第1章『百代編・一子編』
サブエピソード17「女王様と心3」
大和達と時を同じくして、カーチャと華は葵紋病院を訪れていた。
その理由は一つ、ワン子との決闘で負傷した心の様子を見にいく為である。
カーチャは心の病室へ入ると、華を病室の外で待つようにと命令して追い出した。
病室には、心が苦しそうにベッドの上で眠っている。カーチャはベッドの側の椅子に腰掛け、心の様子を静かに見守っていた。
「……全く。無茶をするからこういう事になるのよ」
バカな子ね、と呆れながら呟くカーチャ。表には出さないが、心の事を気にかけているようだった。
左腕は骨折したものの、幸い大した怪我にはならず、2、3日で退院できるだろうという医師からの診断を受けている。
だが、ワン子からあそこまでの侮辱を受け、精神へのダメージは相当なものだろう。立ち直れるかどうかは分からない。
「……う、うぅ……」
突然、心が小さく、苦しそうにうめき声をあげて魘されていた。カーチャは心の頭を、そっと優しく撫でる。
「……さ、ま」
「――――?」
心の声が、微かに聞こえる。誰かの名前を呼ぶ声を。
「……ちゃ、さま……。カー…チャ、さま……」
眠りながら、カーチャの名前を繰り返していた。まるで助けを求めるかのように。心の目から一筋の涙が零れ出す。カーチャはその涙を、指で掬って拭い去る。
――――本当にバカな子と、小さく微笑みながら。
カーチャは心の様子をしばらく見届けた後、立ち上がって病室を後にする。病室から出ると、華が待ち侘びていた。何故だか、少しだけ微笑んでいるようにも見える。
「華」
「は、はい?」
「覗き見したでしょ?」
華を睨みつけて、問い質すカーチャ。図星だったのか、あたふたしながら華は言い訳を考えている。すると、カーチャは華の脚をぐりぐりと踏みつけ始めた。
「いたっ……ああ!痛いです、カーチャ様……!」
「私は待ってなさいって言ったわよね?事が済んだらたっぷりとお仕置きしてあげるわ」
「は、はいぃ………!」
カーチャはそれだけ言って足を離すと、カーチャに痛ぶられて、幸せいっぱいの華を連れて病室前を後にする。
そしてワン子が降り立つ川神院へと足を進めながら、カーチャは笑みを浮かべていた。
(私の奴隷に手を出したらどうなるか……身をもって知りなさい。川神一子)
残酷で、歪で、女王の名に相応しい、その笑みで。