小説『BL漫画家の鈴木さん』
作者:ルーフウオーカー()

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「ごめん、ただ、最近自信なくしてるんだ。結局才能がないんだろうか、努力がたりな
かったんだろうかって、これの準備してる間もどうしても不安でね」
「努力はしてたでしょ。身体壊すぐらい」
「それと病気とは別問題かもしれない。社員としての努力が足りなかったから病気になっ
たのかも知れない」
「方向を間違えたとしても、一生懸命やったことに違いはないじゃないですか」
「いや、最近思うんだ。病気になったから働けなくなったんじゃなくて、もともと社会
人として不適格だったんじゃないかって」
「いいじゃないですか、それならそれで」
「良くはないだろ」
「私は田中さんが立派な社会人でなくても気にしません」
「鈴木さん、それ、慰めてない」
「いいじゃないですか。田中さんは私がBL本描いてるのを知っても退かないでまじめに
話聞いてくれて、商業誌デビューしたって言ったらおめでとうって言ってくれました。何
気ない言葉だったのかもしれないけど、私は嬉しかったんです。私にとっては立派な社会
人よりも心の支えになってくれる人のほうが百倍大事です」
「え、あ、そう」

 ちょっとほろりときた。何か大事なことを言われた気もするのだが、どう反応していいか
わからない。
「帰ります」
 顔を赤らめた鈴木さんが、俯いて言った。きびすをかえそうとしたところで、とっさに腕
を掴んだ。掴んだものの、何を言えばいいのかわからない。手を握った。びくっと震えた後
で、握り返してきた。そのまま、その場所から連れ出した。

 二時間後、ホテルの一室である。
「ねえ、なんで俺縛られてるの」
「もちろん、逃げられないようにです」
「未だに君の考え方がわからないんだけど」
「逃げようとするのを押さえつけたりしたら、嫌がることを無理強いしてるみたいじゃないですか」
「つまり、逃げたくなるようなことをするつもりなんだよね」

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