小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode12:箒の宣戦布告




【千冬side】


学園の地下五十メートル。そこにはレベル4権限を持つ関係者しか入れない、隠された空間。

目の前にあるのは機能停止したIS。一夏と凰の試合に乱入した敵ISである。

既に此処に運び込まれてから二時間、既に解析の方もある程度進んでいる。


「............」


室内は薄暗く、無言で敵ISと一夏と凰の戦闘記録を映すディスプレイを眺めていると、割り込みでウィンドウが開いた。

ドアに備え付けられたカメラから送られてきた画面からは、どうやら解析が済んだらしいのか、真耶がブック型端末を持って、ドアの開放を待っていた。


「どうぞ」


ドアの開放スイッチを押し、室内に真耶を招き入れる。


「あのISの解析結果が出ましたよ」


「あぁ。どうだった?」


「はい。あれは―――無人機です」


無人機。世界中で開発が進むISに関して、まだ完成していない技術。遠隔操作(リモート・コントロール)と独立稼働(スタンド・アローン)。そのどちらか、もしくは両方の技術があの謎のISに使われている。その事実に、学園関係者全員にすぐさま箝口令が敷かれる程の極秘情報。


「どのような方法で動いていたかは不明です。織斑くんの最後の攻撃で機能中枢が焼き切れていました。修復も、おそらく無理かと」


「コアはどうだった?」


「......それが登録されていないコアでした」


やはり。こんなものが作れるのはアイツしかいない。アイツがこの件に絡んでるのか?


「何か心当たりがあるんですか?」


私の表情を見て、真耶は私が何かを知っているのではないか、と思ったらしい。


「いや、ない。そう、今はまだ......な」




【箒side】


「遅いぞ、一夏」


やっと一夏が部屋に戻ってきたが、心なしかゲッソリとしているのは気のせいだろうか?


「箒。ただいま」


「〜〜〜っ。う、うむ。おかえり」


うーーー、いいっ! このシチュエーションはいいっ!

まるで新婚で夫が仕事から帰ってくるのを新妻が迎えてるような気分が味わえる。

同室だからこその特権だな。よかった。あの時、鈴が部屋に割り込んでこなくて。あのまま、鈴が部屋に割り込んできてたら、この二人っきりの気分を味わえなくなる所だったんだからな。

それにクラス代表決定戦の後もセシリアが部屋に突撃してきた事があった。

鈴と同じように、一夏と同室になるように迫ってきていたが、あの時は何とか撃退する事ができた。その後は頻繁に部屋に遊びに来るようになったが。本当にお邪魔虫な存在だ、セシリアは。

それにしても私が保健室を出て行ったから、数時間は経っている。まぁ、時間を掛けてくれたお蔭で一夏のためにアレを用意する事が出来た。

一夏は朝食べて以来、何も食べていない筈だ。何かの本やテレビで”男を落としたい場合は胃を満足させろ”と見た記憶がある。

私だって女だ。料理は昔、母親に少し習った事がある。見た目はよくできたと自負するが、味はどうだろうか?

一夏、美味しいって言ってくれるといいな。


「ところで箒はもう飯は済ませたのか?」


キターーーーーーーーーーーーーー!

この発言を待っていたのだ、私はっ!


「いや、まだだが。当然だろう? お前を待っていたのだから」


「待ってた、って―――え? 箒もまだ晩飯は食ってないのか?」


ふふふ、驚いているな。まぁ、それも当然だろう。あの戦闘から数えたら随分、時間も経っているんだからな。


「じゃあ、すぐにでも食堂に行くか。時間もギリギリだしさ」


「あっ、その、な。き、今日は、その......」


落ち着け、落ち着くんだ、私。

せっかく一夏の為に用意したんだ。一夏に私の手料理を食べてもらうんだ。


「あれ? あのテーブルに置いてあるのは?」


一夏も気付いたようだ。私が一夏の為に用意したアレが。さぁ、言え、言うんだ、篠ノ之箒。ここで臆していたら何も始まらんのだっ!


「わ、私がだな......。つ、作った」


「え? そうなのか?」


やはり一夏は驚いているようだ。テーブルの上に置いてあるアレ。そう、この私が作ったチャーハン。しかし、目の前の一夏は本当に驚いているようだな。全く私を剣道しかない女と思っているんじゃないだろうな?


「わ、私だって、その、料理くらいできる。だから......一夏。た、食べてくれるか?」


「あ、あぁ、もちろんだとも」


私は一夏に手を洗う事とうがいをしてくる事を勧め、食事の準備をする。

ヤバい、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。一夏は気付いているのだろうか? でも、今日は一夏に手料理をご馳走して、少しでも私を意識してもらうんだ。

これからはセシリアだけじゃない、鈴という強力な恋敵(ライバル)も出てきた。しかも私と同じ幼馴染。つまり私だけのアドバンテージだった”幼馴染”という立場が鈴の登場で薄れてきてしまっている。

うかうかしてたら一夏を他の女に取られてしまう。それだけは嫌だ。一夏の傍にずっといたい。

だから今までのように待っているだけではなく、責めていかなくては。

暫くすると一夏が戻ってきたので椅子に座るように促す。


「じゃあ、いただきます」


「うむ。遠慮なく食べるがいい」


そして一夏はレンゲを持って、チャーハンをすくい、一口目をその口に運んでいく。

もぐもぐもぐ......。


「............」


どうなんだろう? 美味いんだろうか? もしかして口に合わないとかそんな事はないだろうか?

どきどきどき......。

胸の鼓動が早くなる。目の前の一夏は何も言わない。そして一言......


「......味がしない」


「なっ!?」


そんな馬鹿な! 調理法は間違ってなかった筈!! 一夏にレンゲを渡してもらい、私も一口食べてみる。あれ、これって関節キス......?

顔が熱くなるのを感じながらも、口に入れたチャーハンを租借してみると......確かに味がしない。思い返してみると、確かに料理してる際に調味料を入れた記憶がない......。


「............」


「な? 言った通りだろ?」


「ええい、私が食べればいいのだろう、食べれば!」


「そうは言ってないだろ。ほら、貸せよ」


ムキになる私の手からレンゲを奪って、一夏はその味がしないチャーハンを頬張る。

味がしないであろう、私の作ったチャーハンをむさぼるように食べる一夏。


「ごちそうさま」


食べ終えたのか、合掌して一礼。


「............」


「ど、どうした?」


くぅ〜、味見くらいしておくべきだった。一夏に初めて手料理を振る舞う事で頭がいっぱいで失念していた。後悔先に立たず、とはよく言ったものだ。


「か、勘違いするなよ! 今日は、その......偶然、稀に、低確率で、失敗しただけだ。いつもは成功する」


悔しさのあまり、つい弁解してしまう......。


「そうか? じゃあ、次は期待してもいいのか?」


「っ!! あ、あぁ、次こそはお前を満足させてみせるっ」


「ははは、楽しみにしてる」


また次があるっ!

それが嬉しかった。今日の無念を次で晴らしてみせる。

うかうかしていたら鈴も手料理で一夏に迫ってくるだろう。女の戦いに油断は禁物なのだ。

そして開いた皿を片付けようとして、食後の茶を飲む一夏の傍に行く。

しかし、このまま、就寝しては何も進まない。まだなのだ。今、一夏は傍にいる。しかし、この時は悠久ではない。同じ部屋なのもあくまで部屋を用意できるまでの緊急措置だという事もいずれは終わりが来る。

勇気を出せ、箒。このまま引き下がっていては他の恋敵(ライバル)に付け入る隙を作ってしまう事になるのだ。

料理は、まぁ、その、なんだ。失敗はしてしまったが、今のこの部屋には二人きりなわけで、雰囲気も悪くない。寧ろ良好といってもいい。


「一夏......」


「ん? どうした?」




【一夏side】


箒の作ってくれたチャーハンをきれいに平らげ、食後のお茶を楽しんでいたら、食器を取り下げようとした箒が傍にいた。

そのまま俺の左手を箒は両手で掴んで、自分の胸に持っていく。

ほわぁぁぁ、柔らかい。柔らかいよ、箒のおっぱい! っていうか、えっ? 何? この状況?


「ほ、ほ、ほ、箒さん?」


「一夏。やっと会えたというのに、お前には次から次へと女が寄ってくるな」


ぎりぎりぎり。俺の手を掴む両手の握力が強くなってくる。


「いたっ! いたたたたたた! い、痛いよ、箒」


そんな俺がおかしかったのか、箒は小さく笑みを浮かべ、俺の手を掴む両手の握力を弱め言葉を続ける。


「ふふ。でもな、そんなお前でも私は傍にいたいと思う。傍にいさせてほしい」


「......箒?」


「一夏。私は、な。その......。離れてる間、お前を忘れた事なんて一度もなかった」


「............」


箒の言葉に俺は返事を返す事も出来なかった。

最初に出来た俺の初めての幼馴染。

小4で別れるまで、ずっと一緒にいた幼馴染。

その幼馴染の表情がひどく辛そうに歪められるのを見るのはキツい。仕方なかったとはいえ、寂しい思いをさせてしまった。


「だから、これからは私の傍に、ずっといてほしい」


そして近付く箒の顔。少しずつ俺の視界を埋めるように近付いてくる。


「一夏。私はお前の事が、す―――」


唇と唇が後少しで触れ合いそうになる瞬間―――気の抜けたようなノックに遮られた。


「あのー、篠ノ之さんと織斑くん、いますかー?」


このとぼけた声は山田先生だ。がちゃりとドアを開けて本人が入ってくる。あの、先生。俺、まだ返事をしていない筈なんですが......。

そして山田先生の目には、箒の胸の上に手を置きながら、後少しで唇と唇が触れ合いそうになる瞬間の俺と箒が映った。




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*




学生寮自室。正座させられる俺と箒。目の前には顔を赤くして怒る山田先生がいた。


「全く、あなたたちはなにをしているんですか?!」


「「はい、すみません......」」


「いいですか? まだあなたたちは学生なんですよ。学生という身分を弁えて―――」


ガミガミと説教を続ける山田先生。

しかし、あそこで山田先生が来なかったら、俺......箒と......。ヤベっ、胸のドキドキが収まらない。顔が赤くなってるのが自分でも分かる。

ちらっと箒の方を見ると俺と同じように顔を赤くしてる。

しかし、箒のおっぱい、柔らかかったなぁ〜。触れるだけだったけど、あのダイナマイトおっぱいの弾力は凄まじかった。ほわぁぁぁ〜〜〜。


「聞いているんですかっ?! 織斑くんっ!」


「は、はいーーーっ!」


「全く。私だって......まだなのに......男の人とキス......羨ましい......」


「え? 山田先生、何か言いました?」


ボソボソッと呟く山田先生の声が聞きとれなかったので聞き返してみたら、「なんでもありません!」と顔を赤くして怒られた。


「で、なんでここに来たんですか?」


箒の言葉に、何かを思い出したように山田先生は返事をする。


「あ、そうでした。お引越しです。お引越しするのは篠ノ之さんです。部屋の調整が付いたので、今すぐお引越しをしましょうね」


「へ? 今すぐ?」


「そうですよ〜。いくら未然に防いだからといっても、このまま同室にしていては危険だと判断しましたので。それじゃあ、私もお手伝いしますから、すぐにやっちゃいましょう」


「ま、ま、待って下さい。今すぐですか?」


箒は動揺しているらしく、何とか引っ越しをしないように食い下がろうとしたが、山田先生はその意見をぴしゃりと断つ。


「当たり前ですよ。このまま二人にしたら問題が出るでしょうし」


先程の光景を思い浮かべているのか、山田先生も箒も顔を赤くしている。

箒はちらっと俺を見てくるが、さすがにあの状況を見られているのだから、手助けできそうもない。すまん、箒。




*◇*◇*◇*◇*◇*◇*



そのまま荷物をまとめ、箒は山田先生に連れられ、出て行った。

うーん、急に同居人がいなくなり、部屋の面積が二倍に増えたような錯覚を覚えてしまう。なんだかんだで人がいなくなるというものは寂しいものだ。

しかも、最後に箒は何かを言おうとしていたな......。

ただ、惜しむらくはあのダイナマイトおっぱいを揉めなかった事だ。山田先生が来るのがもう少し遅かったら、あの箒のおっぱいを......えへへへ。

って、何を考えてるんだ、俺はぁぁぁーーー!!

仮にも主人公だぞ、主 人 公 !

でも、おっぱいの魅力には勝てん! クソーーー!


「もういいや......。寝よう」


シャワーを済ませ、歯磨きを終わらせ、寝る準備を整える。ベッドに入って目を閉じると、頭に浮かぶのは箒の真っ赤な表情に、箒の胸の感触......

胸の鼓動が早くなるのを感じる。

どきどきどきどき。

寝 れ な い。

何度か寝返りを打つが、眠れないものは眠れない。今日は一日いろいろありすぎた。

コンコン。

そんな眠れないもどかしさにうーん、うーんとベッドで唸っていると、ノックが響いた。

誰だ? こんな時間に。

ドンドンドンドン!

なかなかベッドから出ないでいたら、ドアをノックする音が拳で殴りつけてるかのような音に変わる。俺は慌ててベッドから飛び起き、ドアに向かった。


「............」


ドアを開けたら、引っ越しをしたばかりの箒がいた。


「なんだ? 忘れ物か?」


箒は答えない。何か思い詰めてるかのように、その表情は強張っている。

えーと......?


「......? どうかしたのか? まぁ、取り合えず部屋入れよ」


「いや、ここでいい」


「で、どうしたんだ? 何か用があって、ここに来たんじゃないのか?」


「............」


そしてまた無言。本当にどうしたんだ?


「一夏っ!」


「お、おう......」


いきなり大声を出すものだから、一瞬たじろいでしまう。というか廊下でそんな大声を出したら怒られるぞ。鬼寮長に。


「ら、来月の、学年別個人トーナメントだが......」


六月末に予定されているクラス対抗戦とは違う完全自主参加の個人戦の事で何かあるみたいだ。学年別に区切られているが専用機持ちが有利である事には変わらない。


「わ、私が優勝したら―――」


もともと赤くさせてた頬をさらに紅潮させ、箒は言葉を続ける。


「だ、抱いてもらうっ!」


「......はい?」


抱いてもらう? 抱いてもらう......? は? 抱いてもらう?

誰が誰に? え、もしかして状況から察するに俺が箒を? 抱く?


............



.........



......



...


なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーっ!!


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