小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 近右衛門にエヴァの封印をとく事を伝えてから数日たったある日の夕方。
 学園都市の一角で、1つの段ボール箱を前に稼津斗は困っていた。

 「……」

 稼津斗は困っていた、その箱には動物の子供が入っていたから。
 しかも、『拾ってください』の札付きで。

 「………」

 何度も言うが稼津斗は困っていた。
 何故ならその箱に入っていたのは…

 「捨て猫や捨て犬ってのは良く聞くが、『捨て狐』…だと?」

 そう、真っ白な毛並みの子狐が入っていたのだ。









 ネギま Story Of XX 5時間目
 『これにて落着!』









 「如何したもんか…」

 見つけてしまった以上無視は出来ない。
 と言うかそれ以前に、何で狐が捨てられて言うかというほうが問題なのだが…

 「取り合えず、食うか?」

 コンビニの袋からさっき買ったばかりの稲荷寿司を開けて子狐に出す。

 「コ〜ン♪」

 其れを嬉しそうに食べる子狐。
 相当腹が減ってたようだ。

 「…その子を如何するおつもりですか?」

 「絡繰か。見殺しには出来ないからな俺が飼うさ。」

 背後から声を掛けて来たのは絡繰茶々丸。
 その手にはスーパーの袋が下げられている。

 「…キャットフード?」

 「はい、野良猫達に。」

 「そう言えば、野良猫がやたらといる場所があったが、あの子達は絡繰が世話してたのか。」

 「世話と言うか…ただ、餌を与えているに過ぎませんが。時に本当に飼うのですか?その子は…」

 「分かってる。この子は『妖狐』だ。尻尾が8本もあるし。だが、だからと言って無駄に死なせて良い道理は無いだろ。」

 「!…優しいのですね。」

 「野良猫に餌をやってるお前もそうだと思うが…其れは良いとして、お前の主のところに案内してくれないか?
  話したい事があるんだが授業は何時もサボりの上、家が分からないんでな、正直困ってる。」

 「其れは構いませんが…」

 「そう言ってもらえると助かる。」








 ――――――








 「フン…まさか貴様が来るとは、何の用だ?」

 エヴァンジェリンの家に着き、対面した瞬間がこれである。
 普通なら気分を著しく害するところだが…

 「そう警戒するな。大体、話さない事には何の用かもわからないだろ?」

 稼津斗は実に簡単に受け流す。

 「ならばさっさと言え。私とて暇ではない。」

 「ならせめて落ち着いて話せるようにしないか?せっかく手土産まで持ってきたんだ。」

 そう言って手にした紙袋を掲げてみせる。

 「…甘味か?」

 「『超包子』で作ってもらった月餅だ。別に嫌いじゃないだろ?」

 「…良いだろう。入れ。茶々丸、茶を用意しろ。今日は中国茶だ。」

 「御意。」



 客間に通され、茶が出てきたところでいよいよ本題となる。

 「さてと…マクダウェル。単刀直入に言う。お前の呪いと封印を解きたいんだが…如何だ?」

 歯に絹を着せずストレートに伝える稼津斗。
 無用な駆け引きなど必要ないという姿勢にエヴァンジェリンも面喰う。

 「貴様正気か?私の封印と呪いを解くだと?私は『悪の魔法使い』だ。解いた瞬間この一体を消滅させるかも知れんのだぞ?」

 「お前はそんな事はしない。本当にお前が『悪』ならば明石裕奈、大河内アキラ、佐々木まき絵の3人はお前の『眷属』になってるはずだ。」

 その指摘に思わず顔が歪む。

 「それに『封印』と『呪い』を盾に、あの爺さんに使われるのは些か飽きたんじゃないのか?」

 これに今度は口元に微笑が浮かぶ。

 「其れはそうだ。しかし、その言い方だと本当に解けるようだが…まさか無償ではあるまい?」

 「流石に察しが良いな。封印を解く代わりに明石達3人を解放すること、呪いを解く代わりにネギを鍛えるって事で如何だ?」

 提示された条件を頭の中で反芻し考える。
 基本的にはメリットとデメリットの兼ね合いだが…

 「ふ…良いだろう。それでこの忌々しい呪いと封印が解けるなら安いものだ。あのぼーやもみっちり扱いてやるとしよう。」

 「交渉成立だな。」

 「だが、封印は兎も角この呪い本当に解けるのか?この呪いは『サウザント・マスター』が掛けた物だぞ?」

 「解けるさ。場合によっては『解く』じゃなく『壊す』事になるだろうが。まぁいずれにせよ其れをやるのは次の満月だ。
  解くにしろ壊すにしろ、お前の魔力が充実する時じゃないと些か危険だし…それとその場にネギと神楽坂を同席させるが構わないだろ?」

 「次の満月まで待つのは良いが、ぼーやは兎も角、何故神楽坂明日菜を?」

 「絡繰から聞いてないのか?神楽坂はネギの従者になったぞ?」

 「!!」

 全く聞いてなかったのだろう。
 物凄い勢いで茶々丸のほうへ振り返る。

 「申し訳ありません。報告していませんでした…何故報告しなかったのか自分でも分からないのですが…」

 「むぅ…まぁ良い。今更何か不都合がある訳でもない。…何だもう帰るのか?」

 「用は済んだ。もう少し居ても良いんだが、こいつに飯をやらないと。流石に稲荷寿司2つじゃ足りないだろ。」

 先程の子狐を持ち上げてみせる。

 「先生、本日は油揚げが特価です。」

 「タイムリーだな。買って帰るとしよう。因みに明日はキャットフードが安いらしいぞ。」

 「其れは良い事を聞きました。」

 席を立った稼津斗へ茶々丸からのタイムリーな情報。
 それに更なる情報を返す稼津斗。
 まるで主婦の情報交換のような会話。

 「と言う事だからこれでお暇する。次の満月に又来る。」

 それだけ言うと玄関を出て行く。
 で、稼津斗が去った客間ではエヴァンジェリンが先程の茶々丸と稼津斗の会話にしばし呆気にとられていた。








 ――――――








 翌日の放課後。

 「凄い人気だったねクスハ。」

 「どこぞのエロオコジョの時以上よね。」

 「『狐』と言う普段見慣れない生物であった事も要因と思われます。」


 学園都市の一画にある野良猫が集まる場所。
 そこに居るのは昨日の子狐を連れた稼津斗、猫に餌をやりに来た茶々丸、そしてネギと明日菜。


 「1匹で家に置いとく訳には行かないから連れてきたけど、全く問題なかったな。」

 クスハと呼ばれた子狐は野良猫達と一緒に食事中(勿論油揚げ)
 8本の尻尾が嬉しそうに振られている。

 「ところでその子の名前の由来は?」

 「伝説の陰陽師『安倍晴明』の母親『葛の葉』から取ったんだ。
  『葛の葉』は妖狐であったと伝えられてるから雌の妖狐であるそいつにはピッタリだろ。」

 「成程、確かにピッタリですね。」

 「「???」」

 納得する茶々丸と、良く分かってない明日菜とネギ。
 良く分かっていないが取り合えず深く考えてはいない様である。
 2人とも『合ってるから良いか』位の認識なので当然ではあるのだが。


 「時に神楽坂、ネギの従者になったわけだが『アーティファクト』は使ってみたか?」

 「ネギに言われて出してはみたんだけど…」

 「何か問題でもあるのか?」

 「問題と言うか、見て貰った方が早いかも。明日菜さんお願いします。」

 ネギの頼みに溜息一つ吐き…

 「ま、稼津斗先生なら何か分かるかもね。アデアット!」

 呼びかけに呼応して明日菜の手にアーティファクトが現れる。
 だが其れは…

 「ハリセン?」

 「ハリセンですね。」

 ネギの身の丈くらいありそうな強大なハリセン。
 突っ込み体質の明日菜にはピッタリとも思うが、流石にこれは…

 「仮契約カードには『ハマノツルギ』って書いてあるし、カードの絵も大剣だから此れだと思ったんだけど。」

 「出てきたのはハリセンだった訳か。神楽坂、ちょっと貸してくれ…ふむ、スチール製で此れでも攻撃力は十分だな。
  …成程、此れはどうやら『封印状態』みたいだな。と言うことはだ…覇!」

 稼津斗が気合を入れると同時にハリセンが大剣へと変化する。

 「矢張りな。少し力を入れてやるとこうなると言う事は、今は未だ神楽坂の魔力不足といったところか。
  こればっかりは一朝一夕でどうにか為るもんじゃないが、感情の爆発によっては剣に変化する事もあるってとこだな。」

 剣を明日菜に返す。
 そして明日菜の手に渡った瞬間、再びハリセンに戻ってしまう。

 「感情の爆発って?」

 「一番分かりやすいのは『怒り』だな、無論自在にどちらの形態でも使えるようになる事は必要だけどな。」

 子猫とクスハの存在もあり和やかな雰囲気が流れる。
 だが、



 「!!皆伏せろ!!!」

 突如稼津斗の怒号が響く。
 視界の端に何か光る物に気付いた瞬間だった、無数の『何か』が飛んできたのだ。


 「絶気障!!」

 一瞬で『気』の防御壁を展開し全てを防ぎきる。

 「今のって『魔法の矢』…?そんな、一体誰が!?」

 自分達が襲撃された事に戸惑いながらも周囲を警戒するネギ。

 「良い度胸してるじゃない…やってやるわよ!」

 『破魔の剣』を構え臨戦態勢の明日菜。

 「…良かった。怪我は無いようですね。」

 警戒しつつ子猫の心配をする茶々丸。

 「気配を消しても無駄だ。大人しく出て来い。」

 すぐさま、襲撃者をサーチし姿を見せるように言う稼津斗。
 如何やら襲撃者が誰かも分かったようだ。

 「出てこないと、この前よりも強烈なのを喰らわせるぞ、生もの。」

 宣言する稼津斗の右腕の手首より先には気で出来た剣が展開されている。
 このまま切り付ける事も、剣を伸ばして突き刺す事も可能なのだろう、切っ先はサーチした襲撃者に向けられている。

 「ス、ストーップ!串刺しや三枚おろしは勘弁だぜ!」

 現れたるはオコジョ妖精・カモ。
 流石に命の危機を感じたらしい。

 「この野郎…一体如何いうつもりだ?今の一撃どうやったは知らないが確実に絡繰を狙っていたぞ!」

 「如何もこうも、そいつはエヴァンジェリンの手下じゃねぇか!先に始末しといたほうが兄貴が有利になるってモンだ!」

 「お前はこの間俺が言ってた事を聞いていなかったのか!?マクダウェルの方は俺に任せろと、そして余計な事はするなと言った筈だ!
  第一にして、この攻撃をネギと神楽坂が隣接してる状態で行うとは如何言う事だ?下手をすれば2人とも大怪我だぞ!」

 「て言うか、さっき茶々丸さん襲撃の案は私とネギが却下したじゃない!何考えてるのよ!」

 稼津斗のみならず明日菜にも追求され、更にネギに冷たい目で見られカモは狼狽する。
 おまけに攻撃対象だった茶々丸にも無表情でガン見されているのだからたまらない。

 「あ、いや、俺っちは兄貴と姐さんがやらねってんで…自ら汚れ役を…」

 言い訳を始めるが…



 ――ガブリ



 「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その尻尾にクスハが噛み付いた。
 しかも本気で。

 「何しやがんでい、この子狐!」

 当然食って掛るが…



 ――ガブリ



 「みゃぁぁぁぁぁ!」

 逆に喰われる。



 「カヅト、アレって…」

 「自然界の掟、生態系の関係だな。」

 突然の事でも聞かれたことに簡潔に答える。

 「喰う側と喰われる側ってこと?」

 「そう言う事。」



 ――ガブガブ



 「でも狐ってオコジョなんか食べる訳?」

 「狐は雑食性で自分より小さな生き物を狩りで捕らえる事があります。」

 「でも食べてない。」

 「捕食動物の子供は獲物を玩具にする事がある。」



 ――ゴォォォォォォ!



 「あ、燃やされた。」

 「妖狐は炎の扱いに長ける妖怪だ、アレくらいは子供でも出来る。」

 哀れ、黒焦げカモミール。
 妖狐とは言え、子狐に完全に下に見られている。



 「こんのクソガキ、調子こくんじゃねぇやい!」

 尤も、即座に復活するのだが。

 「お前こそ口の利き方に気をつけろ生もの。オコジョの妖精と八尾の妖狐じゃ格に天と地ほどの差がある。
  そいつは子供だが、妖精・妖怪の類じゃお前より遥かに格上だ。
  兎も角だ、マクダウェルは操るつもりでいた明石裕奈、大河内アキラ、佐々木まき絵を自分の支配下かから解いた。
  こちらを騙すつもりなら、態々手駒を捨てたりしないだろ。」

 稼津斗に抑えられ、もう一度エヴァは大丈夫だと聞かされてしまう。

 「それに、今後彼女はネギの魔法の師匠になるんだ、お前が余計な事をすれば最終的にはネギが迷惑するんだぞ?」

 「な、何だって?本当かよ兄貴!」

 「本当だよカモ君。カヅトからついさっき聞かされた。」

 「同時に神楽坂の師にもなる訳だが…あいつが真に『悪』でない以上、魔法の師としてこの上ない人物だろ?」

 「そ、其ればっかりは認めらんねぇ!!」

 吼えるオコジョ。
 うむ、非常にシュール。

 「兄貴がエヴァンジェリンに弟子入り?冗談じゃねぇって!サウザントマスターの息子が真祖の吸血鬼に弟子入りなんて…」

 「…分からない奴だなお前も…。」

 溜息一つ、カモを掴む。

 「そう言う考えが間違いだって言ってるんだ!」

 明日菜に向かって投げる。

 「イギリスまで飛んでけぇ!!」

 其れをハリセン版『破魔の剣』で打ち返す。

 「そして戻ってくるな…無駄だろうが言っておく。」

 吹き飛んだところに『刺突破砕撃』。
 後に『アルティメット・突っ込み・コンビネーション』と呼ばれる合体技が生まれた瞬間だった。

 「ネギ…悪い事は言わない、友人は選べよ…」

 「考えとくよ…」

 しみじみ言う稼津斗と、本気で考え込むネギ。

 この時、明日菜は本気でカモ抹殺を考え、茶々丸はデータベースからオコジョの駆除方法を検索してたりした…




 因みに吹き飛ばされたカモの悲鳴を聞いた彼女らは…





 ――バイアスロン部

 「…オコジョ君が何かしでかしたのかな…」







 ――さんぽ部

 「懲りないでござるな…」







 ――サッカー部

 「今のって『夕焼けの断末魔』やろうか?」







 ――図書館

 「…断末魔…」







 各々の反応であった。













  To Be Continued… 

-5-
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