出に手間取ってしまったよ。
  でも、もう大丈夫だ。暴走した魔法生徒と先生は学園長の命を受けた僕達で鎮圧する事になったよ。」

 どうやら学園長をはじめ『まともな魔法先生&魔法生徒』は暴走した連中によってどこかに捕らわれていたようだ。
 奇しくもエヴァの予想は当たっていた事になる。

 「学園祭最終日に起きた飛行船の爆発事故の真相も分かってる。ホンマにフザケタ話や。
  あんさん達は、過去に――学園祭最終日に戻るつもりやな?」

 「その通りだよ千草さん。稼津斗にぃと超を死の運命から救う為にね。」
 「この歪んだ世界を元に戻す事も兼てって事で。」

 千草の問に真名と裕奈が答え、アスナ達も其れに頷く。
 其れを見たタカミチは笑みを浮かべ…

 「なら行くんだ。……丁度来たみたいだしね。」

 「その様でござるな…」

 タカミチの視線の先、其処には、


 「アスナさ〜ん、皆さ〜ん!」

 「首尾はどうよ?」

 エヴァンジェリン邸跡地からこっちに向かっていた和美、リイン、ネギ、エヴァの姿が。


 「ネギ、キティ!」

 「その分やと楽勝やったみたいやね?」

 「当然だ。」


 此れで全員が揃った。
 あとは世界樹の最深部まで行くのみだが…

 「どうやって行けば良いアルか?」

 新たな問題が。
 どうやって其処まで行くのか…道程が一切不明なのだ。

 極大気功波や魔法で世界樹の根元から直接穴を開けてもいいのだが、衝撃で残ってる魔力が霧散する危険性があるため此れは使えない。

 「心配要りませんよ。私達を解放してくれた彼が手を貸してくれます。」

 「「「「「「「「「「「「「「「「「「彼?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 「お久しぶりですね皆さん。」

 現われたのはローブを纏って、胡散臭い笑顔を顔に貼り付けた男。
 そう、武道会でリインに撃沈された『クウネル・サンダース』こと『アルビレオ・イマ』だ。

 「お前…」

 「警戒なさらずに。私個人としてもこの様な世界は受け入れる事はできませんので協力させていただきますよ。
  転移魔法を使って、世界樹の最深部……地下30階までお連れします。」

 「良かろう。さっさとやれ。」

 意外な申し出だが、誰かが何かを言う前にエヴァが強制命令。
 自分達で探すより、この男にやらせたほうが楽だと考えたのは間違いない。

 「エヴァちん、大丈夫なのコイツ?」

 「大丈夫だ。こいつは胡散臭いし、他人をおちょくるムカつく奴だが意味の無い嘘を吐く奴ではない。」

 怪しむ裕奈に危険では無いとだけ伝え、目で早くしろと訴える。

 「分かりましたよ…では!」




 ――シュン!




 素晴らしいまでの転移魔法が発動し、一行は一気に地下30階の世界樹最深部へ。

 「あそこ!光っとる!」
 「ホンマや…綺麗やな〜〜。」

 その中心から溢れる光に思わず声を上げる。
 この光が世界樹の魔力で間違いないだろう。


 「む…どうやら魔法使いの人間界日本支部施設の方から来た追っ手が居るようですね。予想していたという事でしょうか…」

 「しつこいでござるな…!」

 追っ手と聞いて臨戦態勢を取ろうとするが、其れはアルに止められる。

 「彼等は私が止めましょう。仮初の分身でも彼等に負けるほど脆弱ではありませんので。」

 「……分かった。一応、礼を言っておく。」

 「お気になさらず。さぁ、早く!」

 頷き、中心の光に。


 全員が中央の魔法陣に乗った事を確認し、ネギは2つのカシオペアを取り出す。
 同時に余計な刺激を無くする為に稼津斗組の面々はXX状態を解除。

 「アレ?…リインさん髪の色が…」

 「…蒼くないな。力が統合された影響だろうな。」

 リインの髪が蒼から鈍い銀色に変ってた様だが此れにて準備は完了。

 「行きますよ皆さん!!」


 ――カチリ


 スイッチを押した瞬間、膨大な魔力が逆巻き、一行を取り囲む。
 そして、世界樹の残存魔力と共に消えたのだが…



 ――ゴォォォォォ!!



 「い、今までとは違う!!皆さん手を離さないで!!」

 時間移動の空間では何やら凄まじい勢いで時を遡っていた。
 もしも手を離したら時空の狭間に取り残されてしまうだろう。

 必死に互いに手を繋ぎ、飲み込まれないようにする。

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 そして一行は、出口と思われる光の穴に吸い込まれていった…












  To Be Continued… 

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