小説『ネギま Story Of XX』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 其れは偶然か必然か、はたまた運命だったのか。

 「「「「あ。」」」」

 バッタリ出くわした亜子、真名、楓、のどかの4人。
 とある日曜日の午前の一時。
 この日、彼女達の運命は大きく動く事となる。









 ネギま Story Of XX 7時間目
 『真実・告白・5人の従者』









 この4人の目的地…言わずもがな稼津斗の家である。
 いつかは其々が出くわすだろうとは思っていたが、まさか全員が最初の訪問時に顔を合わせるとは予想しなかっただろう。

 「…聞くまでも無いと思うが私と同様3人とも、だね?」

 「ござる。」

 「やね。」

 「ですね。」

 態々言う必要など無い。
 4人とも稼津斗に好意を寄せているのだ。
 為れば4人の目的は同じ。
 なのだが…

 「此れは又珍しい組み合わせだね。」

 何処から現れたか『麻帆良のパパラッチ』朝倉和美。
 いや、何処からなど言うだけ野暮だ。
 この少女、特種を嗅ぎ付ける嗅覚は猟犬をも凌駕するのだ。
 
 が、今回ばかりは些か違うらしい。

 「行き先は稼津斗先生のとこかな?」

 「「「「!!!」」」」

 「やっぱりね。…私も一緒に良いかな?」

 「ちょっと待ってくれ。朝倉、まさか…君もなのか?」

 「正解♪私も君達と同じ。」

 此れには流石に4人も驚く。
 何せ就任初日に質問攻めにして以来殆ど関わる事の無かった此の少女が
 まさか自分達と同様に稼津斗に好意を抱いていたなど思いもしなかっただろう。

 「やけど朝倉、今まで殆ど稼津斗先生に関わってないやん。」

 「いやいや、どうやって落とそうかじっくり練っててね。」

 一同唖然。

 「朝倉殿…拙者普通に御主が恐ろしいでござる。」

 楓の言葉は此の場の全員の気持ちを代弁しているであろう。

 「まぁ気にしない気にしない。そうと決まれば早く行こうか!もしかしたら私達の知らない稼津斗先生が見れるかもよ?」

 「そ、そうですね。行きましょうか。」

 和美の言葉にのどかが同意し、5人は一路稼津斗の家を目指して行く。
 そして先の4人同様、和美の運命も大きく動く事になる。








 ――――――








 で、稼津斗の家に着いたわけだが、5人とも近くの植え込みから動けなくなっていた。
 と言うのも、稼津斗は日課である鍛錬の真っ最中。
 周囲に他に家の無い高台だからであろう、何の気兼ね無しに鍛錬を行う稼津斗に5人とも見入ってしまったのだ。


 「せい!ふっ!覇ぁ!!」


 蹴りが、拳が繰り出されるたびに発せられる裂帛の気合。
 普段学校で見るのとは全く違う姿に和美、亜子、のどかの3人は魅了され、
 所謂『裏』の仕事の時でさえ本気ではなかったのだと真名と楓は思い知らされる。

 「…稼津斗先生、強い訳やね。」

 其れは誰もが思っただろう。
 些か直線的ではあるが、稼津斗の動きには一分の無駄も無い。
 其れは真名や楓には勿論、亜子達素人3人にも分かる。


 「せぁ!覇ぁぁぁぁ…でぁ!!」


 気配の察知は行っていないのだろう、5人に全く気付かず稼津斗の鍛錬は続く。
 其れを傍らで見ているクスハが何とも愛らしい。


 「ふぅ…」


 一通りの鍛錬が終わったのだろうか?稼津斗は息を整る。
 勿論其れを見て和美、亜子、のどかは出て行こうとするが真名と楓に止められる。

 「「「?」」」

 「未だだ…」
 「稼津斗殿の鍛錬は終わってないでござるよ。」

 2人の言葉に同調するように、稼津斗は軽く構えた状態で『気』を高めて行く。

 「あぁぁぁぁぁぁ…!」

 その力はどんどん強くなる。
 力が高まるたびに大気が振るえ、稼津斗の周囲に火花放電が発生する。
 当然見たことも無い光景に5人は驚く。

 「こ、これ程とはね…」
 「いやはや…勝てぬ訳でござる。」

 「うわ、すっごい!」
 「一体何が起きてるん!?」
 「あわわわわ…」

 そんな中でも稼津斗の気は高まる。
 そして…


 「覇ぁっ!!」


 気合一閃。
 落雷を思わせる轟音と共に稼津斗の姿が変化する。
 何時もの黒髪黒目ではない。
 銀色に輝く髪に、蒼の双眸。
 そして周囲には蒼白い稲妻がバチバチと走っている。


 「あ、あははは…稼津斗先生って超サ○ヤ人…」
 「「「「……!」」」」
 「…な訳無いよね…」


 驚愕の中搾り出した和美の一言にも誰も反応できない。
 其れほどまでに衝撃的なのだ、『裏』に関わっている真名と楓であっても。


 そんな事は露知らず、稼津斗は両手に気の塊を作り出し空に投げる。
 其れは、有る程度の高さで停滞すると無数に分裂し、やがて鉄製の杭へと姿を変える。
 その数実に120!

 「よっと…」

 気を操って浮遊しその杭の密集地の中心に自身を置く稼津斗。
 何が始まるのか分かったのだろう、真名と楓が流石に叫ぶ。

 「無茶だ稼津斗にぃ!!」
 「幾らなんでも危険でござる!!」

 彼女達の言葉は稼津斗には届かない。
 それどころか其れを合図にしたように、一斉に杭が稼津斗目掛けて発射された。

 「「「「「!!!」」」」」

 思わず5人は目を見開く。
 だが、彼女達が想像した結果は訪れない。


 「覇ぁぁぁ…だららららららららららららら…!」

 凄まじいスピードで襲い来る杭を、其れを凌駕するスピードで叩き落して行く。
 無論全てを叩き落せるわけではない。
 何本かは稼津斗の身体を掠めている。
 だが、此れだけの物量を相手にクリーンヒットを許さないのは驚愕に値する。

 「だだだだだだだ…クスハ!!」

 杭が半分以上減ったところで、稼津斗はクスハを呼ぶ。
 呼ばれたクスハは黙って8つの尻尾に炎を灯し…其れを打ち出した!
 しかも矢継ぎ早に8発も!

 8つの尻尾から8発の火球…つまりは64発の火球が杭と共に稼津斗に襲い掛かる。

 「良い攻撃だ…大きな力もコントロールできるようになってきたか…せぁ!!」

 火球と杭を更なるスピードで叩き落す。
 確実に数を減らす火球と杭。
 2分が経つ頃には、火球は全て消滅し杭も残すところ後10本。
 其れすらも順調に叩き落し、ラスト3本を処理した時に其れは起きた。
 同時に処理した3本のうち2本は地面へと落ちて消滅した。
 だが残る1本は打ち上げ式の裏拳で処理したせいで上空へと舞い上がり、そして不規則に軌道を変え、



 ――ドスッ!



 降下中の稼津斗の胸を背中から貫いた!

 「先生!!」
 「稼津斗にぃ!!」
 「せんせ〜!!」
 「稼津斗先生!!」
 「稼津斗殿!!」

 余りにも衝撃的な光景に植え込みから飛び出す5人。
 亜子とのどかに至っては涙を浮かべている。

 「!!見てたのか…!」

 見られていたことに驚きながらも、稼津斗はそのまま降下し地面に降り立つ。
 まだ胸に杭が刺さったままだが、此処で真名が気付く。

 「…ちょっと待て。稼津斗にぃ、何で生きてるんだい?」
 「!…確かに。」

 「「「は?」」」

 「良く見るでござる。稼津斗殿は『左胸』を貫かれているのでござるよ?」

 「「「!!!」」」

 言われて亜子、のどか、和美も目の前の光景が『ありえない』と気付く。
 稼津斗が貫かれたのは左胸…つまりは心臓を貫かれているはず。
 そうならば即死であるし、よしんば急所を外れていても全く平気な顔で立っている事など出来る筈も無い。

 「…まさか見られてたとは、迂闊だったな。」

 そう言いながら胸から杭を抜いて投げ捨てる。
 驚くべき事に、杭が刺さっていた場所は一瞬で塞がり何事も無かったかのようになっている。

 「出来れば知られたくなかったんだが仕方ないか…中に入ってくれ。俺が如何いう存在か、全て話すよ。」

 何処か哀愁を帯びた稼津斗の表情に、5人は何も言えず共に家の中に入って行く。
 クスハも勿論一緒に。








 ――――――








 案内された座敷で5人は稼津斗と対面するように座っている。
 『長くなるから』と数種類の飲み物も置かれている。


 「さて、見てたんなら分かると思うが俺は人間じゃ無い。」

 「えと、じゃあ何者なのでしょうか?」

 此処は先ず和美が切り込む。

 「そうだな…幾つか言うなれば『化け物』『不老不死』『不死身』そんなところか。」

 「そんな…自分を化け物なんて言うたらあかんよ…」

 「君は優しいな、和泉。じゃあ『不死身の戦士』と言おう。」

 「不死身ですか…」

 頷き話を続ける。

 「心臓貫かれても死なないし、身体の一部を失っても再生するくらいのレベルのな。
  もっと言うなら、俺は此の世界の住人ですらない。『異世界』『平行世界』言い方は色々あるが、兎に角そう言う所から来た。」

 「そんな馬鹿な!」

 「稼津斗殿が異世界人!?」

 真名と楓も驚く。

 「事実だ。俺はこんな見た目だけど既に800歳を超えている。」

 「「「「「!!!」」」」」

 「だが就任初日に言った生年月日は嘘じゃない…辻褄が合わないだろ?」

 5人とも言葉が出ない。
 余りにも常軌を逸してるその内容。
 驚く5人を尻目に、稼津斗は全てを話した、


 自分が生きていた世界は見た目は大差ないが、此の世界よりも科学が発展し、魔法も日常的な物であるという事。

 自分は其処で武道家として生きていたという事。

 19歳の時に参加した格闘大会直後に襲撃され狂気の実験の被検体と為った事。

 その際に心臓をオリハルコンと呼ばれる物体と融合させられ不老不死の身体と無敵の力を手にした事。

 施設を抜け出すも、途中で海に落ち、辿り着いた海底洞窟で意識を失った事。

 目が覚めて地上に出ると500年が経過し異形のモンスター以外の生物は全て死滅していた事。

 それらと300年に渡って戦い続けた事。

 そして、世界崩壊の元凶であり自身と同等の存在である者と戦い勝利した事。

 その直後に『次元転送機』が暴走し、此の麻帆良に飛ばされてしまった事。



 包み隠さず全てを話した。

 「真名、楓、君達と会ったのは転送されたその日だったんだ。」

 そう言って稼津斗は話を終えた。


 『嘘』だとは思わなかった。
 此処に居る5人は全員、稼津斗が『意味の無い』嘘を吐く様な人ではないと知っている。
 真名と楓は、初めて会ったとき妙に汚れていたのはそう言う事だったのかと納得もしていた。


 誰も何も言えない。
 いや、言えないのだろう。
 想像がつかないのだ。

 自分以外の全てが敵である世界。
 崩壊してしまった世界。
 不死であるが故の孤独…500年の間意識が無かったとは言え、目覚めてからの300年間稼津斗は一体どんな思いで居たというのか?

 矢張り想像がつかない。

 「成り行きで教師になったが…否違うな、俺は無意識にどんな形で有れ此の世界との『絆』が欲しかったのかも…」

 其れは何となく分かる気がした。
 自分の過去が何も存在しない世界…各個たる絆を欲するのは有る意味で当然といえる。

 「なれば稼津斗殿、拙者達と『仮契約』をして欲しいでござる。」

 動いたのは楓、そして此れに和美が乗っかる。

 「それだぁぁぁ!『仮契約』すれば少なくとも此処に居る5人とは『絆』が出来るよね!」

 稼津斗の話の中で出てきた幾つかの魔法。
 その中の『契約魔法』は稼津斗の世界にもあったので軽く触れていたのだ。
 自身等が従者となれば其れは稼津斗にとって紛れも無い此の世界との『絆』になると考えたのだろう。

 「流石は楓、良い考えだ。」

 「ウチ等が『絆』になる…ええと思う。」

 「私も良いと思います。」

 各々契約する気満々。

 「気持ちは嬉しいが、其れは出来ない。」

 だが、稼津斗は其れを受け入れなかった。

 「な、何でや?」
 「私達では不満かい?」

 首を横に振り答える。

 「不満なんてとんでもない。寧ろ俺が何者かを知って、なお其処まで慕ってくれるのは正直に嬉しい。
  いや、俺が普通の人間だったならば喜んで受け入れるところだ。だが、俺は普通じゃない。
  それだけなら兎も角、仮契約をしたら、俺はお前達から『人としての生』を奪う事になってしまう。」

 「「「「「え?」」」」」

 「契約するという事はな、仮契約、本契約を問わず従者とのラインを繋ぐ事に他ならない。
  そのラインを通して魔力供給なんかを行うわけだからな。
  普通の人間ならば何の問題も無い。だが、オリハルコンの心臓を持つ俺との場合はそうは行かない。
  ライン繋がった瞬間、オリハルコンの力は契約者にも及ぶ。
  結果1時間と経たず契約者の心臓はオリハルコン製になり、俺と同様『不老不死』の存在になってしまう。
  俺は、お前達から『人としての生』を奪いたくは…「ウチ等を見くびらんといて!」…和泉?」

 稼津斗の話を亜子が隔てる。

 「先生の言う事はよう分かるわ。やけどなウチも含めて此処におる5人そんな事気にもせん。
  不死は確かにつらいかもしれへん。親しい人間は全部自分を置いて死んでまう。たった1人やったら生き地獄や。」

 「でもさ、私等が従者になれば稼津斗先生は1人じゃなくなるっしょ?1人より大勢なら良いんじゃない?」

 亜子に続いて和美も言う。

 「稼津斗にぃ、私も含めて此の5人は貴方が好きなんだ。勿論LikeじゃなくLoveの方でね。
  己が惚れた相手と一緒なら、其れは寧ろ辛くなんか無いんじゃないかな?」

 「何があろうと、拙者達は稼津斗殿と共に居るでござる。」

 「だから、そんな事気にしないで下さい。」

 明確な意思表示。
 稼津斗は額に手を当てて天井を仰ぐ。

 「はぁ…まさか其処まで想われていたとはな。和泉…いや、亜子の言う通り俺はお前達を見くびっていたようだ。」

 そして、目の前の5人に目を向ける。

 「何かを決断する時が迫っているとは感じていたが、まさかこれ程の事とはな。
  …分かった。其処まで想われていて其れを無碍にする事の方が無礼だな。
  なれば俺の方から改めて頼もう!真名、楓、和美、亜子、のどか、俺と契約しこれから先、共に歩んでくれないか?」

 亜子、和美、のどかの呼称が苗字から名前呼びに変わる。
 其れは稼津斗の中で3人が真名、楓と同等になったという事。

 そして稼津斗の頼みに5人は勿論肯定の意を示す。

 「勿論だよ、稼津斗にぃ。」
 「寧ろウチ等は大歓迎や。」
 「何があっても一緒です。」
 「たとえ何処だろうと、此の面子なら退屈しないね♪」
 「この身は何時でも稼津斗殿と共にでござるよ。」

 「…ありがとうな、皆。」

 と、ここで真名があることに気付く。

 「時に稼津斗にぃ、どうやって仮契約するんだい?初めて会ったときに『魔法は使えない』って言ってた気が…」

 「大丈夫だ。契約魔法は簡単だから俺でも出来る。上級魔法は詠唱が面倒くさくて『使えない』だけだから。」

 「成程。」

 つまりは『使えない』のではなく『使わない』だけだったらしい。

 「オリハルコンから供給される無限の気と魔力が俺には有る。5人一緒に契約をするが構わないな?」

 「「「「「勿論!」」」」」

 最終確認を取った稼津斗はそのまま詠唱に入る。
 己と、5人との『絆』を紡ぐための詠唱を。

 「我が名は氷薙稼津斗。此れより『朝倉和美』『和泉亜子』『龍宮真名』『長瀬楓』『宮崎のどか』の5名を我が従者とする。」

 詠唱に入ると5人の足元に契約の為の魔方陣が現れる。
 和美と楓には蒼の、亜子には紅の、真名には黒、のどかには藍の魔方陣が。

 「此の5名との永劫の絆を持って契約と成す…仮契約(パクティオー)!!」

 瞬間、魔方陣から溢れ出た光が彼女達を包み込む。
 その光の中で彼女達は感じていた、膨大な力が自身に流れ込んでくるのを、稼津斗とのラインが繋がり『絆』が紡がれている事を。

 やがて光は収まり、契約が完了した事を告げる。
 そして稼津斗の手には契約成功の証である『仮契約カード』が!

 「契約…完了だな。」

 即座にカードを複製し5人に渡す。

 「アーティファクトについてはまた後日な。改めて、これから宜しくな。」

 「「「「「こちらこそ!!」」」」」

 契約が成り、此の世界との絆を手に入れた稼津斗。
 そして、想い人と共に在る為に不死になることを選んだ少女達。

 此の事は偶然ではなく、或いは必然であったのかもしれなかった。















  To Be Continued… 

-7-
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桜風に約束を−旅立ちの歌−
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