小説『聖痕のクェイサー×真剣で私に恋しなさい!  第1章:百代編・一子編』
作者:みおん/あるあじふ()

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第1章『百代編・一子編』



サブエピソード18「和解」


百代とワン子との戦いから数日後、ワン子の傷はすぐに回復した。


その後、ワン子は一人葵紋病院へと訪れていた。勿論、心の見舞いへ行く為である。


決闘で心をボロボロにし、さらに身体的にも精神的にも傷を負わせてしまったワン子。ワン子の罪悪感は、未だに消えていない。


だが、自分のした事は事実として受け止めるしかない。今の自分にできる事は、心に謝りにいく事だとワン子は判断した。


当然、許してもらおうなどとは思っていない。大和達も付き添ってくれると言ってくれたが、ワン子は断った。一人で行くと。


「―――――」


心の病室の前に辿り着く。一人で行くと決めたとはいえ、不安で足が震え、今にも逃げ出してしまいたかった。


自分が傷つくのは、とても苦しい事だから。


だが、それは卑怯だ。心を傷付けて、自分だけ逃げる事なんてできない。


逃げれば、ずっと自分の中に後悔だけが残る。自己満足に過ぎないかもしれないが、ただ一言謝ろう……ワン子はそう決めたのだ。自分が犯した過ちを。罪を。


ワン子は病室のドアをノックすると、そっと手をかけてゆっくりと扉を開いた。


「―――――あ」


病室には、先客がいた。ベッドの上で上半身を起こしている心の隣には、額にバツ印の痣がついた男とメイドが一人。


2−Sの生徒――――九鬼英雄とそのメイド、忍足あずみである。


「おお、一子殿ではないか!」


英雄はワン子に向けて蔓延の笑みを浮かべる。正直、ワン子は英雄が苦手であった。ワン子も苦笑いしながら返事を返す。


「…………!」


心はワン子の姿を見て、表情を一変させる。顔色は青ざめ、まるで怖いものでも見るかのように怯え切っている。


だからと言って、止まっていては始まらない。ワン子は心の側まで歩き出した。


「あ、あの……不死川さ――――」


「近寄るでない、化け物!!!!」


心の拒絶の言葉に、思わず足を止めるワン子。だが、それでもワン子は必死に声をかけようとする。


「アタシ……ただ、その……謝りに――――」


「今すぐ出ていくのじゃ!お前の顔など見たくもないわ!!」


心はワン子に対する苛立ちと恐怖で表情を強張らせていた。もうワン子と話すつもりなどない、今すぐ出て行けと、ワン子を拒み続ける。


すると、ワン子の前にあずみがやってきて、


「……出て行け。それと、今後一切英雄様に近寄るな。もちろん、2−Sにもだ」


拒絶の視線を向けるのだった。やはり、あの時のワン子を見ているからか、少なからず警戒しているに違いない。


もう、ワン子はそう言う目でしか見られないという事なのか……どうしたらいいか戸惑っていると、


「待て、あずみ」


英雄があずみを制止し、下がれと命令を下した。あずみはワン子に小さく舌打ちをして、英雄の側へと戻っていく。


「一子殿は、不死川に謝罪に来たのであろう?」


「あ……うん」


「そうか。なら、我は一子殿の意思を尊重しよう」


英雄はワン子を迎え入れてくれた。英雄には、拒絶もなければ畏怖もなかった。ワン子の目に希望が戻っていく。心は納得がいかず、身を乗り出すようにしながら英雄に反論する。


「な、何故じゃ九鬼!此方は出ていけと――――」


「許せとは言わん。だが、一子殿はこうしてお前に謝罪に来ているのだぞ?ならば、せめて聞くのが筋であろう」


「う―――――」


英雄の言う事は最もであった。言い返せず、押し黙ってしまう心。確かに、このままワン子を返してしまえば、不死川家としての器が問われる。心はワン子の謝罪を聞く事にした。


「――――ふん、好きにするが良い。だが、お前が何と言おうが此方は赦しはせぬぞ」


それだけワン子に念を押すと、心はそれ以上何も言わなくなった。英雄はしっかりと思いを伝えるのだぞとワン子に言って、あずみを連れて病室を後にした。


ワン子はすぅ、と深呼吸して、心を真っ直ぐに見据えながら、そっと口を開く。


「……あの時のアタシ、どうかしてて……不死川さんに酷いことして、本当に悪かったって思ってるの。だから――――本当に、本当にごめんなさい!!!」


ワン子は深々と礼をして、心に謝罪の言葉を述べる。ワン子の心から、本当の、真剣な気持ちで。


するとワン子の気持ちが伝わったのか、心はほんの少しだけ、許してもいいと思った。


だが、やはり自分が受けた仕打ちは許し難い侮辱である。ここで許したらつけ上がる……心はふん、とワン子から顔を反らした。


「言いたい事はそれだけか?ならさっさとここから――――」


「心お姉さま!!」


突然病室の扉が開き、カーチャが会話に割って入るようにやってきた。カーチャの突然の登場に、驚きを隠せないワン子。


当の本人である心はひっ……と、反射的に身体をビクリとさせた。同時に、カーチャが来てくれたことに喜びも感じている自分がいる。


「か……カーチャ……」


様……と言いかけて、心は言葉を止めた。他人の前でそんな事を口にすれば、後々面倒な事になる。カーチャは心の身体に抱き付きながら、上目遣いで訴えかける。


「心お姉さま、お願い!一子お姉さまを許してあげて!」


「な……し、しかし此方は――――」


許す訳にはいかないと言いかけた途端、カーチャにギリギリと脇腹を抓られる。痛い……それなのに、何故喜びを感じているのだろうか。心は頷いて、仕方なく承諾をする。


「わ……分かったのじゃ。此方も少し言い過ぎた部分があるからの。まあ、許してやらんでもない」


捻くれた言い方で、ワン子にそう告げる心。カーチャは心お姉さまは優しい、大好き!と心の身体に頬を擦りつけていた。


「あ……うん……ありがとう!」


ワン子には、一筋の涙。ワン子の勇気の一歩が、今形となって現れていた。




「カーチャ!」


心の病室を出て、ワン子はカーチャを追いかけて呼び止める。


「何よ?」


「さっきは、その……ありがとう!」


心を説得してくれた事に礼を言うワン子。カーチャは、何だそんな事と言って軽くあしらった。


「勘違いしない事ね。こっちの都合が悪くなるから、しただけの事よ」


それだけ言って、カーチャはワン子の前から消えていく。それでもワン子は笑顔で手を振りながら、カーチャを見送っている。


(そう……私の奴隷が登校拒否なんてされたら、困るもの)


ふふ、とカーチャは小さく笑みを浮かべるのだった。




こうして、彼女の一つの物語が終わりを告げる。


否――――或いは、これは始まりの予兆だと言う事を、ワン子はまだ知らない。

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