【初メール】
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自宅、自分の部屋、携帯を開き、新規メールを作成、宛先……北村亮。
本文は……何を書けばいいんだろう。
今日、私は北村くんと付き合うことになった。学校から一緒に帰り、別れ際にメールアドレスを交換した。
交換した……んだけど、なんて打ったらいいのかわからない。
「ううむ、どうしよう」
北村くんへの初メールだ。私の初めての彼氏への初メールだ。私のことを好きだって言ってくれた人への初メールだ。
いい加減な文章じゃいけない気がする。幻滅されたくない。
そんな思いを込めて私はメールを打つ。
『南由美奈です。
今日はありがとうございました。
これからよろしくお願いします。』
……だめだ、文章が固い。
「もっと柔らかい文章にしなきゃ暗いイメージを持たれる気がする。柔らかく、軽く……」
『由美奈です!
えへへ〜(o>v<o)
まさか好きな人(北村くん)から告白されるとは思わなかったからビックリだよw(*゜o゜*)w
これからもよろしくね!キャピッ☆』
「だあああっ!」
柔らか過ぎる! そしてさりげなく何をぶっちゃけているんだ私は!
何が『キャピッ☆』だ!
私は近くにあったクッションを投げ捨ててベッドに飛び込んだ。恥ずかしくて。
「もっと、こう、普通にしないと」
寝っ転がりながら携帯を手に取る。普通に、普通に……
『明日の数学のプリントやった?
私まだやってないんだよね〜
よかったら見せて(≧∇≦)ノ』
……おいこら。違うって、そうじゃないって、それ友達に送るメールだって!
「あーうーあーっ!」
だめだ、まともにメールが打てない。恥ずかしくて普通がわからない。助けてドラえもん!
私は枕に顔を埋めてごろごろ転がった。
「姉ちゃんキモいんだけど」
え? 今弟の声が聞こえた気がするんだけど……あれ?
……顔を上げると、弟が廊下から私の部屋を覗いていた。
「う、う、う、うわぁぁ!? 見るなー! 変態っ!」
いいい、いつからだ……いつからそこにいたんだ弟!
「変態って……ドア開けたの姉ちゃんだし。それに、メール打ちながらにやにやしてた人に言われたくないね」
「うそだぁ! ドア閉めたし! それに、にやにやなんてしてないし!」
私は帰って来てすぐにドアを閉め……あれ、クッションが廊下にある……クッションが、廊下に……はっ!?
「彼氏に初メールするだけでそんなに取り乱して、先が思いやられるよ」
弟はやれやれといった顔で私を見て去っていった。
……その日はメールを送れなかった。