小説『織斑一夏の無限の可能性』
作者:赤鬼()

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Episode14:二人の転校生





*◇*◇*◇*◇*◇*◇*


箒の「抱いてほしい」宣言から日曜日を挟んで、翌週の月曜日。

その日、一年一組の教室内は騒然としていた。今月行われる学年別個人トーナメント優勝者にはある特典があると―――。

箒が告白した場所は寮内であり、しかも恥ずかしさを押し隠すため、声が大きくなった。当然、寮内には他の学生もいる。聞かれない方がおかしいのだ。

箒と一夏の会話を盗み聞きしていた布仏本音(通称:のほほんさん)を含めた仲良し三人組がクラスメイトに話を広めてしまったのだ。


―――学年別個人トーナメントを優勝すれば、織斑一夏との処女喪失を含めた交際が出来る―――


滅茶苦茶であるが、彼女達にとって初めての相手が誰でもいいわけではない。

しかし、織斑一夏はその初めてを捧げる相手として適任でもあるのだ。

姉は世界一にも輝いた事のあるIS操縦者で、本人自身も世界で初めてのIS操縦者として、この世界で最も有名人でもある。

事実、箒、セシリア、鈴といったように表だって行動し、一夏を狙う者もいるが、大半は陰で見ている憧れの存在として見ている女生徒がほとんどを占める。

そんな彼女達にも遂にチャンスが訪れたのだ。

騒がない方がおかしいだろう。


「ねぇ、聞いた?」


「聞いた聞いた!」


「え? 何の話?」


「だから、あの織斑君の話よ」


「いい? 絶対に女子にしか教えちゃダメよ? 女の子だけの話なんだから。今月の学年別トーナメントで―――」


思春期女子で埋め尽くされた教室内は騒然としていた。箒自身も何故、この話が広まっているのか分からないといった具合で頭を抱えており、セシリアに関しては、クラスメイト全員が何をそんなに騒いでいるのか、気になっていた。




【一夏side】


「おはよー」


気怠い声を出しながら、俺は教室のドアを開けると、いきなりクラスメイト達がじっとこちらを見てきた。

へ? 俺、何かしたっけ?


「織斑君っ! 織斑君っ!」


「ねぇねぇ、あの噂ってほんと―――もがっ!」


静まり返った教室で俺の存在に一早く気付いた女子の集団が雪崩れ込んできた。その内の一人の女子が俺に何かの噂の真偽を問いただそうとしたところで、他の女子が取り押さえた。

うん? あの噂ってなんだ?


「い、いや、なんでもないの。なんでもないのよ。あはははは......」


さっき噂(?)の真偽を聞き出そうとした子と俺の間を何人かの女子が通せんぼするように立ちはだかった。


「―――バカ! 秘密って言ったでしょうが!」


「いや、でも本人だし......」


奥の方から何やらボソボソと会話が聞こえてくる。


「なぁ、ちょっといいか」


「な、なにかな? 織斑くん」


通せんぼしている女子の中の一人、えっと相川さんだよな? その子も事情を知ってるみたいな感じだったので質問を投げかけてみる。


「いやな、噂って?」


「ひぅっ! う、噂? そ、そんなものないよ、ね?」


相川さんは他の女子に同意を求め、何事もないかのように振る舞うつもりらしいが、かなり動揺してるんだろう。明らかに挙動不審だ。


「何か隠してない?」


「隠してない隠してない隠してない」


おぉー、全員息ピッタリだ。そのまま女子集団は何事もなかったかのようにそそくさと退散していった。


「何だったんだ、一体......?」


女子が退散していった後、セシリアが俺のところへ駆け寄ってきた。


「おはようございます、一夏様。ところでこの騒ぎは一体何ですの?」


「さぁ?」


まぁ、何を噂しているか知らないが、何となく俺絡みの噂なんだろう。セシリアは知らないらしいが、俺にも心当たりがない。

そして自分の机に向かう最中、箒と視線が合ってしまった。


「お、おはよ、箒」


「う、うむ。......おはよう」


あの「抱いてもらう」宣言以来の顔合わせだ。お互い恥ずかしいのか、思わず歯切れも悪くなってしまう。セシリアは「?」って感じで首を傾げてるようだが。

そんな事をしていると、予鈴が鳴ったので、各自、自分の席へと戻っていく。


「諸君、おはよう」


「お、おはようございます!」


それまでざわざわしていた教室の空気が一瞬で引き締まる。そう、我が姉でもあり、鬼教官としても名高い織斑千冬先生の登場だ。

おっ、ちゃんと俺の出したスーツを着てくれてる。

昨日家に帰った際に、夏用のスーツを出しておいたんだが、早速着てくれてるようだ。この姉は学園ではピシッとしてるくせに家ではかなりのズボラだ。


「織斑? 何か失礼な事考えていたろう?」


「いえ! 全くもってそんな事は考えていないでありますっ!」


俺が考え事をしていると、不意に千冬姉は眼光鋭くその視線で俺を射抜く。

全く俺の考えてる事を読めるなんて―――アンタはエスパーかっ?


「では、山田先生。ホームルームを」


「は、はいっ」


千冬姉に促され、教壇に立つ山田先生。しかし、この学園に入学して一ヶ月は経つが、未だに山田先生は先生らしくなかったりする。まぁ、そのおかげもあるのか、生徒からは慕われているようだが。

しかし、山田先生を侮れないのが、そのおっぱいだ。今日もたゆんたゆん絶好調に揺れている。そう、揺れているっ!

俺のおっぱいスカウター(脳内変換仕様)をもってして、その乳闘力は宇宙規模。まさにビッグバンおっぱいだ!

次点で千冬姉。大きさは山田先生に叶わずとも形・張り共に良しのまさに究極(アルティメット)おっぱい。

箒は言わずもがな核弾頭級(ダイナマイト)おっぱいであるし、セシリアもさすが英国淑女といった、まさに美麗(エレガント)おっぱいだ。

さらにダークホース的存在でもあるのほほんさんに至っては、その隠れた魅力、まさに規格外(ファンタジスタ)おっぱいの持ち主でもある。

鈴は......まぁ、その、そっとしておいて......。

ふははははははははは、今日も俺のおっぱいスカウターは絶好―――


スパァーーーーーーーーーンッ!


「お前はホームルーム中に何を考えている?」


おおお......、頭に出席簿が突き刺さるぅぅぅ......。

しかし何故この姉は俺の考えてる事をこうも読み取れるんだ? エスパーか? 本当にエスパーなのか!?


「全くお前というやつは......はぁ......」


千冬姉は頭を押さえ、溜息を吐く。しかし、顔を上げると、いつものように凛とした表情で、山田先生の方に向き直り、ホームルームの再開を促す。


「ははは......。え、えーっとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも二名です!」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


いきなりの転校生紹介にクラス中が一気にざわつく。

しかし、二人まとめて同じクラス? 普通こういうものは分散させるものじゃないのか?

山田先生は教室のドアの方を向き、教室の外にいるであろう転校生二人に入室の旨を促す。


「失礼します」


「............」


教室に入ってきた二人の転校生を見て、ざわめきがぴたりと止まる。理由はその一人が女子の制服じゃなく男子の制服を着ていた事が原因だろう。


「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」


男子の制服を着ていた転校生の一人、シャルルはにこやかな顔でそう告げて一礼する。

しかし、男? その割には可愛い顔をしてる。って、俺はそっち系じゃないからな。健全な女性に興味を持つお年頃の男子だからな。


「お、男......?」


誰かがそう呟いた。


「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を―――」


人懐っこそうな笑顔。礼儀の正しい立ち居振る舞いと中世的な整った顔立ち、しかも金髪でその長い後ろ髪は首の後ろで丁寧に束ねられている。体つきは華奢で無駄な肉もなくスマートで、しゅっと伸びた脚が格好いい。


「きゃ......」


「はい?」


「きゃああああああーーーーーーーっ!」


耳をつんざくかのような女子の嬉しい悲鳴(?)が教室内をこだまする。


「男子! 二人目の男子!」


「しかもうちのクラス!」


「美形! しかも守ってあげたくなる系の!」


「地球に生まれて良かった〜〜〜!」


騒然となる女子を千冬姉は面倒臭そうに一喝する。まぁ、大人の千冬姉から見れば、このような女子の反応が鬱陶しいんだろう。


「み、皆さん、お静かに。まだ自己紹介が終わっていませんから〜!」


涙目の山田先生。大変なんだろうな、教員職って。お疲れ様です。後、今日もナイスおっぱい。

しかし、さっきから俺を見ているのだろう。もう一人の転校生から俺に向けて敵意が感じられる。はて、俺、何かしたっけ?

昨日は昨日で殺気を飛ばされるし、今日は今日で転校生の一人から敵意を剥き出しにされてるかのように睨まれてる。

そのもう一人の転校生は輝くような銀髪を腰近くまで下しており、左目に黒い眼帯。しかもその漂う雰囲気は一般のものではなく、軍人みたいな印象を感じる。

身長はシャルルと比べて明らかに小さいが、その全身から放つ冷たく鋭い気配がまるで同じ背丈であるかのように見るものに感じさせていた。


「............」


当の本人は未だに口を開かず、腕組みをした状態で教室の女子達を下らなそうに一瞥し、その視線は千冬姉だけを見ていた。


「......挨拶をしろ、ラウラ」


「はい、教官」


山田先生の紹介では無言を貫き通していたもう一人の転校生は、千冬姉の指示にだけは忠実なようで、佇まいを直して素直に返事をした。


「ここではそう呼ぶな。それにもう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」


「了解いたしました」


そう答えるラウラはピシッと伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばす。―――どう見ても軍人、もしくは軍事施設関係者にしか見えない。しかも千冬姉を『教官』と呼んでいるので、間違いなくドイツ関係者だ。

俺の過去の誘拐事件で俺の居場所を特定してくれたのがドイツだ。それに恩義を感じた千冬姉は一年ほどドイツで軍隊教官として働いていた事がある。その時の教え子なのだろうか?


「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」


「............」


無言。名前だけの自己紹介。クラスメイト達は、続く言葉を待っているのだが、名前だけを口にしたら、また口を閉ざしてしまった。


「あ、あの、以上......ですか?」


「以上だ」


いたたまれない空気を感じた山田先生が出来る限りの笑顔でラウラに訊くが、返ってきたのは無慈悲な返答だった。おいおい、先生を苛めるなよ。あー、泣きそうになってる。しかし、本当にこの先生は年上なのか疑いたくなるな......ぶるんぶるんなおっぱいは宇宙規模(ビッグバン)だけどな。

そんな事を感じていたら前方から敵意を感じる。


「! 貴様が―――」


振り下ろされる平手打ちを俺は軽く右手を挙げて防ぐ。


「っ!」


「......随分なご挨拶だな」


目の前のラウラは俺が平手打ちを防ぐとは思ってなかったのだろう、一瞬だけだが驚いた表情を出したが、直ぐに冷静さを取り戻したのか、表情を直す。

そして俺に向けられる剥き出しの敵意。昨日は昨日で肌がざらつくようなドス黒い殺意を感じて、今日は今日で俺の存在を拒絶するかのような敵意を向けられるなんて―――俺って何気に嫌われ者?

今の出来事にクラス中の皆がこっちを見ている。箒やセシリアも驚きに声が出ない様子だし、もう一人の転校生のシャルルなんて目を丸くしてる。

しかし、ラウラの次の言葉が教室内の空気を変える。


「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか。貴様の存在を私は認めない」


俺が文句を言おうと口を開こうとした瞬間―――机を叩く音が聞こえた。


「黙りなさい! ラウラ・ボーデヴィッヒ!」


声を上げたのはセシリアだった。



【セシリアside】


気が付いたら、わたくしは声を上げていた。

今日、転校してきたドイツからの転校生、ラウラ・ボーデヴィッヒはわたくしの愛する一夏様の存在を否定した。愛する存在を否定される―――こんな事を静観できる筈がない。


「誰だ? 貴様」


「わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ」


「古いだけしか取り柄の無い国の代表候補生如きが私に何の用だ?」


ぶちっ―――!


わたくしの中で何かが切れる音がした。国の誇りまで穢されたのだ。


「ふ、ふふふ。あなたは余程スクラップになるのがお望みのようですわね......」


「......お、おい、セシリア......?」


「一夏様。わたくし、国の誇りを穢されたばかりか愛する者まで否定されて黙ってられる程、気は長くありませんの。少し黙ってていただけますか?」


「......は、はい」


目の前のラウラ・ボーデヴィッヒはつまらなそうにわたくしを見てくる。「お前に何が出来る?」と言わんばかりの視線を向けているのだ。一々、癇に障る女ですわね。

わたくしの愛と誇りを土足で踏みにじったあなたには相応の罰を与えなければ、気が済みそうもないですわね。


「ラウラ・ボーデヴィッヒ......」


「ふん、何だ?」


「あなたに決闘を申し込みますわ」


「ほう?」


しんと静まり返る教室。一夏様も箒さんも他のクラスメイトもあまりの展開に誰も口を開く者はいない。今この場で言葉を交わしているのは、わたくしと目の前のラウラ・ボーデヴィッヒのみ。


「......織斑先生。宜しいでしょうか?」


クラス担任でもある織斑先生に決闘の許可を願い出る。


「オルコット......今月開催される学年別個人トーナメントまで待てないのか?」


「ここまで侮辱されて待っていられるほど、悠長な事は言っていられませんわ」


「ふむ」と顎に手を置き、軽く考えているようで少しの間、静寂が訪れる。学年別個人トーナメントまで待っていられませんわ。なにせ、トーナメントですもの。確実に対戦するとは限らない。


「山田先生。今週金曜日の放課後に第三アリーナの使用許可を取っておいてもらえるだろうか?」


「え、え? 決闘を、み、認めるんですか?」


「仕方ないだろう。ここまできては、こうでもしないと収まりがつかん。そうだろう、オルコット?」


「当然ですわ」


「ラウラもそれでいいな?」


「構いません」


こうして、わたくしとラウラ・ボーデヴィッヒの決闘は今週の金曜日の放課後に行われる事が決定したのだ。





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