小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第1章:百代編・一子編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第1章『百代編・一子編』



サブエピソード10「激闘!サーシャVSマルギッテ」


『―――アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘル。昼食後、多馬川の土手道へ来なさい』


島津寮の廊下で、すれ違いざまにマルギッテに告げられたサーシャは、マルギッテの言う通り多馬川の土手道にやってきていた。


面倒な話だが特に断る理由もなく、散歩もかねて土手道を歩くサーシャ。


しばらく歩いていると、サーシャの視界に多馬川を眺めるマルギッテの姿が目に入った。


マルギッテはサーシャの気配を察知し、サーシャへと視線を向けてニヤリと笑う。


その眼光は鋭く、まるで獲物を見つけた獣のようだった。サーシャもマルギッテを睨みながら、早速呼び出した理由を聞き出す。


「俺に何の用だ?」


サーシャの問いに、マルギッテはただ笑うだけであった。島津寮の時と、全く同じ表情で。


「…………」


ピリピリとした空気が漂い始める。何か来る……サーシャは身構え、マルギッテに対してある種の敵意を抱いた。


あの獲物を狩るような獣の目。間違いなく、サーシャは狩りの対象とされている。


そして、マルギッテは左目につけた眼帯を外し、ようやく口を開く。


「待っていたぞ、アレクサンドル=ニコラエビッチ=ヘル―――“致命者サーシャ”!!」


瞬間、マルギッテはトンファーを両手に持ち構え、高速回転させながらサーシャに向かって突貫した。


「震えよ――――!」


サーシャはクェイサーの力を使い、大鎌を錬成して応戦する。大鎌の刃とトンファーがぶつかり合い、火花を散らす。互いの武器を押しつけながらの鍔迫り合いが始まった。


(こいつ……さっきよりもパワーとスピードが格段に違う!)


ワン子と戦っていた時よりも、パワーとスピードが桁違いに増している。サーシャが見る限り、マルギッテが左目の眼帯を外している事から、島津寮での戦いは本気ではなかったという事が伺えた。


あの眼帯は抑制か何かか……少なくとも分かっている事は、マルギッテが本気でサーシャに戦いを挑んでいる事だけである。


「――――!」


鍔迫り合いが終わり、サーシャとマルギッテは後退して距離を取り、体制を立て直す。


「貴様、一体何の真似だ!?」


大鎌の切っ先をマルギッテに向け、真意を問うサーシャ。しかしマルギッテは答えないまま、ただ不気味に笑っている。


この戦いを、心底楽しんでいるかのように。


それにあの口ぶりは“サーシャ”を知っている。だとするならアデプトの人間か、もしくは今回起きている元素回路の事件の関係者か……憶測をすればする程、キリがなくなる。


だが、今現時点でサーシャにできる行動は一つ。目の前の敵に集中する事だけだ。


――――再びマルギッテがサーシャ目掛けて疾走する。サーシャも大鎌を構えて突貫した。


「Hasen Jagt!」


感嘆するように叫び、回転させたトンファーをサーシャに叩き付けるマルギッテ。サーシャは大鎌の柄で攻撃を受け止めた。


衝撃で柄は真っ二つに折れ、力の反動でマルギッテの体制が前屈みになる。この瞬間を、サーシャは狙っていた。


トンファーが自分の身体に直撃する刹那、バックステップをして攻撃を回避する。そしてサーシャは両手に持つ大鎌の鉄片を再錬成し、刀剣とダガーに変化させた。


「うおおおおっ!!」


「はああああっ!!」


マルギッテの隙を狙い、刀剣とダガーを突き出すサーシャ。


出遅れながらも体制を戻し、身体を捻らせながらトンファーを振りかざすマルギッテ。


両者の攻撃が――――ほぼ同時に交差した。




「―――――」


サーシャの持つ剣の刃先が、マルギッテの喉仏の直前でピタリと止まっている。急所をつかれ、マルギッテは身動きを封じられていた。


「―――――」


マルギッテのトンファーもサーシャの首の側で止まっている。下手な動きをしていれば、サーシャの首は今頃吹き飛んでいただろう。


しばらく睨み合いが続いたが、ようやくマルギッテはサーシャの首に突きつけたトンファーを放す。同時にサーシャも、マルギッテの喉仏から刀剣の切っ先を退き……互いに武器を収める。


この戦いの結果は、一時引き分けという形となった。


「さすがだ、致命者サーシャ。アトスの秘蔵と言われるだけの事はある」


試させてもらった、とマルギッテはサーシャの強さを認め、称える。


「………」


どうやら敵ではないようだが……そんなサーシャの疑問に、マルギッテは先立って答えた。


「元素回路……私もこの一件に関わっている。決してお前の敵ではないと理解しなさい」


マルギッテも、今回の事件を知る関係者の一人だった。アトスからの協力要請があり、軍の命令で動いているとの事だ。しかしサーシャ達と同じく、詳しい情報は掴めていないという。


「互いに進展はなし……か」


川神学園に転入してから随分と経っているというのに、まるで進展がない。軍の介入があるにも関わらず、捜査に手こずるのはアトス側にしても、サーシャとしても焦りを感じるのだった。


話を終えたマルギッテは左目に眼帯を装着すると、自分の腕時計を確認していた。何か用事があるようだ。


「すまないが、私はこれにて失礼させてもらおう。お嬢様に買い物を頼まれている」


言って、サーシャの前から立ち去ろうと踵を返すマルギッテ。いきなり勝負を挑み、そして突然帰っていく……どこまでも勝手な奴だとサーシャは思った。


「致命者サーシャ」


足を止めて、サーシャに振り返るマルギッテ。


「今日は存分に楽しめた。感謝するぞ」


またいつか手合わせ願おうと、そう言い残してマルギッテは立ち去っていった。サーシャはその背中を見送りながら、思う。


マルギッテ―――サーシャと渡り合えるほどの実力者。あれが敵であったなら、相当厄介な相手になっていただろう。


(俺もまだまだ……か)


百代といいマルギッテといい、ここは強い人間が多い。自分の未熟さを戒めつつ、サーシャは島津寮へと戻っていくのだった。

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