小説『BL漫画家の鈴木さん』
作者:ルーフウオーカー()

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「いやいや、すぐに気持ちよくなるかもしれませんよ」
 鈴木さんはワセリンをチューブから搾り出しながら満面の笑みである。
「そもそもこの状況、BLともあんまり関係ないよね」
「この世に参考にならないことなんてありません。それに、夢だったんですよ、田中さん
とこういうことするの」
「あ、夢ならしょうがないね。で、何するつもりなのか説明してもらえる?」
 鈴木さんは聞いていないようだった。まるで宝物のようにプラスチックのパッケージを
開け、新品のアナルバイブを取り出す。
「待って、やっぱなんかおかしい。夢とかきれいな言葉でごまかされちゃいけない気がする」
「もう、しょうがないなあ」
 鈴木さんは棒状のシリコン製品から手を放す。ぽーんとベッドにダイブして田中の横にうつ
ぶせ、間近で顔をのぞきこんでニコッと微笑んだ。ただ、手首は縛り上げたまま拘束を解くつ
もりはないらしい。
「じゃあ、例えばもし十年前に戻れたらどうします」
 『じゃあ』の意味が分からなかったがもう突っ込む気力がうせていた。

「十年前でも二十年前でもいいけど、昔の自分に会って何かアドバイスできるとしたら、何て言います」
「今の俺が戻っても仕方がないよ。鈴木さんが十年前に戻ったなら言えることはあるだろうけど」
「病気にならないように気をつけろ、ですか」
「いや、それは違うかな――タバコ吸ってもいい」
「ダメです」
「『どうせ病気になるんだから思いっきりやれ』だと思う」
 そう言うと鈴木さんは目を丸くして、枕に顔を埋めた。笑い顔を隠そうとしてのことらしい。
「おかしいかな」
「いえ、思ったよりもコドモで安心しました」
 そう言われても、どこがコドモなのかわからない。
「『会社一筋で頑張れ』とは考えもしないんですよね、田中さんって」
「あ」
「ほら」
「なんかすいません」
「許します。そういうとこが好きです」
「じゃあさ、そろそろこれ解いてくれない」
「だめです」
 鈴木さんはそしてこう言ったのだ。

「まだ何も終ってないじゃないですか」                     終
                                  

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