小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 ――学園祭最終日・AM8:30


 「うわっ!!」
 「戻ってきたのか…!?」

 強烈な浮遊感と吸引感を感じた直後、ネギ達は無事に学園祭最終日へと戻ってきていた。

 「…って何でこんな上空に出てるの!!」
 「も、若しかしてこのまま地面に一直線〜〜!!」
 「アカンて!ウチ等まだ空飛ぶ方法は覚えてないで〜〜!?」
 「くちゃっと行くと流石に治せねぇんだろ!?」
 「あ〜…此れは無理やな〜…」

 …無事に?

 カシオペアの2つ同時制御に無理があったのか、消えかけの世界樹の魔力を利用したからなのか…
 原因は不明だが、一行が出てきたのは学園の遥か上空。
 此処から落ちたら間違いなくDed Endだろう。

 「く…此処は僕が!」

 すぐさまネギが風属性の魔法で抑えようとするが、

 「力は温存しておけ。」

 声が聞こえた瞬間…


 ――パシュン!


 一行は廃校舎の屋上へと一瞬で移動していた。












 ネギま Story Of XX 39時間目
 『FANATIC WALTZ』










 一体何が起きたのか?


 無防備な状態で投げ出された遥か上空。
 しかし、自分達は廃校舎の屋上に居る――怪我一つ無く。

 ネギは魔法を発動させなかった……とするならば一体誰が?


 「気配が全く無いから何処に行ったのかと思ったが、まさか空から現われるとは思わなかった。中々派手な登場だったぞ?」


 考えるまでも無かった。
 ホンの数時間だが、確実に失ってしまったその存在。
 遡行したならば、真っ先に会うべき相手――稼津斗だった。


 誰も何も言えない。
 真っ先に探し、会うべきと誰もが思っていたのだが、余りにも唐突な再会。

 それ故に現実感が何処か感じられない。


 数十秒前までの世界では目の前の男は『死んで居た』が、今この世界では『生きている』のだ。


 「如何した?全員で鳩が豆鉄砲を食らったというか狐に…抓まれてるぞ亜子。」

 「クシュハ、いらい…」

 「痛いって事は夢じゃないよね?」

 余りの現実感の薄さに、クスハが亜子の頬を抓ったくらいだ。

 「…本当に如何したんだ?最終日が始まって直ぐにお前達全員の気が消えて、何か有ったのかt「稼津君!!」―裕奈!?」

 我慢が出来なかった。
 稼津斗の言葉を遮る形で裕奈が飛びつき――

 「稼津斗さん…!」
 「稼津さん!」
 「カヅトォ!!」

 其れを皮切りに、のどか、亜子、クスハも飛びつく。
 合計4人に飛びつかれて尚倒れなかった稼津斗は流石だろう。

 「お、おい…一体?如何したって言うんだ、行き成り――…何が有った?」

 突然抱きつかれ、驚くが、直ぐに裕奈達の身体が小刻みに震えている事に気付く…泣いてるのは間違いない。
 見れば抱きついて来なかった和美、真名、楓、リインも堪え切れずに涙を流している。

 「何なんだ一体…おい…」



 ――ドサリ



 「…!ネギ君、如何したん〜〜!?」
 「しっかりして下さい、ネギ先生!!」
 「おい、まさか魔力を使いすぎたのか!」

 いい加減如何言う事かを説明してもらおうとした矢先に、ネギがその場に倒れる。
 稼津斗の生存を確認した瞬間、戦闘と1週間もの時間跳躍を行った疲労が一気に出たようだ。

 「…詳しい事は場所を変えて聞いたほうがよさそうだな。ネギを休ませられる場所も必要みたいだし。」

 「だな、このままでは埒が明かん。」








 ――――――








 ――エヴァンジェリン邸(崩壊前当然だが)


 「そんな事が有ったのか…それで気を感じなかったんだな。そもそもの時間軸が違うんだから当然か。」

 一行は又も稼津斗の瞬間移動でエヴァ邸に。
 取り合えず裕奈達を落ち着かせ、ネギをソファーに寝せてから(現状では)最も冷静である千雨とエヴァが何があったかを説明していた。

 自分達が1週間後から遡行してきた事、その世界では超の計画が歪に発動していた事。

 そして、稼津斗と超は一部の魔法関係者の暴走で死んでしまったと言う事。

 其れが原因で稼津斗の契約者達は『XX』に覚醒した事。
 知っている事を全て隠さずに説明していた。

 「俺を殺した、か。それだけじゃなく超までも。挙句に爺さんやタカミチ達を閉じ込めてやりたい放題とは…正義が聞いて呆れる。
  しかも、余計な事を言って和美達の力を覚醒させてしまうとは馬鹿と阿呆も極まれりと言うところだな。」

 怒りを通り越したように、心底呆れた溜息を吐く。
 『正義の魔法使い』の事は理解していたつもりだが、此処まで愚かしい連中とは思わなかったのだ。

 「まぁ、XXに覚醒するまでの感情の昂りの原因が俺だったと言う事は嬉しくもあるがな。」

 「稼津斗さん?」

 「覚醒に至る最後の一線を突破するほどだったんだろ俺の死と言うのは。そこまで想われていたと言うのは正直に嬉しいさ。」

 軽く笑って答える。
 たった其れだけだが、のどか達は今のですっかり気分が落ち着いていた。
 『稼津斗は間違いなく生きている』、そう実感できたのかもしれない。

 「と、時に仮契約カードの方は確認したのか?死んだカードのままと言うことは無いと思うが…」

 「そう言えばそうでござるな。仮契約カードと……ん?これは如何言う事でござろうか?」

 「如何した?」

 「カードが変っているでござるよ…」

 カードを確認しようと取り出した楓がそのカードが今までとは違う事に気付く。
 否、楓だけでなくカードを確認しようとした全員のカードが変化していた。

 失われていたアーティファクト、徳性、星辰性、方位、色、ナンバー、称号が復活しているだけではなかった。
 カードイラストが変化し、薄い黄土色だったカードは角度によって七色に輝く不思議な物になっている。

 「七色に輝くカード…此れはまさか『真契約カード』か?」

 「「「「「「「「真契約カード!?」」」」」」」」

 聞きなれない単語に疑問。
 其れに答えたのはエヴァだ。

 「ほう、此れがそうか。私も話に聞いてはいたが見るのは初めてだが…確か究極的に絆が深まった者同士でのみ出現するカードだった筈だ。
  その強さは本契約すら凌駕すると言う話だ。勿論、仮契約とは比べ物にならん。アーティファクトも変っているだろう?」

 「そう、みたいです。」

 言われて見れば描かれているアーティファクトは以前とは異なる。

 「真契約は魂と魂の繋がりとも聞いた事がある。最早貴様等の繋がりは例え神でも引き裂く事は出来ぬだろうよ。」

 「魂の繋がりか。それなら確かに、2度と別れる事は無いだろうな。」

 思っても見なかった契約の強化現象だが、其れに浸っている余裕は残念ながら今は無い。
 この最終日にはやらねば成らない事が多くあるのだ。

 「せやけど、浮かれては居られへん。魔法関係者の暴走をどうやって止めるか考えな。」

 「和泉の言うとおりだぜ。折角戻ってきたのに結果が変らないんじゃ本末転倒だしな。」

 対策を練るべく気持ちを切り替える。
 千雨は自身のノートPCを起動し、既にネットから情報を引き出し始めている。

 「でも、如何しますの?超さんにこの事を伝えると言う訳ではないでしょう?」

 「超に話したら暴走の元凶の大学部に情報が漏れる可能性があるからね。」

 あやかとアスナも良い案が出ない。
 超の計画阻止と死亡阻止、暴走連中の制圧若しくは事前鎮圧を同時に行うというのは意外と困難だ。

 「話を聞く限り、ガンドルフィーニなんかは大学部の連中に踊らされた感が有る。
  その超兵器搭載型の大型『兵鬼』をどうにかできれば、そっちの戦力は削れるだろうが…」

 「そうなると超さんの方が手薄になる気がする。」

 暴走連中の対処は考えられるが…良い案は矢張りでない。


 「僕が超さんと闘います。」


 其れを破ったのは休んでいたネギだった。
 まだ辛いだろうに、上体を起こし続ける。

 「カヅトと超さんを死なせないようにするのは簡単です。2人が戦わないようにすればいいんです。
  でも其れだと超さんの相手がいなくなりますから、其れは僕がやります。」

 「ほう?如何言う事だネギ。自信が有るようだな?」

 「自信と言うか……僕と言う存在、正確には『サウザントマスターの息子』のネームバリューを利用しようと思うんです。
  大学部の人達だってサウザントマスターの息子を消すような真似は出来ない筈です。
  それからもっと大々的に、いっそのこと学園祭そのものを利用してしまいましょう。」

 思いもよらないネギの提案。
 まさか自身のネームバリューを利用するとは思いもしなかっただろう。
 更に学園祭その物の利用とは…

 「学園祭そのもの……成程、最終日の全体イベントか?」

 「くっくっく…そうか、考えたじゃないかネギ。確かに其れならばあの三流共は如何にも出来まいな。」

 その考えを看破した稼津斗とエヴァは納得といった顔だが、他は分かっていない様子。

 「え〜っと、どゆ事?」

 「つまりだ、超の計画には大量のロボットが使われる事は真名達が発見した地下の事から間違いないだろう?
  俺達だけでは手詰まりは自明…だったら、いっその事一般人に魔法アイテム渡してゲーム参加の形で即興の戦力になって貰う。
  更に一般人が大量に参加すればするほど、其処に紛れた俺を超兵器で焼滅させる事は出来なくなる。
  人の密集地で陽電子砲なんて物を使ったら、俺だけでなく無関係な一般人まで消し去ってしまうからな。
  欲を言うなら、その超兵器を先に破壊できると最高なんだが…」

 今度は変って稼津斗が説明し、全員が作戦の内容を理解する。
 更に、

 「超兵器の破壊なら私とイクサに任せてよ稼津兄。アーティファクトを使って探れば簡単に見つかるさね。」
 「見つかったら、月詠を使って其処まで行けばあとは簡単に破壊できる。」

 和美とリインが兵器破壊に志願。

 ネギのちょっとした考えから、一気に作戦が練りあがって行く。

 「最終日のイベントでしたら私の権限で変える事が可能ですわ。この際派手にしてしまいましょう。」

 「必要な魔法具も本国ならば大量に死蔵されているはずですから、転移魔法で空輸すれば夕方には間に合うはずです。」

 一致団結、驚くほどのスピードだ。

 「ネットの方は私に任せとけ。必要なら大学部の連中のデータのクラッキングだってやってやるぜ。」

 「では、お嬢様、私達は…」
 「うん、お爺ちゃんに報告や!」

 「なれば拙者達はイベントの宣伝の方を担当するでござる。」
 「参加者は出来るだけ多い方が良いだろうからな。」


 あんな『歪んだ未来』を到来させないために全員が己の役割を的確に決めていった。








 ――――――








 ――学園長室


 孫娘の木乃香と、その護衛剣士である刹那からの報告を受けた近右衛門は目を見開くほどに驚いていた。

 「何と……此れは本当かね!?超君の計画もさることながら、その裏で大学部の者が稼津斗君の殺害を計画しているとは…!」

 「ハッ、全て事実です。」
 「信じて――お爺ちゃん!」

 冷静ながらもハッキリと言い切る刹那と、必死に訴える木乃香から『嘘ではない』事だけは分かる。
 正直に言うと時間跳躍など俄に信じられる話ではないが、ハッキリ否定できる要素がないのもまた事実だ。

 「如何思うかね?」

 「俄には信じがたいですが、お嬢様と刹那がこうまで言うのですから、信憑性は高いかと。ネットの方を洗い直しては見ますが。」

 傍らの刀子に問えば、矢張り嘘ではないと言う。
 ならば近右衛門が疑う余地は無い。

 基より稼津斗と出会った事で、近右衛門は日本の魔法界トップになる以前の気持ちを取り戻している。
 大衆的に掲げられた『正義』ではなく己が正しいと思った事を貫く『正義』を持っているのだ。

 だから迷いなど無い。

 「あい分かった!2人の報告は信じよう。本当ならばあとはワシ等に任せて、と言いたいが報告を聞く限りそうはいかんじゃろ?
  木乃香や、ワシは何をすればいいんじゃ?無論魔法関係者に対しては説明するが、他にして欲しい事があるんじゃろ?」

 飄々とした好々爺ではない。
 鋭い光を瞳に宿した歴戦の魔法使いの顔……其れに木乃香は、否刹那も頼もしさを感じ遠慮なく要求をする。

 「つきましては此れだけの装備を用意していただきたいのですが…」

 「うむ…ふ〜む、随分特殊な魔法具じゃが、此れならば本国のクラウナダ異界国境魔法騎士団の倉庫に死蔵されてた筈じゃ。
  殆ど使わなくなった半ば骨董品扱いされとる物じゃから、必要数は比較的楽に手に入るはずじゃろ。
  うむ、裏方の準備は引き受けた!君達は表舞台を派手にやってくれい。この際相当な無茶も目を瞑るわい!」

 「学園長!」
 「ありがとう、お爺ちゃん!」

 礼を言うと、全体イベントの方を手伝うべく、2人は学園長室をあとにする。
 2人が居なくなった所で、

 「刀子君、至急魔法関係者を招集してくれたまえ。無論『大学部』の連中もな。」

 近右衛門の老獪な戦術が始まろうとしていた。








 ――――――








 一方で、超兵器搭載型の兵鬼が格納されている場所は驚くほど簡単に探す事が出来た。

 と言うよりも、真契約で現れた和美の真アーティファクト『携帯千里眼』の情報収集能力の前では如何なる隠蔽も無意味だった。


 「木を隠すなら森の中…地下にある別の部屋に保管しておけば超でさえも疑いはしないか…」

 「ま、悪くない判断だけどね。」

 場所を割り出し、和美とリインの2人は作戦通りにこの場所に。
 見張りの1人も居ないが、其れは2人が訪れる直前に刀子から3−Aを除く魔法関係者全員に学園長室への召集が掛けられたからだ。

 尤も、誰が居ようともこの2人の敵ではないだろうが…


 「さてと…ちゃっちゃと壊すとしようかね?」

 「だな。正直あまり見てはいたくない。」

 歪んだ未来でも破壊した存在だが、矢張り此れが稼津斗の命を奪ったものだと思うと気分は良くない。
 早急に破壊せんと、和美には気が、リインには魔力が集中する。

 「吹き飛べ…金剛裂爪斬!」

 「響け…シューティング・ソニック!」

 放たれた2つの衝撃波はいとも簡単に合計5体の兵鬼を跡形も無く吹き飛ばした。
 後に残るは完全な残骸、屑鉄とすら言えない物だった。

 「此れは持って行ってしまうか?」

 「魔法禁止弾?そだね、有ると厄介だからね。」

 着々と作戦は進んで行く。







 当然エヴァンジェリン邸でも、


 「お見事です千雨さん。」

 「はっ、この程度のセキュリティじゃ私の敵じゃねえ!まぁアンタのバックアップがあればこそだけどな茶々丸。」

 千雨と茶々丸が大学部にある、超からのオーバーテクノロジーのデータをバックアップも含めてクラッキングしまくっていた。
 しかも、ただクラッキングするだけではなく、ウィルスプログラムまで仕込むおまけつき。
 凄まじいまでの徹底ぶりだ。


 その傍らで、

 「エヴァンジェリンさん、此れは…?」

 「飲め、魔力と体力を大きく回復する効果のある、本国の秘蔵の一品だ。」

 エヴァがネギの回復を促進していた。
 なにやら怪しげな物を進めているが…

 「それじゃ、いただきます。」

 一気にコップの其れを飲み干す。

 「…くはっ!!な、何ですかこれ!?物凄くクセ強いんですけど…」

 「くっくっく…本国秘蔵の逸品『八岐のキングコブラエキス』だ。クセは強いが、回復効果で此れに勝るものは無い。」

 本当にとんでもないものだった。
 恐らくは『マムシドリンク』のようなものなのだろう。

 「た、確かに魔力が漲ってきました!!あ、ありがとうございますエヴァンジェリンさん!」

 「可愛い弟子兼大切なマスターの為だ、此れくらいは惜しまんよ。…時に稼津斗は如何した?」

 見ると稼津斗の姿が無い。
 この劇物的ドリンクを取りに地下に行く前には居たのだが…

 「あ、稼津斗先生ならご自分の特殊ダイオラマ球に行ったですよ?10分で戻るとか。」

 「特殊ダイオラマだと?あいつ、どれだけの時を10分に圧縮して使うつもりだ?其れに何故今…」

 「『限界を超えてくる』って言ってた。XXの純粋進化をするって…」

 「ほう?」

 夕映とアキラの答えを聞き、エヴァの口元に笑みが浮かぶ。

 「XXの純粋進化だと?銀装をも超えるというのだな?くくく…はっはっは!良いぞ稼津斗、最高だ!
  既に最強と言って良い力を持ちながら、更なる高みを目指すか!見せてみろ、成長限界を知らぬお前の力を!!」


 準備は整い始め、作戦は確実に進行して行く。







 最終日全体イベント開始と超の計画始動まで――あと10時間。












  To Be Continued… 

-39-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




魔法先生ネギま!佐々木まき絵/塗装済み完成品フィギュア
新品 \3990
中古 \1980
(参考価格:\3990)