〜〜クザンside〜〜
んー結局ラーズと戦う事になっちまったな。あんまりやりたくは無かったんだが。まァいい機会だし、アイツの
想いを見せて貰おうとするか。今の実力も知っておきたいし。にしても、やっぱセンゴクさんの予想通りって事か。
言われた通りにしといて正解だったな。
それにしても…随分と成長したみたいだな。海軍時代より遥かに。お前はずっと「自分の正義」を
貫いてきたんだな。その辺は昔と全く変わってない。
今ならセンゴクさんの気持ちが少しは分かるかもね。自分の弟子の立派な成長に喜ばしくもあるが、
立場を違える敵同士となる悲しさ。これは複雑だねェ。だからこそ、七武海に勧誘したんだな。
だが、お前は今自分の意志でおれの前に立っている。自ら”世界”と戦う決意を示して。
ならばラーズ。お前に”世界”と戦うだけの力があるかどうか。おれに証明してみせろ。
〜〜ラーズside〜〜
「この辺りでいいですか?」
「あァ、構わんよ」
クザンさんと島の中央辺りで足を止める。ルフィ達は離れた場所で様子を窺っている。ロビンにはナミが
隣にいてくれてるみたいだな。
「…こうして拳を合わせるのも久し振りですね」
「あれからどの位強くなったのか。以前と同じ様なら…」
クザンさんの顔つきが変わり、周囲の温度が一気に下がった気がした。
「ここで死ぬ事になるぞ」
体から氷が出て来ている。間違いなく本気でくる。海軍時代だって、俺相手に本気を出した事は無かったハズだ。
正直少しビビっている。クザンさんの実力は俺が一番分かっているから。
でも、俺は勝たなければならない。負けたら…
「俺は負けられません。絶対に」
言いながら尾を巻き付ける。
「白火陣」
白い炎を手足に纏い、戦闘準備に入る。
「さっきの約束忘れないで下さいね」
「安心しろ。そこまでおれもバカじゃない」
「助かります」
そうしてお互いが無言になり、辺りに静けさが漂う。
二人の間を風が通り過ぎた瞬間、俺から仕掛けた。
「剃刀」で三次元の動きを行いながら、クザンさんの横に移動する。すぐさま脇腹に向けて拳を突き出したが、
クザンさんは反転しながらそれを避ける。その避けた動作を利用してそのまま裏拳を放ってくる。
俺はしゃがんでそれを避けると、避けた先に蹴りが飛んで来た。
「ちィ!」
両手を交差させてガードするが、威力もあるので後ろに弾かれる。相変わらず身体能力もズバ抜けてるな。
「へェ、今のをガードするか」
「昔とは違いますから」
「それに…その炎はちょっとやそっとじゃ凍らないみたいだな」
そう、クザンさんは自分が触れたものを一瞬で凍らせる事が出来る。だが、俺の炎は温度もそれなりなので、
直ぐに凍る事はない。流石に触れられ続けたら固まるだろうけど。
「白火・崩!」
尾から白い炎の玉を発射する。
「アイス塊(ブロック)・両棘矛(パルチザン)!」
空気中の水分を凍らせて、氷の矛を飛ばしてくる。お互いの技が空中でぶつかり合い、辺りは水蒸気で覆われる。
俺はすぐに「剃刀」で空に跳ね上がり、さっきまでクザンさんのいた所に狙いをつける。
「焔弾ァ!」
俺の放った焔弾はそのまま水蒸気の中に突っ込んでいき、爆発音を上げた。
そして、蒸気が晴れた場所には…無傷で立っているクザンさんがいた。
「いやー随分便利な炎になったな。危うく燃えそうだったよ」
「…氷の壁を作ったんですか」
「それも綺麗に蒸発したけどな」
となると遠距離で出足の遅い攻撃は全て防がれそうだな。撃ち抜けそうなのは一閃くらいか。
「おいおい、戦闘中に考え事してる余裕があんのか?」
そう言われてクザンさんを見ると、右手を前に突き出し、開いていた手を握りしめた。その瞬間、俺の周りに
無数の氷の玉が現れ、一気にこっちに向かってきた。全方位から高速で降り注ぐ氷の玉を避ける隙間はなかった。
「うおぉぉォォ!」
俺は体から火柱を上げて、全ての氷を蒸発させる。すると、さっきまで前にいたクザンさんが消えた。
「こっちだ」
クザンさんはすでに後ろで右手刀を凍らせて刃物とし、俺の肩目がけて突き刺してきた。
「一閃!」
俺は振り向きながら炎のレーザーをクザンさんに向けて放つ。細かい場所まで狙う時間はなかった。
だが、一閃のおかげで手刀の狙いが逸れ、俺の肩を掠めるだけに留まった。
俺の一閃もクザンさんの左腕に掠っただけだった。一度お互い後ろに下がり、距離を取る。
「…まさかボルサリーノみたいな事まで出来るとはなァ」
「訓練しましたからね。まァあんな風に着弾して爆発する様な威力はないですけど」
「しっかしお前の能力とは相性最悪だな。片っ端からおれの氷溶かしやがって」
「油断したら一瞬で氷漬けにするでしょ」
そう言って再び戦い始める。
〜〜ロビンside〜〜
「絶対に世界政府にだって負けない」
ラーズは言った。
「何があっても必ず生きろ」
今まで逃げ続けてきて、言われた言葉。ずっと望んではいけないと思っていたのに。
私はもう我慢出来なかった。ひたすらに涙を流し続けた。
ラーズは私に自分の言葉を証明する様に青雉と戦っている。
その戦いは信じられないものだった。サウロだって手も足も出なかった相手と戦い続けている。
あの絶望的な強さの青雉に一歩も引かずに。
アラバスタで火拳のエースと手合わせした時とはレベルが違う。いいえ、覚悟が違う様に見えた。
「みんな、ラーズから絶対に目を離すな。アイツの想いを見届けるんだ」
船長さんは言いながらずっと戦いを見続けている。拳を握りしめたまま。
それを聞いたみんなも戦いを見守っている。
「ラーズ…」
航海士さんは冷や汗を流しながらもラーズを見ている。私を心配してずっと手を握ってくれている。
時に爆発が起こり、時に辺りが凍りつき、地面を抉る様な攻撃の応酬をしながらも、ラーズは立って戦っている。
私の事をここまで知っても仲間と言ってくれるみんな。私の為に戦っているラーズ。
これだけみんなから想いを受け取ったのは初めてだった。
もう、迷わない。
でないと、ラーズの言葉を受け止めれない。
抗おう、運命に。
戦うんだ、私も。
自分の為に、みんなの為に。
私は握られてる手にもう片方の手を添えた。
「ありがとう、ナミ」
「ロビン!?今私の事…」
ナミも驚いたみたい。私がラーズ以外を名前で呼んだのは初めてだったから。
「私はラーズを…一味のみんなを信じるわ。もう迷わない」
私の言葉を聞いたナミは嬉しそうに笑った。
「なら後はラーズが勝つだけね!」
「えぇ、彼を信じて見届けるわ」
そうして再びラーズに視線を戻す。ラーズ……アナタの事を信じているわ。
〜〜クザンside〜〜
ラーズの奴がここまで強くなってるとは驚きだな。これならサカズキから逃げ切ったのも納得だ。おれは本気で
攻撃してるつもりだが、なかなか致命傷を与える事が出来ない。おれも少しずつ火傷の様な痕がついてきている。
相性が悪いってだけじゃない。動き一つ一つから無駄が省かれている。油断したら、一気に不利になるな。
昔から移動速度と回避能力は優れていたが、更に鍛えられてるな。このおれと三十分以上戦ってもまだ平気とは。
しかし、さっきからずっと気になっている事がある。
「なァラーズ、一つ聞いていいか?」
「…何ですか?」
肩で息をしてるとこを見ると多少疲れてはいるが、まだ目は死んでないな。体の所々から血が出ているが、
アイツの「生命帰還」ならそんなに問題はないだろう。
「何故覇気を使わない?」
そう、ラーズはおれと戦い始めてから一度も覇気を使っていない。アイツは武装色の覇気が得意だったハズだ。
あの炎に覇気を込めて攻撃すればかなり厄介になると思うんだがな。
「…クザンさんに隠し事は出来そうにないですね」
やっぱり何か理由があるのか?ラーズは少し考えてから話し出した。
「俺の炎は相手の覇気を貫き、実体に直接ダメージを与えます」
改めて本人から聞くととんでもない能力だな。まさに自然系殺しの能力。おれだってまとも受けたらヤバイだろうな。
「ですが、弱点として自分の覇気も炎を出してる間は使う事が出来ません。まァ万能な能力は無いみたいですね」
…そういう事だったのか。確かに言われると納得するな。あの炎が覇気そのものを打ち消すのか。
炎ばっかり見てるとラーズが動物系って事忘れそうだからな。
「今お前が覇気を使わないって事は、防御より攻撃を重視してるって事か」
「元々そういう戦い方でしたからね。それに自然系相手に攻撃も防御もなんて考えてたら勝ち目ないですし」
だからラーズの相手は一苦労なんだよな。自分を省みずに相手を倒す事だけに全力を注いでいる。
この強さは時に危うくもある。いつか自分の命すら投げ捨てる可能性もある。
「戦いの途中に悪かったな」
「いいえ……では!」
そう言ってラーズは跳び上がった。アイツの速さは捉えるのも面倒だな。冷静に対応出来るのはボルサリーノくらいか。
「一閃・乱れ火(みだれび)!」
今度は炎のレーザーを九発放ってきた。しかも丁寧に逃げ道にまで遅れて放つとはな。先ほどと同様に氷の壁を
作り防ごうとしたが、
「グッ!」
一発が壁を貫通して左肩に当たる。壁のお陰で威力は弱くなってたみたいだが、それでも肩に痛みが走る。
痛みを感じるなんて久し振りだな。ボルサリーノみたいな威力はないって言ってたが、十分凶悪だぞ。
ラーズがその隙を逃すまいと空から一気に近付こうとしている。
「甘い!アイス塊・暴雉嘴(フェザントベック)!!」
ラーズの接近より速く巨大な氷の雉を作り出し、ラーズに向けて飛ばす。
「っちぃ!!」
炎で溶かす時間がないと判断したのか、ラーズは地面に向かって加速し回避する。ここで決める!
「アイス塊・両棘矛!!」
落下地点に向け大量の氷の矛を飛ばす。それと同時に右腕に氷を纏わせる。
ラーズは地面に着いた瞬間に少し反応が遅れ、幾つかの矛がラーズに突き刺さる。出来た隙を逃さずに突っ込む。
「よくここまで戦った」
呟きながらラーズの目の前まで来て右腕を脇腹に突き刺す。ラーズはおれの動きに気付いて炎を出そうとしたが、
一瞬早く右腕がラーズに届く。氷によって鋭利にした右腕はラーズの脇腹を貫通した。
「グハッ!!」
ラーズが口から血を吐いている。これは致命傷になったな。腕を抜けば崩れ落ちそうなラーズに言葉を向ける。
「だがこれで終わりだ」